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蓋板の形成や背側のパターン形成における蓋板の役割は、脊髄以外の中枢神経系では脊髄の場合ほどには詳しく解析されていないが、吻側の中枢神経系の背側のパターン形成に蓋板シグナルが重要であることを示す研究が複数報告されている。 | 蓋板の形成や背側のパターン形成における蓋板の役割は、脊髄以外の中枢神経系では脊髄の場合ほどには詳しく解析されていないが、吻側の中枢神経系の背側のパターン形成に蓋板シグナルが重要であることを示す研究が複数報告されている。 | ||
<br> 後脳(hindbrain)の最前部である菱脳分節(rhombomere)1の背側からは小脳が形成され、特に小脳顆粒細胞(granule cells)は菱脳唇(rhombic lip)から誘導される最も背側の神経細胞である。マウス後脳の蓋板ではGdf7やBmp6/7が発現しており、これらのBMPシグナルは小脳顆粒細胞の特異化プログラムをスタートさせるのに十分であることが、explantを用いた実験で示されている | <br> 後脳(hindbrain)の最前部である菱脳分節(rhombomere)1の背側からは小脳が形成され、特に小脳顆粒細胞(granule cells)は菱脳唇(rhombic lip)から誘導される最も背側の神経細胞である。マウス後脳の蓋板ではGdf7やBmp6/7が発現しており、これらのBMPシグナルは小脳顆粒細胞の特異化プログラムをスタートさせるのに十分であることが、explantを用いた実験で示されている<ref><pubmed>10448218</pubmed></ref>。ただし、これらのBMP分子は蓋板だけでなく隣接した非神経性の外胚葉にも発現しているので、本当に蓋板シグナルによって顆粒細胞が誘導されるのかどうかははっきりしない。一方、Lmx1aは蓋板に発現しており、蓋板の形成に必要である。Dreherマウスは将来小脳になる領域と隣接する蓋板が著しく小さくなっており、成体では正中領域の虫部の大半が失われて小脳が矮小化している<ref><pubmed>10842066</pubmed></ref>, <ref name=Millonig/>。 | ||
<br> 菱脳分節1背側部からはまた、青斑核のノルアドレナリン作動性ニューロンが分化する。青斑核ニューロンはMash1陽性の脳室帯で産生され、ホメオドメイン転写因子であるPhox2a、Phox2bを発現して最終的な分布領域である橋の背側部に移動する。ニワトリで中脳後脳境界部にnogginを加えてBMPシグナルを阻害するとPhox2陽性のニューロンが完全に失われるか、あるいは背側にずれる | <br> 菱脳分節1背側部からはまた、青斑核のノルアドレナリン作動性ニューロンが分化する。青斑核ニューロンはMash1陽性の脳室帯で産生され、ホメオドメイン転写因子であるPhox2a、Phox2bを発現して最終的な分布領域である橋の背側部に移動する。ニワトリで中脳後脳境界部にnogginを加えてBMPシグナルを阻害するとPhox2陽性のニューロンが完全に失われるか、あるいは背側にずれる<ref><pubmed>11861481</pubmed></ref>。 | ||
<br> マウスの吻側中枢神経系の蓋板ではBMPシグナルのエフェクターであるMsx1が発現しており、そのノックアウトマウスは間脳の蓋板を特異的に欠失している。その結果、正中の両側でPax6/7やLim1の発現が抑制され、交連下器官の形成不全が起きて胎生期水頭症になる | <br> マウスの吻側中枢神経系の蓋板ではBMPシグナルのエフェクターであるMsx1が発現しており、そのノックアウトマウスは間脳の蓋板を特異的に欠失している。その結果、正中の両側でPax6/7やLim1の発現が抑制され、交連下器官の形成不全が起きて胎生期水頭症になる<ref><pubmed>12874124</pubmed></ref>。また、En1を間脳の背側正中部で異所性に発現するトランスジェニックマウスでは蓋板、ひいては交連下器官ができず、また後交連も形成されない。これらのマウス系統ではどちらも、間脳背側の最前部にできる松果体の形成が不全である<<Louvi 2000>>。また、ゼブラフィッシュにおいても正常な背側正中部の形成とnodalのシグナルが松果体の正確なパターニングに必要である<<Concha 2000, Liang 2000>>。 | ||
<br> 終脳領域では蓋板を含む背側正中領域は陥入して2つの大脳半球の間に潜り込む。蓋板は後に脈略叢およびcortical hemとなる。Gdf7-DTAマウスで終脳の蓋板を破壊すると、脈略叢とcortical hemの細胞が劇的に減少するだけでなく、隣接する皮質領域も低形成となり、Lhx2の発現が低下する。すなわち、脈略叢とcortical hemはLhx2発現領域のパターニングに重要である。蓋板とそれに由来する脈略叢とcortical hemにはBMPやWNTのシグナル分子が発現している。BMPシグナルの終脳背側のパターニングへの関与を示すデータとしては、外来性のBMPがニワトリ前脳のパターニングに異常を引き起こすこと<<Golden 1999>>、Bmp5/Bmp7のダブルノックアウトマウスやBMPシグナルのアンタゴニストであるChordinあるいはNogginを投与したマウスにおいて前脳の低形成あるは形成異常が認められること<<solloway 1999, bachiller 2000>>、などがある。また、Foxg1-Creマウスを用いてBMPレセプターBmpr1aを終脳特異的に欠失させると、脈略叢が特異的に失われた<<Hebert 2002>>。一方、nestinエンハンサーを用いて活性型のBmpr1aを強制発現させると終脳の翼板(神経管の背側半分)がすべて脈略叢になった<<Panchision 2001>>。これらの結果は、終脳においてはBMPシグナルは広い領域に濃度依存的に作用するのではなく、正中領域のパターニングのみに必要であることを示唆している。 | <br> 終脳領域では蓋板を含む背側正中領域は陥入して2つの大脳半球の間に潜り込む。蓋板は後に脈略叢およびcortical hemとなる。Gdf7-DTAマウスで終脳の蓋板を破壊すると、脈略叢とcortical hemの細胞が劇的に減少するだけでなく、隣接する皮質領域も低形成となり、Lhx2の発現が低下する。すなわち、脈略叢とcortical hemはLhx2発現領域のパターニングに重要である。蓋板とそれに由来する脈略叢とcortical hemにはBMPやWNTのシグナル分子が発現している。BMPシグナルの終脳背側のパターニングへの関与を示すデータとしては、外来性のBMPがニワトリ前脳のパターニングに異常を引き起こすこと<<Golden 1999>>、Bmp5/Bmp7のダブルノックアウトマウスやBMPシグナルのアンタゴニストであるChordinあるいはNogginを投与したマウスにおいて前脳の低形成あるは形成異常が認められること<<solloway 1999, bachiller 2000>>、などがある。また、Foxg1-Creマウスを用いてBMPレセプターBmpr1aを終脳特異的に欠失させると、脈略叢が特異的に失われた<<Hebert 2002>>。一方、nestinエンハンサーを用いて活性型のBmpr1aを強制発現させると終脳の翼板(神経管の背側半分)がすべて脈略叢になった<<Panchision 2001>>。これらの結果は、終脳においてはBMPシグナルは広い領域に濃度依存的に作用するのではなく、正中領域のパターニングのみに必要であることを示唆している。 |
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