「内側視索前野」の版間の差分

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 Bromoxyuridine (BrdU) の取り込み実験から、MPOAの主な[[ニューロン]]はラットでは胎生14-18日に第三脳室壁から発生する (Orikasa et al., 2010)。3[[脳胞]]のうち[[前脳]] (forebrain)の尾側端に由来するので、発生学的には[[終脳]] (telencephalon)に属するが、機能的観点から、[[間脳]] (diencephalon) の最吻側部である視床下部と一体とされることがある (Le Gros Clark & Meyer, 1950)。かつては[[脳原基]]の部域化に関わる多くの[[転写因子]]やシグナル分子に[[視床下部]]と共通するものがあり、たとえばDlx5、 Pax6、Nkx2.1aの発現パターンから終脳と間脳の分節境界域 prosomeric boundaryを決定することはできないと論じられた (Puelles and Rubenstein, 2003)。一方、下郡らは異なった発生段階のマウス胎仔のMPOAと視床下部のマイクロアレイ解析からマウス胎児の終脳ではFoxg1が、間脳吻側端にはGdf10が発現し境界が存在することを示した (Blackshaw et al., 2010)。MPOAは終脳のFoxg1陽性細胞に由来し、間脳由来の視床下部とは起源が異なる。また、視床下部のランドマーク遺伝子であるソニックヘッジホッグ (Shh)のノックアウトマウスでは視床下部吻側部が欠損するが、MPOAは形成される。<BR>
 Bromoxyuridine (BrdU) の取り込み実験から、MPOAの主な[[ニューロン]]はラットでは胎生14-18日に第三脳室壁から発生する (Orikasa et al., 2010)。3[[脳胞]]のうち[[前脳]] (forebrain)の尾側端に由来するので、発生学的には[[終脳]] (telencephalon)に属するが、機能的観点から、[[間脳]] (diencephalon) の最吻側部である視床下部と一体とされることがある (Le Gros Clark & Meyer, 1950)。かつては[[脳原基]]の部域化に関わる多くの[[転写因子]]やシグナル分子に[[視床下部]]と共通するものがあり、たとえばDlx5、 Pax6、Nkx2.1aの発現パターンから終脳と間脳の分節境界域 prosomeric boundaryを決定することはできないと論じられた (Puelles and Rubenstein, 2003)。一方、下郡らは異なった発生段階のマウス胎仔のMPOAと視床下部のマイクロアレイ解析からマウス胎児の終脳ではFoxg1が、間脳吻側端にはGdf10が発現し境界が存在することを示した (Blackshaw et al., 2010)。MPOAは終脳のFoxg1陽性細胞に由来し、間脳由来の視床下部とは起源が異なる。また、視床下部のランドマーク遺伝子であるソニックヘッジホッグ (Shh)のノックアウトマウスでは視床下部吻側部が欠損するが、MPOAは形成される。<BR>
 第三脳室壁から発生するニューロンに加え、[[wikipedia:ja:齧歯類|齧歯類]]では[[性腺刺激ホルモン放出ホルモン]](gonadotropin releasing hormone, GnRH)産生ニューロンが嗅上皮の原基である内側嗅板medial olfactory placodeに発生し視索前野に移動し定着する (Schwanzel-Fukuda & Pfaff, 1989)。Xp22.3上の[[KAL-1]]遺伝子の異常により生じるヒトのKallmann症候群は[[無嗅覚症]]を伴う伴性低ゴナドトロピン性[[性腺機能不全]]で、GnRHニューロンは前頭の篩骨を透過できずこの移動が起こらない。ただし、正常なrhesusやヒトのではGnRHニューロンはさらに尾側に移動を続け、視床下部内側底部から隆起漏斗部に定着する。この移動・定着の障害が視床下部性性腺機能低下症の一つであるKallman症候の病因である (Schwanzel-Fukuda et al., 1989) <a href= "#病態" > (下記病態参照)。<BR>
 第三脳室壁から発生するニューロンに加え、[[wikipedia:ja:齧歯類|齧歯類]]では[[性腺刺激ホルモン放出ホルモン]](gonadotropin releasing hormone, GnRH)産生ニューロンが嗅上皮の原基である内側嗅板medial olfactory placodeに発生し視索前野に移動し定着する (Schwanzel-Fukuda & Pfaff, 1989)。Xp22.3上の[[KAL-1]]遺伝子の異常により生じるヒトのKallmann症候群は[[無嗅覚症]]を伴う伴性低ゴナドトロピン性[[性腺機能不全]]で、GnRHニューロンは前頭の篩骨を透過できずこの移動が起こらない。ただし、正常なrhesusやヒトのではGnRHニューロンはさらに尾側に移動を続け、視床下部内側底部から隆起漏斗部に定着する。この移動・定着の障害が視床下部性性腺機能低下症の一つであるKallman症候の病因である (Schwanzel-Fukuda et al., 1989)(下記病態を参照)。<BR>


<BR>== 構造 ==<BR>
<BR>== 構造 ==<BR>
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<BR>発情期の雌ラットは運動量が増す。エストロゲン結晶の局所投与により輪回し行動の増加が見られることから、この効果はMPOAを介している(Takeo & Sakuma, 1995; Fahrbach et al., 1985) 。歩行の開始とステッピング(リズム取り)は中脳楔状核と脚橋被蓋核吻側に同定されている中脳歩行領域により制御されており (Shik et al., 1966)、森ら(Mori et al., 1992)は視索前野から中脳歩行領域に至る下行性の歩行調節軸の存在を示した。視索前野へのグルタミン酸やピクロトキシンの注入により麻酔下のラットに歩行運動を起こすことができる (Sinnamon, 1987)。Sinnamonの名付けた「視索前野の歩行領域 (Sinnamon, 1992)」の電気刺激により、麻酔下のラットが微弱な電流で歩行を開始し、電流強度の増加に伴うステッピング頻度の上昇が起こる。一方、MPOA最内側の室傍領域へのカルバコール注入など、アセチルコリン受容体の刺激は歩行運動抑制する (Brudzynski & Mogenson, 1986)。武尾らはラット外側視索前野内側部とMPOAのそれぞれから中脳歩行領域への投射を示し、前者がエストロゲンにより興奮性を増すのに対し、後者は抑制されることを見ている (Takeo & Sakuma, 1995)。
<BR>発情期の雌ラットは運動量が増す。エストロゲン結晶の局所投与により輪回し行動の増加が見られることから、この効果はMPOAを介している(Takeo & Sakuma, 1995; Fahrbach et al., 1985) 。歩行の開始とステッピング(リズム取り)は中脳楔状核と脚橋被蓋核吻側に同定されている中脳歩行領域により制御されており (Shik et al., 1966)、森ら(Mori et al., 1992)は視索前野から中脳歩行領域に至る下行性の歩行調節軸の存在を示した。視索前野へのグルタミン酸やピクロトキシンの注入により麻酔下のラットに歩行運動を起こすことができる (Sinnamon, 1987)。Sinnamonの名付けた「視索前野の歩行領域 (Sinnamon, 1992)」の電気刺激により、麻酔下のラットが微弱な電流で歩行を開始し、電流強度の増加に伴うステッピング頻度の上昇が起こる。一方、MPOA最内側の室傍領域へのカルバコール注入など、アセチルコリン受容体の刺激は歩行運動抑制する (Brudzynski & Mogenson, 1986)。武尾らはラット外側視索前野内側部とMPOAのそれぞれから中脳歩行領域への投射を示し、前者がエストロゲンにより興奮性を増すのに対し、後者は抑制されることを見ている (Takeo & Sakuma, 1995)。
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<BR><h1 id="病態">==病態==(ヒト病態については緒方勤 & 田中敏章, 2006に詳しい)
<BR>==病態==(ヒト病態については緒方勤 & 田中敏章, 2006に詳しい)
<BR>何れも低ゴナドトロピン性性腺機能不全症 (Hypogonadotropic hypogonadism または hypothalamic hypogonadism)を示す:<BR>
<BR>何れも低ゴナドトロピン性性腺機能不全症 (Hypogonadotropic hypogonadism または hypothalamic hypogonadism)を示す:<BR>
<BR>1) Frőhlich症候群 (Frőhlich, 1901; Bruch, 1939の英訳あり) :発症に間脳下垂体系の障害が関わることが示された最初の疾患である。腫瘍や結核性髄膜炎、外傷などによる間脳底部の破壊により飽食感覚が低下して肥胖が起こり,視索前野から視床下部の機能障害によるGnRH分泌の低下により性腺機能が低下する。<BR>
<BR>1) Frőhlich症候群 (Frőhlich, 1901; Bruch, 1939の英訳あり) :発症に間脳下垂体系の障害が関わることが示された最初の疾患である。腫瘍や結核性髄膜炎、外傷などによる間脳底部の破壊により飽食感覚が低下して肥胖が起こり,視索前野から視床下部の機能障害によるGnRH分泌の低下により性腺機能が低下する。<BR>