「トリプレット病」の版間の差分

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| 筋力低下、[[wj:女性化乳房|女性化乳房]]
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| [[脊髄小脳変性症1型]]
| [[脊髄小脳失調症1型]]
| [[SCA1]]  
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| [http://omim.org/entry/164400 164400]  
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| [[小脳失調]]、[[構音障害]]、認知症
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| [[脊髄小脳変性症2型]]  
| [[脊髄小脳失調症2型]]  
| [[SCA2]]  
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| [http://omim.org/entry/183090 183090]  
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| 小脳失調、[[wj:腱反射|腱反射]]消失、緩徐眼球運動
| 小脳失調、[[wj:腱反射|腱反射]]消失、緩徐眼球運動
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| [[脊髄小脳変性症3型]]  
| [[脊髄小脳失調症3型]]  
| [[SCA3]]  
| [[SCA3]]  
| [http://omim.org/entry/109150 109150]  
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| 小脳失調、[[パーキンソニズム]]、下肢の痙性
| 小脳失調、[[パーキンソニズム]]、下肢の痙性
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| [[脊髄小脳変性症6型]]  
| [[脊髄小脳失調症6型]]  
| [[SCA6]]  
| [[SCA6]]  
| [http://omim.org/entry/183086 183086]  
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| 小脳失調、構音障害、眼振
| 小脳失調、構音障害、眼振
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| [[脊髄小脳変性症7型]]  
| [[脊髄小脳失調症7型]]  
| [[SCA7]]  
| [[SCA7]]  
| [http://omim.org/entry/164500 164500]  
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| 小脳失調、[[視力障害]]
| 小脳失調、[[視力障害]]
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| [[脊髄小脳変性症17型]]  
| [[脊髄小脳失調症17型]]  
| [[SCA17]]  
| [[SCA17]]  
| [http://omim.org/entry/607136 607136]  
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| colspan="11" | 発症機序が不明
| colspan="11" | 発症機序が不明
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| [[脊髄小脳変性症8型]]  
| [[脊髄小脳失調症8型]]  
| [[SCA8]]  
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| [http://omim.org/entry/608768 608768]  
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| 小脳失調、構音障害、[[眼振]]
| 小脳失調、構音障害、[[眼振]]
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| [[脊髄小脳変性症12型]]  
| [[脊髄小脳失調症12型]]  
| [[SCA12]]  
| [[SCA12]]  
| [http://omim.org/entry/604326 604326]  
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[[Spinocerebellar ataxia type 1]] ([[SCA1]])
[[Spinocerebellar ataxia type 1]] ([[SCA1]])


 [[脊髄小脳変性症]] (SCAs)と[[歯状核赤核淡蒼球ルイ体変性症]] ([[DRPLA]])は小脳及びそれに関連する神経路の変性を主体とする変性疾患で、臨床的には中年期に発症することが多く小脳失調や構音障害などの症状が共通して認められる。SCA1は、[[アタキシン1]] (ATXN1)をコードする''SCA1''遺伝子内のCAGリピートの異常伸長による常染色体優性遺伝性疾患。患者は小脳性運動失調・構音障害・嚥下障害・外眼筋麻痺・[[錐体路症状]]・認知機能障害などの症状を呈する。表現促進現象が認められる。ATXN1は広く中枢神経系の神経細胞で発現しているが神経病理学的にはプルキンエ細胞・小脳[[歯状核]]・[[赤核]]・[[橋核]]・[[下オリーブ核]]・[[クラーク柱]]・[[脊髄小脳路]]などを中心に選択的変性を認め、残存する神経細胞核内にはATXN1陽性の封入体形成が認められる。ATXN1の生理機能には不明な点が多いが、核移行シグナルを有し、またRNAと結合しうることが示されている。加えてATXN1と相互作用するまたさまざまな因子([[ATXN1L]],[[CIC]],[[RBM17]]など)が同定されており、ポリグルタミン鎖の伸長はそれら因子との相互作用を複雑に変化させ、病態発現に関与していると考えられる<ref><pubmed>18957430</pubmed></ref>。
 [[脊髄小脳失調症]] (SCAs)と[[歯状核赤核淡蒼球ルイ体変性症]] ([[DRPLA]])は小脳及びそれに関連する神経路の変性を主体とする変性疾患で、臨床的には中年期に発症することが多く小脳失調や構音障害などの症状が共通して認められる。SCA1は、[[アタキシン1]] (ATXN1)をコードする''SCA1''遺伝子内のCAGリピートの異常伸長による常染色体優性遺伝性疾患。患者は小脳性運動失調・構音障害・嚥下障害・外眼筋麻痺・[[錐体路症状]]・認知機能障害などの症状を呈する。表現促進現象が認められる。ATXN1は広く中枢神経系の神経細胞で発現しているが神経病理学的にはプルキンエ細胞・小脳[[歯状核]]・[[赤核]]・[[橋核]]・[[下オリーブ核]]・[[クラーク柱]]・[[脊髄小脳路]]などを中心に選択的変性を認め、残存する神経細胞核内にはATXN1陽性の封入体形成が認められる。ATXN1の生理機能には不明な点が多いが、核移行シグナルを有し、またRNAと結合しうることが示されている。加えてATXN1と相互作用するまたさまざまな因子([[ATXN1L]],[[CIC]],[[RBM17]]など)が同定されており、ポリグルタミン鎖の伸長はそれら因子との相互作用を複雑に変化させ、病態発現に関与していると考えられる<ref><pubmed>18957430</pubmed></ref>。


=== 脊髄小脳失調症2型 ===
=== 脊髄小脳失調症2型 ===
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[[Dentatorubral-pallidoluysian atrophy]] ([[DRPLA]])
[[Dentatorubral-pallidoluysian atrophy]] ([[DRPLA]])


 本邦に多い常染色体優性遺伝性疾患。表現促進現象が認められ、中年期に発症する患者では運動失調・[[アテトーゼ]]様不随意運動・認知症を主症状とする脊髄小脳変性症、20才以下の若年発症型では[[ミオクローヌス]]・てんかん・精神遅滞を主症状とする[[ミオクローヌスてんかん]]の臨床像を示す。若年発症型の大部分は父親からの遺伝である。神経病理学的には歯状核赤核系及び[[淡蒼球外節ルイ体系]]の変性を主体とする。変異アレルでは[[アトロフィン1]]([[atrophin 1]])をコードするDRPLA遺伝子エクソン5に存在するCAGリピートが異常伸長している。アトロフィン1は標的遺伝子の転写を負に制御するコリプレッサーの1つ<ref><pubmed>11792320</pubmed></ref> で、ポリグルタミン鎖の伸長によりその機能が変化し、神経変性に導くものと考えられている。
 本邦に多い常染色体優性遺伝性疾患。表現促進現象が認められ、中年期に発症する患者では運動失調・[[アテトーゼ]]様不随意運動・認知症を主症状とする脊髄小脳失調症、20才以下の若年発症型では[[ミオクローヌス]]・てんかん・精神遅滞を主症状とする[[ミオクローヌスてんかん]]の臨床像を示す。若年発症型の大部分は父親からの遺伝である。神経病理学的には歯状核赤核系及び[[淡蒼球外節ルイ体系]]の変性を主体とする。変異アレルでは[[アトロフィン1]]([[atrophin 1]])をコードするDRPLA遺伝子エクソン5に存在するCAGリピートが異常伸長している。アトロフィン1は標的遺伝子の転写を負に制御するコリプレッサーの1つ<ref><pubmed>11792320</pubmed></ref> で、ポリグルタミン鎖の伸長によりその機能が変化し、神経変性に導くものと考えられている。


== 機能獲得の機構を介した疾患 (2) RNA機能獲得による疾患  ==
== 機能獲得の機構を介した疾患 (2) RNA機能獲得による疾患  ==
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[[Spinocerebellar ataxia type 8]] ([[SCA8]])
[[Spinocerebellar ataxia type 8]] ([[SCA8]])


 SCA8は13q21に位置するCTG/CAGリピートの異常伸長による脊髄小脳変性症の一型である。ただし、浸透率が低く変異アレルを有しながら発症しない例が多数存在する。このリピートは反対方向に2種類の遺伝子[[ATXN8OS]]と[[ATXN8]]に転写され、それぞれnon-coding CUG リピートRNAとほぼ純粋なポリグルタミン鎖をコードするCAGリピートRNAが産生される。 ATXNOSの繰り返し部分の配列は(CTA)1-21(CTG)nの構造をとっており、患者の多くはその総数が110から250リピートの間にある。臨床的には、中年期に発症する例が多く、典型例では小脳症状以外に目立った症状がない純粋小脳型の特徴を示すとされ、頭部MRIでも萎縮はほぼ小脳に限局する。SCA8の発症機序として、伸長リピートを有するATXN8OS転写産物(CTG方向)が、反対側DNAから転写される''[[KLHL1]]''遺伝子の[[アンチセンスRNA]]としてその発現を抑制することが原因であるとする説<ref><pubmed>10888605</pubmed></ref>。DM1と同様に伸長リピートを有するATXN8OS転写産物がRNA 機能獲得の機構で毒性を発揮するという説 <ref><pubmed>15363905</pubmed></ref>、さらにRNA 機能獲得に加えてATXN8転写物(CAG方向)由来の伸長ポリグルタミンペプチドも機能獲得の機構で[[神経毒性]]に関与するという考え<ref><pubmed>16804541</pubmed></ref>がある。
 SCA8は13q21に位置するCTG/CAGリピートの異常伸長による脊髄小脳失調症の一型である。ただし、浸透率が低く変異アレルを有しながら発症しない例が多数存在する。このリピートは反対方向に2種類の遺伝子[[ATXN8OS]]と[[ATXN8]]に転写され、それぞれnon-coding CUG リピートRNAとほぼ純粋なポリグルタミン鎖をコードするCAGリピートRNAが産生される。 ATXNOSの繰り返し部分の配列は(CTA)1-21(CTG)nの構造をとっており、患者の多くはその総数が110から250リピートの間にある。臨床的には、中年期に発症する例が多く、典型例では小脳症状以外に目立った症状がない純粋小脳型の特徴を示すとされ、頭部MRIでも萎縮はほぼ小脳に限局する。SCA8の発症機序として、伸長リピートを有するATXN8OS転写産物(CTG方向)が、反対側DNAから転写される''[[KLHL1]]''遺伝子の[[アンチセンスRNA]]としてその発現を抑制することが原因であるとする説<ref><pubmed>10888605</pubmed></ref>。DM1と同様に伸長リピートを有するATXN8OS転写産物がRNA 機能獲得の機構で毒性を発揮するという説 <ref><pubmed>15363905</pubmed></ref>、さらにRNA 機能獲得に加えてATXN8転写物(CAG方向)由来の伸長ポリグルタミンペプチドも機能獲得の機構で[[神経毒性]]に関与するという考え<ref><pubmed>16804541</pubmed></ref>がある。


=== 脊髄小脳失調症12型 ===
=== 脊髄小脳失調症12型 ===