「自殺」の版間の差分

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===ノルアドレナリン神経系===
===ノルアドレナリン神経系===
 ノルアドレナリン神経系(Noradrenergic system)は、[[ストレス応答]]や絶望感などの心理学的特性に関与する系で、セロトニン神経系ほどではないが、その失調と自殺との関連が指摘されている。
 ノルアドレナリン神経系(Noradrenergic system)は、[[ストレス応答]]や絶望感などの心理学的特性に関与する系で、セロトニン神経系ほどではないが、その失調と自殺との関連が指摘されている。
 
 
 自殺既遂者において、ノルアドレナリン神経系の起始核である[[青斑核]]([[locus coeruleus]])の神経細胞数の減少と細胞密度の低下が報告されている(23)。同じく自殺既遂者の脳幹においてノルアドレナリンが低下しており、その二次的な変化とされるアドレナリンα2受容体(以下α2受容体)結合の増加が報告されている(24)。これらの所見は、脳幹におけるノルアドレナリンの枯渇を示唆する。一方、自殺既遂者の前頭前野では、ノルアドレナリンの上昇とα2受容体結合の低下が報告されているが(25)、これは皮質でのノルアドレナリン活性の亢進を示すと考えられる。しかし、前頭前野におけるα2およびそのサブタイプであるα2A受容体が増加しているとの報告も多数あり(26-30)、自殺既遂者の皮質においてみられるこのような相反した所見は、青斑核においてもノルアドレナリン生合成の律速酵素である[[チロシン水酸化酵素]](tyrosine hydroxylase; TH)の増加または減少として報告されている(9)。これらのことは、状態依存的にノルアドレナリン神経系が変化する可能性を示唆しており、当初みられたノルアドレナリンの活性亢進がやがては低活性に至るような過程が自殺にはあるのかもしれない。
 自殺既遂者において、ノルアドレナリン神経系の起始核である[[青斑核]]([[locus coeruleus]])の神経細胞数の減少と細胞密度の低下が報告されている(23)。同じく自殺既遂者の脳幹においてノルアドレナリンが低下しており、その二次的な変化とされるアドレナリンα2受容体(以下α2受容体)結合の増加が報告されている(24)。これらの所見は、脳幹におけるノルアドレナリンの枯渇を示唆する。一方、自殺既遂者の前頭前野では、ノルアドレナリンの上昇とα2受容体結合の低下が報告されているが(25)、これは皮質でのノルアドレナリン活性の亢進を示すと考えられる。しかし、前頭前野におけるα2およびそのサブタイプであるα2A受容体が増加しているとの報告も多数あり(26-30)、自殺既遂者の皮質においてみられるこのような相反した所見は、青斑核においてもノルアドレナリン生合成の律速酵素である[[チロシン水酸化酵素]](tyrosine hydroxylase; TH)の増加または減少として報告されている(9)。これらのことは、状態依存的にノルアドレナリン神経系が変化する可能性を示唆しており、当初みられたノルアドレナリンの活性亢進がやがては低活性に至るような過程が自殺にはあるのかもしれない。