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2015年5月27日 (水) 10:42時点における版
出馬 圭世
California Institute of Technology, Pasadena, USA
DOI:10.14931/bsd.2088 原稿受付日:2012年6月29日 原稿完成日:2012年7月9日
担当編集委員:定藤 規弘(自然科学研究機構 生理学研究所 大脳皮質機能研究系)
英語名:altruism 独:Altruismus 仏:altruisme
同義語:利他行動、向社会的行動
利他的行動は自分に何らかのコスト(時間、労力、お金、など)を負いながら他者に利益を与える行動を指す。
ヒトの社会的行動を研究対象とする社会心理学ではもちろん、欧米では利他的行動の一つである寄付が日本より一般的かつ額も高額であることなどから経済学においても重要な研究対象である。また、ヒトだけが“直接のお返しを期待できない血縁関係にない他者”にも利他的行動を示すと言われている(例、寄付、献血、ボランティア、など)。自然選択の基本的原則からすると自分が何の得もしないにも関わらず他者を助ける個人は生存に不利であり、そのような特性は進化しづらいと考えられるため、なぜ(どのように)ヒト特有の利他的行動が進化したのかは興味深い問題であり進化生物学などで精力的に研究されている。ここでは特にヒト特有の利他的行動・向社会的行動の神経メカニズムについての脳科学の知見について解説する(利他的行動の一般的な解説についてはウィキペディアの利他的行動を参照)。
FMRIなどのヒトの脳活動の非侵襲的な測定方法により、ヒト特有の利他的行動の神経基盤を検討することが可能となり、いくつかの研究で利他的行動(例:慈善団体への寄付)を行っている時の脳活動が測定されている。こられの研究は共通して、寄付という利他的行動を行っている時には眼窩前頭前野や線条体と呼ばれる報酬に関する脳部位が活動することを報告している[1] [2] [3]。これは自分がお金を失っているにも関わらず寄付することを報酬として感じているということを示唆しており、他者を助けることが自分の喜びになるという“温情効果(warm glow effect)”が利他的行動を支えているという考えと一貫する。
温情効果のほかに、“自分の評判を良くしようという動機”も利他的行動を促すことが知られている。つまり自分をいい人だと思ってもらいたいから(悪い人だと思われたくないから)寄付をするというような場合である。実際に他者に見られている場合などの匿名性が低い状況では利他的行動の頻度が増えることが多くの社会心理学・実験経済学の研究で報告されている[4]。fMRI研究においては、他者から見られている状況で寄付をする場合と誰にも見られていない状況で寄付をする場合とを比較すると、見られている場合に線条体がより活動することが報告されており[5]、良い評判という社会的報酬が線条体で処理されていることを示している。
他にも利他的行動を促すメカニズムとして“共感”があげられる[6]。困っている他者を見てその他者の痛みをあたかも自分の痛みのように感じ、助けてあげたいと思うような場合である。Heinら[7]はこの共感に基づいた利他的行動の神経基盤をfMRIを用いて検討し、他者が痛みを受けているのを見た時に左島皮質の活動が高い個人ほど後にその他者を助けるということを報告している。この左島皮質は自分が痛みを受けた場合にも活動を示すことから、他人の痛みをどれだけ自分の痛みとして感じられるかが利他的行動に影響し、特に左島皮質が共感に基づく利他的行動において重要な役割を果たすことを示している。
関連項目
外部リンク
参考文献
- ↑
Harbaugh, W.T., Mayr, U., & Burghart, D.R. (2007).
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