「共同運動」の版間の差分
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中枢性病変に起因する運動麻痺の回復は、筋力が直線的に増強していくというものではなく、共同運動と呼ばれる、パターン化された筋収縮がおこる。一般的に上肢の場合は屈曲が、下肢の場合は伸展がより容易であるといった特性がある。上肢を挙上しようとすると、[[wikipedia:ja:肩甲骨|肩甲骨]]の挙上後退、肩関節が外転、外旋もしくは内旋、肘関節が屈曲、手関節と手指が屈曲するパターンをとりやすい。下肢の場合は股関節の伸展・内旋・内転、膝関節の伸展、足関節の底屈・内反と足趾の底屈が生じやすい。機能回復がすすむにつれ、次第に各筋が分離した収縮が可能になる。Brunnstromのステージ分類をみるとその推移が理解できる(表1)。国際的によく用いられるさらに詳細な評価としてはFugl-Meyer運動スケールがある(表2)。上肢66点下肢34点、合計100点満点である。 | |||
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| 1. 上肢反射(各2点、計4点) | | 1. 上肢反射(各2点、計4点) | ||
屈筋群:[[wikipedia:ja:二頭筋|二頭筋]]・[[wikipedia:ja:指屈筋群|指屈筋群]] <br>伸筋群:[[wikipedia:ja:三頭筋|三頭筋]] <br>点数 0:[[wikipedia:ja:反射|反射]]消失 2:反射亢進 | |||
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| 2.2 伸筋共同運動(各2点、計6点) | | 2.2 伸筋共同運動(各2点、計6点) | ||
姿勢:坐位<br>開始肢位:屈筋共同運動の最終肢位から非麻痺側の膝に向かって腕を動かす。開始肢位を維持できなければ、他動的に持っても良い。 <br>肩内転と内旋 <br>肘伸展 <br>前腕回内 <br>点数 0:全く運動できない 1:部分的にのみ運動できる 2:すべて運動できる | |||
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| style="background-color:#dfd"| '''D.協調性・スピード(各2点、計6点) ''' | | style="background-color:#dfd"| '''D.協調性・スピード(各2点、計6点) ''' | ||
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| | | [[wikipedia:ja:指―鼻試験|指―鼻試験]]を5回できる限り速く行い、非麻痺側と比較。 | ||
振戦 <br> | 振戦 <br>点数 0:著明な[[wikipedia:ja:振戦|振戦]] 1:わずかな振戦 2:振戦は認められない。 <br> | ||
測定障害 <br>点数 0:著しいもしくは非対称的な測定障害 1:わずかなもしくは対称的な測定障害 2:測定障害は認められない <br> | 測定障害 <br>点数 0:著しいもしくは非対称的な測定障害 1:わずかなもしくは対称的な測定障害 2:測定障害は認められない <br> | ||
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| 1. 下肢反射(各2点,計4点) | | 1. 下肢反射(各2点,計4点) | ||
姿勢:背臥位 <br> | 姿勢:背臥位 <br>伸筋群:[[膝蓋腱反射]] <br>屈筋群:[[ハムストリングス・アキレス腱反射]] <br>点数 0:消失 2:反射亢進 <br> | ||
2.1 屈筋共同運動 (各2点、計6点) <br>姿勢:背臥位。股・膝・足関節を最大に屈曲させる。膝屈筋群は腱を触診する。 <br>股関節屈曲 <br>膝関節屈曲 <br>足関節背屈 <br>点数 0:まったく運動できない 1:部分的にのみ運動できる 2:3つの関節すべて運動できる <br> | 2.1 屈筋共同運動 (各2点、計6点) <br>姿勢:背臥位。股・膝・足関節を最大に屈曲させる。膝屈筋群は腱を触診する。 <br>股関節屈曲 <br>膝関節屈曲 <br>足関節背屈 <br>点数 0:まったく運動できない 1:部分的にのみ運動できる 2:3つの関節すべて運動できる <br> | ||
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| style="background-color:#dfd"| '''B.協調性・スピード(各2点,計6点)''' | | style="background-color:#dfd"| '''B.協調性・スピード(各2点,計6点)''' | ||
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| | | 姿勢:背臥位。[[踵―膝試験]]をできるだけ速く5回繰り返す(非麻痺側と比較)。 | ||
振戦 <br>点数 0:著明な振戦 1:わずかな振戦 2:振戦は認められない <br> | 振戦 <br>点数 0:著明な振戦 1:わずかな振戦 2:振戦は認められない <br> | ||
2012年12月6日 (木) 13:26時点における版
中枢性病変に起因する運動麻痺の回復は、筋力が直線的に増強していくというものではなく、共同運動と呼ばれる、パターン化された筋収縮がおこる。一般的に上肢の場合は屈曲が、下肢の場合は伸展がより容易であるといった特性がある。上肢を挙上しようとすると、肩甲骨の挙上後退、肩関節が外転、外旋もしくは内旋、肘関節が屈曲、手関節と手指が屈曲するパターンをとりやすい。下肢の場合は股関節の伸展・内旋・内転、膝関節の伸展、足関節の底屈・内反と足趾の底屈が生じやすい。機能回復がすすむにつれ、次第に各筋が分離した収縮が可能になる。Brunnstromのステージ分類をみるとその推移が理解できる(表1)。国際的によく用いられるさらに詳細な評価としてはFugl-Meyer運動スケールがある(表2)。上肢66点下肢34点、合計100点満点である。
上肢 | |
stage I | 弛緩性麻痺 |
stage II | 上肢のわずかな随意運動 |
stage III | 座位で肩・肘の同時屈曲、同時伸展 |
stage IV | 腰の後方へ手をつける。肘を伸展させて上肢を前方水平へ挙上。肘90°屈曲位での前腕回内・回外 |
stage V | 肘を伸展させて上肢を横水平へ挙上、また前方頭上へ挙上、肘伸展位での前腕回内・回外 |
stage VI | 各関節の分離運動 |
手指 | |
stage I | 弛緩性麻痺 |
stage II | 自動的手指屈曲わずかに可能 |
stage III | 全指同時握り、釣形握り(握りだけ)伸展は反射だけで、随意的な手指伸展不能 |
stage IV | 横つまみ(母指は離せない)少ない範囲での半随意的手指伸展 |
stage V | 対向つまみ、筒握り、球握り、随意的な手指伸展(範囲は一定せず) |
stage VI | 全種類の握り、全可動域の手指伸展。すべての指の分離運動 |
下肢 | |
stage I | 弛緩性麻痺 |
stage II | 下肢のわずかな随意運動 |
stage III | 座位・立位での股・膝・足の同時屈曲 |
stage IV | 座位で足を床の後方へすべらせて、膝を90°屈曲。踵を床から離さずに随意的に足関節背屈 |
stage V | 立位で股伸展位、またはそれに近い肢位、免荷した状態で膝屈曲分離運動。 立位、膝伸展位で、足を少し前に踏み出して足関節背屈分離運動 |
stage VI | 立位で、骨盤の挙上による範囲を超えた股外転。座位で、内・外側ハムストリングスの 相反的活動と結果として足内反と外反を伴う膝を中心とした下腿の内・外旋 |
表1.Brunnstromステージ
I. 上肢 計66点 |
A.肩・肘・前腕(計36点) |
1. 上肢反射(各2点、計4点) |
2.1 屈筋共同運動(各2点、計12点)
姿勢:坐位。麻痺側の耳まで腕を挙上。 |
2.2 伸筋共同運動(各2点、計6点)
姿勢:坐位 |
3. 屈筋-伸筋共同運動の混合(各2点、計6点) 手を腰椎に持ってくる
|
4.分離運動(各2点、計6点)
姿勢:坐位 肘完全伸展・前腕中間位で肩90度外転
|
5. 正常な反射活動(2点)
4の項目で満点の場合のみつける |
B.手関節(各2点、計10点) |
肩0・肘90度屈曲・前腕完全回内位での手関節背屈15度での手首の固定性(肘関節の肢位は介助可)
点数 0:手関節背屈15度ができない 1:背屈はできるが、抵抗を与えられない 2:その位置を維持でき、わずかな抵抗をかけられる。 肩0度、肘90度屈曲、前腕完全回内位における手関節掌屈背屈の反復(肘関節の肢位は介助可) 肩軽度屈曲もしくは軽度外転位、肘完全伸展位、前腕回内位における手関節背屈15度での手首の固定性(肘関節の肢位は介助可) 肩軽度屈曲もしくは軽度外転位、肘完全伸展位、前腕回内位における手関節掌背屈の反復(肘関節の肢位は介助可) 手関節の回転運動 |
C.手指(各2点、計14点) |
全体の屈曲
点数 0:屈曲が起こらない 1:幾分屈曲するが、完全には屈曲しない 2:非麻痺側と比較して完全に屈曲する 全体の伸展 Pip-Dip Hook 抵抗をかけて検査する Lateral-Pinch Cylinder Grasp Spherical Grasp ボールを持たせる。 |
D.協調性・スピード(各2点、計6点) |
指―鼻試験を5回できる限り速く行い、非麻痺側と比較。
振戦 測定障害 スピード |
II. 下肢 計34点 |
A.股膝足(各2点。計28点) |
1. 下肢反射(各2点,計4点)
姿勢:背臥位 2.1 屈筋共同運動 (各2点、計6点) 2.2 伸筋共同運動 (各2点,計8点) 3. 屈筋―伸筋共同運動の混合 (各2点、計4点) 4. 分離運動(各2点,計4点) 5. 正常な反射活動 4の項目で満点の場合のみつける |
B.協調性・スピード(各2点,計6点) |
姿勢:背臥位。踵―膝試験をできるだけ速く5回繰り返す(非麻痺側と比較)。
振戦 測定障害 スピード |
表2.Fugl-Meyer運動スケール
参考文献
Brunnstrom S.
Motor testing procedures in hemiplegia: based on sequential recovery stages.
Phys Ther 1966;46:357-375 Fugl-Meyer AR, Jaasko L, Leyman I, Olsson S, Steglind S.
The post-stroke hemiplegic patient. 1. A method for evaluation of physical performance.
Scand J Rehabil Med. 1975;7:13-31
(執筆者:宮井一郎 担当編集委員:伊佐正)