「ホスホリパーゼC」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
37行目: 37行目:
=== PLCη  ===
=== PLCη  ===


 PLCη1は主に神経系で発現しており、海馬や小脳プルキンエ細胞での発現が高い。PLCηも同様にニューロン特異的酵素であり、海馬、大脳皮質、嗅球で発現が高い。
 PLCη1は主に神経系で発現しており、海馬や小脳プルキンエ細胞での発現が高い。PLCη2も同様にニューロン特異的酵素であり、海馬、大脳皮質、嗅球で発現が高い。


<br>  
<br>  
49行目: 49行目:
=== PLCβ  ===
=== PLCβ  ===


 主な活性化経路は7回膜貫通型3量体G蛋白質共役型受容体(以下、G蛋白質共役型受容体)を介したものである。Gq共役型受容体を介して活性化される3量体G蛋白のαサブユニットが作用する経路と、Gi共役型受容体刺激により遊離するβγサブユニットが作用する経路とがある。PLCβを活性化しうるαサブユニットはGαqファミリー(脳ではGαqおよびGα11)であり、PLCβのC末の調節ドメインに結合し作用する。PLCβ1-4のいずれも活性化しうるがPLCβ1およびPLCβ4への作用が最も強く、PLCβ2への作用が最も弱い。一方、GβγサブユニットはPLCβ2およびPLCβ3に作用するが、PLCβ1への作用は弱く、PLCβ4には作用しない。また、PLCβ2およびPLCβ3は、Racなどの低分子量G蛋白質による活性化も報告されている。  
 主な活性化経路は7回膜貫通型3量体G蛋白質共役型受容体(以下、G蛋白質共役型受容体)を介したものである。Gq共役型受容体を介して活性化される3量体G蛋白質のαサブユニットが作用する経路と、Gi共役型受容体刺激により遊離するβγサブユニットが作用する経路とがある。PLCβを活性化しうるαサブユニットはGαqファミリー(脳ではGαqおよびGα11)であり、PLCβのC末の調節ドメインに結合し作用する。PLCβ1-4のいずれも活性化しうるがPLCβ1およびPLCβ4への作用が最も強く、PLCβ2への作用が最も弱い。一方、GβγサブユニットはPLCβ2およびPLCβ3に作用するが、PLCβ1への作用は弱く、PLCβ4には作用しない。また、PLCβ2およびPLCβ3は、Racなどの低分子量G蛋白質による活性化も報告されている。  


=== PLCγ  ===
=== PLCγ  ===


 主な活性化経路は増殖因子や神経栄養因子などに対するチロシンキナーゼ活性を有する受容体を介したものである。リガンドの結合により受容体の自己チロシンリン酸化が起こり、その部位にPLCγがSH2ドメインを介して結合し、その後PLCγ自身もチロシンリン酸化され活性化される。それと同時に、受容体はフォスファチジルイノシトール3-キナーゼ(phosphatidylinositol 3-kinase, PI3K)を活性化し、それにより産生されるフォスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸(phosphatidylinositol 3,4,5-triphosphate, PIP3)はPLCγを膜へ移動させ活性化を促進する。また、G蛋白質共役型受容体などのチロシンキナーゼ活性を持たない受容体がチロシンキナーゼ活性を有する受容体あるいは非受容体性チロシンキナーゼを介してPLCγを活性化させる経路、さらにはチロシンリン酸化を介さない経路など、さまざまな活性化経路が報告されている。
 主な活性化経路は増殖因子や神経栄養因子などに対するチロシンキナーゼ活性を有する受容体を介したものである。リガンドの結合により受容体の自己チロシンリン酸化が起こり、その部位にPLCγがSH2ドメインを介して結合し、その後PLCγ自身もチロシンリン酸化され活性化される。それと同時に、受容体はフォスファチジルイノシトール3-キナーゼ(phosphatidylinositol 3-kinase, PI3K)を活性化し、それにより産生されるフォスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸(phosphatidylinositol 3,4,5-triphosphate, PIP<sub>3</sub>)はPLCγを膜へ移動させ活性化を促進する。また、G蛋白質共役型受容体などのチロシンキナーゼ活性を持たない受容体がチロシンキナーゼ活性を有する受容体あるいは非受容体性チロシンキナーゼを介してPLCγを活性化させる経路、さらにはチロシンリン酸化を介さない経路など、さまざまな活性化経路が報告されている。


=== PLCδ  ===
=== PLCδ  ===
91行目: 91行目:
== Gq共役型受容体-PLCβを介する反応の例  ==
== Gq共役型受容体-PLCβを介する反応の例  ==


 神経系、特に中枢ニューロンのPLCの働きに関する研究のほとんどは、Gq共役型受容体–PLCβを介する反応を調べたものである。そこで、海馬ニューロンのムスカリン性受容体を介する反応を例に挙げ説明する。海馬ニューロンにおいて、電気刺激による内在アセチルコリンの遊離、あるいはアセチルコリン受容体アゴニストの投与によりさまざまな反応が引き起こされることが報告されている。その中からPLCβを介すると思われるものを以下に示す。一部の反応については、ノックアウトマウスを用いて、関与する受容体とPLCのタイプが主にM1受容体とPLCβ1であることが証明されている。すべて証明された訳ではないが、他の反応も同様であると思われる。
 神経系、特に中枢ニューロンのPLCの働きに関する研究の多くは、Gq共役型受容体–PLCβを介する反応を調べたものである。そこで、海馬ニューロンのムスカリン性受容体を介する反応を例に挙げ説明する。海馬ニューロンにおいて、電気刺激による内在アセチルコリンの遊離、あるいはアセチルコリン受容体アゴニストの投与によりさまざまな反応が引き起こされることが報告されている。その中からPLCβを介すると思われるものを以下に示す。一部の反応については、ノックアウトマウスを用いて、関与する受容体とPLCのタイプが主にM1受容体とPLCβ1であることが証明されている。すべて証明された訳ではないが、他の反応も同様であると思われる。


=== 静止膜電位の変化  ===
=== 静止膜電位の変化  ===
113行目: 113行目:
 ムスカリン受容体刺激はシナプス可塑性に多様な影響をおよぼす。CA1錐体細胞への興奮性入力において、ムスカリン受容体刺激は、長期抑圧(long-term depression, LTD)あるいは長期増強(long-term potentiation, LTP)を単独で誘導し、また、電気刺激で誘導されるLTPを促進する。LTDの誘導にはCa<sup>2+</sup>濃度上昇と蛋白合成が必要であり、LTPの誘導にはIP<sub>3</sub>受容体を介するCa<sup>2+</sup>放出とPKCが関与する。LTPの促進については、前述のNMDA受容体に対する促進作用やSKチャネルの抑制の関与が報告されている。後者については、M1受容体の活性化によりPKCを介してSKチャネルが抑制され、それによりLTP誘導時の興奮性シナプス後電位(excitatory postsynaptic potential, EPSP)の持続時間が延び、それによりNMDA受容体のチャネル機能が促進される、と説明されている。  
 ムスカリン受容体刺激はシナプス可塑性に多様な影響をおよぼす。CA1錐体細胞への興奮性入力において、ムスカリン受容体刺激は、長期抑圧(long-term depression, LTD)あるいは長期増強(long-term potentiation, LTP)を単独で誘導し、また、電気刺激で誘導されるLTPを促進する。LTDの誘導にはCa<sup>2+</sup>濃度上昇と蛋白合成が必要であり、LTPの誘導にはIP<sub>3</sub>受容体を介するCa<sup>2+</sup>放出とPKCが関与する。LTPの促進については、前述のNMDA受容体に対する促進作用やSKチャネルの抑制の関与が報告されている。後者については、M1受容体の活性化によりPKCを介してSKチャネルが抑制され、それによりLTP誘導時の興奮性シナプス後電位(excitatory postsynaptic potential, EPSP)の持続時間が延び、それによりNMDA受容体のチャネル機能が促進される、と説明されている。  


===内因性カンナビノイド2-AGの放出  シナプス後側のムスカリン受容体刺激はPLCβを介してDAGを、さらにDGLを介して2-AGを生成する。2-AGは細胞外へと拡散し、シナプス前終末のCB1受容体に結合し、伝達物質の放出を抑制する<ref><pubmed>19126760</pubmed></ref>。  
=== 内因性カンナビノイド2-AGの放出 ===
 
 シナプス後側のムスカリン受容体刺激はPLCβを介してDAGを、さらにDGLを介して2-AGを生成する。2-AGは細胞外へと拡散し、シナプス前終末のCB1受容体に結合し、伝達物質の放出を抑制する<ref><pubmed>19126760</pubmed></ref>。  


<br>  海馬のムスカリン受容体の場合を例に挙げたが、他の脳領域や他のGq共役型受容体の場合も同様に考えることができる。しかし、どの受容体を介してどのような反応が引き起こされるのかは細胞により大きく異なり、発現しているシグナル関連分子の発現量や分布様式により決まると考えられる。  
<br>  海馬のムスカリン受容体の場合を例に挙げたが、他の脳領域や他のGq共役型受容体の場合も同様に考えることができる。しかし、どの受容体を介してどのような反応が引き起こされるのかは細胞により大きく異なり、発現しているシグナル関連分子の発現量や分布様式により決まると考えられる。  
16

回編集