「動眼神経副交感核」の版間の差分

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 縮瞳は瞳孔括約筋(sphincter muscle)、レンズ調節は毛様筋(ciliary muscle)の収縮により起こるが、これらの筋は短毛様体神経(副交感神経・節後線維)によって支配される。短毛様体神経は眼球の近くにある毛様神経節(ciliary ganglion, 副交感神経節)に起源細胞がある。毛様神経節細胞は中脳にある副交感・節前細胞(副交感動眼ニューロン)の軸索とシナプス接続するが、節前線維は動眼神経下枝を通る。この系は自律神経系としては例外的に節後線維も有髄であり、伝導速度が速い。なお、サル毛様神経節細胞の90%以上が毛様体を支配することはWarwick<ref name=ref17><pubmed>13129172</pubmed></ref>の変性実験により示された。
 縮瞳は瞳孔括約筋(sphincter muscle)、レンズ調節は毛様筋(ciliary muscle)の収縮により起こるが、これらの筋は短毛様体神経(副交感神経・節後線維)によって支配される。短毛様体神経は眼球の近くにある毛様神経節(ciliary ganglion, 副交感神経節)に起源細胞がある。毛様神経節細胞は中脳にある副交感・節前細胞(副交感動眼ニューロン)の軸索とシナプス接続するが、節前線維は動眼神経下枝を通る。この系は自律神経系としては例外的に節後線維も有髄であり、伝導速度が速い。なお、サル毛様神経節細胞の90%以上が毛様体を支配することはWarwick<ref name=ref17><pubmed>13129172</pubmed></ref>の変性実験により示された。
 
 
 EW核は、Edinger<ref name=ref>'''L. Edinger'''<br>Archiv für Psychiatrie und Nervenkrankheiten<br>Berlin, 1885; 16: 858-889. (17)<br>''Neurologisches Centralblatt'', Leipzig, 1885, 4: 309. (41)</ref>とWestphal<ref name=ref><pubmed></pubmed></ref>により最初に瞳孔/レンズ調節と関連して記載されたため、彼ら2人の名前にちなむ。その後、この近傍の電気刺激により瞳孔や毛様筋に変化が生ずることは、サル、ネコなどで比較的古くから示されてきた。また、動眼神経下枝の切断や毛様神経節の切除により瞳孔散大が起こることが観察された。さらに、毛様神経節やその入力線維を刺激し、同側性に逆行性スパイクが生ずる細胞がEW核あるいはその近傍の中心灰白質、腹側被蓋野(ventral tegmental area)から記録されることはサルでもネコでも報告され、その活動が縮瞳、レンズ調節の変化と時間的に相関することも報告された(瞳孔<ref name=ref13><pubmed>5501010</pubmed></ref>; レンズ調節・瞳孔<ref name=ref2><pubmed>7237144</pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed>6512591</pubmed></ref>;レンズ調節<ref name=ref10><pubmed>7884465</pubmed></ref>)。EW核の解剖学的詳細は、サル毛様神経節を摘除して逆行性変性細胞の範囲を調べた<ref name=ref17 />の研究で明らかにされ、変性細胞は同側のEW核とその吻内側部のantero-median nucleus(AM核)に限定された。AM核はEW核吻側部の下側(腹側)で、且つ動眼神経核の吻側の細胞集団である。
 EW核は、Edinger<ref name=ref>'''L. Edinger'''<br>Archiv für Psychiatrie und Nervenkrankheiten<br>Berlin, 1885; 16: 858-889. (17)<br>''Neurologisches Centralblatt'', Leipzig, 1885, 4: 309. (41)</ref>とWestphal<ref>'''Westphal, C.'''<br>Uber einen fall von chronischer progressive Lahmung der Augenmuskeln (Ophtalmoplegia externa) nebst Beschreibung von Ganglienzellengruppen im Bereiche des Ocolumotoriuskerns<br>''Arch Psychiat nervenkr.'', 98, 846-871, 1887</ref>により最初に瞳孔/レンズ調節と関連して記載されたため、彼ら2人の名前にちなむ。その後、この近傍の電気刺激により瞳孔や毛様筋に変化が生ずることは、サル、ネコなどで比較的古くから示されてきた。また、動眼神経下枝の切断や毛様神経節の切除により瞳孔散大が起こることが観察された。さらに、毛様神経節やその入力線維を刺激し、同側性に逆行性スパイクが生ずる細胞がEW核あるいはその近傍の中心灰白質、腹側被蓋野(ventral tegmental area)から記録されることはサルでもネコでも報告され、その活動が縮瞳、レンズ調節の変化と時間的に相関することも報告された(瞳孔<ref name=ref13><pubmed>5501010</pubmed></ref>; レンズ調節・瞳孔<ref name=ref2><pubmed>7237144</pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed>6512591</pubmed></ref>;レンズ調節<ref name=ref10><pubmed>7884465</pubmed></ref>)。EW核の解剖学的詳細は、サル毛様神経節を摘除して逆行性変性細胞の範囲を調べた<ref name=ref17 />の研究で明らかにされ、変性細胞は同側のEW核とその吻内側部のantero-median nucleus(AM核)に限定された。AM核はEW核吻側部の下側(腹側)で、且つ動眼神経核の吻側の細胞集団である。


 最近のHRP(horseradish peroxidase)等のトレーサーを用いた研究により、EW核に副交感ニューロンとは異なる型のニューロンが存在し、脊髄や脳幹、小脳等に線維を送ることがサルおよびネコで報告された(Kuypersら, 1975; Castiglioniら, 1978, <ref name=ref15><pubmed>19605187</pubmed></ref>; <ref name=ref3><pubmed>78743</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>    624070</pubmed></ref>)。このために、これらのニューロンと副交感動眼ニューロンの相互関係の再検討が、HRP、WGA-HRPを用いて行われた。
 最近のHRP(horseradish peroxidase)等のトレーサーを用いた研究により、EW核に副交感ニューロンとは異なる型のニューロンが存在し、脊髄や脳幹、小脳等に線維を送ることがサルおよびネコで報告された(Kuypersら, 1975; Castiglioniら, 1978, <ref name=ref15><pubmed>19605187</pubmed></ref> <ref name=ref9><pubmed>78743</pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed>    624070</pubmed></ref>)。このために、これらのニューロンと副交感動眼ニューロンの相互関係の再検討が、HRP、WGA-HRPを用いて行われた。
 
 
 サルにおいては、Akertら<ref name=ref1 />が毛様神経節にHRP/WGA-HRPを注入し、逆行性に染色される細胞は主として同側のEW核にあり、少数の染色細胞がEW核よりも内側にみられることを示した。AM核には染色された細胞は見られなかった。この点は、Warwickの結論と異なるが、AM核の定義が異なるだけで、結果は一致しているようである<ref name=ref1 />。Burdeら<ref name=ref4><pubmed>2451977</pubmed></ref>も感度の良い蛍光染色法を用いて染色された細胞の分布がほぼ同様であることを報告した。これらの研究結果はサルでは、従来考えられたように副交感動眼ニーロンは主としてEW核に存在することを示した。
 サルにおいては、Akertら<ref name=ref1 />が毛様神経節にHRP/WGA-HRPを注入し、逆行性に染色される細胞は主として同側のEW核にあり、少数の染色細胞がEW核よりも内側にみられることを示した。AM核には染色された細胞は見られなかった。この点は、Warwickの結論と異なるが、AM核の定義が異なるだけで、結果は一致しているようである<ref name=ref1 />。Burdeら<ref name=ref4><pubmed>2451977</pubmed></ref>も感度の良い蛍光染色法を用いて染色された細胞の分布がほぼ同様であることを報告した。これらの研究結果はサルでは、従来考えられたように副交感動眼ニーロンは主としてEW核に存在することを示した。
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<references />
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(執筆者:坂東武彦 担当編集委員:渡辺大)
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