「グリア細胞株由来神経栄養因子」の版間の差分

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== シグナル伝達==
== シグナル伝達==


 細胞膜にGPIアンカーで結合している受容体GDNF family receptor(GFR)α-1が、主なGDNF受容体である。GFRαには4種類が知られており、GDNFは GFRα-2にも結合活性があるようで、基本的にはneurturin等のリガンドと各受容体が1対1で対応しているが、ある程度の交差性がある。GDNFのホモ2量体が結合したGFRα-1はさらに膜貫通型チロシンキナーゼのRETタンパク質と相互作用して、これを活性化する(GFRα-1とRETが先にヘテロ4量体を形成しており、そこにGDNFが結合するという説もある)。活性化されたRETは、受容体チロシンキナーゼに一般的に見られるように、自己リン酸化とそれに続く様々なタンパク質の結合を経てphosphatidylinositol 3-kinase (PI3K)-Akt経路やmitogen-activated protein kinase (MAPK)経路など複数のシグナル伝達経路を活性化する。RET単独では細胞死誘導活性があることから、これらのシグナル伝達経路の活性化がGDNFによるニューロンの生存活性をになっているものと考えられる。一方、RETを介さないGDNF-GFRαシグナルの存在も示唆されている。この場合、Srcファミリーキナーゼやphospholipase Cγの活性化を経て、c-fos遺伝子の転写の活性化やRETを発現していないニューロンの生存を促進するという。
 細胞膜にGPIアンカーで結合している受容体GDNF family receptor α-1([[wikipedia:GDNF_family_receptor_alpha_1|GFRα-1]])が、主なGDNF受容体である。GFRαには4種類が知られており、GDNFは GFRα-2にも結合活性があるようで、基本的には[[wikipedia:neurturin|neurturin]]等のリガンドと各受容体が1対1で対応しているが、ある程度の交差性がある。GDNFのホモ2量体が結合したGFRα-1はさらに膜貫通型チロシンキナーゼのRETタンパク質と相互作用して、これを活性化する(GFRα-1とRETが先にヘテロ4量体を形成しており、そこにGDNFが結合するという説もある)。活性化されたRETは、受容体チロシンキナーゼに一般的に見られるように、自己リン酸化とそれに続く様々なタンパク質の結合を経てphosphatidylinositol 3-kinase (PI3K)-Akt経路やmitogen-activated protein kinase (MAPK)経路など複数のシグナル伝達経路を活性化する。RET単独では細胞死誘導活性があることから、これらのシグナル伝達経路の活性化がGDNFによるニューロンの生存活性をになっているものと考えられる。一方、RETを介さないGDNF-GFRαシグナルの存在も示唆されている。この場合、Srcファミリーキナーゼやphospholipase Cγの活性化を経て、c-fos遺伝子の転写の活性化やRETを発現していないニューロンの生存を促進するという。
 
== 神経発生における機能と活性==


神経発生における機能と活性
(1)細胞死の抑制
(1)細胞死の抑制
 GDNFがもともと培養された中脳腹側のドーパミンニューロンにたいする栄養因子活性物質として同定されたことからもわかるように、GDNF-GFRα-1シグナルは様々なニューロンに対して細胞死を抑制する効果がある。しかし、必ずしもin vitroで栄養因子活性が確認されたニューロンが、GDNF-GFRα-1シグナルやRETのノックアウトマウスで死んでしまうわけではなく、例えば中脳腹側のドーパミンニューロンの生存に異常はみられない。これは、他の栄養因子による代償効果であると考えられ、ドーパミンニューロンの場合にはconserved dopamine neurotrophic factor(CDNF)などの関与が示唆されている。一方、後根神経節(dorsal root ganglion)の一部の侵害受容性感覚ニューロン(nociceptive sensory neuron)や迷走神経節神経節(nodose ganglion)の内蔵感覚ニューロン(visceral sensory neuron)の生存はGDNF-GFRα-1-RETシグナルに依存しており、とりわけ侵害受容性感覚ニューロンは胎生期の神経成長因子(nerve growth factor)依存から出生後にGDNF依存にシフトする事が知られている。感覚ニューロンだけでなく、運動ニューロンの減少も報告されている。GDNFのノックアウトマウスでは三叉神経で20%、脊髄レベルで20〜30%程度の減少が認められる。
 GDNFがもともと培養された中脳腹側のドーパミンニューロンにたいする栄養因子活性物質として同定されたことからもわかるように、GDNF-GFRα-1シグナルは様々なニューロンに対して細胞死を抑制する効果がある。しかし、必ずしもin vitroで栄養因子活性が確認されたニューロンが、GDNF-GFRα-1シグナルやRETのノックアウトマウスで死んでしまうわけではなく、例えば中脳腹側のドーパミンニューロンの生存に異常はみられない。これは、他の栄養因子による代償効果であると考えられ、ドーパミンニューロンの場合にはconserved dopamine neurotrophic factor(CDNF)などの関与が示唆されている。一方、後根神経節(dorsal root ganglion)の一部の侵害受容性感覚ニューロン(nociceptive sensory neuron)や迷走神経節神経節(nodose ganglion)の内蔵感覚ニューロン(visceral sensory neuron)の生存はGDNF-GFRα-1-RETシグナルに依存しており、とりわけ侵害受容性感覚ニューロンは胎生期の神経成長因子(nerve growth factor)依存から出生後にGDNF依存にシフトする事が知られている。感覚ニューロンだけでなく、運動ニューロンの減少も報告されている。GDNFのノックアウトマウスでは三叉神経で20%、脊髄レベルで20〜30%程度の減少が認められる。