「記憶固定化」の版間の差分

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== 記憶の固定化・再固定化・強化 ==
== 記憶の固定化・再固定化・強化 ==
 2000年にNaderらによって、固定化された記憶を想起した際に、脳にタンパク質合成阻害剤を注入すると記憶が壊れて消えることが報告され<ref><pubmed>10963596</pubmed></ref> 、固定化された記憶は思い出すと(想起すると)、一旦不安定になり、その後再びタンパク質合成依存的な「再固定化」という過程を通して再度安定的に脳内に定着するという概念が提唱された(図1)。
 2000年にNaderらによって、固定化された記憶を想起した際に、脳にタンパク質合成阻害剤を注入すると記憶が壊れて消えることが報告され<ref><pubmed>10963596</pubmed></ref> 、固定化された記憶は思い出すと(想起すると)、一旦不安定になり、その後再びタンパク質合成依存的な「再固定化」という過程を通して再度安定的に脳内に定着するという概念が提唱された('''図1''')。


 記憶が想起によって一旦不安定になる意義として2つの役割が挙げられている。
 記憶が想起によって一旦不安定になる意義として2つの役割が挙げられている。
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 一つは、一旦不安定になることで、既存の記憶が新たに獲得した経験と相互作用できるようになり記憶が“修飾(アップデート)”される可能性である。
 一つは、一旦不安定になることで、既存の記憶が新たに獲得した経験と相互作用できるようになり記憶が“修飾(アップデート)”される可能性である。


 もう一つは、想起によって記憶が“強化”される可能性で、実際に、受動的回避学習の実験で、想起された記憶が強化されると報告されている<ref><pubmed>24963141</pubmed></ref> 。
 もう一つは、想起によって記憶が“強化”される可能性で、実際に、'''受動的回避学習'''の実験で、想起された記憶が強化されると報告されている<ref><pubmed>24963141</pubmed></ref> 。


 記憶の固定化と再固定化は、ともにタンパク質の合成を必要とする点で共通の分子機構が想像される。しかし、恐怖条件付けの場合、BDNFは固定化に必要で再固定化に必要ではない。一方、転写因子zif268は、再固定化に必要で固定化に必要ではないというように、実際には同じ分子機構ではないことが示唆されている(図1)<ref><pubmed>23197404</pubmed></ref> 。
 記憶の固定化と再固定化は、ともにタンパク質の合成を必要とする点で共通の分子機構が想像される。しかし、恐怖条件付けの場合、BDNFは固定化に必要で再固定化に必要ではない。一方、転写因子[[zif268]]は、再固定化に必要で固定化に必要ではないというように、実際には同じ分子機構ではないことが示唆されている('''図1''')<ref><pubmed>23197404</pubmed></ref> 。


 最近では、再固定化の前の記憶の不安定化は、神経細胞間のシナプス情報伝達を担うタンパク質の分解に起因することが報告されている<ref><pubmed>18258863</pubmed></ref> 。不安定化に引き続き新たなシナプスタンパク質が合成されることが再固定化に必要であり、この機構によって記憶回路の再編・更新が行われていると考えられる。
 最近では、再固定化の前の記憶の不安定化は、神経細胞間のシナプス情報伝達を担うタンパク質の分解に起因することが報告されている<ref><pubmed>18258863</pubmed></ref> 。不安定化に引き続き新たなシナプスタンパク質が合成されることが再固定化に必要であり、この機構によって記憶回路の再編・更新が行われていると考えられる。