「ステロイド」の版間の差分

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== ステロイドホルモン  ==
== ステロイドホルモン  ==
 ステロイド核をもつホルモンをステロイドホルモンと呼ぶ。[[wikipedia:ja:副腎|副腎]]、[[wikipedia:ja:精巣|精巣]]、[[wikipedia:ja:卵巣|卵巣]]等の[[wikipedia:ja:内分泌|内分泌]]器官より分泌される。特に脳で合成されるステロイドはニューロステロイドと呼ばれる。ステロイドホルモンの特徴は、脂溶性かつ分子量が低いために[[wikipedia:ja:細胞膜|細胞膜]]や[[脳血液関門]]を容易に通過できること、また細胞質に存在する[[wikipedia:ja:ステロイドホルモン受容体|ステロイドホルモン受容体]]に結合し、核内にて標的遺伝子の[[wikipedia:ja:転写|転写]]活性を調節することである。近年、このような核受容体による遺伝子発現を介したステロイドホルモンのゲノミック作用に加え、膜受容体を介した遺伝子発現を伴わないノンゲノミック作用が注目されている<ref><pubmed>21357682</pubmed></ref>。  
 ステロイド核をもつホルモンをステロイドホルモンと呼ぶ。[[wikipedia:ja:副腎|副腎]]、[[wikipedia:ja:精巣|精巣]]、[[wikipedia:ja:卵巣|卵巣]]等の[[wikipedia:ja:内分泌|内分泌]]器官より分泌される。特に脳で合成されるステロイドはニューロステロイドと呼ばれる。ステロイドホルモンの特徴は、脂溶性かつ分子量が低いために[[wikipedia:ja:細胞膜|細胞膜]]や[[脳血液関門]]を容易に通過できること、また細胞質に存在する[[wikipedia:ja:ステロイドホルモン受容体|ステロイドホルモン受容体]]に結合し、核内にて標的遺伝子の[[wikipedia:ja:転写|転写]]活性を調節することである。近年、このような核受容体による遺伝子発現を介したステロイドホルモンのゲノミック作用に加え、膜受容体を介した遺伝子発現を伴わないノンゲノミック作用が注目されている<ref><pubmed>21357682</pubmed></ref>。  
=== 生合成  ===
 全てのステロイドホルモンはコレステロールより合成される(図2)<ref name="takemori" />。炭素数27のコレステロールは、コレステロール側鎖切断酵素(P450 scc)の作用により、側鎖(炭素数6)が切断されてプレグネノロン(炭素数21)となる。この過程はすべてのステロイドホルモン分泌器官で共通したプロセスである。最終的に、副腎では炭素数は21の[[糖質コルチコイド]]と[[鉱質コルチコイド]]が、また精巣では炭素数がさらに2個減少した[[アンドロゲン]](炭素数19)が、卵巣では炭素数が1個減少した[[エストロゲン]](炭素数18)が生成される。表に挙げるものがステロイドホルモン合成酵素であり、これらのうち、3β-HSDと17β-HSD以外はシトクロムP450である。どの酵素も[[小胞体]]膜か[[ミトコンドリア]]内膜のどちらかに局在する。


{| alignment=left border="1" cellpadding="1" cellspacing="1"
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|+ 表 ステロイドホルモン合成に関わる酵素
|+ '''表 ステロイドホルモン合成に関わる酵素'''
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| '''酵素名'''
| '''酵素名'''
| '''略称'''
| '''略称'''
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| コレステロール側鎖切断酵素(cholesterole side chain cleavage)
| [[wikipedia:ja:コレステロールモノオキシゲナーゼ (側鎖開裂)| コレステロール側鎖切断酵素]](cholesterole side chain cleavage)
| P450 scc
| P450 scc
|-
|-
| 3β-ヒドキシステロイド脱水素酵素・異性化酵素 (3β-hydroxysteroid dehydrogenase)
| [[wikipedia:ja:3β-ヒドロキシ-Δ5-ステロイドデヒドロゲナーゼ|3β-ヒドキシステロイド脱水素酵素・異性化酵素]] (3β-hydroxysteroid dehydrogenase)
| 3β-HSD
| 3β-HSD
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| 17α-水酸化・開裂酵素 (17 α-hydoroxylase/17, 20 lyase)  
| [[wikipedia:CYP17A1|17α-水酸化・開裂酵素]] (17 α-hydoroxylase/17, 20 lyase)  
| P450c17
| P450c17
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|-
| 21‐水酸化酵素 (C21-hydroxylase)
| [[wikipedia:ja:ステロイド-21-モノオキシゲナーゼ|21‐水酸化酵素]] (C21-hydroxylase)
| P450c21
| P450c21
|-
|-
| 11β-水酸化酵素 (11β-hydroxylase)
| [[wikipedia:Steroid 11-beta-hydroxylase|11β-水酸化酵素]] (11β-hydroxylase)
| P450c11
| P450c11
|-
|-
| アルドステロン合成酵素または18-水酸化酵素 (18-hydroxylase)  
| [[wikipedia:Aldosterone synthase|アルドステロン合成酵素]]または18-水酸化酵素 (aldosterone synthase or 18-hydroxylase)  
| P450c18
| P450c18
|-
|-
| アロマターゼ (aromatase)
| [[wikipedia:Aromatase|アロマターゼ]] (aromatase)
| P450arom
| P450arom
|-
|-
| 17β-ヒドキシステロイド脱水素酵素
|  [[wikipedia:ja:3(or17)β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ|17β-ヒドキシステロイド脱水素酵素]]
| 17β-HSD
| 17β-HSD
|}
|}
=== 生合成  ===
 全てのステロイドホルモンはコレステロールより合成される(図2)<ref name="takemori" />。炭素数27のコレステロールは、コレステロール側鎖切断酵素(P450 scc)の作用により、側鎖(炭素数6)が切断されてプレグネノロン(炭素数21)となる。この過程はすべてのステロイドホルモン分泌器官で共通したプロセスである。最終的に、副腎では炭素数は21の[[糖質コルチコイド]]と[[鉱質コルチコイド]]が、また精巣では炭素数がさらに2個減少した[[アンドロゲン]](炭素数19)が、卵巣では炭素数が1個減少した[[エストロゲン]](炭素数18)が生成される。 以下に挙げるものがステロイドホルモン合成酵素であり、これらのうち、3β-HSDと17β-HSD以外はシトクロムP450である。どの酵素も小胞体膜かミトコンドリア内膜のどちらかに局在する。


===種類と作用===
===種類と作用===
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 脳で合成されるステロイドをニューロステロイドと呼ぶ。ニューロステロイドの研究は、フランスの内分泌学者Baulieuが1981年にラットの脳にプレグネノロンと[[デヒドロエピアンドロステロン]](DHEA)を見出したことより始まり、現在では、[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]のほとんどがニューロステロイドを合成していることが知られる<ref><pubmed>19505496 </pubmed></ref>。
 脳で合成されるステロイドをニューロステロイドと呼ぶ。ニューロステロイドの研究は、フランスの内分泌学者Baulieuが1981年にラットの脳にプレグネノロンと[[デヒドロエピアンドロステロン]](DHEA)を見出したことより始まり、現在では、[[wikipedia:ja:脊椎動物|脊椎動物]]のほとんどがニューロステロイドを合成していることが知られる<ref><pubmed>19505496 </pubmed></ref>。


 ニューロステロイドは、[[ニューロン]]、[[アストロサイト]]、[[オリゴデンドロサイト]]のすべての細胞種で合成されるが、発現するステロイド合成酵素の種類は細胞間で違いが見られる<ref><pubmed>10433246</pubmed></ref>。アストロサイトでは、[[wikipedia:ja:コレステロールモノオキシゲナーゼ (側鎖開裂)|P450scc]], [[wikipedia:CYP17A1|P450c17]], [[wikipedia:ja:3β-ヒドロキシ-Δ5-ステロイドデヒドロゲナーゼ|3βHSD]]3βHSD, [[wikipedia:ja:3(or17)β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ|17βHSD]], [[wikipedia:Aromatase|P450arom]]を発現し、プレグネノロン、プロゲステロン、デヒドロエピアンドロステンジオン、アンドロゲン、エストロゲンを合成している。ニューロンもほぼアストロサイトと同様の合成酵素発現を示すが、17βHSDを持たずテストステロン合成を行わない点でアストロサイトと異なる。オリゴデンドロサイトはP450sccと3βHSDを発現し、プレグネノロンとプロゲステロンを合成する。
 ニューロステロイドは、[[ニューロン]]、[[アストロサイト]]、[[オリゴデンドロサイト]]のすべての細胞種で合成されるが、発現するステロイド合成酵素の種類は細胞間で違いが見られる<ref><pubmed>10433246</pubmed></ref>。アストロサイトでは、P450scc, P450c17, 3βHSD, 17βHSD, P450aromを発現し、プレグネノロン、プロゲステロン、デヒドロエピアンドロステンジオン、アンドロゲン、エストロゲンを合成している。ニューロンもほぼアストロサイトと同様の合成酵素発現を示すが、17βHSDを持たずテストステロン合成を行わない点でアストロサイトと異なる。オリゴデンドロサイトはP450sccと3βHSDを発現し、プレグネノロンとプロゲステロンを合成する。


 小脳プルキンエ細胞は、P450sccや3βHSD、[[wikipedia:ja:Steroid sulfotransferase|ステロイド硫酸基転移酵素]](HST)を発現しており、プレグネノロン、プレグネノロン硫酸エステル、プロゲステロン、[[プロゲステロン代謝ステロイド]](3α,5α-テトラハイドロプロゲステロン)を合成する<ref><pubmed> 10771104</pubmed></ref><ref><pubmed> 10373637</pubmed></ref>。 プロゲステロンは、新生児期の小脳において合成が活発となり、[[プルキンエ細胞]]の[[樹状突起]]伸長や[[スパイン]]形成を促進する<ref><pubmed>11487645</pubmed></ref> <ref><pubmed>11958856</pubmed></ref>。またプレグネノロン硫酸エステルは傍分泌により、プルキンエ細胞に投射する[[GABA]]ニューロンに作用し、GABAの[[放出頻度]]を増加させることが報告されている<ref><pubmed>10373637</pubmed></ref>。
 小脳プルキンエ細胞は、P450sccや3βHSD、[[wikipedia:ja:Steroid sulfotransferase|ステロイド硫酸基転移酵素]](HST)を発現しており、プレグネノロン、プレグネノロン硫酸エステル、プロゲステロン、[[プロゲステロン代謝ステロイド]](3α,5α-テトラハイドロプロゲステロン)を合成する<ref><pubmed> 10771104</pubmed></ref><ref><pubmed> 10373637</pubmed></ref>。 プロゲステロンは、新生児期の小脳において合成が活発となり、[[プルキンエ細胞]]の[[樹状突起]]伸長や[[スパイン]]形成を促進する<ref><pubmed>11487645</pubmed></ref> <ref><pubmed>11958856</pubmed></ref>。またプレグネノロン硫酸エステルは傍分泌により、プルキンエ細胞に投射する[[GABA]]ニューロンに作用し、GABAの[[放出頻度]]を増加させることが報告されている<ref><pubmed>10373637</pubmed></ref>。