「三叉神経痛」の版間の差分

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(ページの作成:「三叉神経痛                           濱野忠則 福井大学医学部第二内科・脳神経内科 担当編…」)
 
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== 三叉神経痛とは  ==
== 三叉神経痛とは  ==
 紀元2世紀Galenの時代にカッパドキアのArateusによりはじめて記載された<ref name=Rose1999><pubmed>10488822</pubmed></ref>[1]。1756年フランスのAndreにより新しい疾患概念としてtic douloureux(有痛性チック)が提唱された<ref name=Nurmikko2001><pubmed>11460800</pubmed></ref>[2]。その後1773年Fothergillにより三叉神経痛について現代にも通用する症状の詳細な記載がなされている<ref name=Rose1999><pubmed>10488822</pubmed></ref>[1]。1929年Dandyは三叉神経が血管により圧迫され有痛性チックが生ずる可能性について記載している<ref name=Dandy1929><pubmed>[3]。1960年代、カルバマゼピンの治療応用が開始され<ref name=Campbell1966><pubmed>5327969</pubmed></ref>[4]、1970年代にはJannetaによる減圧術の多数例の検討がなされた<ref name=Barker1996><pubmed>8598865</pubmed></ref>[5]という歴史的背景がある。一側三叉神経支配領域、特に第2,3枝領域(口唇、頬、歯肉、下顎)に限局した数分の1秒~2分のピリッとした電撃痛を反復するものであり、中年期以降に発症する。女性に多く、洗顔、髭剃り、会話、歯磨きなどの些細な刺激で誘発される。痛みは、間歇期は無症状であるが、昼夜を問わず頻回に出現するため、QOLを大きく損ねる。
 紀元2世紀Galenの時代にカッパドキアのArateusによりはじめて記載された<ref name=Rose1999><pubmed>10488822</pubmed></ref>[1]。1756年フランスのAndreにより新しい疾患概念としてtic douloureux(有痛性チック)が提唱された<ref name=Nurmikko2001><pubmed>11460800</pubmed></ref>[2]。その後1773年Fothergillにより三叉神経痛について現代にも通用する症状の詳細な記載がなされている<ref name=Rose1999><pubmed>10488822</pubmed></ref>[1]。1929年Dandyは三叉神経が血管により圧迫され有痛性チックが生ずる可能性について記載している<ref name=Dandy1929>Dandy, W. E. (1929).<br>An operation for the cure of tic douloureux: partial section of the sensory root at the pons.<br>Archives of Surgery, 18(2), 687-734.</ref>[3]。1960年代、カルバマゼピンの治療応用が開始され<ref name=Campbell1966><pubmed>5327969</pubmed></ref>[4]、1970年代にはJannetaによる減圧術の多数例の検討がなされた<ref name=Barker1996><pubmed>8598865</pubmed></ref>[5]という歴史的背景がある。一側三叉神経支配領域、特に第2,3枝領域(口唇、頬、歯肉、下顎)に限局した数分の1秒~2分のピリッとした電撃痛を反復するものであり、中年期以降に発症する。女性に多く、洗顔、髭剃り、会話、歯磨きなどの些細な刺激で誘発される。痛みは、間歇期は無症状であるが、昼夜を問わず頻回に出現するため、QOLを大きく損ねる。


== 診断  ==                           
== 診断==
 典型的な症例の場合、診断は決して困難ではない。診断基準を表に示す('''表1''')<ref name=Barker1996><pubmed>8598865</pubmed></ref>[5]。一側三叉神経支配領域、特に第2、3枝領域(口唇、頬、歯肉、下顎)に限局した数分の1秒~2分のピリッとした電撃痛を反復するものであり、中年期以降に発症し、女性に多い。鼻唇溝、オトガイの狭い領域に痛みの誘発点を有することが多い。洗顔、髭剃り、会話、歯磨きなどの些細な刺激で誘発される。痛みは、昼夜を問わず頻回に出現する。間歇期は無症状である。激痛のため、罹患側のしかめっ面をしばしば誘発する(有痛性チック)。典型的(特発性)三叉神経痛は、明らかな顔面感覚鈍麻はない。疼痛部位の検討では、三叉神経第2枝、第3枝合併例が最も多く33~36%、第3枝単独が15~19%、第2枝単独が17~18%、第1、第2枝合併が12~13%、第1枝単独は3~4%とまれである<ref name=Barker1996><pubmed>8598865</pubmed></ref>[5] <ref name=Maarbjerg2014><pubmed>25231219</pubmed></ref>
 典型的な症例の場合、診断は決して困難ではない。診断基準を表に示す('''表1''')<ref name=Barker1996><pubmed>8598865</pubmed></ref>[5]。一側三叉神経支配領域、特に第2、3枝領域(口唇、頬、歯肉、下顎)に限局した数分の1秒~2分のピリッとした電撃痛を反復するものであり、中年期以降に発症し、女性に多い。鼻唇溝、オトガイの狭い領域に痛みの誘発点を有することが多い。洗顔、髭剃り、会話、歯磨きなどの些細な刺激で誘発される。痛みは、昼夜を問わず頻回に出現する。間歇期は無症状である。激痛のため、罹患側のしかめっ面をしばしば誘発する(有痛性チック)。典型的(特発性)三叉神経痛は、明らかな顔面感覚鈍麻はない。疼痛部位の検討では、三叉神経第2枝、第3枝合併例が最も多く33~36%、第3枝単独が15~19%、第2枝単独が17~18%、第1、第2枝合併が12~13%、第1枝単独は3~4%とまれである<ref name=Barker1996><pubmed>8598865</pubmed></ref>[5] <ref name=Maarbjerg2014><pubmed>25231219</pubmed></ref>
[7]。第2枝、第3枝のtrigger point(口の周囲や鼻翼、頬など)の存在が診断上有用である(図1)<ref name=日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会2018><pubmed></pubmed></ref>[6] <ref name=Garg2011><pubmed></ref>[8]。
[7]。第2枝、第3枝のtrigger point(口の周囲や鼻翼、頬など)の存在が診断上有用である(図1)<ref name=日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会2018>'''日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会 (2018).'''<br>13. 脳神経の有痛性病変およびその他の顔面痛. 国際頭痛分類第3版, 医学書院, 東京. pp166-87</ref>[6] <ref name=Garg2011><pubmed>22480095</pubmed></ref>[8]。


 一方症候性三叉神経痛では、顔面感覚鈍麻を伴い、第1枝領域単独にも症状を呈しうる。角膜反射の低下など、他の脳神経障害を伴うことがある。若年発症の場合や、発作間歇期が短い場合は症候性三叉神経痛を疑う必要がある。
 一方症候性三叉神経痛では、顔面感覚鈍麻を伴い、第1枝領域単独にも症状を呈しうる。角膜反射の低下など、他の脳神経障害を伴うことがある。若年発症の場合や、発作間歇期が短い場合は症候性三叉神経痛を疑う必要がある。