「神経符号化」の版間の差分

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 これによれば、脳の内部構造に基づく神経細胞の自発活動、すなわち脳の内発的ダイナミクスは事前分布を構成する。刺激が提示されると、神経活動は刺激の影響を受けて変調され、復号器と組み合わされて事後分布を形成する<ref name=Fiser2010><pubmed>20153683</pubmed></ref> <ref name=Berkes2011><pubmed>21212356</pubmed></ref> [Fiser 2010; Berkes 2011]。すなわち神経応答活動は刺激を再構成・予測するための推論を行なっていると考える事ができる。神経応答活動のベイズ的な見方によれば、脳内に刺激を推定する復号器の存在を陽に仮定する必要はなくなり、復号器の役割は自発活動から刺激応答活動への変化に内包される。   
 これによれば、脳の内部構造に基づく神経細胞の自発活動、すなわち脳の内発的ダイナミクスは事前分布を構成する。刺激が提示されると、神経活動は刺激の影響を受けて変調され、復号器と組み合わされて事後分布を形成する<ref name=Fiser2010><pubmed>20153683</pubmed></ref> <ref name=Berkes2011><pubmed>21212356</pubmed></ref> [Fiser 2010; Berkes 2011]。すなわち神経応答活動は刺激を再構成・予測するための推論を行なっていると考える事ができる。神経応答活動のベイズ的な見方によれば、脳内に刺激を推定する復号器の存在を陽に仮定する必要はなくなり、復号器の役割は自発活動から刺激応答活動への変化に内包される。   


 生成モデルに基づく符号化研究は、正則化を課した画像の再構成という視覚野の計算論に関わる研究をその祖として古くから行われ、マルコフ確率場を用いたGeman & Gemanらによる画像再構成<ref name=Geman1984><pubmed>22499653</pubmed></ref>[Geman & Geman 1984]や、神経活動の事前分布としてスパース性を導入して自然画像を学習する事で、第一次視覚野の単純細胞の受容野の形成を説明したOlshausen & Fieldらの研究をその端緒として位置づけることができる<ref name= Olshausen1996><pubmed>8637596</pubmed></ref>[Olshausen 1996]。近年は、この生成モデル・ベイズの定理に基づく神経活動のモデリング・解析が盛んに行われている。詳しくは、予測符号化・自由エネルギー原理を参照のこと。
 生成モデルに基づく符号化研究は、正則化を課した画像の再構成という視覚野の計算論に関わる研究をその祖として古くから行われ、マルコフ確率場を用いたGeman & Gemanらによる画像再構成<ref name=Geman1984><pubmed>22499653</pubmed></ref>[Geman & Geman 1984]や、神経活動の事前分布としてスパース性を導入して自然画像を学習する事で、第一次視覚野の単純細胞の受容野の形成を説明したOlshausen & Fieldらの研究をその端緒として位置づけることができる<ref name= Olshausen1996><pubmed>8637596</pubmed></ref>[Olshausen 1996]。近年は、この生成モデル・ベイズの定理に基づく神経活動のモデリング・解析が盛んに行われている。詳しくは、[[予測符号化]]・[[自由エネルギー原理]]を参照のこと。


 なお、本項目では神経符号化を刺激が神経活動に変換される過程としたが、広義にはこの過程には神経活動生成の基盤となるメカニズムの構築、すなわち刺激によるシナプス結合等の脳の構造の変化(学習・記憶)を含む。この場合、符号器として<math>p(\mathbf{x},\mathbf{w}|\mathbf{y})</math>が使用され、生成モデルによるアプローチでは脳の構造も事後分布からのサンプリングとして形成されると考える。
 なお、本項目では神経符号化を刺激が神経活動に変換される過程としたが、広義にはこの過程には神経活動生成の基盤となるメカニズムの構築、すなわち刺激によるシナプス結合等の脳の構造の変化(学習・記憶)を含む([[符号化]]を参照)。この場合、符号器として<math>p(\mathbf{x},\mathbf{w}|\mathbf{y})</math>が使用され、生成モデルによるアプローチでは脳の構造も事後分布からのサンプリングとして形成されると考える。


==集団符号化==
==集団符号化==
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 2014年にMoreno-Boteらは新たな理論を提出した。これによると、彼らが微分相関(differential correlations)と呼ぶ特定の相関がノイズ相関に少しでも存在すると、線形フィッシャー情報量は神経細胞の数が増えても必ず制限されることが示された<ref name=Moreno-Bote2014><pubmed>25195105</pubmed></ref>。それだけでなく、彼らは微分相関が唯一情報量を制限することのできる相関構造であると主張した。その後、微分相関が出現するメカニズムや実験データでの検証が始まった。特に2020年代から、数千の神経細胞から同時に記録を取ることができるようになり、実際に複数の脳領域で、情報量が制限されている様子を観測で確かめることができるようになってきた<ref name=Rumyantsev2020><pubmed>32238928</pubmed></ref><ref name=Bartolo2020><pubmed>31941667</pubmed></ref><ref name=Kafashan2021><pubmed>33473113</pubmed></ref>[Rumyantsev2020; Bartolo 2020; Kafashan 2021]。これらのデータ解析を通して、冗長符号化の実態が明らかになりつつある。
 2014年にMoreno-Boteらは新たな理論を提出した。これによると、彼らが微分相関(differential correlations)と呼ぶ特定の相関がノイズ相関に少しでも存在すると、線形フィッシャー情報量は神経細胞の数が増えても必ず制限されることが示された<ref name=Moreno-Bote2014><pubmed>25195105</pubmed></ref>。それだけでなく、彼らは微分相関が唯一情報量を制限することのできる相関構造であると主張した。その後、微分相関が出現するメカニズムや実験データでの検証が始まった。特に2020年代から、数千の神経細胞から同時に記録を取ることができるようになり、実際に複数の脳領域で、情報量が制限されている様子を観測で確かめることができるようになってきた<ref name=Rumyantsev2020><pubmed>32238928</pubmed></ref><ref name=Bartolo2020><pubmed>31941667</pubmed></ref><ref name=Kafashan2021><pubmed>33473113</pubmed></ref>[Rumyantsev2020; Bartolo 2020; Kafashan 2021]。これらのデータ解析を通して、冗長符号化の実態が明らかになりつつある。
== 関連項目 ==
* [[予測符号化]]
* [[自由エネルギー原理]]
* [[符号化]]


==参考文献==
==参考文献==
<references />
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