「光周性」の版間の差分

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====鳥類の光周性を制御する情報伝達機構====
====鳥類の光周性を制御する情報伝達機構====
[[Image:dio2dio3.jpg'''図3.視床下部内側基底部における甲状腺ホルモン活性化酵素(DIO2)と不活性化酵素(DIO3)のスイッチングが季節繁殖の鍵を握る。長日条件下ではDIO2によってプロホルモンのT4が活性型甲状腺ホルモンT3が合成されるが、短日条件下ではT4、T3ともに不活性型に代謝される。''']]
[[Image:dio2dio3.jpg|thumb|350px|'''図3.視床下部内側基底部における甲状腺ホルモン活性化酵素(DIO2)と不活性化酵素(DIO3)のスイッチングが季節繁殖の鍵を握る。長日条件下ではDIO2によってプロホルモンのT4が活性型甲状腺ホルモンT3が合成されるが、短日条件下ではT4、T3ともに不活性型に代謝される。''']]


[[Image:animalphotoperiodism.jpg'''図4.鳥類と哺乳類の光周性の制御機構'''<br>鳥類と哺乳類では光の入力系が異なるが、下垂体隆起部よりも下流は同様な制御機構によって制御されている。]]
[[Image:animalphotoperiodism.jpg|thumb|350px|'''図4.鳥類と哺乳類の光周性の制御機構'''<br>鳥類と哺乳類では光の入力系が異なるが、下垂体隆起部よりも下流は同様な制御機構によって制御されている。]]


 1960~90年代にはウズラを用いて生理学的な実験が行われた。まず脳の破壊実験により、視床下部内側基底部を破壊すると光周性が失われることが示された<ref><pubmed> 5362399 </pubmed></ref>。また長日刺激によって、細胞の活性化マーカーであるc-Fosが視床下部内側基底部に発現することや、視床下部内側基底部の電気刺激によって性腺刺激ホルモンの分泌が促進されることなどから、視床下部内側基底部が光周性の中枢であると考えられるようになった。2000年代になって光誘導相の光照射によって視床下部内側基底部で発現変動する遺伝子が探索され、脊椎動物の光周性を制御する鍵遺伝子として、DIO2、DIO3遺伝子が単離された<ref><pubmed> 14614506 </pubmed></ref>。DIO2、DIO3遺伝子はそれぞれ、甲状腺ホルモン活性化酵素(2型脱ヨード酵素)と不活性化酵素(3型脱ヨード酵素)をコードしており、長日刺激によって、視床下部内側基底部において局所的に甲状腺ホルモンが活性化されることが、光周性の制御に重要であることが示された(図3)。その後、ゲノムスケールの遺伝子発現解析によって、日長が12時間を超えると下垂体の付け根に位置する下垂体隆起部(pars tuberalis)において、甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone: TSH)が産生されることが明らかになった<ref name=ref7><pubmed> 18354476 </pubmed></ref>(図4)。TSHは甲状腺を刺激する下垂体前葉ホルモンであるが、下垂体隆起部で長日刺激によって産生される場合は視床下部内側基底部のDIO2、DIO3の発現を制御することで、光周性を制御するマスターコントロール因子として働くことが明らかにされている<ref name=ref7 />。
 1960~90年代にはウズラを用いて生理学的な実験が行われた。まず脳の破壊実験により、視床下部内側基底部を破壊すると光周性が失われることが示された<ref><pubmed> 5362399 </pubmed></ref>。また長日刺激によって、細胞の活性化マーカーであるc-Fosが視床下部内側基底部に発現することや、視床下部内側基底部の電気刺激によって性腺刺激ホルモンの分泌が促進されることなどから、視床下部内側基底部が光周性の中枢であると考えられるようになった。2000年代になって光誘導相の光照射によって視床下部内側基底部で発現変動する遺伝子が探索され、脊椎動物の光周性を制御する鍵遺伝子として、DIO2、DIO3遺伝子が単離された<ref><pubmed> 14614506 </pubmed></ref>。DIO2、DIO3遺伝子はそれぞれ、甲状腺ホルモン活性化酵素(2型脱ヨード酵素)と不活性化酵素(3型脱ヨード酵素)をコードしており、長日刺激によって、視床下部内側基底部において局所的に甲状腺ホルモンが活性化されることが、光周性の制御に重要であることが示された(図3)。その後、ゲノムスケールの遺伝子発現解析によって、日長が12時間を超えると下垂体の付け根に位置する下垂体隆起部(pars tuberalis)において、甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone: TSH)が産生されることが明らかになった<ref name=ref7><pubmed> 18354476 </pubmed></ref>(図4)。TSHは甲状腺を刺激する下垂体前葉ホルモンであるが、下垂体隆起部で長日刺激によって産生される場合は視床下部内側基底部のDIO2、DIO3の発現を制御することで、光周性を制御するマスターコントロール因子として働くことが明らかにされている<ref name=ref7 />。