「プルキンエ細胞」の版間の差分

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==形態と入出力==
==形態と入出力==
 プルキンエ細胞の[[細胞体]]は、小脳皮質内の[[分子層]]と[[顆粒細胞]]層の間に一層に並び、プルキンエ細胞層を形成している(図1、2)。プルキンエ細胞の[[樹状突起]]はプルキンエ細胞層より脳表側の分子層へ伸び、矢状面上で数回枝分かれし扇状の形態となっている。この樹状突起 の遠位には顆粒細胞由来の平行線維から、近位には[[下オリーブ核]]由来の[[登上線維]]から[[グルタミン酸]]作動性の[[興奮性シナプス]]が形成される。1つのプルキンエ細胞 に対して、約200,000本の[[平行線維]]がシナプスを形成するが<ref>'''Gordon M. Shephred'''<br>The synaptic organization of the brain fifth edition<br>''Oxford University Press, Inc.(New York)'':2004</ref>、 1本の平行線維が1つのプルキンエ細胞に作るシナプスは1から2個と推定されており、その伝達効率も低い。一方、1つのプルキンエ細胞にシナプス形成をする登上線維は1本に限られる。登上線維は1つのプルキンエ細胞上に数百個のシナプスを形成し、個々のシナプスでの伝達効率は高い。また、プルキンエ細胞は 分子層にある2種類のGABA作動性の[[介在ニューロン]]([[星状細胞]]及び[[籠状細胞]])から抑制性の入力も受けている。星状細胞はプルキンエ細胞の樹状突起にシナプスを作り、一方、籠状細胞はプルキンエ細胞体を囲むようにシナプスを形成する。プルキンエ細胞の[[軸索]]は顆粒細胞層を縦断し、小脳核または前庭神経核に投射して、抑制性の出力をする。  
 プルキンエ細胞の[[細胞体]]は、小脳皮質内の[[分子層]]と[[顆粒細胞]]層の間に一層に並び、プルキンエ細胞層を形成している(図1、2)。プルキンエ細胞の[[樹状突起]]はプルキンエ細胞層より脳表側の分子層へ伸び、矢状面上で数回枝分かれし扇状の形態となっている。この樹状突起 の遠位には顆粒細胞由来の平行線維から、近位には[[下オリーブ核]]由来の[[登上線維]]から[[グルタミン酸]]作動性の[[興奮性シナプス]]が形成される。1つのプルキンエ細胞に対して、約200,000本の[[平行線維]]がシナプスを形成するが<ref>'''Gordon M. Shephred'''<br>The synaptic organization of the brain fifth edition<br>''Oxford University Press, Inc.(New York)'':2004</ref>、1本の平行線維が1つのプルキンエ細胞に作るシナプスは1から2個と推定されており、その伝達効率も低い。一方、1つのプルキンエ細胞にシナプス形成をする登上線維は1本に限られる。登上線維は1つのプルキンエ細胞上に数百個のシナプスを形成し、個々のシナプスでの伝達効率は高い。また、プルキンエ細胞は 分子層にある2種類のGABA作動性の[[介在ニューロン]]([[星状細胞]]及び[[籠状細胞]])から抑制性の入力も受けている。星状細胞はプルキンエ細胞の樹状突起にシナプスを作り、一方、籠状細胞はプルキンエ細胞体を囲むようにシナプスを形成する。プルキンエ細胞の[[軸索]]は顆粒細胞層を縦断し、小脳核または前庭神経核に投射して、抑制性の出力をする。  


==発生==
==発生==
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 プルキンエ細胞は小脳皮質内で最も早く[[細胞分化|分化]]する神経細胞である。ここでは、マウスにおける発生過程を説明する(図3)。胎生10日目から、プルキンエ細胞の前駆細胞は[[菱脳唇]]近傍の[[脳室帯]]で最終分裂し、胎生13日目に表層に向けて移動を開始する。胎生後期には、すべてのプルキンエ細胞が移動を完了し、生後数日間で1層に整列してプルキンエ細胞層を完成する。プルキンエ細胞は、生後5~7日目に樹状突起を伸張し、平行線維とのシナプスを形成し始め、生後20日でほぼ生体と同様のシナプス構築となる。
 プルキンエ細胞は小脳皮質内で最も早く[[細胞分化|分化]]する神経細胞である。ここでは、マウスにおける発生過程を説明する(図3)。胎生10日目から、プルキンエ細胞の前駆細胞は[[菱脳唇]]近傍の[[脳室帯]]で最終分裂し、胎生13日目に表層に向けて移動を開始する。胎生後期には、すべてのプルキンエ細胞が移動を完了し、生後数日間で1層に整列してプルキンエ細胞層を完成する。プルキンエ細胞は、生後5~7日目に樹状突起を伸張し、平行線維とのシナプスを形成し始め、生後20日でほぼ生体と同様のシナプス構築となる。


 登上線維末端は誕生直前にプルキンエ細胞に到達する。生後5~7 日目では、それぞれの登上線維の先端は個々のプルキンエ細胞の細胞体を網状に囲むようになる。この時期は、1つのプルキンエ細胞に対して約5本の登上線維末端がシナプスを形成している。しかし、14日までに、1本の登上線維のみがプルキンエ細胞に多数のシナプス形成をした状態となり、他の登上線維のシナプス数は減少する。20日後までには、登上線維とプルキンエ細胞間で1対1の投射パターンが完成する<ref><pubmed>7605067</pubmed></ref>。
 登上線維末端は誕生直前にプルキンエ細胞に到達する。生後5~7日目では、それぞれの登上線維の先端は個々のプルキンエ細胞の細胞体を網状に囲むようになる。この時期は、1つのプルキンエ細胞に対して約5本の登上線維末端がシナプスを形成している。しかし、14日までに、1本の登上線維のみがプルキンエ細胞に多数のシナプス形成をした状態となり、他の登上線維のシナプス数は減少する。20日後までには、登上線維とプルキンエ細胞間で1対1の投射パターンが完成する<ref><pubmed>7605067</pubmed></ref>。
   
   
==神経活動==
==神経活動==
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==プルキンエ細胞の欠失と疾患==
==プルキンエ細胞の欠失と疾患==


 [[Lurcher]], [[Purkinje cell deneneration]] (PCD)等プルキンエ細胞が欠失するマウス系統が知られている。そして、これらのマウスは明らかな[[運動失調]]を示す。ヒトでは、[[脊髄小脳失調症6型]]でプルキンエ細胞の脱落が起こり、[[運動失調]]が認められる<ref><pubmed>21921472</pubmed></ref>。この原因遺伝子として P型カルシウムチャネルが同定されている。
 [[Lurcher]], [[Purkinje cell deneneration]] (PCD)等プルキンエ細胞が欠失するマウス系統が知られている。そして、これらのマウスは明らかな[[運動失調]]を示す。ヒトでは、[[脊髄小脳失調症6型]]でプルキンエ細胞の脱落が起こり、[[運動失調]]が認められる<ref><pubmed>21921472</pubmed></ref>。この原因遺伝子として P型カルシウムチャネルが同定されている。


==参考文献==
==参考文献==


<references/>
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