「トポグラフィックマッピング」の版間の差分

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<br> &lt;Ocular column dominance&gt;  
 トポグラフィックマップの形成後はそれが変わることは難しいが、脳の領域ごとに可塑性が持続する時期があり、それを臨界期と呼ぶ。この時期には神経活動依存的な修飾が可能な時期であり、この時期内での神経活動の変化は脳内でのマップのパターンを変えることができる。<br> &lt;Ocular column dominance&gt;  
 
 視覚中枢において片方の眼ともう片方の眼からの刺激を受ける領域がストライプ状に交互にみられる。通常は片方の眼ともう片方の眼のそれぞれのストライプは同じ大きさである。このストライプの形成にも神経活動が必要であり、臨界期における神経活動の変化はこのマップのパターンを変える。


<br> 同義語:  
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2012年2月11日 (土) 20:44時点における版

Topographic fine tuning

 トポグラフィックファインチューニングについて書いてほしいとの依頼であるが、これは2つのおそらく分ける事のできる概念を含んでいるのではないかと考える。1つはトポグラフィックマッピング、topographic mappingで、もう1つはその過程の1つである活動性依存性ファインチューニング、activity dependent fine tuningであると思う。前者についてはwikipediaにある程度記載があるが、後者については今のところないので、前者について少しだけ述べ(特にヒストリカルなポイント)、 両者を組み合わせる形で後者について説明する。

<topographic mappingのミッション>

 例えば視覚において、網膜の中のある視細胞がその受け持つ視覚フィールドのある位置における情報を受け取った際に、それを視覚フィールドの空間における位置情報として視覚野で認識されるために、網膜のそれぞれの視細胞の情報を脳の特異的な細胞へつなぐ。そうすることによって、網膜内での位置関係(つまりは視覚フィールドにおける位置関係)を脳内での位置関係として保存する事ができる。したがって、位置情報が脳の中で位置情報として保存されるという事である。これをするためにはトポグラフィックにそれぞれの視細胞の軸索が視覚系においてターゲッティングする事が必要となる。これをトポグラフィックマッピングといい、その結果、脳内にトポグラフィックなマップができる。これには神経の活動なしに起こる過程と神経細胞の活動性に依存して起こる過程がある。  脳内におけるトポグラフィックなマップを示唆する古典的な実験としては1943年にRoger Sperryによるカエルの目を180度まわす事によってカエルの視覚がどうなるかを見たものがある。カエルの目を180度まわすとカエルは上下逆転した形で視覚情報を認識するようになる。これは網膜の上と下に位置する視細胞からの位置情報が脳内での位置として保存されているために起こる。これについては化学親和説(chemoaffinity theory)の項を参照されたい。また、似た様な概念で、Wilder Penfieldによる感覚野と運動野におけるどの部位が体のどの部位の感覚、運動に対応するかをマッピングしたものもある(Cortical homunculus、1951年)。これは脳のどこを刺激すると体のどこが動くか、また、脳のどこを刺激するとどこが感じたように感じるかをヒトでマッピングしたものである。

<topographic mappingのロジックとその分子メカニズム—歴史的ポイント>

 Roger Sperryは彼の一連の視覚系のマニピュレーションの実験の結果から1963年のchemoaffinity theoryの中で、投射する軸索と標的の細胞に分子のタグがついていて、その間の特異的相互作用によって神経細胞通しの結合が決定されトポグラフィックマップの形成に関与すると提唱した。また、こういった分子のタグは軸索と標的の両方で相補的なグレディエントを形成していて、それでコネクションのできる位置が決定されるのではないかと推測した。その流れを汲んでその後、視覚系を中心にトポグラフィックマッピングのメカニズムを追求する努力がなされた。ニワトリの眼において耳側と鼻側の視細胞はそれぞれ視蓋の前側と後側に軸索を送り、眼の中の耳鼻軸に沿った位置情報は視蓋の中で前後軸として保存される。これは眼の中で耳側と鼻側に軸に沿ったグレディエントがあり、それに対応するグレディエントが視蓋の前後軸にもあり、それによって、それぞれの視細胞の軸索を送る場所が決定されると考えられた。その分子メカニズムについてはFriedrich(パパ)Bonhoefferのグループが生化学的に視蓋での物質的基盤を明らかにすべく以下の様な実験を行った。彼らは、もし、視蓋に前後軸でグレディエントに発現している物質があってそれが重要であるならば、視蓋の前側と後側から調整した膜画分で網膜の視細胞の軸索のレスポンスが変わるであろうと考え、これらの膜画分をストライプとしてビトロでのサブストレートとして形成した。そこへ網膜の視細胞をまくと、耳側の視細胞の軸索は前側から調整した膜画分の上を好んで成長するのに対して、鼻側の視細胞の軸索はプレファレンスを示さない事、そして、耳側の軸索は特に前側の膜画分を好むわけではなく、後側の膜画分を避ける事が示された。この事は視蓋の後側に高く前側に低く発現されている物質があり、それが耳側で強く発現し鼻側で弱く発現するものによって認識される事によって視細胞の軸索の視蓋内での位置が決まるという事を示唆する。これがEph-Ephrinの発見につながった事はご承知の通りである(直接の発見は実は偶然であったのだが)。これについてはその項を参照いただきたい。

<各論>

 ここでは視覚系と嗅覚系に関して簡単に述べる。その他にも聴覚系、体性感覚系、運動系などのトポグラフィックマップについても研究されている。  視覚系において、上記の様に、特に網膜から視蓋/上丘への投射がトポグラフィックになっていることはよく知られている。この形成には幾つかの過程があり、様々な分子が関与していることが知られている。基本的にはSperryの仮説の様に分子がグレディエントとして発現していることによる。一番よく研究されているのが網膜での耳側−鼻側の軸が視蓋/上丘での前後軸に分布するメカニズムである。まず、網膜の視神経細胞の軸索は将来の標的位置よりも後ろへオーバーシュートして伸長することが知られている。その後、EphAs-EphrinAsのグレディエントで前後軸に沿った正しい位置で軸索からinterstitial branchingがおこり、その後、そのbranchが今度は視蓋/上丘の内側−外側の軸に沿ったグレディエントで正しい最終集結点に導かれる。ここまでは神経活動に依存せずにおこる。その後、更なるマップのリファインメント(標的領域がさらにレストリクトされる)が行われるがこれには神経活動が必要である。これには網膜内でのスポンテニアスな電気活動のウェーブの存在が重要であることが示されている。こういった過程に関わるグレディエントに関してはカウンターバランスを示す2つのグレディエントがあるという考え方と、1つのグレディエントがプッシュとプルと両方やれるという考え方とある。その他、もう一つの可能性として、軸索同士が競合するという可能性もある。最近の知見では軸索同士の競合も視覚系におけるトポグラフィックマッピングに必要であるとされている。  

 嗅覚系においてもトポグラフィックマッピングが行われることが知られているが、坂野らのグループによる精力的な研究によりその詳細な分子メカニズムが明らかにされてきている。においはオルファクトリーレセプターで感知されるが、一つの嗅上皮細胞は一種類のオルファクトリーレセプターを発現している。そして同じオルファクトリーレセプターを発現する細胞からの刺激は嗅球の中の同じ糸球体に収束する必要がある。嗅球の中での配置は前後軸及び内側外側の軸で決定されているが、内側外側の軸での配列は嗅上皮内での配置によって決定される。前後軸に関してはどのオルファクトリーレセプターが発現されているかによって産生されるcAMPの量が変わり、これによってSema3A/neuropilin1のカウンターグレディエントが嗅上皮からの軸索内でおこり、これによって標的にたどり着く前にプレソートされることによって、前後軸のどこに位置するかが決定される。内側外側に関しては、まず、嗅上皮内でのrobo2のグレディエントによってパイオニア軸索の嗅球での配置がまず決定され、その後、嗅上皮の軸索内でのSema3F/neuropilin2のカウンターグレディエントによって嗅球内での内側外側の位置づけが決まる。特徴的なのは、嗅覚の場合、アクソンアクソンの相互作用が非常に重要な役割を果たしていることである。こういった過程で軸索が標的位置に到達しシナプスを形成したあと、やはり視覚系と同じ様に神経活動依存的なリファインメントがおこる(糸球体がディスクリートにセグレゲートする)。この過程においては神経活動依存的にホモフィリック結合をする細胞接着因子Kirrel2/3と接着依存性の反発因子であるEphA5-EphrinA5がやはりグレディエントで発現し、それによって糸球体が相互に分かれていくことが起こる。

Chemoaffinity revisited

<Critical point>

 トポグラフィックマップの形成後はそれが変わることは難しいが、脳の領域ごとに可塑性が持続する時期があり、それを臨界期と呼ぶ。この時期には神経活動依存的な修飾が可能な時期であり、この時期内での神経活動の変化は脳内でのマップのパターンを変えることができる。
<Ocular column dominance>

 視覚中枢において片方の眼ともう片方の眼からの刺激を受ける領域がストライプ状に交互にみられる。通常は片方の眼ともう片方の眼のそれぞれのストライプは同じ大きさである。このストライプの形成にも神経活動が必要であり、臨界期における神経活動の変化はこのマップのパターンを変える。


同義語:

重要な関連語:標的認識、Topographic map、Chemoaffinity theory、Eph-Ephrin

(執筆者:櫻井武、担当編集委員:大隅典子)