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2013年9月9日 (月) 09:58時点における版
杉内友理子
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 システム神経生理学
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2012年5月28日 原稿完成日:2013年月日
担当編集委員:伊佐 正(自然科学研究機構生理学研究所)
羅:nuclei vestibulares 英:vestibular nuclei 独:Gleichgewichtskerne
前庭器官に由来する前庭神経節細胞の一次求心性神経が終止する核である。一次求心性神経以外に、対側の前庭神経核、小脳皮質、小脳核、舌下神経前位核、Cajal間質核、脊髄、大脳皮質前庭野、脳幹網様体からの入力もある。投射先としては、外眼筋の運動神経核(動眼神経核、滑車神経核、外転神経核)、視床などがある。また、自律神経系の諸核とも線維連絡がある。したがって、前庭神経核は、単に末梢前庭からの入力を中枢に伝える感覚性の一次中継核であるという機能にとどまらず、多彩な入力を受け、中枢神経のさまざまな部位に出力し、眼球運動、体平衡機能などの運動機能や、自律神経機能にも深く関わっている。
解剖構造
橋・延髄移行部において、外転神経核のやや吻側から舌下神経核吻側部のレベルに広がる大きな神経核である。大きく上核、外側核、内側核、下核の4亜核に分類される。
上核
第四脳室の外側壁に位置し、背側に上小脳脚が存在する。中〜小型の細胞が散在するが、中心部では周辺部よりやや密度が高い。
外側核
外側核には巨大細胞(Deiters細胞)が存在し、Deiters核とも称される。このDeiters 細胞の存在する部位は、外側核の中でも背側部であり、その腹側には、大型の細胞の存在する領域があり、この領域をどのように考えるかにより、外側核の腹側の境界に関して、研究者により意見が異なる。Brodalらは、この領域を、ネコとサルにおいて、”外側核腹側部”とした [2] [3]。Voogdらは、細胞構築学のみならず、中枢神経内の他の部位との線維連絡の様式の観点から、この領域を内側核の一部と考え、”内側核大細胞部magnocellular division”と呼んだ[4] [5]。機能的にも、Deiters細胞が存在する外側核の背側部は、腹側部とは異なることが知られている。すなわち、背側部は、発生学的に小脳核の一部と考えられ、一次求心性神経が投射せず、小脳皮質のプルキンエ細胞から直接抑制を受ける。それに対して腹側部は、半規管、耳石器からの一次求心性神経の強い投射を受けるが、プルキンエ細胞からの投射はない。
内側核
第四脳室の直下にあり、小型の細胞が密に存在する。吻側は外側核の吻側端とほぼ同じレベルで始まり、上核との境界は決めにくい。
下核
縦走線維が核内を通過することにより、前庭神経核の他の亜核と区別される。吻側部には大きな細胞が多く、外側核との区別が時にやや困難だが、外側核におけるよりも、細胞密度が低いことにより区別される。
その他の小亜核
Brodalは、上記の4亜核以外に小グループ(小亜核)(x, y, z, f, g, l, m, Sv)を分類記載した[3]。この中で前庭神経からの入力を受け、前庭神経核との密な線維連絡が見られるのはgroup yのみである。これは下小脳脚の背尾側で、外側核尾側部のすぐ外側にある。group yの腹側部は前庭神経からの入力を受けるが、背側部は受けないので、背側部の細胞群は、小脳下核と呼ばれることがある[6] [7] [8]。
入力
前庭神経(前庭器官に由来する前庭神経節細胞の中枢へ向かう軸索、すなわち一次求心性神経)が終止する領域(一次中継核)を含むが、前庭神経核の全体に前庭神経が投射しているわけではない。
前・外側(水平)半規管からの入力
前・外側(水平)半規管由来の一次求心性神経は、上核の全域、下核、および内側核全域に投射する。後半規管由来の一次求心性神経は、前庭神経核の中央部に集中している[6]。耳石器系については、最近の研究[7] [8]により、球形嚢由来の線維は、上核の尾側部に投射することが明らかとなった。卵形嚢由来の神経は、4亜核のすべてに投射するが、上核への投射は少ない。前庭神経核の2次あるいは高次細胞において、複数の半規管あるいは半規管と耳石器の入力が認められる[7] [8]。
外側(水平)半規管からの入力
外側(水平)半規管から入力を受ける前庭神経核細胞は、反対側の外側(水平)半規管から抑制を受ける。これを交連抑制(commissural inhibition)という[9]。これは左右の前庭神経核間の線維連絡を介するもので、前庭入力に対する前庭神経核細胞の感受性を高める重要な機能をもつ。同一平面内に存在する左右の垂直半規管のペアについても交連抑制が存在する[7] [8]。また、従来耳石器においては、交連抑制は存在しないと考えられてきたが、最近、卵形嚢系においてその存在が明らかとなった[7] [8]。
その他
一次求心性神経以外に、前庭神経核へ入力を及ぼす部位として、対側の前庭神経核、小脳皮質、小脳核、舌下神経前位核、Cajal間質核、脊髄、大脳皮質前庭野、脳幹網様体などがある。前庭神経核からの投射先としては、外眼筋の運動神経核(動眼神経核、滑車神経核、外転神経核)、視床の他、上記の入力を及ぼす部位の多くに出力もしている。また、自律神経系の諸核とも線維連絡がある。したがって、前庭神経核は、単に末梢前庭からの入力を中枢に伝える感覚性の一次中継核であるという機能にとどまらず、多彩な入力を受け、中枢神経のさまざまな部位に出力し、眼球運動、体平衡機能などの運動機能や、自律神経機能にも深く関わっている。
出力
前庭神経核からの運動系への出力については特に詳しく研究されている[7] [8] [10]。
前庭動眼反射および前庭頚反射に関与する出力
前庭動眼反射および前庭頚反射(前庭脊髄反射のうち頸部にみられるもの)に関与する前庭神経核内の興奮性細胞の多くは、外眼筋の運動細胞と頚筋の運動細胞に直接投射している。
前庭脊髄路
前庭脊髄路は内側および外側前庭脊髄路に分けられる。外側前庭脊髄路の主な起始核は外側核で主に同側を下行する。腰髄にまで投射するものを含むが、多くは上部頚髄にも投射し、頚筋の運動細胞も支配する[1]。内側前庭脊髄路は、両側性に上部頚髄に投射する。起始細胞は、内側核、外側核、下核に存在し、上核には存在しない。眼球運動系への投射は主に内側縦束(MLF, medial longitudinal fascicle)を経由している。起始細胞は、上核に比較的多いが他の亜核にも存在する。前庭神経核からの出力に関しては、前庭脊髄路、前庭動眼反射の項を参照されたい。
受容器別に見てみると、半規管入力を受ける前庭神経核細胞の多くは内側および外側前庭脊髄路を経由して頚筋を支配する。内側前庭脊髄路を下行するものの半数は、上行枝を出して眼球運動系にも投射する。半規管系の前庭反射に関与する前庭神経核細胞には、興奮性のものと抑制性のものとが存在する。興奮性のものは上行枝と下行枝の両方をもつものが多いが、抑制性のものは上行枝のみ、下行枝のみのものがほとんどである。耳石器系からの出力は、外側前庭脊髄路を介して脊髄運動系に至るものが強力である。この系は、古くは腰髄にまで下行するとされたが、近年の研究では大部分は頚髄に終わることが明らかにされた[7][8]。耳石器系から眼球運動系への出力は半規管系に比べると弱い[7][8]。
上行性投射
前庭神経核からの上行性投射として、上述した眼筋の運動神経核以外で重要なのは、Cajal間質核と視床への投射である。Cajal間質核は、前庭神経核と相互に線維連絡があり、垂直性の前庭動眼反射において、眼球の位置信号を形成するための神経積分器の構成要素として知られている[11] [12]。
前庭神経核から視床を介する大脳皮質への投射は、平衡覚の認知に重要である。視床内で、前庭神経核からの投射を受けることが知られている部位は広汎で、束傍核外側部、 外側中心核—外側腹側核尾部、外側腹側核—後外側腹側核移行部、背外側核、外側腹側核、腹側基底核群、 膝状体上核などが報告されている。前庭神経核から視床に投射する軸索の多くは、半規管由来のもので、前庭神経核を出て、対側内側縦束を上行する興奮性の細胞であり、起始細胞とは反対側の視床に投射する。耳石器系に関しては、卵形嚢入力は主に同側、球形嚢入力は反対側の視床への投射が報告されている[7] [8]。
大脳皮質への前庭入力に関しては、「平衡覚」の項も参照されたい。
関連項目
参考文献
- ↑ 1.0 1.1
Shinoda, Y., Sugiuchi, Y., Izawa, Y., & Hata, Y. (2006).
Long descending motor tract axons and their control of neck and axial muscles. Progress in brain research, 151, 527-63. [PubMed:16221600] [WorldCat] [DOI] - ↑
Brodal, A. (1984).
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The Vestibular nuclei and their connections - Anatomy and functional correlations -.
London, Oliver and Boyd; 1962. - ↑
Epema, A.H., Gerrits, N.M., & Voogd, J. (1988).
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前庭神経核とその入力. 21世紀耳鼻咽喉科領域の臨床 Clinical Textbooks of the Ear, Nose and Throat Regions 21,
野村恭也, 小松崎篤, 本庄巌編、中山書店, 1999, p. 42-59. - ↑ 7.0 7.1 7.2 7.3 7.4 7.5 7.6 7.7 7.8 内野善生
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