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担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br> | ||
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2014年6月26日 (木) 13:40時点における最新版
相川 義勝、高森 茂雄
同志社大学 高等研究教育機構
DOI:10.14931/bsd.1164 原稿受付日:2012年5月21日 原稿完成日:2014年4月20日
担当編集委員:林 康紀(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
英:tetanus toxin、英語略:TeNT、独:Tetanustoxin 仏:toxine tétanique
同義語:破傷風毒素、テタノスパスミン (tetanospasmin)
テタヌス毒素とは、土壌中に棲息するグラム陽性型嫌気性細菌であるクロストリジウム属の(破傷風菌)Clostridium tetaniによって産出される世界最強のタンパク質毒素の1つである。 同属には(ボツリヌス菌)Clostridium botulinumが産出するボツリヌス毒素があり、これらは共に分子量約50 kDaの軽鎖と100 kDaの重鎖の2本のポリペプチド鎖から構成される。テタヌス毒素の生体への毒素の作用機序としては、まず重鎖が神経細胞の膜にあるガングリオシドに結合し、続いてテタヌス毒素分子の細胞内への侵入を起こす。侵入後、亜鉛依存的なタンパク質分解活性をもつ軽鎖が、神経伝達物質のエキソサイトーシスを担うSNAREタンパク質の1つであるVAMPを分解することで神経伝達物質の放出が抑制される。その結果、テタヌス(tetanus)と呼ばれる痙攣性麻痺が引き起こされる。
Peptidase_M27 | |||||||||
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同じファミリータンパク質であるボツリヌスA型毒素の結晶構造 | |||||||||
Identifiers | |||||||||
Symbol | ? | ||||||||
Pfam | PF01742 | ||||||||
Pfam clan | CL0126 | ||||||||
PROSITE | PDOC00129 | ||||||||
MEROPS | M27 | ||||||||
SCOP | 3bta | ||||||||
SUPERFAMILY | 3bta | ||||||||
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テタヌス毒素とは
テタヌス(Tetanus)という用語は、それによって起きる強直(麻痺)を”tetanus”として定義したヒポクラテスにより、最初に医学用語に記された[4]。そのテタヌス(破傷風)の原因であるテタヌス毒素 は、嫌気性細菌である(破傷風菌)(Clostridium tetani )により分子量150 kDaの不活性型の単純タンパク質として産出される。
テタヌス毒素の半数致死量(LD50)は、マウスの末梢神経へ投与した場合、1 kgあたり0.4 ngから1 ngの間である[5]。テタヌス(破傷風)の発症は、破傷風菌の胞子が、傷口から体内に侵入することにより感染が起こる。最初の感染から発症まで数日から4週間かかるがこれは、
に必要な時間に相当するためである。
感染の結果、中枢神経系のシナプス終末から神経伝達物質の放出の阻害を行い、痙性対麻痺を引き起こす。
症状
通常、開口障害、嚥下障害そして項部硬直などの症状により始まる。麻痺は時間経過に伴い、胴体、腹部そして脚の筋肉へと下部へと広がっていく(図1)。しばしば致命的となり、全身倦怠、呼吸器系や心不全の後、死に到る。致死率は近年の医学の進歩により減少しているが、高齢者の患者の場合では依然として高い。ホルムアルデヒドで処理する事でワクチン化した毒素により、先進国からはほとんど消失したが、ワクチン接種が進んでいない国々では依然として年間数十万人もの人々が亡くなっている。
構造
テタヌス毒素の遺伝子は、破傷風菌において75 kbのプラスミド上にコードされている[6]。合成された1本のポリペプチド鎖(1315アミノ酸)は不活性であるが、トリプシン様のタンパク質分解酵素により457番目のAlaから461番目のAspまでの間で限定分解を受け、N末端側の分子量50 kDaの軽鎖(449アミノ酸)とC末端側の分子量100 kDaの重鎖(857アミノ酸)となり活性型となる。両鎖は、1つのジスルフィド結合と非共有結合により繋がっている。
構造名称については、破傷風菌と同属である(ボツリヌス菌)が産出するボツリヌス毒素で提唱された名称と、第8回国際破傷風会議(1987)で採択された名称とがある。前者の場合、軽鎖を(L)、重鎖を(H)とする。また重鎖(H)は、そのN末端側の50 kDaのαヘリックスドメインを(HN)、そのC末端側(865-1315)にある50 kDaを(HC)とし、さらにHCには分子量25 kDaのHCNとHCCのサブドメインに分けられる(図2)。一方後者の場合、テタヌス毒素をパパイン処理するとC末端側50 kDaのペプチド断片とN末端側100 kDaのペプチド断片に分離されたことから、重鎖のC末端側50 kDaをFragment C (Frg C)、N末端側50 kDaをFragment B (Frg B)、さらに軽鎖をFragment A (Frg A) と呼称している。
各ドメインにはそれぞれ異なる機能があり、N末端側のLドメインは金属タンパク質分解活性をもち、HNドメインは膜移行に、そしてHCドメインは結合に、それぞれ関与している。
テタヌス毒素と各血清型のボツリヌス毒素との遺伝子レベルでの比較では、全体の相同性が~35%と低い。
軽鎖
ボツリヌス毒素の軽鎖と同様に、テタヌス毒素の軽鎖(Lドメイン)は、亜鉛依存的な金属プロテアーゼとして作用し毒性を引き起こす。B型ボツリヌス毒素と同様にシナプス小胞の膜蛋白質のv-SNAREであるSynaptobrevin-2/vesicle-associated membrane protein (VAMP)のGln(76)とPhe(77)の間の限定分解を行う(図3)。その結果、シナプス小胞とシナプス前膜とのドッキングが阻害され、抑制性神経伝達物質であるGABAやGlycineなどの放出が抑制される。これがテタヌス毒素によるシナプス前抑制の分子機構である[7]。ただし、アイソフォームの中には、テタヌス毒素に切断されないものもある(図4)[8]。
テタヌス毒素の軽鎖は二量体を形成する(図5)。活性部位は基質となるタンパク質が近づきやすい溝の内部に位置し、亜鉛に結合するモチーフであるHExxH(233-237)が中央部となるように正に荷電した亜鉛と配位結合する(図6)。つまり、亜鉛は2つのHisのイミダゾ-ル環(His(232)とHis(236))、そしてGlu(270)などのアミノ酸、さらにGlu(233)と強固な水素結合を形成する求核性の水分子、といった4つと相互作用している。特にこのモチーフ内にあるグルタミン酸は、それに結合している水分子が直接的にタンパク質の加水分解反応に関与するため特に重要である[2][1]。
重鎖
重鎖(Hドメイン)N末端側のHNは、ベシクル膜から軽鎖を移行させることに関与しているが、疎水性が極めて高く、容易に不溶化沈殿するためにその構造解析が進んでいない。
HCドメインは神経筋接合部での神経終末へのテタヌス毒素の特異的な結合とその後の内部への取り込みに関与する(図7)。その結合には、神経細胞膜上に特にみられるポリシアロガングリオシド、グリコスフィンゴリン脂質と複合体を形成する。
HCドメインには、さらに2つのサブドメイン構造のHCNとHCCから構成される。
HCNサブドメインはいくつかの炭水化物結合タンパク質(マメ科植物のレクチン等)と似たようなjelly-rollモチーフ内にβストランド構造を含む。HCNのアミノ酸配列は、クロストリジウム属の中でも高度に保存されている。
HCCサブドメインはIL-1やFGFといったタンパク質の認識と結合に関与するβシートが3つパックされたβ-trefoilという3つ葉状の構造を形成している。この配列はクロストリジウム属の中でも非常に保存性が低い。HCCサブドメインにはポリシアロガングリオシド(GD1bとGT1b)のオリゴ糖の部分に対して2つの結合部位があり、結合する部位(1281-1314)の中でもHis(1293)が関与する[3][9]。
作用機序
細胞膜への結合
テタヌス毒素は神経筋接合部細胞膜に結合する。現在もなおテタヌス毒素の受容体については不明であるが、テタヌス毒素のHcCドメインには、2つのガングリオシド結合部位がこれまでに同定され、ポリシアロガングリオシド分子と糖タンパク質にそれぞれ結合することが考えられている。実際にテタヌス毒素はGPIアンカー型糖タンパク質と脂質ラフトに結合する[10]。
エンドサイトーシス
細胞表面に結合した毒素は神経終末膜を介して神経内に取り込まれる。運動神経終末での形質膜上に発現する受容体を介したエンドサイトーシスにより取り込まれるボツリヌス毒素とは異なり、テタヌス毒素は脂質ラフトやガングリオシドであるGD1bを含む脂質タンパク質受容体複合体に結合するクラスリン依存的なエンドサイトーシスにより内部に入る。
逆行性輸送
クラスリン被覆小胞によりいったん取り込まれたテタヌス毒素は、神経中枢の神経細胞体へ逆行性に運ばれ、さらにシナプスを越えて高次神経細胞のシナプス前部に到達する過程(transcytosis)にHcが関与している。標識されたHcは取り込まれた後も中性を保ったコンパートメントで細胞体へと逆行性に運搬され、脊髄前角に到達し運動神経の樹状突起に集積される。
トランスサイトーシス
シナプスの細胞膜を通過しシナプス前膜を通りさらに上位のニューロンへと運搬される。そこで標的タンパク質であるVAMPの分解することで抑制性シナプスを遮断し、痙性麻痺を引き起こす。ついで興奮性シナプスも遮断し、筋は拘縮した状態となる。ちなみにこれは筋の弛緩を発生させるボツリヌス毒素の作用と逆となる。BDNFやGDNFなどの神経栄養因子と比較すると、運搬速度や樹状突起への集積速度は同じ(1 μm/sec)であるが、シナプスを越えて次のシナプス前部への移行はHcの方がほぼ倍の速度で行われる。
治療
予防には不活化ワクチン(沈降破傷風トキソイド)を用いるほか、土壌などで汚染された創傷はよく洗浄する事が肝心である。感染を起こした場合は、抗生物質メトロニダゾール、 ペニシリン、テトラサイクリンの投与を行う。毒素の中和には抗破傷風免疫グロブリンを用いるが、中枢神経にいったん取り込まれた毒素に対しての効き目は弱い。創傷のデブリードマンやあるいは不可避である場合は切断を行う。
患者は静かな暗所に置き、なるべく刺激を与えないようにする。呼吸管理の元、筋弛緩薬を用いる事もある。
関連項目
参考文献
- ↑ 1.0 1.1
Rao, K.N., Kumaran, D., Binz, T., & Swaminathan, S. (2005).
Structural analysis of the catalytic domain of tetanus neurotoxin. Toxicon : official journal of the International Society on Toxinology, 45(7), 929-39. [PubMed:15904688] [WorldCat] [DOI] - ↑ 2.0 2.1
Breidenbach, M.A., & Brunger, A.T. (2005).
2.3 A crystal structure of tetanus neurotoxin light chain. Biochemistry, 44(20), 7450-7. [PubMed:15895988] [WorldCat] [DOI] - ↑ 3.0 3.1
Emsley, P., Fotinou, C., Black, I., Fairweather, N.F., Charles, I.G., Watts, C., ..., & Isaacs, N.W. (2000).
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Springer:2008 - ↑
Gill, D.M. (1982).
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Eisel, U., Jarausch, W., Goretzki, K., Henschen, A., Engels, J., Weller, U., ..., & Niemann, H. (1986).
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Schiavo, G., Benfenati, F., Poulain, B., Rossetto, O., Polverino de Laureto, P., DasGupta, B.R., & Montecucco, C. (1992).
Tetanus and botulinum-B neurotoxins block neurotransmitter release by proteolytic cleavage of synaptobrevin. Nature, 359(6398), 832-5. [PubMed:1331807] [WorldCat] [DOI] - ↑
Humeau, Y., Doussau, F., Grant, N.J., & Poulain, B. (2000).
How botulinum and tetanus neurotoxins block neurotransmitter release. Biochimie, 82(5), 427-46. [PubMed:10865130] [WorldCat] [DOI] - ↑
Fotinou, C., Emsley, P., Black, I., Ando, H., Ishida, H., Kiso, M., ..., & Isaacs, N.W. (2001).
The crystal structure of tetanus toxin Hc fragment complexed with a synthetic GT1b analogue suggests cross-linking between ganglioside receptors and the toxin. The Journal of biological chemistry, 276(34), 32274-81. [PubMed:11418600] [WorldCat] [DOI] - ↑
Lalli, G., Bohnert, S., Deinhardt, K., Verastegui, C., & Schiavo, G. (2003).
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