「筋ジストロフィー」の版間の差分

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== 病態生理 ==
== 病態生理 ==
 筋ジストロフィーの病態は病型により異なるが、多くは筋線維膜(筋形質膜)の安定化、細胞骨格と細胞外マトリックスの連結、核膜機能、糖鎖修飾、膜修復(筋線維膜の微小損傷を修復する機構)、RNA代謝、転写制御などの異常に起因する[1,6]<ref name=Mercuri2013/><ref name=Emery2002/>。デュシェンヌ型筋ジストロフィーおよびベッカー型筋ジストロフィーの原因分子であるジストロフィン・タンパク質(dystrophin)の主要ドメイン構造を図1に示す。ジストロフィン・タンパク質は筋線維膜においてジストロフィン糖タンパク質複合体を形成し、細胞骨格と細胞外マトリックスを連結する。この複合体の概要を図2に示す。デュシェンヌ型筋ジストロフィーおよびベッカー型筋ジストロフィーでは、この連結機構が障害されることで筋線維膜の脆弱性が増し、その結果、筋線維壊死と再生、慢性炎症、線維化、脂肪置換が進行し、筋力低下と筋萎縮を生じる。とくにデュシェンヌ型筋ジストロフィーでは、DMD遺伝子の欠失、重複、点変異、スプライシング異常によりmRNAの読み枠が崩れると、機能的タンパク質が産生されず重症化する。一方、読み枠が保たれる場合には短縮型ジストロフィン・タンパク質が産生され、比較的軽症のベッカー型筋ジストロフィーとなることが多い。こうしたアウトオブフレーム変異とインフレーム変異の違い、およびエクソン53スキッピングによる読み枠回復の概念を図3に示す[11,16,18]<ref name=Straub2022/><ref name=Komaki2020/><ref name=Anthony2014><pubmed>24217213</pubmed></ref>。
 筋ジストロフィーの病態は病型により異なるが、多くは筋線維膜(筋形質膜)の安定化、細胞骨格と細胞外マトリックスの連結、核膜機能、糖鎖修飾、膜修復(筋線維膜の微小損傷を修復する機構)、RNA代謝、転写制御などの異常に起因する[1,6]<ref name=Mercuri2013/><ref name=Emery2002/>。デュシェンヌ型筋ジストロフィーおよびベッカー型筋ジストロフィーの原因分子であるジストロフィン・タンパク質(dystrophin)の主要ドメイン構造を'''図1'''に示す。ジストロフィン・タンパク質は筋線維膜においてジストロフィン糖タンパク質複合体を形成し、細胞骨格と細胞外マトリックスを連結する('''図2''')。デュシェンヌ型筋ジストロフィーおよびベッカー型筋ジストロフィーでは、この連結機構が障害されることで筋線維膜の脆弱性が増し、その結果、筋線維壊死と再生、慢性炎症、線維化、脂肪置換が進行し、筋力低下と筋萎縮を生じる。とくにデュシェンヌ型筋ジストロフィーでは、DMD遺伝子の欠失、重複、点変異、スプライシング異常によりmRNAの読み枠が崩れると、機能的タンパク質が産生されず重症化する。一方、読み枠が保たれる場合には短縮型ジストロフィン・タンパク質が産生され、比較的軽症のベッカー型筋ジストロフィーとなることが多い。こうしたアウトオブフレーム変異とインフレーム変異の違い、およびエクソン53スキッピングによる読み枠回復の概念を'''図3'''に示す[11,16,18]<ref name=Straub2022/><ref name=Komaki2020/><ref name=Anthony2014><pubmed>24217213</pubmed></ref>。


 さらに、多くの病型で骨格筋以外の臓器障害を伴う。心筋症や不整脈、呼吸障害、内分泌代謝異常、白内障、難聴、中枢神経症状などが代表的であり、病型特異性が高い[1,6,8]<ref name=Mercuri2013/><ref name=Emery2002/><ref name=日本神経学会/>。脳科学の観点からは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーおよびベッカー型筋ジストロフィーにおけるジストロフィン・アイソフォーム異常に関連して、発達、認知、行動面の変化、たとえば発達遅滞、学習障害、注意障害、自閉スペクトラム症特性などがみられることがある。さらに、筋強直性ジストロフィーにおける中枢神経症候、一部の先天性筋ジストロフィーや肢帯型筋ジストロフィーでみられるてんかん、知的機能低下、発達特性などが重要である。
 さらに、多くの病型で骨格筋以外の臓器障害を伴う。心筋症や不整脈、呼吸障害、内分泌代謝異常、白内障、難聴、中枢神経症状などが代表的であり、病型特異性が高い[1,6,8]<ref name=Mercuri2013/><ref name=Emery2002/><ref name=日本神経学会/>。脳科学の観点からは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーおよびベッカー型筋ジストロフィーにおけるジストロフィン・アイソフォーム異常に関連して、発達、認知、行動面の変化、たとえば発達遅滞、学習障害、注意障害、自閉スペクトラム症特性などがみられることがある。さらに、筋強直性ジストロフィーにおける中枢神経症候、一部の先天性筋ジストロフィーや肢帯型筋ジストロフィーでみられるてんかん、知的機能低下、発達特性などが重要である。