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== ミカエリス・メンテンの式 == | == ミカエリス・メンテンの式 == |
2012年9月4日 (火) 23:42時点における版
英語名:Michaelis-Menten plot
同義語: S-vプロット、ミハエリス・メンテンプロット、ミヒャエリス・メンテンプロット
ミカエリス・メンテンの式
L. Michaelis とM. L. Mentenはインベルターゼに関する研究において、酵素の反応速度と基質濃度の関係を明らかにするため、酵素と基質が結合した酵素基質複合体(ES complex)を形成することにより酵素反応が進行するとの概念に基づいて、次のような反応スキームを考えた。
(1)
ここには酵素、は基質、は生成物を表す。この時、、はに比べて十分に大きく、、、は平衡状態にあって、を速度定数とする過程が全体の酵素反応の律速段階であると仮定すれば、ES complexの解離平衡定数は
(2)
酵素反応の初速度は
(3)
ここで酵素の全濃度は
(4)
(2)(4)よりを消去して整理すると
(5)
これを(3)に代入すれば
(6)
ここで、とおくと
(7)
この(7)式をミカエリス・メンテンの式と呼び、1913年にドイツの学術雑誌に発表された[1]。ちなみにM. L. Mentenは当時としては珍しい女性研究者である[2]。ミカエリス定数は基質濃度無限大の時の最大反応速度の1/2の速度を与える時の基質濃度に一致する。はES complexの解離平衡定数であるから、酵素と基質の親和性の尺度となり、値が小さいほど酵素と基質の親和性が強い。
ブリッグス・ホールデンの式
しかしながら、上記、Michaelis とMentenの考えではいくつかの仮定を設けており、常にこれらの仮定が成立するとは限らない。そこで1925年にG. E. BriggsとJ. B. S. Haldaneは、ミカエリス・メンテンの式の、より一般化された誘導法を示した[3]。上記(1)の反応スキームにおいて、彼らは酵素反応が直線的に進行する定常状態ではES complexの形成速度と分解速度が釣り合っていて、見かけ上が一定になると仮定した(定常状態近似)。すなわち、
(8)
ここで上記と同様に酵素の全濃度は
(9)
(8)(9)より[E]を消去すると
(10)
酵素反応の初速度vは
(11)
(10)(11)より
(12)
ここで 、とおくと
(13)
となり、(7)式と同じ式が得られる。 (13)式は厳密にはブリッグス・ホールデンの式と言うが、 (7)式と同じ形であるので実際にはミカエリス・メンテンの式と言うことが多い。また、(13)式のもミカエリス定数と言うが、(7)式の場合と異なり、ES complexの解離平衡定数とは一致しない。の場合にのみ、≈/となってと一致するのであるが、多くの場合、(13)式のKmも酵素と基質の親和性の尺度を表すと考えてよい。実験的には、(13)式のも(7)式の場合と同様、基質濃度無限大の時の最大反応速度の1/2の速度を与える基質濃度として定義される。
ミカエリス・メンテンプロット
(7)式も(13)式も、酵素反応速度(すなわち酵素活性)と基質濃度の関係を定量的に表した式である。実験的には様々な基質濃度で酵素活性を測定し、横軸に基質濃度、縦軸に酵素活性をとってプロットした場合、図に示すように、数学的には直角双曲線の形となる。このようなプロットをミカエリス・メンテンプロット(S-vプロット)と呼ぶ。図から明らかなように、基質濃度がKm値(Vmaxの1/2の速度を与える時の基質濃度)付近或いはそれ以下の場合には酵素活性は基質濃度に大きく依存し、基質濃度の少しの変化でも酵素活性は大きく影響を受けるが、Km値より十分大きい基質濃度の場合、酵素活性はVmaxの値に近づき、濃度が大きくなるにつれて基質濃度依存性が殆どなくなる。従って、一般に酵素活性を測定する場合は、基質初濃度の誤差や、反応の進行に伴う基質濃度減少の影響を避けるため、基質阻害などの問題がない限りは、できるだけ高濃度の基質(Km値の5〜10倍、或いはそれ以上)を用いて活性測定を行うことが望ましい。
速度論的パラメータの求め方
図1のようなミカエリス・メンテンプロットより、上記やなどの速度論的パラメータを求めることが出来る。以前は(7)式または(13)式の両辺の逆数をとって
(14)
とし、1/[S]に対して1/vをプロットして得られる直線プロット(ラインウィーバー・バークプロット)のx切片及びy切片よりやを求める方法がよく行われたが、最近はパソコンの普及により、ミカエリス・メンテンプロットを適当なソフトウェアを用いて双曲線にフィッティングして、直接(7)式または(13)式の各パラメータを求めるdirect fitting法によることが多くなった。
(7)式または(13)式(ミカエリス・メンテンの式またはブリッグス・ホールデンの式)は多くの酵素にあてはまる便利な式であるが、(1)の反応スキームに従うことを前提にしているので、当然これにあてはまらない場合も存在する。そのような場合に(7)式または(13)式を無理にあてはめて解析することは、誤った結論を導く可能性があるので注意が必要である。そのような場合の扱いに関しては、例えば以下の文献を参照されたい[4]。
速度論的パラメータの意味
前にも述べたように、KmはVmaxの1/2の速度を与える時の基質濃度として定義され、酵素と基質の親和性の尺度となる。また、Vmaxは基質濃度無限大、つまり酵素分子全てが基質で飽和された時の反応速度である。定義により、Vmax = k3[E0]であるが、このk3を触媒定数、或いはターンオーバー・ナンバーと呼び、通常kcatで表す。すなわち
(15)
である([E0]は全酵素濃度)。kcatは酵素が基質で飽和された状態において、1モルの酵素(或いは活性部位)が1秒間に生成物へ変換できる基質のモル数を表し、単位はs − 1である。すなわちkcatは酵素の触媒効率を表す指標である。また、(7)または(13)式のVmaxを(15)式により、kcat[E0]で置き換えると
(16)
ここで基質濃度が非常に希薄な[S] < < Kmの濃度領域を考えると
(17)
基質が非常に薄い条件下では、基質は殆ど酵素に結合していないと考えられるから ≈
従って
(18)
この式はEとSの衝突が反応全体の速度を支配していると考えた場合の二次反応速度定数がkcat / Kmであることを示している。kcat / Kmの値は、異なる酵素の触媒効率を比較する際のパラメータとして用いられる。また、同一の酵素に対して、異なる基質の特異性を議論する場合にもkcat / Kmの値が用いられ、特異性定数と呼ばれることがある。この場合、kcat / Kmの値が大きいほど、その酵素に対してよい基質であるということになる。このように(7)式または(13)式から得られる各種の速度論的パラメータは、酵素の反応特異性や反応機構に関して、しばしば重要な知見を与える[5][6]。
関連項目
参考文献
- ↑
Michaelis, L., Menten, M.L., Johnson, K.A., & Goody, R.S. (2011).
The original Michaelis constant: translation of the 1913 Michaelis-Menten paper. Biochemistry, 50(39), 8264-9. [PubMed:21888353] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑ 鈴木紘一、笠井献一、宗川吉汪 監訳
ホートン生化学 第4版
東京化学同人 (東京):2008 - ↑
Briggs, G.E., & Haldane, J.B. (1925).
A Note on the Kinetics of Enzyme Action. The Biochemical journal, 19(2), 338-9. [PubMed:16743508] [PMC] [WorldCat] [DOI] - ↑ 堀尾武一、山下仁平
蛋白質・酵素の基礎実験法
南江堂 (東京):1981 - ↑
Ikeda, A., Okuno, S., & Fujisawa, H. (1991).
Studies on the generation of Ca2+/calmodulin-independent activity of calmodulin-dependent protein kinase II by autophosphorylation. Autothiophosphorylation of the enzyme. The Journal of biological chemistry, 266(18), 11582-8. [PubMed:1646810] [WorldCat] - ↑
Ishida, A., Shigeri, Y., Tatsu, Y., Endo, Y., Kameshita, I., Okuno, S., ..., & Fujisawa, H. (2001).
Substrate specificity of Ca(2+)/calmodulin-dependent protein kinase phosphatase: kinetic studies using synthetic phosphopeptides as model substrates. Journal of biochemistry, 129(5), 745-53. [PubMed:11328597] [WorldCat] [DOI]
(執筆者:石田敦彦 担当編集委員:林康紀)