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政治にかかる社会的行動を対象として、各種神経画像の手法を用いた研究が行われている。これまでに、脳波(EEG)を用いて保守主義とリベラル主義といったイデオロギーとの関連について評価した研究がなされている<ref name="Amodio2007"><pubmed>17828253</pubmed></ref>。また、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて候補者の顔認知に関する研究も報告された<ref name="Knutson2006"><pubmed>17372621</pubmed></ref> | 政治にかかる社会的行動を対象として、各種神経画像の手法を用いた研究が行われている。これまでに、脳波(EEG)を用いて保守主義とリベラル主義といったイデオロギーとの関連について評価した研究がなされている<ref name="Amodio2007"><pubmed>17828253</pubmed></ref>。また、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて候補者の顔認知に関する研究も報告された<ref name="Knutson2006"><pubmed>17372621</pubmed></ref>。候補者に認知に関して、情動に着目した研究<ref name="Westen2006"><pubmed>17069484</pubmed></ref>や、選挙キャンペーンの影響に着目した研究<ref name="Kato2009"><pubmed>19503749</pubmed></ref>もなされている。政治にかかる社会的行動は多様で複雑であるが、それらの要素をいかに実験系として切り出して科学的な評価を行うかが工夫されている。 | ||
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その実験の具体を例示すると、Amodioらは、脳波(EEG)を用いてイデオロギーを示す指標とエラー関連陰性電位の振幅について評価し、それらに関係があることを示した<ref name="Amodio2007" />。Westenらは、候補者の顔と肯定的な言葉を同時に提示した場合と否定的な言葉を同時に提示した場合を比較し、情動の影響を検証したところ、冷静な理性とは異なる情動や心理的防御をもとに動機付けられた推論が、潜在的連合テストの結果に影響を与えることを示した<ref name="Westen2006" />。また、Katoらは、テレビCMでの選挙キャンペーンによる影響について研究した。候補者に対して感情的な評価を示させる「感情温度計(feeling | その実験の具体を例示すると、Amodioらは、脳波(EEG)を用いてイデオロギーを示す指標とエラー関連陰性電位の振幅について評価し、それらに関係があることを示した<ref name="Amodio2007" />。Westenらは、候補者の顔と肯定的な言葉を同時に提示した場合と否定的な言葉を同時に提示した場合を比較し、情動の影響を検証したところ、冷静な理性とは異なる情動や心理的防御をもとに動機付けられた推論が、潜在的連合テストの結果に影響を与えることを示した<ref name="Westen2006" />。また、Katoらは、テレビCMでの選挙キャンペーンによる影響について研究した。候補者に対して感情的な評価を示させる「感情温度計(feeling thermometer)」と候補者選択を指標とし、これらとfMRIにより計測された脳活動との関係を調べた。その結果、感情温度計で表わされるポジティブな評価は内側前頭前皮質の活動と正の相関を持ち、一方で右前頭前皮質の背外側部が負の相関を持つこと、つまりネガティブな評価は右前頭前皮質の領域の活動を伴うことが示された。さらに、こうした活動パターンは、商品のテレビCMを用いた同様の実験では計測されなかった<ref name="Kato2009" />。 | ||
2012年8月8日 (水) 11:20時点における版
英:neuropolitics
神経政治学(neuropolitics)とは、政治にかかる社会的行動の神経基盤を対象とする研究分野である。神経画像手法等の進歩により、ヒトが社会的行動をとる際の脳内情報処理を対象とした研究が可能となった。哲学・心理学との関連も深い。社会科学においても、政治心理学や実験政治学の流れから神経政治学への展開がみられている。
神経政治学研究
概論
政治にかかる社会的行動を対象として、各種神経画像の手法を用いた研究が行われている。これまでに、脳波(EEG)を用いて保守主義とリベラル主義といったイデオロギーとの関連について評価した研究がなされている[1]。また、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて候補者の顔認知に関する研究も報告された[2]。候補者に認知に関して、情動に着目した研究[3]や、選挙キャンペーンの影響に着目した研究[4]もなされている。政治にかかる社会的行動は多様で複雑であるが、それらの要素をいかに実験系として切り出して科学的な評価を行うかが工夫されている。
各論
その実験の具体を例示すると、Amodioらは、脳波(EEG)を用いてイデオロギーを示す指標とエラー関連陰性電位の振幅について評価し、それらに関係があることを示した[1]。Westenらは、候補者の顔と肯定的な言葉を同時に提示した場合と否定的な言葉を同時に提示した場合を比較し、情動の影響を検証したところ、冷静な理性とは異なる情動や心理的防御をもとに動機付けられた推論が、潜在的連合テストの結果に影響を与えることを示した[3]。また、Katoらは、テレビCMでの選挙キャンペーンによる影響について研究した。候補者に対して感情的な評価を示させる「感情温度計(feeling thermometer)」と候補者選択を指標とし、これらとfMRIにより計測された脳活動との関係を調べた。その結果、感情温度計で表わされるポジティブな評価は内側前頭前皮質の活動と正の相関を持ち、一方で右前頭前皮質の背外側部が負の相関を持つこと、つまりネガティブな評価は右前頭前皮質の領域の活動を伴うことが示された。さらに、こうした活動パターンは、商品のテレビCMを用いた同様の実験では計測されなかった[4]。
関連分野の動向
神経経済学との関わり
社会神経科学には、ヒトの社会活動の科学的理解への貢献が期待されており[5]、関連研究も盛んに行われている。特に経済にかかる社会的行動の神経基盤を対象とする分野である神経経済学が先行している。先述の候補者の認知に関する神経政治学研究[3][4]に関しても、神経経済学の流れから説明する試みもなされており、ArielyとBernsは、製品開発の現場での製品のデザインと広告の作成と評価にfMRIを用いる取り組みを紹介し、候補者と選挙広告とに同様の枠組みを適用していく可能性について述べている[6]。
神経法学との関わり
法にかかる社会的行動の神経基盤を対象とする分野を神経法学(neurolaw)という。直接的に関連した研究が黎明期にある一方で、fMRIの法廷における嘘発見器と類似の役割についても議論されている。例えば米国では、新規の科学的手法を法廷での証拠として採用するかの基準としてドーバート基準(Daubert standard)とフライ基準(Frye standard)があり、それぞれ、”特定の分野におけるすべての科学者から有効であると認知された手法”か、あるいは”専門分野で一般的に受け入れられている手法”か、といった内容で、fMRIは現状ではどちらの基準でも採用されていないという[7]。一方で、これらの議論がなされていること自体、社会からの期待が背景にあるとも言える。こうした研究を一層進めるには、倫理的考慮を図ることが前提となろう。
関連項目
参考文献
- ↑ 1.0 1.1
Amodio, D.M., Jost, J.T., Master, S.L., & Yee, C.M. (2007).
Neurocognitive correlates of liberalism and conservatism. Nature neuroscience, 10(10), 1246-7. [PubMed:17828253] [WorldCat] [DOI] - ↑
Knutson, K.M., Wood, J.N., Spampinato, M.V., & Grafman, J. (2006).
Politics on the brain: an FMRI investigation. Social neuroscience, 1(1), 25-40. [PubMed:17372621] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑ 3.0 3.1 3.2
Westen, D., Blagov, P.S., Harenski, K., Kilts, C., & Hamann, S. (2006).
Neural bases of motivated reasoning: an FMRI study of emotional constraints on partisan political judgment in the 2004 U.S. Presidential election. Journal of cognitive neuroscience, 18(11), 1947-58. [PubMed:17069484] [WorldCat] [DOI] - ↑ 4.0 4.1 4.2
Kato, J., Ide, H., Kabashima, I., Kadota, H., Takano, K., & Kansaku, K. (2009).
Neural correlates of attitude change following positive and negative advertisements. Frontiers in behavioral neuroscience, 3, 6. [PubMed:19503749] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑
Adolphs, R. (2010).
Conceptual challenges and directions for social neuroscience. Neuron, 65(6), 752-67. [PubMed:20346753] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑
Ariely, D., & Berns, G.S. (2010).
Neuromarketing: the hope and hype of neuroimaging in business. Nature reviews. Neuroscience, 11(4), 284-92. [PubMed:20197790] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑
Dresser, R. (2010).
Brain imaging and courtroom deception. The Hastings Center report, 40(6), 7-8. [PubMed:21155104] [WorldCat]
(執筆者:高野 弘二、神作 憲司 担当編集委員:入來 篤史)