「Dbxファミリー」の版間の差分

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 [[ショウジョウバエ]]においては、Dbx1/2のオルソログである[[Dbx]]が見つかっており、介在ニューロンへの細胞分化や細胞運命決定に関わることが報告されている<ref name=Lacin2009><pubmed>19710170</pubmed></ref>。
 [[ショウジョウバエ]]においては、Dbx1/2のオルソログである[[Dbx]]が見つかっており、介在ニューロンへの細胞分化や細胞運命決定に関わることが報告されている<ref name=Lacin2009><pubmed>19710170</pubmed></ref>。
 
== サブファミリー ==
 哺乳類では、Dbx1, Dbx2が存在し、細胞分化や細胞運命決定に関わる。ショウジョウバエにおいては、Dbx1/2のオルソログであるDbxが見つかっている<ref name=Lacin2009><pubmed>19710170</pubmed></ref>。その他、[[アフリカツメガエル]]<ref name=Gershon2000><pubmed>10851138</pubmed></ref><ref name=Ma2011><pubmed>21806971</pubmed></ref>、[[ゼブラフィッシュ]]<ref name=Gribble2007><pubmed>17994542</pubmed></ref><ref name=Hjorth2002><pubmed>12141447</pubmed></ref>のDbxファミリーが報告されている。
[[ファイル:Esumi Dbx family fig.png|サムネイル|'''図. Dblファミリーの遺伝子とタンパク質の構造'''<br>HD: Homeoboxドメイン<br>
RD: Groucho/Tleファミリー依存的Engrailed阻害ドメイン<br>
Cter: 酸性アミノ酸のクラスター<br>
文献<ref name=Karaz2016><pubmed>27525057</pubmed></ref>より。]]
== 構造 ==
== 構造 ==
 Dbxファミリーは、[[ホメオボックスドメイン]]に加え、Groucho/Tleファミリー依存的Engrailed阻害ドメイン(RD, Drosophila Groucho /Mammalian TLE family dependent Engrailed Repressor Domain)をDbx1は2箇所(RD1,RD2)、Dbx2は1箇所(RD1)持つ。Dbx1はさらにC末端に酸性アミノ酸のクラスター(Cter)を持つ<ref name=Karaz2016><pubmed>27525057</pubmed></ref>('''図1''')。CterドメインはDbx1が[[Evx1]]/[[Evx2|2]]を制御するのに必要であり、Dbx遺伝子を持つ種間では進化的に保存されている<ref name=Karaz2016><pubmed>27525057</pubmed></ref>。
 Dbxファミリーは、[[ホメオボックスドメイン]]に加え、Groucho/Tleファミリー依存的Engrailed阻害ドメイン(RD, Drosophila Groucho /Mammalian TLE family dependent Engrailed Repressor Domain)をDbx1は2箇所(RD1,RD2)、Dbx2は1箇所(RD1)持つ。Dbx1はさらにC末端に酸性アミノ酸のクラスター(Cter)を持つ<ref name=Karaz2016><pubmed>27525057</pubmed></ref>('''図1''')。CterドメインはDbx1が[[Evx1]]/[[Evx2|2]]を制御するのに必要であり、Dbx遺伝子を持つ種間では進化的に保存されている<ref name=Karaz2016><pubmed>27525057</pubmed></ref>。
== サブファミリー ==
 哺乳類では、Dbx1, Dbx2が存在し、細胞分化や細胞運命決定に関わる。ショウジョウバエにおいては、Dbx1/2のオルソログであるDbxが見つかっている<ref name=Lacin2009><pubmed>19710170</pubmed></ref>。その他、[[アフリカツメガエル]]<ref name=Gershon2000><pubmed>10851138</pubmed></ref><ref name=Ma2011><pubmed>21806971</pubmed></ref>、[[ゼブラフィッシュ]]<ref name=Gribble2007><pubmed>17994542</pubmed></ref><ref name=Hjorth2002><pubmed>12141447</pubmed></ref>のDbxファミリーが報告されている。


== 発現 ==
== 発現 ==
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=== Dbx1 ===
=== Dbx1 ===
==== 脊髄発生 ====
==== 脊髄 ====
 Dbx1と[[Nkx6-2]], Dbx2と[[Nkx6-1]]はそれぞれ排他的に発現している。Nkx6-1とNkx6-2はいずれもホメオドメイン型[[転写因子]]で脊髄発生においてはShhで誘導される<ref name=Dessaud2010><pubmed>20532235</pubmed></ref><ref name=Lu2015><pubmed>26136656</pubmed></ref>。
 Dbx1と[[Nkx6-2]], Dbx2と[[Nkx6-1]]はそれぞれ排他的に発現している。Nkx6-1とNkx6-2はいずれもホメオドメイン型[[転写因子]]で脊髄発生においてはShhで誘導される<ref name=Dessaud2010><pubmed>20532235</pubmed></ref><ref name=Lu2015><pubmed>26136656</pubmed></ref>。


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 歩行機能は[[中枢パターン生成器]] ([[central pattern generator]], CPG)は後肢の筋肉に投射する興奮性[[運動ニューロン]]とDbx1が発生に関わる抑制性ニューロン(介在ニューロン)で構成されている。急性単離した胎生18.5日齢のDbx1ノックアウトマウスの脊髄を用いた解析では、脊髄のCPGにおいて交互発火 (co-burst)が起きない。この結果は左右のCPGにおける屈曲進展運動を制御する介在ニューロンはDbx1依存的に発生することを示唆する <ref name=Lanuza2004><pubmed>15134635</pubmed></ref>。
 歩行機能は[[中枢パターン生成器]] ([[central pattern generator]], CPG)は後肢の筋肉に投射する興奮性[[運動ニューロン]]とDbx1が発生に関わる抑制性ニューロン(介在ニューロン)で構成されている。急性単離した胎生18.5日齢のDbx1ノックアウトマウスの脊髄を用いた解析では、脊髄のCPGにおいて交互発火 (co-burst)が起きない。この結果は左右のCPGにおける屈曲進展運動を制御する介在ニューロンはDbx1依存的に発生することを示唆する <ref name=Lanuza2004><pubmed>15134635</pubmed></ref>。


==== 中脳呼吸中枢発生 ====
==== 中脳呼吸中枢 ====
 [[呼吸中枢]]は、[[延髄]]腹側部に両側に存在する[[pre-Bötzinger複合体]] ([[pre-Bötzinger complex]], preBotC)と呼ばれる領域に存在し、呼吸リズム形成に重要である。また、脊髄V0やV1領域の介在ニューロンはリズミカルな呼吸運動に必須である。Dbx1ノックアウトマウスは生後すぐに死亡するが、これはV0やV1領域の介在ニューロンの発生異常を原因とする運動活動の低下と、呼吸中枢の発生異常による呼吸不全のためである。このマウスでは呼吸活動の消失が認められる<ref name=Gray2010><pubmed>21048147</pubmed></ref><ref name=Pierani2001><pubmed>11239429</pubmed></ref>。
 [[呼吸中枢]]は、[[延髄]]腹側部に両側に存在する[[pre-Bötzinger複合体]] ([[pre-Bötzinger complex]], preBotC)と呼ばれる領域に存在し、呼吸リズム形成に重要である。また、脊髄V0やV1領域の介在ニューロンはリズミカルな呼吸運動に必須である。Dbx1ノックアウトマウスは生後すぐに死亡するが、これはV0やV1領域の介在ニューロンの発生異常を原因とする運動活動の低下と、呼吸中枢の発生異常による呼吸不全のためである。このマウスでは呼吸活動の消失が認められる<ref name=Gray2010><pubmed>21048147</pubmed></ref><ref name=Pierani2001><pubmed>11239429</pubmed></ref>。


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 近年、pre-Bötzinger複合体領域と大脳皮質の高次機能との関連について報告されている。この領域を構成する[[カドヘリン9]] ([[Cdh9]])+, Dbx1系譜神経細胞  (吸気の前に強く興奮する)をDbx1-Cre; Cdh9-floxed-DTRマウスを使い除去すると、通常の呼吸は正常に維持されるが、ゆっくりとしたリズムの呼吸が増加した。また、個体レベルではcalm behavior が増え、覚醒している時間が短くなった。この結果から、Cdh9+; Dbx1系譜神経細胞は[[青斑核]]に直接投射し[[ノルアドレナリン]]ニューロンを活性化することで、呼吸のリズムを制御していることが明らかになった<ref name=Yackle2017><pubmed>28360327</pubmed></ref>。
 近年、pre-Bötzinger複合体領域と大脳皮質の高次機能との関連について報告されている。この領域を構成する[[カドヘリン9]] ([[Cdh9]])+, Dbx1系譜神経細胞  (吸気の前に強く興奮する)をDbx1-Cre; Cdh9-floxed-DTRマウスを使い除去すると、通常の呼吸は正常に維持されるが、ゆっくりとしたリズムの呼吸が増加した。また、個体レベルではcalm behavior が増え、覚醒している時間が短くなった。この結果から、Cdh9+; Dbx1系譜神経細胞は[[青斑核]]に直接投射し[[ノルアドレナリン]]ニューロンを活性化することで、呼吸のリズムを制御していることが明らかになった<ref name=Yackle2017><pubmed>28360327</pubmed></ref>。


==== 中脳交連線維の発生 ====
==== 中脳交連線維の ====
 Dbx1は、中脳背側から正中交差して左右の脳を繋ぐ[[交連ニューロン]]の運命決定に関与する。また、その[[軸索ガイダンス]]においては、Dbx1の活性化によってRobo3が働くことが正中交差において重要な働きを示すことが報告されている<ref name=Inamata2014><pubmed>24553291</pubmed></ref>。
 Dbx1は、中脳背側から正中交差して左右の脳を繋ぐ[[交連ニューロン]]の運命決定に関与する。また、その[[軸索ガイダンス]]においては、Dbx1の活性化によってRobo3が働くことが正中交差において重要な働きを示すことが報告されている<ref name=Inamata2014><pubmed>24553291</pubmed></ref>。


==== 大脳皮質発生 ====
==== 大脳皮質 ====
 ヒトを含む哺乳類および胎児の大脳皮質[[辺縁層]](いわゆる表層)にあたる[[プレプレート]]([[preplate]])には、[[リーリン]]タンパク質([[reelin]])を分泌し、大脳皮質の神経細胞の移動と層構造の形成に重要な役割を果たすカハールレチウス細胞が存在する。プレプレートは、神経細胞が移動して来た後に、カハールレチウス細胞を含み大脳皮質第I層となる辺縁層(marginal zone)と[[サブプレート]]に分かれる。カハールレチウス細胞は興奮性であり、胎生期に一過的に出現し、層構造形成に重要な働きを行う。生後の大脳皮質においては、[[細胞死]]によって数が著しく減少する<ref name=Teissier2010><pubmed>20685999</pubmed></ref>。生後の大脳皮質に散在するリーリン陽性の抑制性GABAニューロンは尾側[[基底核隆起]] (caudal [[gaglionic eminence]],CGE)を由来としており<ref name=Miyoshi2010><pubmed>20130169</pubmed></ref>、上記のカハールレチウス細胞(興奮性ニューロン)とは異なる。
 ヒトを含む哺乳類および胎児の大脳皮質[[辺縁層]](いわゆる表層)にあたる[[プレプレート]]([[preplate]])には、[[リーリン]]タンパク質([[reelin]])を分泌し、大脳皮質の神経細胞の移動と層構造の形成に重要な役割を果たすカハールレチウス細胞が存在する。プレプレートは、神経細胞が移動して来た後に、カハールレチウス細胞を含み大脳皮質第I層となる辺縁層(marginal zone)と[[サブプレート]]に分かれる。カハールレチウス細胞は興奮性であり、胎生期に一過的に出現し、層構造形成に重要な働きを行う。生後の大脳皮質においては、[[細胞死]]によって数が著しく減少する<ref name=Teissier2010><pubmed>20685999</pubmed></ref>。生後の大脳皮質に散在するリーリン陽性の抑制性GABAニューロンは尾側[[基底核隆起]] (caudal [[gaglionic eminence]],CGE)を由来としており<ref name=Miyoshi2010><pubmed>20130169</pubmed></ref>、上記のカハールレチウス細胞(興奮性ニューロン)とは異なる。


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 ヒト胎生期のDbx1(DBX1)は、外套下部(VP/PSB)に限局して発現しているのではなく、大脳皮質の[[Tbr1]]やPax6陽性の領域にも広がっている。さらにDbx1を発現する細胞は[[脳室下帯]] (subventricular zone, SVZ)の[[Ctip2]]陽性の領域でも認められる。[[霊長類]]のプロモーター領域を持つDbx1トランスジェニックマウスを解析すると、マウスでもヒトやサルなどの霊長類と類似したDbx1の発現を認められた。これは、進化的に獲得された霊長類の特異的なDbx1プロモーター配列(cis-regulatory-elements)が大脳皮質におけるDbx1の発現を誘導したためであると考えられる<ref name=Arai2019><pubmed>31618633</pubmed></ref>。
 ヒト胎生期のDbx1(DBX1)は、外套下部(VP/PSB)に限局して発現しているのではなく、大脳皮質の[[Tbr1]]やPax6陽性の領域にも広がっている。さらにDbx1を発現する細胞は[[脳室下帯]] (subventricular zone, SVZ)の[[Ctip2]]陽性の領域でも認められる。[[霊長類]]のプロモーター領域を持つDbx1トランスジェニックマウスを解析すると、マウスでもヒトやサルなどの霊長類と類似したDbx1の発現を認められた。これは、進化的に獲得された霊長類の特異的なDbx1プロモーター配列(cis-regulatory-elements)が大脳皮質におけるDbx1の発現を誘導したためであると考えられる<ref name=Arai2019><pubmed>31618633</pubmed></ref>。


==== 扁桃体発生 ====
==== 扁桃体 ====
 扁桃体は終脳辺縁系に属する組織であり、側頭葉の内側に位置している。扁桃体は約15の[[神経核]]から成り立つ。それぞれの神経核は形態や機能、発現している分子マーカーなどが異なり、さらに基底核原基や外套下部(VP/PSB)などの異なった領域を由来<ref name=Flames2007><pubmed>17804629</pubmed></ref>とし、複数の種類の神経細胞から構成されている<ref name=Waclaw2010><pubmed>20484636</pubmed></ref>。
 扁桃体は終脳辺縁系に属する組織であり、側頭葉の内側に位置している。扁桃体は約15の[[神経核]]から成り立つ。それぞれの神経核は形態や機能、発現している分子マーカーなどが異なり、さらに基底核原基や外套下部(VP/PSB)などの異なった領域を由来<ref name=Flames2007><pubmed>17804629</pubmed></ref>とし、複数の種類の神経細胞から構成されている<ref name=Waclaw2010><pubmed>20484636</pubmed></ref>。


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==== アストロサイト ====
==== アストロサイト ====
 Dbx2のアストロサイトにおける発現は、生後初期(P4)では低いが、成体マウス(3ヶ月齢)では強いことが[[シングルセルRNAシーケンシング]を用いた研究で報告された<ref name=Guo2022><pubmed>36142685</pubmed></ref><ref name=Lattke2021><pubmed>34267208</pubmed></ref>。この結果はDbx2はアストロサイトの成熟に伴って強く発現する転写因子であることを示唆している。
 Dbx2のアストロサイトにおける発現は、生後初期(P4)では低いが、成体マウス(3ヶ月齢)では強いことが[[シングルセルRNAシーケンシング]]を用いた研究で報告された<ref name=Guo2022><pubmed>36142685</pubmed></ref><ref name=Lattke2021><pubmed>34267208</pubmed></ref>。この結果はDbx2はアストロサイトの成熟に伴って強く発現する転写因子であることを示唆している。


== 関連語 ==
== 関連語 ==
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* [[プレプレート]]
* [[プレプレート]]
* [[ホメオボックス]]
* [[ホメオボックス]]
NIH pubmed gebe dbx1
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/13172


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==