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担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0048432 定藤 規弘](自然科学研究機構生理学研究所 システム脳科学研究領域)<br> | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0048432 定藤 規弘](自然科学研究機構生理学研究所 システム脳科学研究領域)<br> | ||
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2016年12月30日 (金) 16:11時点における最新版
大神田 麻子
追手門学院大学
板倉 昭二
京都大学
DOI:10.14931/bsd.6953 原稿受付日:2016年3月3日 原稿完成日:2016年12月29日
担当編集委員:定藤 規弘(自然科学研究機構生理学研究所 システム脳科学研究領域)
見つめ合いとは、二者が視線を交錯(eye-contact)させ、互いの目を見る相互注視(mutual gaze)のことである。他者の視線や、他者がどこを見ているのかといったことの認識は、ヒトの社会的コミュニケーションや社会的学習において非常に重要な役目を担っている[1] [2]。たとえば視線は笑顔を引き出したり[3]、他者の意図を知る手がかりとなる[4]など、他者との相互交渉の中でさまざまに役立てられている。
乳児の顔認識
乳児は、生後まもなく、ヒトの顔へ選好を持つことが知られている。新生児でさえ、ヒトの顔やヒトの顔と似た刺激をそうでない刺激よりも選好する[5] [6] [7]。また、こうした選好は、顔あるいは顔に類似した刺激やヒトの顔の写真における両極性に依存しているようであり、新生児は、刺激の目や口の周りが濃い色であった場合に、線描画および写真の倒立顔を正立顔と区別し前者を選好し、このことから、新生児はこちらを見ているような顔への単純な選好があるのではないかと考えられている[8]。さらに、新生児は母親とそれ以外の人が生後まもなく区別できることが知られている[9] [10] [11]。
生後初期における他者の視線への感受性
視線への感受性は生後かなり初期から見られ、たとえば平均生後72時間の乳児が対提示された2つの顔写真のうち、こちらを向いている顔を、左右のどちらかを見ている顔より選好したという報告がある[12]。さらに平均生後36.6時間の乳児は、目を開いている大人の女性の写真と、同じ女性が目を閉じている写真を別々に見せられた場合、前者を長く見たことも報告されている[13]。
相互注視
互いの目と目を見つめ合うこと、あるいはアイコンタクトを取り合うことを相互注視(mutual gaze)と呼ぶ。生後4週齢ごろから母子のアイコンタクトは増加し、生後2ヶ月目から、単純な母子間のアイコンタクトは、よりアクティブなもの(表情の動きなどを含んだもの)に変化していく[14] [3]。こうした社会性の芽生えの時期を「2ヶ月革命」または「微笑み革命」と呼び、乳児はこのころ、それまで見せていた生理的微笑から、他者との関わりの中で産出される社会的微笑を見せるようになる[15]。
社会的随伴性における見つめ合い
乳児は生後2ヶ月ごろから、相互交渉中の他者からの社会的随伴性に感受性を示し始めると言われている。乳児の社会的随伴性を調べる方法として、主なものはスティルフェイス(Still Face)パラダイムとダブルビデオ(DV Live-Replay)パラダイムである。いずれのパラダイムにおいても、非随伴的な働きかけを行う相互交渉相手に対し、乳児の視線が著しく減少することが知られている。
スティルフェイスパラダイム
母子、あるいは乳児と大人が対面で相互交渉中に、大人の表情を止め(これをスティルフェイスと呼ぶ)[16] 、大人の行動が乳児の行動とは非随伴的になった際に、乳児が視線や笑顔の減少といったスティルフェイス効果を示すかどうかを調べる。生後2ヶ月以上の乳児は、こうしたスティルフェイスを示すことが報告されており、特に乳児は大人への視線を著しく減少させる。2003年までのスティルフェイスパラダイムを用いた実験結果はAdamson and Prick[17]によるレビューが詳しい。
ダブルビデオパラダイム
母子、あるいは乳児と大人がビデオモニターを介した相互交渉を行っている際に、乳児に直前の大人の様子を録画した場面を提示し、乳児がそのことに気がつくかどうか、どういう反応をするかを調べるパラダイムである[18] [19]。録画された大人は、乳児の行動とは随伴しない働きかけを行うようになるため、2ヶ月以上の乳児は視線の減少や笑顔や口を開けるといったその他の快の指標となる行動を減少させる。
ヒト以外の種における見つめ合い
2000年から京都大学霊長類研究所において、チンパンジー認知発達研究プロジェクトが進められた。このプロジェクトでは3組のチンパンジー母子を対象にさまざまな縦断的な観察と実験が行われてきた。母親に育てられ、チンパンジーの社会で暮らすチンパンジーの子どもの認知発達が、ヒトと直接的に比較できる発達心理学的手法を用いることによって明らかにされている。
第一に、チンパンジー新生児は、ヒト新生児と同様に、母親の顔とそれ以外のチンパンジーの顔(平均顔のチンパンジーと他個体の顔)を区別することが可能であることが報告された。この研究では、生後0ヶ月から、チンパンジー乳児にこれらの顔写真をとりつけたCCDカメラを左右に動かして見せ、追従反応が起きるか調べた。その結果、生後1ヶ月の時点で母親に対する追従反応が増加することが分かった[20]。
また、生後10~32週齢のチンパンジー乳児に、こちらを見ているヒトの顔と見ていないヒトの顔を対提示すると、チンパンジー乳児は前者を見るというヒト乳児と同じ結果を示した[20]。さらにチンパンジー乳児においても、生後2ヶ月ごろから生理的微笑が消え、社会的微笑が見られ始めることも報告された。また、見つめ合いはヒトの母子に見られるだけでなく、チンパンジーの母子間でも見られ、たとえばTomonaga et al. (2004)では生後0~2ヶ月の間に母子間の見つめ合いは増加し、母親による揺らしてあやすような身体的な関わりの増加とともに減少するこことが報告されている[12]。
参考文献
- ↑
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Development of social cognition in infant chimpanzees (Pan troglodytes): Face recognition, smiling, gaze, and the lack of triadic interactions
Blackwell Publishing Asia Pty Ltd. 2004