「エピソード記憶」の版間の差分

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<div align="right"> 
<font size="+1">川﨑 伊織</font><br>
''東北大学高次機能障害学''<br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/1227 藤井 俊勝]</font><br>
''東北福祉大学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年1月24日 原稿完成日:2016年月日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/keijitanaka 田中 啓治](国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
</div>
 
英語名:episodic memory
 
{{box|text=
 一般的に長期記憶の内容による区分として、陳述記憶 (宣言的記憶または顕在記憶とも呼ばれる)と非陳述記憶 (非宣言的記憶または潜在記憶とも呼ばれる)があり、エピソード記憶は陳述記憶に分類される<ref name=ref1><pubmed>8942965</pubmed></ref>。
}}
 
==定義==
 エピソード記憶とは、「個人が経験した出来事に関する記憶」で、例えば、昨日の夕食をどこで誰と何を食べたかというような記憶に相当する。このようにエピソード記憶とは、その出来事の内容 (「何」を経験したか)に加えて、出来事を経験した時の付随情報である時間 (「いつ」経験したか)や場所 (「どこで」経験したか)などの文脈に関する情報の両方が記憶されていることが重要な特徴である<ref name=ref2>'''Tulving E.'''<br>Episodic and semantic memory. <br>In: Tulving E, Donaldson W, editors. Organization of memory. <br>New York: ''Academic Press''; 1972. p. 381-403.</ref>。一般的な意味で「記憶」という場合はエピソード記憶を指し、臨床的文脈において記憶障害という場合は、通常エピソード記憶の障害を指している。参考までに、いろいろな辞典に記載されているエピソード記憶の定義を表1に示した。
 
{| class="wikitable"
|+ 表1.エピソード記憶の辞書による意味
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|「平凡社 心理学事典 (初版第16刷 2004)」<br>
エピソード記憶とは、その記憶をもっている個人自身の過去の生活史に位置づけられているような事象の記憶であり、その知覚的属性および事象の起こった日時や場所も同時に記憶されているようなものである。
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|「有斐閣 心理学辞典 (初版第12刷 2006)」<br>
時空間的に定位された自己の経験に関する記憶のことをいう。
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|「医学書院 神経心理学事典 (初版第1刷 2007)」<br>
個人の人生の「自伝的記録」と定義することができ、記憶のなかで自己の過去との連続性を与え、特定の個人的出来事についての情報を検索する際に使用されるもの。
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|「Oxford Dictionary of Psychology (2009)」<br>
個人的な経験や出来事に対する長期記憶の一様式。
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|「The Penguin Dictionary of Psychology (2001)」<br>
どこで、いつ、どのように経験したかについての心理的なタグをもつ情報の記憶。
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}
 
==神経基盤==
 エピソード記憶の神経基盤については症例HMの報告<ref name=ref3><pubmed>13406589</pubmed></ref>以降、多くの症例研究がなされ、内側側頭葉 (海馬と海馬傍回)がエピソード記憶に重要な領域であることが確立された<ref name=ref4>'''Fujii T, Moscovitch M, Nadel L.'''<br>Memory consolidation, retrograde amnesia, and the temporal lobe. <br>In: Handbook of Neuropsychology, 2nd ed. Vol. 2. Memory and its disorders. <br>(eds Boller F, Grafman J, Cermak LS). <br>''Elsevier'', Amsterdam, 2000, pp. 223-250.</ref>。エピソード記憶のみが障害され、他の記憶 (意味記憶、手続き記憶、プライミングなど)や高次脳機能に障害が見られないエピソード記憶の選択的障害に健忘症候群がある。健忘症候群の病巣としては、内側側頭葉の他に間脳 (視床および乳頭体)、前脳基底部 (および前頭眼窩皮質後部)などが報告されてきた<ref name=ref4 /> <ref name=ref5>'''Teuber H-L, Milner B, Vaugiian Jr HG.'''<br>Persistent anterograde amnesia after stab wound of the basal brain. <br>''Neuropsychologia''. 1968; 6: 267-282.</ref> <ref name=ref6><pubmed>12757906</pubmed></ref> <ref name=ref7>'''Fujii T.'''<br>The basal forebrain and episodic memory. <br>In: Handbook of Behavioral Neuroscience, Vol. 18. Handbook of Episodic Memory. <br>(eds Dere E, Easton A, Nadel L, Huston JP). <br>''Elsevier'', The Netherlands, 2008, pp. 343-362.</ref>。それ以外にも脳弓、脳梁膨大部後方皮質 (帯状回後部)の損傷でも健忘を呈した症例が報告されている<ref name=ref8><pubmed>13836082</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>3427404</pubmed></ref>。これまでの多くの研究から、これらの脳領域がエピソード記憶に重要な役割を担っていると考えられている。
 
 また健忘患者を対象とした研究から、エピソード記憶における記銘および想起過程の両方で、内側側頭葉および間脳の関与が示唆されており、前脳基底部が想起過程に特定の役割を果たすことも報告されている。近年の脳機能イメージング研究においても内側側頭葉がエピソード記憶の記銘および想起過程の両方に関与することが報告されており、前脳基底部が想起過程に関与することも分かってきている。しかしながら、記憶の各心理過程 (記銘、保持、想起過程)に対するこれらの領域 (あるいは関連領域)の明確な役割については未だ明らかではない<ref name=ref10>F'''ujii T, Suzuki M.'''<br>Episodic memory. <br>In: Binder MC, Hirokawa N, Windhorst U (eds):<br>The Encyclopedia of Neuroscience, vol 1. <br>''Springer'', NewYork, 2009, pp.1139-1142.</ref>。
 
==参考文献==
<references />