「ゾーン構造」の版間の差分

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 嗅細胞の軸索は一次嗅覚中枢である[[嗅球]]へ投射し、糸球と呼ばれる構造内でシナプス結合を形成する。嗅球の出力ニューロンである僧帽細胞、房飾細胞は糸球内で嗅細胞からのシナプス入力を受け、二次嗅覚中枢である[[嗅皮質]]へ軸索投射する。糸球は嗅球表面側にシート状に並んでいて、げっ歯類では片嗅球あたり2000個ほど存在する。それぞれの糸球にはおよそ3000個の嗅細胞がシナプス結合を作るが、ひとつの糸球に軸索投射する嗅細胞は同一の匂い分子受容体を発現することが知られている()。  
 嗅細胞の軸索は一次嗅覚中枢である[[嗅球]]へ投射し、糸球と呼ばれる構造内でシナプス結合を形成する。嗅球の出力ニューロンである僧帽細胞、房飾細胞は糸球内で嗅細胞からのシナプス入力を受け、二次嗅覚中枢である[[嗅皮質]]へ軸索投射する。糸球は嗅球表面側にシート状に並んでいて、げっ歯類では片嗅球あたり2000個ほど存在する。それぞれの糸球にはおよそ3000個の嗅細胞がシナプス結合を作るが、ひとつの糸球に軸索投射する嗅細胞は同一の匂い分子受容体を発現することが知られている()。  


<br> 各匂い分子受容体を発現する嗅細胞が軸索投射する糸球の位置をマッピングしたところ、同一ゾーン内に配置し異なる匂い分子受容体を発現する嗅細胞の投射先の糸球は嗅球上で前後軸方向に伸びる帯状(ゾーン状)の分布を取ることが明らかになった。また異なる嗅上皮ゾーンに属する嗅細胞は、異なる嗅球ゾーンに配置する糸球に投射することが明らかになった(Ressler et al 1994, Vassar et al 1994)(図1)。このように嗅上皮上の特定のゾーンの嗅細胞が、嗅球上の特定のゾーンに軸索投射する様式は「ゾーンからゾーンへの投射 ('''zone-to-zone projection''')」と呼ばれている。  
<br> 各匂い分子受容体を発現する嗅細胞が軸索投射する糸球の位置をマッピングしたところ、同一ゾーン内に配置し異なる匂い分子受容体を発現する嗅細胞の投射先の糸球は嗅球上で前後軸方向に伸びる帯状(ゾーン状)の分布を取ることが明らかになった。また異なる嗅上皮ゾーンに属する嗅細胞は、異なる嗅球ゾーンに配置する糸球に投射し、嗅球にも嗅上皮のゾーン構造に対応した4つのゾーン構造があることが示された(Ressler et al 1994, Vassar et al 1994)(図1)。このように嗅上皮上の特定のゾーンの嗅細胞が、嗅球上の特定のゾーンに軸索投射する様式は「ゾーンからゾーンへの投射 ('''zone-to-zone projection''')」と呼ばれている。  


<br> このzone-to-zone projectionに対応するような分子発現が存在することが知られている。[[NCAM]] familyに属する接着分子OCAMは、嗅上皮の腹側の3つのゾーンの嗅細胞に発現するが、最背側ゾーンの嗅細胞には発現しない。このゾーン状の発現パターンは投射先である嗅球糸球層でも保持され、腹側の3つのゾーンでは発現が見られるが最背側ゾーンでは発現が見られない(Yoshihara et al 1997)。このようなゾーンと対応した接着分子の発現の機能的意義はまだ解明されていない。しかし、特定の匂い分子受容体を発現する嗅細胞軸索が収束する糸球の位置は個体間で保存されており、正確な投射先へ軸索をガイダンスする上で重要な役割を果たしているのかもしれない。  
<br> このzone-to-zone projectionに対応するような分子発現が存在することが知られている。[[NCAM]] familyに属する接着分子OCAMは、嗅上皮の腹側の3つのゾーンの嗅細胞に発現するが、最背側ゾーンの嗅細胞には発現しない。このゾーン状の発現パターンは投射先である嗅球糸球層でも保持され、腹側の3つのゾーンでは発現が見られるが最背側ゾーンでは発現が見られない(Yoshihara et al 1997)。このようなゾーンと対応した接着分子の発現の機能的意義はまだ解明されていない。しかし、特定の匂い分子受容体を発現する嗅細胞軸索が収束する糸球の位置は個体間で保存されており、正確な投射先へ軸索をガイダンスする上で重要な役割を果たしているのかもしれない。  
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=== 小脳におけるゾーン構造  ===
=== 小脳におけるゾーン構造  ===


 哺乳類の[[小脳]]では、小脳皮質プルキンエ細胞はオリーブ核より軸索入力を受け、小脳核へ軸索投射する。小脳皮質は正中線に沿って内側部が虫部、外側部が半球、虫部と半球に挟まれた領域を中間部と前後軸に伸びる帯状の領域に分類される。小脳核は内側より室頂核(内側核)、中位核、歯状核(外側核)と分けられるが、小脳皮質虫部は室頂核へ、中間部は中位核へ、半球部は外側核へ選択的に投射することが明らかになり、小脳は前後軸に広がる3つのゾーンに機能分化することが示唆されていた()。
 哺乳類の[[小脳]]において、小脳皮質プルキンエ細胞はオリーブ核より軸索入力を受け、小脳核へ軸索投射する。小脳皮質は正中線に沿って内側部が虫部、外側部が半球、虫部と半球に挟まれた領域を中間部と前後軸に伸びる帯状の領域に分類される。小脳核は内側より室頂核(内側核)、中位核、歯状核(外側核)と分けられるが、小脳皮質虫部は室頂核へ、中間部は中位核へ、半球部は外側核へ選択的に投射することが明らかになり、小脳は前後軸に広がる3つのゾーンに機能分化することが示唆されていた()。


 1960年代に入り、小脳皮質へ登上線維を送り出すオリーブ核の亜領域と、出力先である小脳皮質の亜領域の詳細な検討がなされた。小脳皮質の微小電気刺激によるオリーブ核での逆行性応答のマッピング、そして各種トレーサーによる登上線維マッピングにより、左右の小脳皮質はそれぞれ前後軸に沿って伸びる少なくともA,B,C1,C2,C3,D1,D2の7つのゾーン(longitudinal zones)が存在することが示された()。現在では入力領域のさらなる差別化、そして小脳核への出力パターンを組み合わせることで、A,AX,X, B, A2, C1, CX, C2, C3, D1, D0, D2の12のゾーンが小脳皮質にあると考えられている(Apps and Hawkes 2009)(図3)。これらのゾーン構造のうち、BゾーンやC3ゾーンでは「マイクロゾーン」と呼ばれる100~300μm幅と、通常のゾーン構造の幅(~1mm)より更に細かなゾーン構造が見いだされている()。しかしながら、マイクロゾーンが全てのlongitudinal zoneに存在するかはまだ不明でありこれからの研究が俟たれる。  
 1960年代に入り、小脳皮質へ登上線維を送り出すオリーブ核の亜領域と、出力先である小脳皮質の亜領域の詳細な検討がなされた。小脳皮質の微小電気刺激によるオリーブ核での逆行性応答のマッピング、そして各種トレーサーによる登上線維マッピングにより、左右の小脳皮質はそれぞれ前後軸に沿って伸びる少なくともA,B,C1,C2,C3,D1,D2の7つのゾーン('''longitudinal zones''')が存在するモデルが提唱された。現在では入力領域のさらなる差別化、そして小脳核への出力パターンを組み合わせることで、A,AX,X, B, A2, C1, CX, C2, C3, D1, D0, D2の12のゾーンが小脳皮質にあると考えられている(Apps and Hawkes 2009)(図3)。これらのゾーン構造のうち、BゾーンやC3ゾーンでは「マイクロゾーン」と呼ばれる100~300μm幅と、通常のゾーン構造の幅(~1mm)より更に細かなゾーン構造が見いだされている()。しかしながら、マイクロゾーンが全てのlongitudinal zoneに存在するかはまだ不明でありこれからの研究が俟たれる。  


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