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二重結合が一つの FM1-43、FM1-84、FM2-10 は黄色蛍光を呈し、二重結合が二つの FM4-64、FM5-95 は赤色蛍光を呈する。 | 二重結合が一つの FM1-43、FM1-84、FM2-10 は黄色蛍光を呈し、二重結合が二つの FM4-64、FM5-95 は赤色蛍光を呈する。 | ||
疎水性炭素鎖の長さは細胞膜の染め方に関連し、長いものほど明るく、一旦膜に組み込まれると離脱しがたい<ref><pubmed> 10202529 </pubmed></ref>。 FM1-43 | 疎水性炭素鎖の長さは細胞膜の染め方に関連し、長いものほど明るく、一旦膜に組み込まれると離脱しがたい<ref><pubmed> 10202529 </pubmed></ref>。 FM1-43 の炭素鎖数は 4であり、解離時定数τ<sub>diss</sub>は 8 msを示す。より短いFM2-10(炭素鎖数 2)は、比較的離脱しやすい(τ<sub>diss</sub>=6.4 ms)。逆に、より長い FM1-84(炭素鎖数 5)は離脱に時間がかかる(τ<sub>diss</sub>=36 ms)<ref><pubmed> 19580748 </pubmed></ref>。 | ||
== 蛍光特性 == | == 蛍光特性 == | ||
FM1-43の[[wikipedia:ja:励起状態|励起]] | FM1-43の[[wikipedia:ja:励起状態|励起]]には1光子では波長 480 nm光、2光子では波長 840 nm光が頻用される。 | ||
蛍光強度は[[wikipedia:ja:リポソーム|リポソーム]] | 蛍光強度は[[wikipedia:ja:リポソーム|リポソーム]]中では 580 nmで最大となる。 | ||
波長 480nm光の高出力励起(~150 μW)にて[[wikipedia:3,3'-Diaminobenzidine|ジアミノベンチジン]](DAB)の光変換(photoconversion) を起こす。そのため、[[wikipedia:ja:アルデヒド|アルデヒド]]で固定可能な色素である FM1-43FXと DABを細胞に与え光変換させると、共局在部位で電子密度の高い産物が作られ、[[電子顕微鏡]]観察が可能となる。FM1-43を取り込んだ小胞が、高い電子密度で描出され、微細構造解析に活用されている。 | |||
== 応用例 == | == 応用例 == | ||
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[[Image:Takahashinoriko fig 3.jpg|thumb|250px|'''図3.(タイトル:開口放出に伴う FM 蛍光の変化''' 説明:膜融合時、細胞外色素の有無により蛍光変化の様式が異なる)]] | [[Image:Takahashinoriko fig 3.jpg|thumb|250px|'''図3.(タイトル:開口放出に伴う FM 蛍光の変化''' 説明:膜融合時、細胞外色素の有無により蛍光変化の様式が異なる)]] | ||
シナプスを刺激した時にミリ秒で起きる伝達物質放出は、活性帯(Active zone)にドックした小胞が開口放出すると仮想されている。この仮想的な小胞群を即時性放出プール[[Readily releasable pool]](RRP)という。[[シナプス小胞]]は開口放出後 30-60秒で細胞内部に[[エンドサイトーシス]]で取り込まれる(図 3左)。更に、シナプス終末内でシナプス小胞に再生されて即時性放出プールに再び至る。これをリサイクリングと呼び、これに関係する小胞の全体をリサイクリングプール(recycling pool)、又は放出可能プール(TRP)という。 | |||
細胞外を FM1-43 で還流中に、長い放出刺激(例 20 Hz、900 | 細胞外を FM1-43 で還流中に、長い放出刺激(例 20 Hz、900 発)を与え、[[開口放出]]([[エクソサイトーシス]])した小胞の膜を染め出し、その後色素を含まない溶液で細胞外を還流し、外膜に結合した色素を wash out すると、TRPの全体が染まる。一方、ちょうど RRPにある小胞を枯渇させる程度の短い放出刺激(例 20 Hz、30 発)を与えて wash outをすると RRPが選択的に染まる。この様な解析から、RRPは TRPの 10-30%程度と推定されており<ref><pubmed> 15044806 </pubmed></ref>、TRPが40個程度の小さなシナプスでは RRPの小胞数は 4-12個となる。 | ||
次に、TRPを染めた小胞に刺激を与えると、シナプス小胞は細胞膜と融合し、FM1- | 次に、TRPを染めた小胞に刺激を与えると、シナプス小胞は細胞膜と融合し、FM1-43が細胞外液へ拡散することにより神経終末の蛍光は減弱する(脱染色、destaining 図3右)。この脱染色の時間経過は、小胞の開口放出確率が大きい程速い。定量的には、RRPにある小胞の数を [RRP]、その放出確率を Pvとすると、一回の刺激で放出される小胞の数は平均で Pv [RRP]となる。一方、TRPにある小胞の数を[TRP]、一回の刺激による TRPの蛍光の減弱率をkとすると、一回の刺激で放出される小胞の数は k [TRP]となる。よって、Pv [RRP] = k [TRP] となり、これからPv = k [RRP]/[TRP] という関係式が得られ、終末ごとにRRPにある小胞の放出確率を求めることができる <ref><pubmed>23049481 </pubmed></ref>。この Pvと、一回の刺激によりある終末から開口放出が起きる確率 Pr との間には、RRP内の小胞の放出確率が等しければ<math>Pr=1-(1-Pv)^{[RRP]}</math>という関係がある。Prも FM1-43を用いて直接求めた例がある<ref><pubmed> 9136769 </pubmed></ref> 。 | ||
FM1- | FM1-43によって染めることができる TRPの小胞は、電子顕微鏡的に終末に存在する小胞の15-20%にすぎない。<ref><pubmed> 15044806 </pubmed></ref>。 電子顕微鏡的には同定されるがリサイクリングされ難いシナプス小胞の群を reserve pool 或いは resting poolと言う。このプールの小胞もゆっくりとしたリサイクリングに関係していることが他の方法によって明らかとなっている<ref><pubmed>21835344 </pubmed></ref>。 | ||
==== シナプス小胞の動態の解析 ==== | ==== シナプス小胞の動態の解析 ==== | ||
開口放出した顆粒は[[Active zone]]の周辺から内部に取り込まれ([[エンドサイトーシス]])、再び放出可能となる([[リサイクル]])。このリサイクルにかかる時間は、[[海馬]]培養標本では 20-30秒、神経筋接合部では | 開口放出した顆粒は[[Active zone]]の周辺から内部に取り込まれ([[エンドサイトーシス]])、再び放出可能となる([[リサイクル]])。このリサイクルにかかる時間は、[[海馬]]培養標本では 20-30秒、神経筋接合部では 60秒と見積もられた。TRPを FM1-43で染めた後、DABを光変換して電顕で見ると染色された小胞は、元来小胞があった領域のほぼ全域に拡散し、core(中央部)への拡散のみが軽度に少なかった。また、リサイクルした小胞は、初めて刺激を受けたプール同様の放出確率を持つことが報告された<ref><pubmed> 1553547 </pubmed></ref> 。 | ||
=== 膜融合様式の解析 === | === 膜融合様式の解析 === | ||
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シナプス小胞から大型有芯小胞に至るまで、小胞の直径計測に有効である <ref><pubmed> 16150799 </pubmed></ref>。 | シナプス小胞から大型有芯小胞に至るまで、小胞の直径計測に有効である <ref><pubmed> 16150799 </pubmed></ref>。 | ||
水溶性色素(赤色[[wikipedia:ja:スルホローダミンB|スルホローダミンB]], | 水溶性色素(赤色[[wikipedia:ja:スルホローダミンB|スルホローダミンB]], SRB)と FM1-43を細胞外液に同時に与え、開口放出を誘発すると、水溶性色素は小胞内部に進入し、FM1-43は細胞外膜から小胞内膜へ拡散するため、開口放出した小胞が両色素で描出される。この際 [[2光子レーザー走査顕微鏡]]で画像を取得し、双方の色素の増加分の比を求めると小胞直径が計算される(直径=6 ΔSRB/ΔFM1-43)。本法は色素濃度やレンズ特性([[wikipedia:ja:点拡がり関数|点拡がり関数]])によらず、シナプス小胞のような光学[[wikipedia:ja:解像度|解像度]]以下の器官の計測にも応用可能である。 | ||
== 関連項目 == | == 関連項目 == |
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