「てんかん」の版間の差分

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===鑑別診断===
===鑑別診断===
 患者の示す発作症状がてんかん性か否かが問題となる症例は少なくない。鑑別すべき重要な疾患、状態には
 患者の示す発作症状がてんかん性か否かが問題となる症例は少なくない。鑑別すべき重要な疾患、状態には以下のようなものがある。これらの内、てんかんを疑われて受診した患者では[[心因性非てんかん発作]](psychogenic non-epileptic seizure: PNES)、[[wj:循環器|循環器]]疾患に伴う[[失神]].、および[[レム睡眠行動障害]]、[[ナルコレプシー]]、[[睡眠時随伴症]]([[夜驚症]]、[[夢中遊行]])、[[入眠時ミオクローヌス]]の睡眠関連症状はしばしば鑑別を要する。


#[[心因性非てんかん発作]](psychogenic non-epileptic seizure: PNES)
#[[心因性非てんかん発作]]
#[[wj:循環器|循環器]]疾患に伴う[[失神]]
#[[wj:循環器|循環器]]疾患に伴う[[失神]]
#[[頭痛|片頭痛]]
#[[頭痛|片頭痛]]
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などがある。
などがある。


 これらの内、てんかんを疑われて受診した患者では1.、2.、および5.から9.の睡眠関連症状はしばしば鑑別を要する。
==== 心因性非てんかん発作 ====
#PNES<br>診断で難しいのはてんかんとPNESが合併した場合である。難治てんかんでは両者の合併は10-35%と高頻度である<ref name=ref14>'''Krumholz A et al'''<br>Coexisting epilepsy and nonepileptic seizures.<br>In: Kaplan PW, et al, eds: Imitator of epilepsy.<br>Pp 261-222222276, Demos Medical Publishingm INC, New York, 2005.  </ref>。PNESの症状は多彩である。首の横振り、後弓反張、不規則な手足の運動、刺激に反応する場合がある。発作時には閉眼していることが多く、開眼させようとすると抵抗し、対光反射は存在する。ビデオ脳波同時記録を行い、発作症状と脳波所見が一致するか否かが診断の要点となる。発作が始まった時期の前に“心因”の存在を見出すことが重要である。
<u>編集部コメント:一言で、心因性非てんかん発作とは何かをお願いします。</u>) 
#循環器疾患に伴う失神<br>一過性の意識消失を失神というが、[[不整脈]]、自律神経調節性失神(NMS)がある。不整脈には徐脈性不整脈(洞不全症候群、AVブロック)、頻拍性不整脈(上室性頻拍、心室性不整脈)があり、心電図検査を要する。NMSには[[迷走神経]]緊張性失神(前駆症状は発汗、あくび、吐き気、腹痛)、頸動脈洞症候群(振り向くような動作で起こる)、状況失神(排尿、排便、咳、嚥下などが原因となる)がある。病歴の聴取が重要である。
 診断で難しいのはてんかんと 心因性非てんかん発作が合併した場合である。難治てんかんでは両者の合併は10-35%と高頻度である<ref name=ref14>'''Krumholz A et al'''<br>Coexisting epilepsy and nonepileptic seizures.<br>In: Kaplan PW, et al, eds: Imitator of epilepsy.<br>Pp 261-276, Demos Medical Publishingm INC, New York, 2005.  </ref>。 症状は多彩である。首の横振り、[[後弓反張]]、不規則な手足の運動、刺激に反応する場合がある。発作時には閉眼していることが多く、開眼させようとすると抵抗し、[[対光反射]]は存在する。ビデオ脳波同時記録を行い、発作症状と[[脳波]]所見が一致するか否かが診断の要点となる。発作が始まった時期の前に“心因”の存在を見出すことが重要である。
#一過性脳虚血発作(TIA)<br>可逆的な経過をたどる脳卒中の病型の1つである。TIAの症状持続時間は2-15分と報告されている<ref name=ref12>'''小坂昌宏'''<br>一過性脳虚血発作の症状<br>''神経内科'' 72;562-568, 2010.</ref>。
#片頭痛<br>予兆として閃光、暗転,視野欠損、錯視としての視覚の変形や大小の変化を示す片頭痛「不思議の国のアリス現象」などがある。片頭痛とてんかんの両者の特徴を持つてんかん性片頭痛症候群の存在に留意する必要がある<ref name=ref15><pubmed>7964814</pubmed></ref>。
#一過性健忘<br>60歳前後に発症ピークがあり、数時間持続する健忘を示す。診断基準としては[[逆行性健忘]]の存在、意識障害がなく自己同一性の喪失はない、認知機能障害は健忘のみで24時間以内に回復する<ref name=ref2><pubmed>20129169</pubmed></ref>。
#睡眠に関連する障害<br>レム睡眠行動障害、ナルコレプシー、睡眠時随伴症(夜驚症、夢中遊行)、入眠時ミオクローヌスもてんかんとの鑑別に重要である。ナルコレプシーは睡眠発作、[[情動]]脱力発作、睡眠麻痺、入眠時幻覚、自動症などを示す。診断には終夜睡眠ポリグラフで日中の過剰な睡眠と入眠時レム睡眠が見いだされること、確定診断として[[髄液]]中の[[オレキシン]]の低下がある<ref name=ref1>'''Americal Academy of Sleep Medicine'''<br>International  Classification of Sleep Disorders. Second Edition. Diagnostic and coding Manual. <br>''American Academy of Sleep Medicine'', 2005</ref>。レム睡眠行動障害はレム睡眠期に一致して手足を動かし、叫ぶ、泣く、笑う、動き回るなどの異常行動が見られ、レム睡眠期が終わると終了する。
#夜驚症、夢中遊行、錯乱性覚醒<br>主に小児にみられ、ノンレム睡眠からの覚醒障害により生ずると考えられている。夜驚症は睡眠中に突然起きだし[[恐怖]]に満ちた叫び、外界からの刺激に反応せず、混乱、失見当識を示す。夢中遊行は睡眠中に起き上がり、開眼し歩き回る。その後布団に戻って眠ることが多い。錯乱性覚醒は覚醒後数十分間、失検討識や思考の緩慢さが見られる。これらの状態は[[前頭葉]]てんかんとの鑑別に重要である。
#入眠時ミオクローヌ<br>発生機序は不明であるが、入眠期に起こる短い不規則な筋の収縮であり、ミオクロニー発作、単純部分発作との鑑別に重要である。周期性四肢運動障害は睡眠中に起こる足関節の背屈進展を伴う運動が頻回に出現する状態であり、入眠時ミオクローヌスとは異なる。
#周期性四肢運動障害は睡眠中に起こる常同的四肢の運動で、むずむず脚症候群とオーバーラップする症候群として捉えられる。下肢に多く見られ、重症になると入眠が困難になる。病態として[[視床下部]]AIIのドパミン(DA)細胞の機能低下が考えられている<ref name=ref9>'''稲見康司、他'''<br>むずむず脚症候群、周期性四肢運動障害<br>''日本臨床'' 71(増刊号5);485-490, 2013.</ref>。
#発作性ジスキネジア(PD)はジストニア、アテトーゼ、バリスムス、舞踏病が単独あるいは複合して出現する。発作性運動誘発性ジスキネジア(paroxysmal kinesigenic dyskinesia: OKD)は男性に多く、家族性症例が多い。Proline-rich transmembrane protein 2が責任遺伝子の1つとして報告された<ref name=ref8><pubmed>22752065</pubmed></ref>。意識障害はなく、発作間欠期は無症候性である。発作は数十秒で毎日のように頻回に出現する。随意運動の開始、[[ストレス]]、緊張などにより誘発され、前兆(感覚異常など)がある症例が多い。特発性発作性運動性ジスキネジアでは発作時脳波にも異常は見られない。症候性の場合には画像所見で異常が見いだされることもある。


 非運動誘発性ジスキネジア(paroxysmal non-kinesigenic dyskinesia: PNKD)は男性にやや多く、家族性の症例の多くではmyofibrillogenesis regulator 1 (MR-1)遺伝子が責任遺伝子として報告されている<ref name=ref3><pubmed>17515540</pubmed></ref>。MR-1遺伝子変異がない症例の発病は12歳ころで、変異のある症例の発病は平均4歳である。症状はPKDとほぼ同様であるが、MR-1変異がある症例ではジストニアあるいはジストニアと舞踏病の組み合わせで、変異がない症例ではジストニア、舞踏病、両者の組み合わせ、バリスムが観察される。発作は主に体肢に起こり、発作は週単位で10分から1時間の持続時間が多い。[[カフェイン]]、アルコール、情動変化、疲労、空腹などで誘発される。MR-1変異のない症例ではてんかんと合併することもあり、変異を有する症例では片頭痛を約半数が合併する。前兆には体肢の硬直、ふらふら感、しびれ感、などがある。
====循環器疾患に伴う失神====
 一過性の意識消失を失神というが、[[不整脈]]、[[自律神経調節性失神]](NMS)がある。不整脈には[[wj:徐脈性不整脈|徐脈性不整脈]]([[wj:洞不全症候群|洞不全症候群]]、[[wj:AVブロック|AVブロック]])、頻拍性不整脈(上室性頻拍、心室性不整脈)があり、心電図検査を要する。自律神経調節性失神には[[迷走神経緊張性失神]](前駆症状は発汗、あくび、吐き気、腹痛)、[[頸動脈洞症候群]](振り向くような動作で起こる)、状況失神(排尿、排便、咳、嚥下などが原因となる)がある。病歴の聴取が重要である。
 
==== 一過性脳虚血発作 ====
  [[一過性脳虚血発作]]とは可逆的な経過をたどる脳卒中の病型の1つである。一過性脳虚血発作の症状持続時間は2-15分と報告されている<ref name=ref12>'''小坂昌宏'''<br>一過性脳虚血発作の症状<br>''神経内科'' 72;562-568, 2010.</ref>。
 
==== 片頭痛 ====
 (<u>編集部コメント:一言で、片頭痛とは何かをお願いします。</u>)予兆として[[閃光]]、[[暗転]](<u>編集部コメント:暗点でしょうか?</u>),[[視野欠損]]、[[錯視]]としての視覚の変形や大小の変化を示す片頭痛「[[不思議の国のアリス現象]]」などがある。片頭痛とてんかんの両者の特徴を持つ[[てんかん性片頭痛症候群]]の存在に留意する必要がある<ref name=ref15><pubmed>7964814</pubmed></ref>。
 
==== 一過性健忘 ====
 60歳前後に発症ピークがあり、数時間持続する[[健忘]]を示す。診断基準としては[[逆行性健忘]]の存在、意識障害がなく[[自己同一性]]の喪失はない、[[認知機能障害]]は健忘のみで24時間以内に回復する<ref name=ref2><pubmed>20129169</pubmed></ref>。
 
==== ナルコレプシー ====
ナルコレプシーは[[睡眠発作]]、[[情動脱力発作]]、[[睡眠麻痺]]、[[入眠時幻覚]]、[[自動症]]などを示す。診断には[[終夜睡眠ポリグラフ]]で日中の過剰な睡眠と入眠時[[レム睡眠]]が見いだされること、確定診断として[[髄液]]中の[[オレキシン]]の低下がある<ref name=ref1>'''Americal Academy of Sleep Medicine'''<br>International  Classification of Sleep Disorders. Second Edition. Diagnostic and coding Manual. <br>''American Academy of Sleep Medicine'', 2005</ref>。
 
==== レム睡眠行動障害 ====
 レム睡眠期に一致して手足を動かし、叫ぶ、泣く、笑う、動き回るなどの異常行動が見られ、レム睡眠期が終わると終了する。
 
==== 夜驚症、夢中遊行、錯乱性覚醒 ====
 いずれも主に小児にみられ、[[ノンレム睡眠]]からの覚醒障害により生ずると考えられている。[[夜驚症]]は睡眠中に突然起きだし[[恐怖]]に満ちた叫び、外界からの刺激に反応せず、混乱、[[失見当識]]を示す。[[夢中遊行]]は睡眠中に起き上がり、開眼し歩き回る。その後布団に戻って眠ることが多い。[[錯乱性覚醒]]は覚醒後数十分間、[[失検討識]](<u>編集部コメント:失見当識でしょうか?</u>)や思考の緩慢さが見られる。これらの状態は[[前頭葉てんかん]]との鑑別に重要である。
 
==== 入眠時ミオクローヌス ====
 [[入眠時ミオクローヌス]]とは、入眠期に起こる短い不規則な筋の収縮であり、発生機序は不明である。[[ミオクロニー発作]]、[[単純部分発作]]との鑑別に重要である。[[周期性四肢運動障害]]は睡眠中に起こる足関節の背屈進展を伴う運動が頻回に出現する状態であり、入眠時ミオクローヌスとは異なる。
==== 周期性四肢運動障害 ====
 [[周期性四肢運動障害]]とは睡眠中に起こる常同的四肢の運動で、[[むずむず脚症候群]]とオーバーラップする症候群として捉えられる。下肢に多く見られ、重症になると入眠が困難になる。病態として[[視床下部]]AIIのドパミン(DA)細胞の機能低下が考えられている<ref name=ref9>'''稲見康司、他'''<br>むずむず脚症候群、周期性四肢運動障害<br>''日本臨床'' 71(増刊号5);485-490, 2013.</ref>。
==== 発作性ジスキネジア ====
 [[発作性ジスキネジア]](PD)は[[ジストニア]]、[[アテトーゼ]]、[[バリスムス]]、[[舞踏病]]が単独あるいは複合して出現する。[[発作性運動誘発性ジスキネジア]](paroxysmal kinesigenic dyskinesia: OKD)は男性に多く、家族性症例が多い。[[Proline-rich transmembrane protein 2]]が責任遺伝子の1つとして報告された<ref name=ref8><pubmed>22752065</pubmed></ref>。意識障害はなく、発作間欠期は無症候性である。発作は数十秒で毎日のように頻回に出現する。[[随意運動]]の開始、[[ストレス]]、緊張などにより誘発され、前兆(感覚異常など)がある症例が多い。特発性発作性運動性ジスキネジアでは発作時脳波にも異常は見られない。症候性の場合には画像所見で異常が見いだされることもある。
 
==== 非運動誘発性ジスキネジア ====
 [[非運動誘発性ジスキネジア]](paroxysmal non-kinesigenic dyskinesia: PNKD)は男性にやや多く、家族性の症例の多くでは[[myofibrillogenesis regulator 1]] (MR-1)遺伝子が責任遺伝子として報告されている<ref name=ref3><pubmed>17515540</pubmed></ref>。MR-1遺伝子変異がない症例の発病は12歳ころで、変異のある症例の発病は平均4歳である。症状はPKDとほぼ同様であるが、MR-1変異がある症例ではジストニアあるいはジストニアと舞踏病の組み合わせで、変異がない症例ではジストニア、舞踏病、両者の組み合わせ、バリスム(<u>編集部コメント:バリスムス?</u>)が観察される。発作は主に体肢に起こり、発作は週単位で10分から1時間の持続時間が多い。[[カフェイン]]、[[アルコール]]、情動変化、疲労、空腹などで誘発される。MR-1変異のない症例ではてんかんと合併することもあり、変異を有する症例では片頭痛を約半数が合併する。前兆には体肢の硬直、ふらふら感、しびれ感、などがある。


==分類==
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