「語彙」の版間の差分

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=語彙情報へのアクセス=
=語彙情報へのアクセス=
 普通の辞書ならば書かれている内容を読み取ることは容易い.しかし脳にどんな語彙が蓄えられているかを直接的に覗き見ることはできず,見聞きしたことばに対する応答や発話といった行動しか実際に観察することはできない.そして,ことばを発したり理解したりするにはメンタル・レキシコンの情報に対するアクセスが不可欠である.つまりメンタル・レキシコンの特性を明らかにしていく上で,語彙アクセスについての研究は中核的な意義を持つものといえる.以下では語彙アクセスに関する心理学および神経科学の知見を紹介する.
 普通の辞書ならば書かれている内容を読み取ることは容易い.しかし脳にどんな語彙が蓄えられているかを直接的に覗き見ることはできず,見聞きしたことばに対する応答や発話といった行動しか実際に観察することはできない.そして,ことばを発したり理解したりするにはメンタル・レキシコンの情報に対するアクセスが不可欠である.つまりメンタル・レキシコンの特性を明らかにしていく上で,語彙アクセスについての研究は中核的な意義を持つものといえる.以下では語彙アクセスに関する心理学的知見や認知モデルを紹介する.


==心理学的知見==
==語彙アクセスに影響する要因==
 語彙の理解に関する心理学的研究は以前から盛んに行われてきており,単語によって理解のしやすさが異なるということが分かっている.このような違いを生む要因としては出現頻度や親密度といったものがある.使用される頻度が高かったり親密度が高かったりする単語ほど,より短い時間で意味を理解することができるのである.こうした知見を得るための手法には,たとえば言語理解中の眼球運動計測が挙げられる.この手法では,ある語に対する実験被験者の注視時間が長いほど意味的処理に時間がかかっているのだと解釈される.ほかには語彙判断課題([[wikipedia:Lexical_decision_task|lexical decision task]])と呼ばれる実験的方法もある.これは実験の被験者に文字列を提示し,それが単語であるか非単語であるかを迅速にボタン押しで判断させるものである.語彙判断課題においては出現頻度が高い単語に対するほど反応が早く,かつ正確になることが観察されている.
 語彙の認識や理解に関する心理学的研究は以前から盛んに行われてきており,単語によってアクセスのしやすさが異なるということが分かっている.このような違いを生む要因としては出現頻度や親密度といったものがある.使用される頻度が高かったり親密度が高かったりする単語ほど,処理に要する時間は短くなる.
こうした知見を得るための手法としては,たとえば言語理解中の眼球運動計測が挙げられる.この手法では,ある語に対する実験被験者の注視時間が長いほど意味的処理に時間がかかっているのだと解釈される.ほかには語彙判断課題([[wikipedia:Lexical_decision_task|lexical decision task]])と呼ばれる実験的方法もある.これは実験の被験者に文字列を提示し,それが単語であるか非単語であるかを迅速にボタン押しで判断させるものである.語彙判断課題においては出現頻度が高い単語に対するほど反応が早く,かつ正確になることが観察されている.
また単語の具体性(concreteness)あるいは心像性(imageneability)と呼ばれる要因も語彙アクセスに影響する.心像性とは,ある名詞がどのくらい意味を想像しやすいかを示す指標である.基本的に「りんご」のような具体語(concrete word)ほど心像性は高く,「悪」のような抽象語(abstract word)ほど心像性は低い.名詞は心像性あるいは具体性が高いほどより早く正確に処理することが可能である.


 また,同じ単語であっても[[wikipedia:ja:コンテクスト|文脈]]的な効果によって処理に要する時間は変化する.たとえば,直前に別の単語(プライム)を提示することにより,ある単語(ターゲット/プローブ)の理解が促進されたり抑制されたりする現象がある.これは語彙的[[プライミング]]効果(lexical priming effect)と呼ばれるもので,ターゲット語に対して語彙判断課題などの課題を行うことで測定する.語彙的プライミング効果はプライムとターゲットが音韻,形態,意味のいずれかの面で類似している場合に観察される.
 また,同じ単語であっても[[wikipedia:ja:コンテクスト|文脈]]的な効果によって処理に要する時間は変化する.たとえば,直前に別の単語(プライム)を提示することにより,ある単語(ターゲット/プローブ)の理解が促進されたり抑制されたりする現象がある.これは語彙的[[プライミング]]効果(lexical priming effect)と呼ばれるもので,ターゲット語に対して語彙判断課題などの課題を行うことで測定する.語彙的プライミング効果はプライムとターゲットが音韻,形態,意味のいずれかの面で類似している場合に観察される.
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==神経科学的知見==
==語彙アクセスのモデル==




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=語彙の脳内表現=
=脳における語彙=


==語彙の表象==
 語彙的知識は脳内でどのように組織されているのだろうか.これまでの研究から,左[[側頭葉]]の広い範囲に単語情報の表現があると考えられている.Damasioらの研究では,[[退行性変性]]によって側頭葉の一部が障害された被験者に対して名詞の呼称課題を実施した.この実験で用いた語は,著名人の名前,動物,道具の3つの[[カテゴリ]]に分類される.この実験ではまず被験者に絵を提示し,それが何であるかを口頭で答えさせている.障害されている脳部位と各カテゴリにおける課題成績の関係を調べた結果,人名は側頭極,動物名は下側頭回,道具名は後部下側頭回/後頭頭頂側頭接合部の障害により,最も成績が低下していることが明らかとなった.
 語彙的知識は脳内でどのように組織されているのだろうか.これまでの研究から,左[[側頭葉]]の広い範囲に単語情報の表現があると考えられている.Damasioらの研究では,[[退行性変性]]によって側頭葉の一部が障害された被験者に対して名詞の呼称課題を実施した.この実験で用いた語は,著名人の名前,動物,道具の3つの[[カテゴリ]]に分類される.この実験ではまず被験者に絵を提示し,それが何であるかを口頭で答えさせている.障害されている脳部位と各カテゴリにおける課題成績の関係を調べた結果,人名は側頭極,動物名は下側頭回,道具名は後部下側頭回/後頭頭頂側頭接合部の障害により,最も成績が低下していることが明らかとなった.


==語彙アクセスの脳内機構==






=語彙に関する議論と展望=
=語彙に関する議論と展望=
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