「脳弓」の版間の差分

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==大脳辺縁系==
==大脳辺縁系==
[[Image:papez_circuit.png|thumb|200px|図3 Papezの回路<br>
神経解剖学講義ノート 寺島俊雄著 金芳堂 p120より改変して転載]]


 脳弓は'''大脳辺縁系'''をつなぐ線維連絡として知られている。大脳辺縁系の領域は文献により異なるが、古くは1937年に、アメリカの神経解剖学者である James Papez が「[[wikipedia:ja:帯状回|帯状回]]が興奮すると、[[wikipedia:ja:海馬体|海馬体]]、乳頭体、視床の前核を経て帯状回に刺激が戻る」という神経回路を想定し、このモデルは古典的な「'''パペッツの情動回路''' Papez circuit」として知られている。パペッツの理論はマクレーン Paul D.MacLean により、より広い領域に対する、現在の概念に近い「大脳辺縁系」に対して拡張された。現在は辺縁系のうち、[[wikipedia:ja:扁桃体|扁桃体]]と[[wikipedia:ja:海馬体|海馬体]]の機能が解明されてきている。
 脳弓は'''大脳辺縁系'''をつなぐ線維連絡として知られている。大脳辺縁系の領域は文献により異なるが、古くは1937年に、アメリカの神経解剖学者である James Papez が「[[wikipedia:ja:帯状回|帯状回]]が興奮すると、[[wikipedia:ja:海馬体|海馬体]]、乳頭体、視床の前核を経て帯状回に刺激が戻る」という神経回路を想定し、このモデルは古典的な「'''パペッツの情動回路''' Papez circuit」として知られている。パペッツの理論はマクレーン Paul D.MacLean により、より広い領域に対する、現在の概念に近い「大脳辺縁系」に対して拡張された。現在は辺縁系のうち、[[wikipedia:ja:扁桃体|扁桃体]]と[[wikipedia:ja:海馬体|海馬体]]の機能が解明されてきている。

2012年5月31日 (木) 19:40時点における版

英:Fornix 

図1 脳の断面図(脳梁と脳弓)
図中灰色が脳梁(交連線維)と脳弓(連合線維)
神経解剖学講義ノート 寺島俊雄著 金芳堂 p143より改変して転載

 脳弓は主として海馬体から出て乳頭体などに至る線維束で、脳梁の下で左右対をなして弓形を画く。これは脳弓柱、脳弓体、脳弓脚および海馬采に区分される。

交連線維と連合線維

 脳の白質には左右の脳を結ぶ交連線維と同側の大脳半球の異なる領域を繋ぐ連合線維(れんごうせんい、英: Association fiber)が存在する。連合線維には隣接する脳回を繋ぐ短い連合線維と異なる領域にまたがる長い連合線維が存在する。脳弓は長い連合線維の代表的なもので海馬体から出て乳頭体などに至る線維束である。

脳弓の解剖

図2 交連前脳弓と交連後脳弓
神経解剖学講義ノート 寺島俊雄著 金芳堂 p149より改変して転載

 白い線維が帯状になった脳弓は海馬体の主要な遠心性線維と交連線維の両者が含まれる。これは海馬の大錐体細胞の軸索と海馬台からなり、海馬白板として側脳室表面に広がり、それらがまとまって海馬采fimbriaを形成する。両側の海馬采は後方へ進むにつれて太くなり、海馬の後端に至って脳梁膨大の下を脳弓脚となって弧を描いて上ると同時に両側のものが互いに近づいてくる。このあたりで多数の線維が反対側の脳弓に入る。すなわち交叉線維が薄く板状に広がって脳弓交連fornical comissureを形成する。

 脳弓は、海馬台より起こり前交連の後方を通過して乳頭体に至る交連後脳弓と、海馬より起こり前交連の前方を通過して中隔野(核)に終わる交連前脳弓がある [1]

大脳辺縁系

図3 Papezの回路
神経解剖学講義ノート 寺島俊雄著 金芳堂 p120より改変して転載

 脳弓は大脳辺縁系をつなぐ線維連絡として知られている。大脳辺縁系の領域は文献により異なるが、古くは1937年に、アメリカの神経解剖学者である James Papez が「帯状回が興奮すると、海馬体、乳頭体、視床の前核を経て帯状回に刺激が戻る」という神経回路を想定し、このモデルは古典的な「パペッツの情動回路 Papez circuit」として知られている。パペッツの理論はマクレーン Paul D.MacLean により、より広い領域に対する、現在の概念に近い「大脳辺縁系」に対して拡張された。現在は辺縁系のうち、扁桃体海馬体の機能が解明されてきている。

脳弓下器官 subfornical organ

図4 脳弓下器官のNOSニューロン
佐賀大学医学部河野史教授 恵与
図5 脳弓下器官に投射する抑制性GABAニューロン終末
佐賀大学医学部河野史教授 恵与

近年、脳弓下器官 (subfornical organ; SFO)に血液や脳脊髄液に代表される体液(細胞外)中のNa(ナトリウム)濃度や細胞内のNa濃度の恒常性を保つためのNaxチャンネルというセンサーがあることがわかってきた。Nax は中枢神経系では、主に脳室周囲器官 (circumventricular organs;CVOs) に発現しており、脳弓下器官の他には終板脈管器官 (organum vasculosum of the lamina terminalis; OVLT) や最後野 (area postrema) にも存在が確認されている。この3領域は他の多くの脳領域と神経結合をつくっており、脳室表面に位置し、血液脳関門が無いことから、体液中の物質の受容や感知に適した場所であると考えられる [2] [3]

関連項目

参考文献

  1. カーペンター
    神経解剖学 Malcolm B. Carpenter, Jerome Sutin,
    西村書店
  2. 檜山武史、野田昌晴
    脳における体液Naレベル感知機構―グリア細胞が神経活動を制御するしくみの解明
    実験医学, 25(16), 2007
  3. 野田昌晴
    体液 Na+レベルの感知機構
    蛋白質 核酸 酵素, 53(10), 1258-1266, 2008

(執筆者:藤山文乃 執筆協力:赤沢年一 担当編集委員:藤田一郎)