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[[Image:Fig1 Dab1 primary structure.png|thumb|500px|<b>図1 Dab1のドメイン構造</b>]]  
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 マウスでは[[wikipedia:ja選択的スプライシング | 選択的スプライシング]]により13種のスプライスバリアントが存在することが報告されている<ref><pubmed>22586277</pubmed></ref>が、発達過程の中枢神経系では555アミノ酸を持つスプライスバリアント、Dab1 p80が最も多く発現している<ref name="ref1" />。Dab1(p80)はN末端側にPTBドメイン、続く領域にチロシンリン酸化部位を持つ細胞内タンパク質である(図1)。PTBドメインは、細胞内ドメインにNPxYモチーフを持つ膜タンパク質と結合する。これまでに、ApoER2<ref name=ref2 />、VLDLR<ref name=ref2 />、マウス[[wikipedia:PCDH18 | Pcdh18]]<ref><pubmed>11716507</pubmed></ref>、[[wikipedia:Amyloid precursor protein | Amyloid precursor protein (APP)]]<ref name=app><pubmed>10373567</pubmed></ref>、[[wikipedia:Amyloid-like protein 1 | Amyloid-like protein 1 (APLP1)]]<ref name=app><pubmed>10460257</pubmed></ref>、 [[wikipedia:APLP2 | Amyloid-like protein 2 (APLP2)<ref name=app />との結合が報告されている。これらの結合にはNPxYモチーフのチロシン残基のリン酸化は必要としない。PTBドメインにはplekstrin homology (PH)ドメイン様構造が含まれており、リン脂質([[wikipedia:Phosphatidylinositol 4-phosphate | Phosphatidylinositol 4-phosphate]]と[[wikipedia:Phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate | Phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate)に結合することが出来る<ref name=app />。また、PTBドメインのN末端側には核移行シグナル(Nuclear localization Signal: NLS)、PTBドメインのC末端側に二つの核外移行シグナル(Nuclear Export Signal: NES)を持っており、核と細胞質間を移行する能力を有している<ref><pubmed>17062576</pubmed></ref>。PTBドメインのC末端側、分子の中程にチロシンリン酸化を受ける部位が5カ所(Y185、Y198、Y200、Y220、Y232)同定されており<ref name=5F />、このうちの4つがシグナルの伝達に重要な役割を果たしている事が明らかにされている<ref name=feng><pubmed>18981215</pubmed></ref><ref><pubmed>19796633</pubmed></ref>。4つのチロシンリン酸化サイトは配列の相同性からYQXI配列を持つ2つ(Y185、Y198)とYXVP配列を持つ二つ(Y220、Y232)に分けられる。 興奮性神経細胞の移動に関しては、YQXI配列を持つY185とY198の間、およびYXVP配列を持つY220とY232の間で冗長性を持つ。一方、両相同染色体にY185・Y198変異を持つマウスと、Y220・Y232に変異を持つマウスではそれぞれリーラーフェノタイプを示す。一方、片方の相同染色体でY185・Y198に変異を持ち、もう片方の相同染色体のY220・Y232に変異を持つ変異マウスではリーラーフェノタイプを示さないことから、Y185・Y198とY220・Y232はそれぞれ独立の機能を持ち、さらに相互依存する関係であることが示されている<ref name=feng />。Y200の生理的役割は不明である。  
 マウスでは[[wikipedia:ja選択的スプライシング | 選択的スプライシング]]により13種のスプライスバリアントが存在することが報告されている<ref><pubmed>22586277</pubmed></ref>が、発達過程の中枢神経系では555アミノ酸を持つスプライスバリアント、Dab1 p80が最も多く発現している<ref name="ref1" />。Dab1(p80)はN末端側にPTBドメイン、続く領域にチロシンリン酸化部位を持つ細胞内タンパク質である(図1)。PTBドメインは、細胞内ドメインにNPxYモチーフを持つ膜タンパク質と結合する。これまでに、ApoER2<ref name=ref2 />、VLDLR<ref name=ref2 />、マウス[[wikipedia:PCDH18 | Pcdh18]]<ref><pubmed>11716507</pubmed></ref>、[[wikipedia:Amyloid precursor protein | Amyloid precursor protein (APP)]]<ref name=app><pubmed>10373567</pubmed></ref>、[[wikipedia:APLP1 | Amyloid-like protein 1 (APLP1)]]<ref name=app><pubmed>10460257</pubmed></ref>、 [[wikipedia:APLP2 | Amyloid-like protein 2 (APLP2)]]<ref name=app />との結合が報告されている。これらの結合にはNPxYモチーフのチロシン残基のリン酸化は必要としない。PTBドメインには[[wikipedia:Pleckstrin homology domain | plekstrin homology (PH)ドメイン]]様構造が含まれており、リン脂質([[wikipedia:Phosphatidylinositol 4-phosphate | Phosphatidylinositol 4-phosphate]]と[[wikipedia:Phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate | Phosphatidylinositol 4,5-bisphosphate)に結合することが出来る<ref name=app />。また、PTBドメインのN末端側には[[wikipedia:Nuclear localization sequence | 核移行シグナル(Nuclear localization Signal: NLS)]]、PTBドメインのC末端側に二つの[[wikipedia:Nuclear export signal | 核外移行シグナル(Nuclear Export Signal: NES)]]を持っており、核と細胞質間を移行する能力を有している<ref><pubmed>17062576</pubmed></ref>。PTBドメインのC末端側、分子の中程にチロシンリン酸化を受ける部位が5カ所(Y185、Y198、Y200、Y220、Y232)同定されており<ref name=5F />、このうちの4つがシグナルの伝達に重要な役割を果たしている事が明らかにされている<ref name=feng><pubmed>18981215</pubmed></ref><ref><pubmed>19796633</pubmed></ref>。4つのチロシンリン酸化サイトは配列の相同性からYQXI配列を持つ2つ(Y185、Y198)とYXVP配列を持つ二つ(Y220、Y232)に分けられる。 神経細胞の移動に関しては、YQXI配列を持つY185とY198の間、およびYXVP配列を持つY220とY232の間で冗長性を持つ。一方、両方の[[wikipedia:ja:対立遺伝子 | 対立遺伝子]]にY185・Y198変異を持つマウスと、Y220・Y232に変異を持つマウスではそれぞれリーラーフェノタイプを示す。一方、片方の対立遺伝子でY185・Y198に変異を持ち、もう片方の対立遺伝子でY220・Y232に変異を持つ変異マウスではリーラーフェノタイプを示さないことから、Y185・Y198とY220・Y232はそれぞれ独立の機能を持ち、さらに相互依存する関係であることが示されている<ref name=feng />。Y200の生理的役割は不明である。  


== サブファミリー  ==
== サブファミリー  ==


 ほ乳類ではDab2が存在しており、細胞表面分子のターンオーバー、エンドサイトーシス等に関与していることが知られている。
 ほ乳類では[[wikipedia:DAB2 | Dab2]]が存在しており、細胞表面分子の[[wikipedia:Protein turnover | ターンオーバー]]、[[wikipedia:ja:エンドサイトーシス | エンドサイトーシス]]等に関与していると考えられている。


== 発現様式  ==
== 発現様式  ==


 in situ hybridizationにより、dab1 mRNAの発現分布を調べた報告<ref name=rice />によると、発生期のマウス大脳新皮質では、胎生11.5日目の神経上皮細胞に弱く発現が観察される。胎生12.5日目には皮質板での強い発現が顕著になり、VZでの弱い発現も引き続き観察される。その後、P0にかけて、強い皮質板での発現が維持されるが、VZでの発現は弱くなり、IMZの上部での弱い発現が観察されるようになる。アダルトのマウスでもP0に比べて弱くはなるが、CPにおいて発現が観察される。Dab1の発現部位は、Reelinを発現しているCajal-Retzius細胞が存在する辺縁帯と相互排他的発現パターンになっている。海馬では妊娠12.5日目には神経上皮細胞に弱くdab1のmRNAが観察され、妊娠14.5日目までに海馬の辺縁帯、錐体細胞層、脳室帯の三層が別れ、錐体細胞層に強い発現が観察されるようになる。また隣り合う歯状回の顆粒細胞層にもdab1の発現が観察される。海馬についてもP3でもdab1の発現は維持される。海馬においても、大脳新皮質と同様、Dab1の発現領域はReelinを発現するCajal-Retzius細胞の存在する辺縁帯に隣接した領域で観察される。小脳については、妊娠13.5日目の脳室帯、外顆粒層、分化帯に発現が見られ、妊娠18.5日目から生後3日では、プルキンエ細胞層で発現が観察される。また、妊娠18.5日目ではReelinを強く発現する顆粒細胞が存在する、外顆粒層に隣接してプルキンエ細胞層が存在し、小脳においても相補的な発現パターンを示す。  
 [[wikipedia:ja:In situ ハイブリダイゼーション | ''in situ''ハイブリダイゼーション]]により、dab1 [[wikipedia:ja: 伝令RNA | mRNA]]の発現分布を調べた報告<ref name=rice />によると、発生期のマウス大脳新皮質では、胎生11.5日目の[[神経上皮細胞]]に弱く発現が観察される。胎生12.5日目には[[wikipedia:Cerebral cortex | 皮質板(cortical plate)]]での強い発現が顕著になり、[[wikipedia:Cerebral cortex | 脳室帯(ventricular zone: VZ)]]での弱い発現も引き続き観察される。その後、生後0日にかけて、強い皮質板での発現が維持されるが、脳室帯での発現は弱くなり、[[wikipedia:Intermediate zone of cortex | 中間帯(intermediate zone:IMZ)]]の上部での弱い発現が観察されるようになる。成獣のマウスでも生後0日に比べて弱くはなるが、皮質板において発現が観察される。Dab1の発現部位は、Reelinを発現しているCajal-Retzius細胞が存在する辺縁帯と相互排他的発現パターンになっている。海馬では妊娠12.5日目には神経上皮細胞に弱くdab1のmRNAが観察され、妊娠14.5日目までに海馬の辺縁帯、錐体細胞層、脳室帯の三層が別れ、錐体細胞層に強い発現が観察されるようになる。また隣り合う歯状回の顆粒細胞層にもdab1の発現が観察される。海馬についてもP3でもdab1の発現は維持される。海馬においても、大脳新皮質と同様、Dab1の発現領域はReelinを発現するCajal-Retzius細胞の存在する辺縁帯に隣接した領域で観察される。小脳については、妊娠13.5日目の脳室帯、外顆粒層、分化帯に発現が見られ、妊娠18.5日目から生後3日では、プルキンエ細胞層で発現が観察される。また、妊娠18.5日目ではReelinを強く発現する顆粒細胞が存在する、外顆粒層に隣接してプルキンエ細胞層が存在し、小脳においても相補的な発現パターンを示す。  


 Dab1のタンパク質がどの様な細胞に、どのような細胞内分布で発現しているのかは、免疫組織化学染色が難しく、詳しくは知られていないが、免疫組織化学染色に成功しているグループによる報告<ref name=rice />によれば、Dab1は主には、大脳新皮質や海馬では興奮性神経細胞、小脳ではプルキンエ細胞に発現していると考えられている。  
 Dab1のタンパク質がどの様な細胞に、どのような細胞内分布で発現しているのかは、免疫組織化学染色が難しく、詳しくは知られていないが、免疫組織化学染色に成功しているグループによる報告<ref name=rice />によれば、Dab1は主には、大脳新皮質や海馬では興奮性神経細胞、小脳ではプルキンエ細胞に発現していると考えられている。