「空間知覚」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/viola_body 村田 哲]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/viola_body 村田 哲]</font><br>
''近畿大学医学部生理学''<br>
''近畿大学医学部生理学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年7月23日 原稿完成日:2014年5月29日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年7月23日 原稿完成日:2014年5月29日 一部改訂:2021年9月22日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/atsushiiriki 入來 篤史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/atsushiiriki 入來 篤史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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英語名:spatial [[perception]], spatial recognition, spatial representation
英語名:spatial perception, spatial recognition, spatial representation


{{box|text= 空間知覚は、生体が視覚、聴覚、前庭覚、体性感覚、化学感覚(嗅覚)などほぼすべての感覚を動員して統合し、3次元的な外界空間を脳内で表現する過程である。脳内では、空間情報は主に頭頂葉に向かう背側視覚経路で処理され、奥行き、位置、大きさ、傾き、構造、動きなどの要素が処理される。複数の脳領域で、網膜、眼球位置、頭部、身体軸、外部物体、外部環境などのいずれかに原点をもつ複数の空間座標系が並列処理されている。単一の空間のコピーが、単一の領域で表現されるわけではない。また、多種感覚が統合される場合もある。再現された空間は、眼球、四肢運動、体幹などの身体運動の制御や、空間記憶・注意に使われる。運動時の自らの運動の情報(遠心性コピー・随伴発射)を使い、より精緻な空間知覚を可能にする。また、運動によって変化する空間も、遠心性コピー・随伴発射を使って不必要な感覚情報を遮断し、安定した空間として知覚できる。}}
{{box|text= 空間知覚は、生体が視覚、聴覚、前庭覚、体性感覚、化学感覚(嗅覚)などほぼすべての感覚を動員して統合し、3次元的な外界空間を脳内で表現する過程である。脳内では、空間情報は主に頭頂葉に向かう背側視覚経路で処理され、奥行き、位置、大きさ、傾き、構造、動きなどの要素が処理される。複数の脳領域で、網膜、眼球位置、頭部、身体軸、外部物体、外部環境などのいずれかに原点をもつ複数の空間座標系が並列処理されている。単一の空間のコピーが、単一の領域で表現されるわけではない。また、多種感覚が統合される場合もある。再現された空間は、眼球、四肢運動、体幹などの身体運動の制御や、空間記憶・注意に使われる。運動時の自らの運動の情報(遠心性コピー・随伴発射)を使い、より精緻な空間知覚を可能にする。また、運動によって変化する空間も、遠心性コピー・随伴発射を使って不必要な感覚情報を遮断し、安定した空間として知覚できる。}}
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 運動視に関する心理物理的手がかりとして、静止した視覚刺激を場所と時間をずらして提示する時に起こる[[仮現運動]]、背景の動きによって物体が動いて見える[[誘導運動]]がある。また、奥行きの動きには、両眼視差の変化と大きさの変化が手がかりとなる。網膜上での視覚像の流れは、[[オプティックフロー]](optic flow)と呼ばれるが、オプティックフローが視野内で大きな範囲を占め、ある一定の法則を満たしていると、観察者自身の動きとして感じるが、これも誘導運動の一つである。また、対象の動きや観察者の動きによって物体の3次元的構造(structure form motion)や前後の遠近の知覚([[運動視差]])をすることもできる。こうした運動視には、MT/MSTと呼ばれる[[上側頭溝]]内に存在する領域が関わっていて<ref name=ref21><pubmed>6864242</pubmed></ref>、動きの方向と速度に関する選択性あるいは、誘導運動、視差などに選択性を持つニューロン活動が知られている。また、奥行きの運動には、下頭頂小葉(頭頂間溝の外側壁やその外側の[[PFG]]・[[PG]])や[[VIP]]、[[F4]]などでも記録されている<ref name=ref22><pubmed>9246729</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>8836215</pubmed></ref>。
 運動視に関する心理物理的手がかりとして、静止した視覚刺激を場所と時間をずらして提示する時に起こる[[仮現運動]]、背景の動きによって物体が動いて見える[[誘導運動]]がある。また、奥行きの動きには、両眼視差の変化と大きさの変化が手がかりとなる。網膜上での視覚像の流れは、[[オプティックフロー]](optic flow)と呼ばれるが、オプティックフローが視野内で大きな範囲を占め、ある一定の法則を満たしていると、観察者自身の動きとして感じるが、これも誘導運動の一つである。また、対象の動きや観察者の動きによって物体の3次元的構造(structure form motion)や前後の遠近の知覚([[運動視差]])をすることもできる。こうした運動視には、MT/MSTと呼ばれる[[上側頭溝]]内に存在する領域が関わっていて<ref name=ref21><pubmed>6864242</pubmed></ref>、動きの方向と速度に関する選択性あるいは、誘導運動、視差などに選択性を持つニューロン活動が知られている。また、奥行きの運動には、下頭頂小葉(頭頂間溝の外側壁やその外側の[[PFG]]・[[PG]])や[[VIP]]、[[F4]]などでも記録されている<ref name=ref22><pubmed>9246729</pubmed></ref> <ref name=ref23><pubmed>8836215</pubmed></ref>。


 一方で、動くことによる感覚情報の変化に対して、より安定した外部空間を脳内に表現するために、脳は自らの運動の指令のコピー([[遠心性コピー]]・[[随伴発射]])を使って、感覚情報に調整を加える<ref name=ref1 />。例えば、眼球がサッケードをおこしたときには、網膜上の像は大きく揺れることになるが、脳内ではその視覚入力に対し眼球運動のための運動司令を使って、視覚入力に影響を及ぼす。
 一方で、動くことによる感覚情報の変化に対して、より安定した外部空間を脳内に表現するために、脳は自らの運動の指令のコピー([[遠心性コピー]]・[[随伴発射]])を使って、感覚情報に調整を加える<ref name=ref1 /><pubmed>18558858</pubmed></ref>。例えば、眼球がサッケードをおこしたときには、網膜上の像は大きく揺れることになるが、脳内ではその視覚入力に対し眼球運動のための運動司令を使って、視覚入力に影響を及ぼす。


===身体周辺空間===
===身体周辺空間===