「スペクトリン」の版間の差分
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== スペクトリンとは == | == スペクトリンとは == | ||
[[ファイル:Yamanoi Spectrin Figure1.jpg|サムネイル|'''図1. | [[ファイル:Yamanoi Spectrin Figure1.jpg|サムネイル|'''図1. 赤血球のスペクトリン膜骨格'''<br>[[赤血球]]の[[溶血]]過程と、赤血球[[膜骨格]]を形成する分子群を示す。α-スペクトリンとβ-スペクトリンからなるスペクトリン複合体は、赤血球膜直下で[[アクチン]]などの分子と結合し、網目状の膜骨格構造を形成する。]] | ||
赤血球は、[[血管]]内を循環する過程で繰り返し変形し、さまざまな[[機械的ストレス]]を受ける。また、[[神経細胞]]から伸びる長い突起である[[軸索]]も、張力やねじれなどの機械的ストレスにさらされる。スペクトリンは、[[細胞膜]]直下の裏打ち構造である膜骨格を構成する主要な[[タンパク質]]の一つであり、このような機械的ストレスのもとで細胞の形態や機能を維持するうえで重要な役割を果たす<ref name=Liu2019><pubmed>31191255</pubmed></ref><ref name=Lorenzo2023><pubmed>36697767</pubmed></ref>。 | 赤血球は、[[血管]]内を循環する過程で繰り返し変形し、さまざまな[[機械的ストレス]]を受ける。また、[[神経細胞]]から伸びる長い突起である[[軸索]]も、張力やねじれなどの機械的ストレスにさらされる。スペクトリンは、[[細胞膜]]直下の裏打ち構造である膜骨格を構成する主要な[[タンパク質]]の一つであり、このような機械的ストレスのもとで細胞の形態や機能を維持するうえで重要な役割を果たす<ref name=Liu2019><pubmed>31191255</pubmed></ref><ref name=Lorenzo2023><pubmed>36697767</pubmed></ref>。 | ||
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| 赤血球、[[骨格筋]]、[[心筋]]<br>神経細胞では[[樹状突起]]および[[シナプス後肥厚]] | | 赤血球、[[骨格筋]]、[[心筋]]<br>神経細胞では[[樹状突起]]および[[シナプス後肥厚]] | ||
| 遺伝性球状赤血球症 | | 遺伝性球状赤血球症 | ||
| <ref name=Bennett2001><pubmed>11427698</pubmed></ref><ref name=Baines2005><pubmed>15970557</pubmed></ref><ref name=He2018><pubmed>29402830</pubmed></ref> | | <ref name=Lorenzo2023><pubmed>36697767</pubmed></ref>><ref name=He2018><pubmed>29402830</pubmed></ref><ref name=Bennett2001><pubmed>11427698</pubmed></ref><ref name=Baines2005><pubmed>15970557</pubmed></ref><ref name=He2018><pubmed>29402830</pubmed></ref> | ||
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| ''SPTBN1'' | | ''SPTBN1'' | ||
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| 発生期の骨格筋<br>神経細胞では軸索 | | 発生期の骨格筋<br>神経細胞では軸索 | ||
| [[自閉スペクトラム症]]、[[注意欠如・多動症]](ADHD)、[[発達遅滞]]、[[知的発達症]]、[[てんかん]] | | [[自閉スペクトラム症]]、[[注意欠如・多動症]](ADHD)、[[発達遅滞]]、[[知的発達症]]、[[てんかん]] | ||
| <ref name=Liu2019><pubmed>31191255</pubmed></ref><ref name= | | <ref name=Liu2019><pubmed>31191255</pubmed></ref><ref name=Lorenzo2023><pubmed>36697767</pubmed></ref><ref name=Zhou1998><pubmed>9436990</pubmed></ref> | ||
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αI-スペクトリンは、哺乳類の赤血球に発現する<ref name=Salomao2006><pubmed>16407147</pubmed></ref>。一方、非赤血球型のαII-スペクトリンは、脳を含む多くの組織に広く発現する<ref name=Ackermann2019><pubmed>31186638</pubmed></ref>。 | αI-スペクトリンは、哺乳類の赤血球に発現する<ref name=Salomao2006><pubmed>16407147</pubmed></ref>。一方、非赤血球型のαII-スペクトリンは、脳を含む多くの組織に広く発現する<ref name=Ackermann2019><pubmed>31186638</pubmed></ref>。 | ||
βI-スペクトリンは赤血球、骨格筋、心筋などに発現し、神経細胞では樹状突起およびシナプス後肥厚に局在する<ref name= | βI-スペクトリンは赤血球、骨格筋、心筋などに発現し、神経細胞では樹状突起およびシナプス後肥厚に局在する<ref name=Lorenzo2023><pubmed>36697767</pubmed></ref><ref name=Bennett2001><pubmed>11427698</pubmed></ref><ref name=Baines2005><pubmed>15970557</pubmed></ref>。βII-スペクトリンは発生期の骨格筋に発現し、神経細胞では軸索に広く分布する<ref name=Liu2019><pubmed>31191255</pubmed></ref><ref name=Zhou1998><pubmed>9436990</pubmed></ref>。βIII-スペクトリンは主に脳で高発現するが、膵臓、腎臓、生殖器系組織、皮膚などでも発現が認められる<ref name=Lorenzo2023><pubmed>36697767</pubmed></ref>。小脳プルキンエ細胞では、βIII-スペクトリンは細胞体および樹状突起に分布し、樹状突起スパインにも局在する<ref name=Perkins2010><pubmed>20371805</pubmed></ref><ref name=Gao2011><pubmed>22090485</pubmed></ref>。βIV-スペクトリンの[[転写]]産物は脳および膵島で認められ、そのタンパク質は神経細胞の軸索起始部およびランヴィエ絞輪に集積する<ref name=Berghs2000><pubmed>11086001</pubmed></ref>。巨大なβV-スペクトリンは、小脳、脊髄、心臓、胃、光受容細胞などで発現する<ref name=Stabach2000><pubmed>10764729</pubmed></ref><ref name=Papal2013><pubmed>23704327</pubmed></ref>。 | ||
[[ファイル Spectrin Figure2.jpg|サムネイル|'''図2. 軸索起始部におけるスペクトリン膜骨格と関連分子群'''<br>軸索起始部では、アンキリン-Gが[[イオンチャネル]](Nav1やKCNQ2/3)や[[細胞接着分子]](NF186やNrCAM)などと結合し、これらを軸索起始部に集積させる。αII-スペクトリンとβIV-スペクトリンからなるスペクトリン四量体は[[アクチンリング]]を連結し、アンキリン-GはβIV-スペクトリンとの結合を介して、軸索起始部における周期的な膜骨格構造の形成に寄与する。]] | [[ファイル Spectrin Figure2.jpg|サムネイル|'''図2. 軸索起始部におけるスペクトリン膜骨格と関連分子群'''<br>軸索起始部では、アンキリン-Gが[[イオンチャネル]](Nav1やKCNQ2/3)や[[細胞接着分子]](NF186やNrCAM)などと結合し、これらを軸索起始部に集積させる。αII-スペクトリンとβIV-スペクトリンからなるスペクトリン四量体は[[アクチンリング]]を連結し、アンキリン-GはβIV-スペクトリンとの結合を介して、軸索起始部における周期的な膜骨格構造の形成に寄与する。]] | ||
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軸索起始部(axon initial segment; AIS)の形成初期には、アンキリン-B/αII-スペクトリン/βII-スペクトリンからなる骨格が軸索遠位側から形成され、近位側に形成されるアンキリン-G/αII-スペクトリン/βIV-スペクトリン骨格との境界を規定する<ref name=Liu2019><pubmed>31191255</pubmed></ref>。軸索起始部では、αII-スペクトリンとβIV-スペクトリンがヘテロ四量体を形成し、アンキリン-GがβIV-スペクトリンと結合することで、特徴的な膜骨格が構築される<ref name=Yoshimura2021>'''吉村武 (2021)'''<br>神経細胞の軸索起始部に特有な細胞骨格構造とその破綻. 生化学 93:517–520. [[doi:10.14952/SEIKAGAKU.2021.930517|DOI]]</ref><ref name=Yang2007><pubmed>17283186</pubmed></ref><ref name=Huang2017><pubmed>29038240</pubmed></ref>。アンキリン-Gは、[[電位依存性ナトリウムチャネル]](Nav1群)、[[KCNQチャネル|KCNQ2/3チャネル]]、細胞接着分子NF186およびNrCAMなどをこの膜骨格に係留し、これらの分子を軸索起始部に高密度に集積させる<ref name=Pan2006><pubmed>16525039</pubmed></ref><ref name=Jenkins2025><pubmed>39480263</pubmed></ref>。このような分子配置は、軸索起始部における[[活動電位]]発生の基盤となる<ref name=Kole2008><pubmed>18204443</pubmed></ref>。さらに、軸索起始部は[[膜タンパク質]]や細胞内[[小胞]]の移動を制限する[[拡散障壁]]としても機能し、細胞体・樹状突起区画と軸索区画を隔てることで、[[神経極性|神経細胞の極性]]維持に寄与する<ref name=Liu2019><pubmed>31191255</pubmed></ref>。 | 軸索起始部(axon initial segment; AIS)の形成初期には、アンキリン-B/αII-スペクトリン/βII-スペクトリンからなる骨格が軸索遠位側から形成され、近位側に形成されるアンキリン-G/αII-スペクトリン/βIV-スペクトリン骨格との境界を規定する<ref name=Liu2019><pubmed>31191255</pubmed></ref>。軸索起始部では、αII-スペクトリンとβIV-スペクトリンがヘテロ四量体を形成し、アンキリン-GがβIV-スペクトリンと結合することで、特徴的な膜骨格が構築される<ref name=Yoshimura2021>'''吉村武 (2021)'''<br>神経細胞の軸索起始部に特有な細胞骨格構造とその破綻. 生化学 93:517–520. [[doi:10.14952/SEIKAGAKU.2021.930517|DOI]]</ref><ref name=Yang2007><pubmed>17283186</pubmed></ref><ref name=Huang2017><pubmed>29038240</pubmed></ref>。アンキリン-Gは、[[電位依存性ナトリウムチャネル]](Nav1群)、[[KCNQチャネル|KCNQ2/3チャネル]]、細胞接着分子NF186およびNrCAMなどをこの膜骨格に係留し、これらの分子を軸索起始部に高密度に集積させる<ref name=Pan2006><pubmed>16525039</pubmed></ref><ref name=Jenkins2025><pubmed>39480263</pubmed></ref>。このような分子配置は、軸索起始部における[[活動電位]]発生の基盤となる<ref name=Kole2008><pubmed>18204443</pubmed></ref>。さらに、軸索起始部は[[膜タンパク質]]や細胞内[[小胞]]の移動を制限する[[拡散障壁]]としても機能し、細胞体・樹状突起区画と軸索区画を隔てることで、[[神経極性|神経細胞の極性]]維持に寄与する<ref name=Liu2019><pubmed>31191255</pubmed></ref>。 | ||
[[髄鞘]]間に位置するランヴィエ絞輪にも、αII-スペクトリン、βIV-スペクトリン、アンキリン-Gからなる膜骨格が形成される<ref name= | [[髄鞘]]間に位置するランヴィエ絞輪にも、αII-スペクトリン、βIV-スペクトリン、アンキリン-Gからなる膜骨格が形成される<ref name=Liu2019><pubmed>31191255</pubmed></ref><ref name=Komada2002><pubmed>11807096</pubmed></ref>。この骨格は電位依存性ナトリウムチャネルをランヴィエ絞輪に高密度に集積させ、[[跳躍伝導]]を可能にする<ref name=Lorenzo2023><pubmed>36697767</pubmed></ref><ref name=Komada2002><pubmed>11807096</pubmed></ref>。一方、ランヴィエ絞輪に隣接する[[パラノード]]では、軸索側のCaspr-[[コンタクチン]]複合体と髄鞘側の[[ニューロファシン]]-155との相互作用によって[[パラノーダルジャンクション]]が形成される<ref name=Charles2002><pubmed>11839274</pubmed></ref><ref name=Sherman2005><pubmed>16337912</pubmed></ref>。この領域では、αII-スペクトリン/βII-スペクトリン骨格が膜タンパク質の[[側方拡散]]を制限する拡散障壁として機能し、軸索膜ドメインの維持に重要な役割を果たす<ref name=Ogawa2006><pubmed>16687515</pubmed></ref><ref name=Zhang2013a><pubmed>24217619</pubmed></ref>。 | ||
== 疾患との関わり == | == 疾患との関わり == | ||