「サイクリン依存性タンパク質キナーゼ5」の版間の差分

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==サイクリン依存性キナーゼ5とは==
==サイクリン依存性キナーゼ5とは==
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 サイクリン依存性キナーゼは[[細胞周期]]を制御するタンパク質キナーゼファミリーとして発見された<ref name=ref1><pubmed>9442875</pubmed></ref>。真核細胞に共通した機能として、進化的に保存されている構造を有し、活性化に必要なサイクリンが結合する部位であるサイクリン結合ドメインとキナーゼドメインからなる、分子量34-40 kDaの比較的小さなタンパク質である。サイクリンと結合することで活性型となるが、Cdkのリン酸化状態により活性が制御される。各細胞周期の進行において細胞はサイクリン及びCdkの組み合わせを変えて使い分けており、サイクリンE/Cdk2はG1/S期に働き、[[G1期]]になるとサイクリンEの発現量が増加して細胞周期の進行に関与し、[[S期]]になるとユビキチン-[[プロテアソーム]]系により分解される。サイクリンBはCdk1と結合して[[M期]]の開始を制御し、M期からG1期に移行するためには、ユビキチンシステムによるサイクリンBの分解が不可欠である。このように細胞周期に依存してサイクリの発現量が変化するが、Cdkの発現量は変化しない。
 サイクリン依存性キナーゼは[[細胞周期]]を制御するタンパク質キナーゼファミリーとして発見された<ref name=ref1><pubmed>9442875</pubmed></ref>。真核細胞に共通した機能として、進化的に保存されている構造を有し、活性化に必要なサイクリンが結合する部位であるサイクリン結合ドメインとキナーゼドメインからなる、分子量34-40 kDaの比較的小さなタンパク質である。サイクリンと結合することで活性型となるが、Cdkのリン酸化状態により活性が制御される。各細胞周期の進行において細胞はサイクリン及びCdkの組み合わせを変えて使い分けており、サイクリンE/Cdk2はG1/S期に働き、[[G1期]]になるとサイクリンEの発現量が増加して細胞周期の進行に関与し、[[S期]]になるとユビキチン-[[プロテアソーム]]系により分解される。サイクリンBはCdk1と結合して[[M期]]の開始を制御し、M期からG1期に移行するためには、ユビキチンシステムによるサイクリンBの分解が不可欠である。このように細胞周期に依存してサイクリの発現量が変化するが、Cdkの発現量は変化しない。
サイクリン依存性キナーゼ5(Cdk5)はサイクリンDとの結合と高いアミノ酸配列の相同性からCdkの名前が付けられたが、その後、神経細胞に発現しているp35(Cdk5R1)およびp39(Cdk5R2)とヘテロダイマーを形成して活性型のキナーゼとなること判明した。
 
 サイクリン依存性キナーゼ5(Cdk5)はサイクリンDとの結合と高いアミノ酸配列の相同性からCdkの名前が付けられたが、その後、神経細胞に発現しているp35(Cdk5R1)およびp39(Cdk5R2)とヘテロダイマーを形成して活性型のキナーゼとなること判明した。


==構造==
==構造==
 他のCdkファミリーメンバーと類似した結晶構造が報告されている。


==ファミリー==
==ファミリー==
 
 サイクリン依存性キナーゼファミリーに属する。
 


==発現==
==発現==
 Cdk5は神経細胞以外の細胞にも発現しているが、神経細胞で高いレベルの発現がある。(組織分布、細胞内分布をお願い致します)
 Cdk5は神経細胞以外の細胞にも発現しているが、神経細胞で高いレベルの発現がある。細胞質に主に存在し、一部核にも存在する。


==機能==
==機能==
===活性調節===
===活性調節===
 Cdk5はサイクリンD,Eと結合するが活性化されず、最終分裂を終えた神経細胞に発現しているp35(CdkR1)またはp39(Cdk5R2)と結合することで活性型となる<ref name=ref2>Cdk5 book</ref>。活性化サブユニットp35 タンパク質は、Cdk5とヘテロダイマー形成後リン酸化され、プロテアソーム系で分解される事により、量的に調整されている<ref name=ref3><pubmed>9727024</pubmed></ref>。神経細胞の障害などによる細胞内へのCaイオンの流入により活性化したカルパインによりp25に限定分解される<ref name=ref4><pubmed>10604467</pubmed></ref>。p25はCdk5への結合と活性化に必要なドメインを含んでいる。しかし、リン酸化によりプロテアソーム系への分解へとは進まずCdk5/p25は安定した活性型のキナーゼとなる。さらにp35はN末端のミリストリル化により[[細胞膜]]にアンカーしているのに対し、N末を欠くp25は細胞膜にアンカリングせず、細胞質さらには核へ局在を変え、結果的に細胞質や核でのCdk5活性の上昇を来たす。
 Cdk5はサイクリンD、Eと結合するが活性化されず、最終分裂を終えた神経細胞に発現しているp35(CdkR1)またはp39(Cdk5R2)と結合することで活性型となる<ref name=ref2>Cdk5 book</ref>。活性化サブユニットp35 タンパク質は、Cdk5とヘテロダイマー形成後リン酸化され、プロテアソーム系で分解される事により、量的に調整されている<ref name=ref3><pubmed>9727024</pubmed></ref>。神経細胞の障害などによる細胞内へのCaイオンの流入により活性化したカルパインによりp25に限定分解される<ref name=ref4><pubmed>10604467</pubmed></ref>。p25はCdk5への結合と活性化に必要なドメインを含んでいる。しかし、リン酸化によりプロテアソーム系への分解へとは進まずCdk5/p25は安定した活性型のキナーゼとなる。さらにp35はN末端のミリストリル化により[[細胞膜]]にアンカーしているのに対し、N末を欠くp25は細胞膜にアンカリングせず、細胞質さらには核へ局在を変え、結果的に細胞質や核でのCdk5活性の上昇を来たす。


===基質===
===基質===
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==神経系における機能==
==神経系での機能==
 
 セリン・スレオニンキナーゼとして機能する。脳発生・発達期に神経細胞の移動、突起伸長に関与し、活性低下は神経細胞の生存に対するぜい弱性を招く。神経伝達物質の放出やポストシナプス機能にも関与し、脳高次機能への関与が示唆されている。


また、Cdk5はキナーゼとしての機能以外に、[[グルタミン酸]]受容体のNR2Bとタンパク質分解酵素カルパインと複合体を形成し、カルパインによるNR2Bの分解を調整しており、Cdk5のタンパク質量の低下はNR2Bのポストシナプスでの量的増加を来す<ref name=ref9><pubmed>17529984</pubmed></ref>。さらに近年、神経細胞以外の細胞での機能が推定されている。オリゴデンドロサイトの分化での機能やCdk5によるPPARγのリン酸化がインスリン抵抗性の発生機序にかかわっている可能性が示唆されている<ref name=ref10><pubmed>20651683</pubmed></ref>。
 また、Cdk5はキナーゼとしての機能以外に、[[グルタミン酸]]受容体のNR2Bとタンパク質分解酵素カルパインと複合体を形成し、カルパインによるNR2Bの分解を調整しており、Cdk5のタンパク質量の低下はNR2Bのポストシナプスでの量的増加を来す<ref name=ref9><pubmed>17529984</pubmed></ref>。さらに近年、神経細胞以外の細胞での機能が推定されている。オリゴデンドロサイトの分化における機能やCdk5によるPPARγのリン酸化がインスリン抵抗性の発生機序にかかわっている可能性が示唆されている<ref name=ref10><pubmed>20651683</pubmed></ref>。


===アルツハイマー病===
===アルツハイマー病===
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===パーキンソン病、ハンチントン病===
===パーキンソン病、ハンチントン病===


その他パーキンソン病<ref name=ref5><pubmed>14595022</pubmed></ref>やハンチントン病<ref name=ref6><pubmed>15911879</pubmed></ref>などの神経変性疾患の病態に関与している可能性が示唆されている。これら病態でもパーキンやハッチンチンがCdk5の基質であり、Cdk5活性の上昇によりリン酸化型が増加することが病態と関連づけられるが、Cdk5が神経細胞死に対して保護的に働き、Cdk5活性が低下する細胞死を引き起こしやすくなるという報告がある<ref name=ref7><pubmed>18463240</pubmed></ref>。このように、Cdk5活性は神経細胞の生存において厳格に制御される必要があるが、神経機能においても同様であり、結合により活性を示さないサイクリンEとの結合もその活性制御に必要であることが示された<ref name=ref8><pubmed>21944720</pubmed></ref>。すなわち、サイクリンE量の低下はCdk5活性の上昇を来し、シナプス数やシナプス可塑性に影響を与えることが示された。
 その他パーキンソン病<ref name=ref5><pubmed>14595022</pubmed></ref>やハンチントン病<ref name=ref6><pubmed>15911879</pubmed></ref>などの神経変性疾患の病態に関与している可能性が示唆されている。これら病態でもパーキンやハッチンチンがCdk5の基質であり、Cdk5活性の上昇によりリン酸化型が増加することが病態と関連づけられるが、Cdk5が神経細胞死に対して保護的に働き、Cdk5活性が低下する細胞死を引き起こしやすくなるという報告がある<ref name=ref7><pubmed>18463240</pubmed></ref>。このように、Cdk5活性は神経細胞の生存において厳格に制御される必要があるが、神経機能においても同様であり、結合により活性を示さないサイクリンEとの結合もその活性制御に必要であることが示された<ref name=ref8><pubmed>21944720</pubmed></ref>。すなわち、サイクリンE量の低下はCdk5活性の上昇を来し、シナプス数やシナプス可塑性に影響を与えることが示された。


==関連項目==
==関連項目==