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== 伝達物質と受容体の種類 == | == 伝達物質と受容体の種類 == | ||
速いシナプス伝達を担うイオンチャネル型受容体はそれ自体にイオンが透過する孔(pore)を持っているのに対し、遅いシナプス伝達を担う代謝型受容体はそれ自体には[[wikipedia:jp:イオンチャンネル|イオンチャンネル]]としての機能はなく、[[wikipedia:jp:シグナル伝達#細胞内シグナル伝達|細胞内シグナル伝達]]を介してイオンチャンネルに働きかけることによって[[wikipedia:jp:膜電位|膜電位]]に影響を与える。神経系において遅いシナプス伝達を担う代謝型受容体の殆どは[[wikipedia:ja:Gタンパク質共役受容体|Gタンパク質共役受容体]](G-protein coupled receptors <ref>'''Bertil Hille'''<BR>G protein-coupled receptor<BR>''Scholarpedia'': 2009, 4(12):8214 [http://www.scholarpedia.org/article/G_protein-coupled_receptor Scholarpedia]</ref>)である。 神経系に存在する主なGタンパク質共役受容体としては、代謝型[[wikipedia:jp:グルタミン酸受容体|グルタミン酸受容体]]([[wikipedia:Metabotropic glutamate receptor|metabotropic glutamate receptor]])、[[GABA受容体]](B型)([[wikipedia:GABAB receptor|GABA<sub>B</sub> receptor]])、[[wikipedia:jp:ドーパミン受容体|ドーパミン受容体]]([[wikipedia:Dopamine receptor|dopamine receptor]])、[[セロトニン#セロトニン受容体|セロトニン(5-HT)受容体]]([[wikipedia:5-HT receptor|serotonin receptor]])(3型を除く)、[[wikipedia:jp:アドレナリン受容体|アドレナリン受容体]]([[wikipedia:Adrenergic receptor|adrenergic receptor]])、[[wikipedia:jp:アデノシン受容体|アデノシン受容体]]([[wikipedia:Adenosine receptor|adenosine receptor]])、[[wikipedia:jp:アセチルコリン受容体#ムスカリン受容体|ムスカリン性アセチルコリン受容体]]([[wikipedia:Muscarinic acetylcholine receptor|muscarinic acetylcholine receptor]])、[[wikipedia:jp:アナンダミド#カンナビノイド受容体|カンナビノイド受容体]]([[wikipedia:Cannabinoid receptor|cannabinoid receptor]])、[[wikipedia:jp:ヒスタミン受容体|ヒスタミン受容体]]([[wikipedia:Histamine receptor|histamine receptor]])、[[wikipedia:jp:P2受容体ファミリー|P2Y受容体]]([[wikipedia:P2Y receptor|P2Y receptor]])があり、各々の[[wikipedia:jp:リガンド|リガンド]]により活性化される。<BR> | 速いシナプス伝達を担うイオンチャネル型受容体はそれ自体にイオンが透過する孔(pore)を持っているのに対し、遅いシナプス伝達を担う代謝型受容体はそれ自体には[[wikipedia:jp:イオンチャンネル|イオンチャンネル]]としての機能はなく、[[wikipedia:jp:シグナル伝達#細胞内シグナル伝達|細胞内シグナル伝達]]を介してイオンチャンネルに働きかけることによって[[wikipedia:jp:膜電位|膜電位]]に影響を与える。神経系において遅いシナプス伝達を担う代謝型受容体の殆どは[[wikipedia:ja:Gタンパク質共役受容体|Gタンパク質共役受容体]](G-protein coupled receptors <ref>'''Bertil Hille'''<BR>G protein-coupled receptor<BR>''Scholarpedia'': 2009, 4(12):8214 [http://www.scholarpedia.org/article/G_protein-coupled_receptor Scholarpedia]</ref>)である。 神経系に存在する主なGタンパク質共役受容体としては、代謝型[[wikipedia:jp:グルタミン酸受容体|グルタミン酸受容体]]([[wikipedia:Metabotropic glutamate receptor|metabotropic glutamate receptor]])、[[GABA受容体]](B型)([[wikipedia:GABAB receptor|GABA<sub>B</sub> receptor]])、[[wikipedia:jp:ドーパミン受容体|ドーパミン受容体]]([[wikipedia:Dopamine receptor|dopamine receptor]])、[[セロトニン#セロトニン受容体|セロトニン(5-HT)受容体]]([[wikipedia:5-HT receptor|serotonin receptor]])(3型を除く)、[[wikipedia:jp:アドレナリン受容体|アドレナリン受容体]]([[wikipedia:Adrenergic receptor|adrenergic receptor]])、[[wikipedia:jp:アデノシン受容体|アデノシン受容体]]([[wikipedia:Adenosine receptor|adenosine receptor]])、[[wikipedia:jp:アセチルコリン受容体#ムスカリン受容体|ムスカリン性アセチルコリン受容体]]([[wikipedia:Muscarinic acetylcholine receptor|muscarinic acetylcholine receptor]])、[[wikipedia:jp:アナンダミド#カンナビノイド受容体|カンナビノイド受容体]]([[wikipedia:Cannabinoid receptor|cannabinoid receptor]])、[[wikipedia:jp:ヒスタミン受容体|ヒスタミン受容体]]([[wikipedia:Histamine receptor|histamine receptor]])、[[wikipedia:jp:P2受容体ファミリー|P2Y受容体]]([[wikipedia:P2Y receptor|P2Y receptor]])があり、各々の[[wikipedia:jp:リガンド|リガンド]]により活性化される。<BR> また、Gタンパク質共役受容体以外にも、[[wikipedia:jp:TrkB receptor|TrkB]]等の受容体型チロシンキナーゼが[[wikipedia:jp:神経栄養因子|神経栄養因子]]([[wikipedia:jp:脳由来神経栄養因子|BDNF]]等)により活性化され、細胞内シグナル伝達を介して膜電位に影響を与える例が知られている<ref><pubmed>12671646</pubmed></ref>。 | ||
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== イオンチャンネルの種類 == | == イオンチャンネルの種類 == | ||
Gタンパク質シグナリングによって影響を受けるイオンチャンネルは数多いが、その中でシナプス電位として観察される電位変化をもたらすイオンチャンネルは、Gタンパク質共役型[[カリウムチャネル#内向き整流性カリウムチャネル|内向き整流性カリウムチャネル]]([[wikipedia:G protein-coupled inwardly-rectifying potassium channel|GIRK channel]])(Kir3により構成される)<ref name="ref3"><pubmed>20389305</pubmed></ref>、[[カリウムチャネル#遅延整流性カリウム電流|KCNQチャンネル]](KvLQTやM channelとも呼ばれ、[[wikipedia:Voltage-gated potassium channel#Delayed rectifier|Kv7]]により構成される)<ref name="ref4"><pubmed>19298256</pubmed></ref>、および[[イオンチャネル#TRPチャネル|TRPチャンネル]]([[wikipedia:Transient receptor potential channel|Transient receptor potential channel]])<ref name="ref5"><pubmed>15194117</pubmed></ref><ref name="ref6"><pubmed>18701065</pubmed></ref>等である。GIRKチャンネルやKCNQチャンネルのようにカリウムイオンをほぼ選択的に透過するチャンネルの場合は、開口により膜電位は過分極し、閉口により脱分極する。TRPチャンネルのような非選択的陽イオンチャンネルの場合は、開口により膜電位は脱分極し、閉口により再分極する。 GIRKチャンネルはGタンパク質共役受容体の[[wikipedia:jp:Gタンパク質#βγ複合体|G<sub>βγ</sub> サブユニット]]により活性化されるのに加え、[[wikipedia:jp:プロテインキナーゼ#プロテインキナーゼA|プロテインキナーゼA]]([[wikipedia:Protein kinase A|PKA]])依存的リン酸化によって活性化され、[[wikipedia:jp:プロテインキナーゼ#プロテインキナーゼC|プロテインキナーゼC]]([[wikipedia:Protein kinase C|PKC]])依存的リン酸化で阻害される。また、[[ホスホリパーゼC|ホスホリパーゼC]]([[wikipedia:Phospholipase C|PLC]])の活性化により細胞膜の[[ホスファチジルイノシトール#PI(4,5)P2|phosphatidylinositol-4,5-bisphosphate (PI(4,5)P<sub>2</sub>)]]が枯渇するとGIRKチャンネルおよびKCNQチャンネルは阻害される<ref name="ref3" /><ref name="ref4" />。TRPチャンネルの活性化もPLCの活性化により誘導される<ref name="ref11"><pubmed>16133266</pubmed></ref>。 | |||
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== 受容体の局在と伝達様式 == | == 受容体の局在と伝達様式 == | ||
速いシナプス電位はシナプス前線維を一回刺激することで惹起できるが、遅いシナプス電位を惹起するためにはシナプス前線維を高頻度で連続刺激する必要があることが初期の研究から知られていた。このことから、遅いシナプス電位を惹起するためにはより多量の伝達物質の放出と伝達物質の細胞外蓄積が必要であることが示唆された。このため、速いシナプス電位を担う受容体はシナプス接合部に存在するのに対し、遅いシナプス電位を担う受容体はシナプス周辺やシナプス外に存在すると推定されていた<ref name="ref3"/><ref><pubmed>10774734</pubmed></ref>。実際、近年の免疫標識法による研究によって、代謝型受容体がシナプス外に多く存在することが示されている<ref><pubmed>14657159</pubmed></ref>。ただし、どの程度の割合で受容体がシナプス外に存在するかは、受容体の種類や細胞の種類によって様々であると考えられる。 <BR> | |||
受容体がシナプス外に多く局在している場合の伝達様式は、シナプス前膜とシナプス後膜の間において1対1で伝達が行われる「シナプス伝達(synaptic transmission)」の原則から外れ、むしろ複数のシナプス前終末から放出された伝達物質の総和をシナプス外において感受している様式(多数対1の関係)や、1つのシナプス前終末から放出された伝達物質が周辺の複数の細胞の受容体に作用する様式(1対多数の関係、spill-over)、もしくはこれらの組み合わせによる多数対多数の伝達様式になっていると考えられる。このような伝達様式は「シナプス伝達」と言うよりも、むしろ「総量的伝達(volume transmission)」<ref><pubmed>8596642</pubmed></ref>や「神経修飾([[wikipedia:Neuromodulation|neuromodulation]])」と呼ぶ方が適している。 | 受容体がシナプス外に多く局在している場合の伝達様式は、シナプス前膜とシナプス後膜の間において1対1で伝達が行われる「シナプス伝達(synaptic transmission)」の原則から外れ、むしろ複数のシナプス前終末から放出された伝達物質の総和をシナプス外において感受している様式(多数対1の関係)や、1つのシナプス前終末から放出された伝達物質が周辺の複数の細胞の受容体に作用する様式(1対多数の関係、spill-over)、もしくはこれらの組み合わせによる多数対多数の伝達様式になっていると考えられる。このような伝達様式は「シナプス伝達」と言うよりも、むしろ「総量的伝達(volume transmission)」<ref><pubmed>8596642</pubmed></ref>や「神経修飾([[wikipedia:Neuromodulation|neuromodulation]])」と呼ぶ方が適している。 | ||
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== 生理的意義 == | == 生理的意義 == | ||
一般的に遅いシナプス電位の振幅は小さく、興奮性伝達の場合においても、それ自体で閾値に達して活動電位の発火を引き起こすことは殆どないと考えられる。むしろ、持続的な膜電位変化をもたらすことで、速いシナプス伝達による発火のしやすさを調節したり、自発発火に影響を与えたりするなど、修飾的な役割が主である。カルシウム透過性のあるTRPチャンネルが開口すれば、細胞内カルシウム濃度の上昇を引き起こし、細胞内[[wikipedia:jp:カルシウムシグナリング|カルシウムシグナリング]]に影響をあたえる。 なお、代謝型受容体の活性化により引き起こされるのは電位の変化(遅いシナプス電位)だけではなく、これと平行して、細胞内カルシウム濃度の変化を含む様々な細胞内シグナルカスケードが活性化されて、細胞内タンパク質のリン酸化や遺伝子発現が引き起こされ、シナプス電位の持続時間以上の長期的な影響を与え得ることに注意すべきである。 | |||
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