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英語名:Adaptor Protein Complex  英略語:AP complex
英語名:Adaptor Protein Complex  英略語:AP complex


{{box|text= アダプタータンパク質複合体は4種類のポリペプチド鎖からなるヘテロ4量体で、2種類のlarge subunit, 1種類のmedium subunit, 1種類のsmall subunitから構成されている。このタンパク質複合体ファミリーにはAP-1からAP-5の5つのメンバー―が含まれており、それぞれが積み荷となる膜貫通タンパク質を細胞内の特定の膜領域へと輸送する機能を持っている<ref name=ref29558740><pubmed>29558740</pubmed></ref><ref><pubmed>name=ref11454451><pubmed>11454451</pubmed></ref> 。積荷タンパク質の認識はmedium subunitが積荷タンパク質の細胞内領域に存在するシグナル配列に結合することにより行われるのが一般的である。アダプタータンパク質複合体のメンバーは全て図1に示すような共通の高次構造をとっていると考えられている。2つのlarge subunitのC末領域は”Ear domain”を形成し、”Head domain”はlarge subunitのN末領域とmedium subunitとsmall subunitからなっている。}}
{{box|text= アダプタータンパク質複合体は4種類のポリペプチド鎖からなるヘテロ4量体で、2種類のlarge subunit, 1種類のmedium subunit, 1種類のsmall subunitから構成されている。このタンパク質複合体ファミリーにはAP-1からAP-5の5つのメンバー―が含まれており、それぞれが積み荷となる膜貫通タンパク質を細胞内の特定の膜領域へと輸送する機能を持っている<ref name=Guardia2018><pubmed>29558740</pubmed></ref><ref><pubmed>name=Robinson2001><pubmed>11454451</pubmed></ref> 。積荷タンパク質の認識はmedium subunitが積荷タンパク質の細胞内領域に存在するシグナル配列に結合することにより行われるのが一般的である。アダプタータンパク質複合体のメンバーは全て図1に示すような共通の高次構造をとっていると考えられている。2つのlarge subunitのC末領域は”Ear domain”を形成し、”Head domain”はlarge subunitのN末領域とmedium subunitとsmall subunitからなっている。}}


== AP-1 ==
== AP-1 ==
=== 機能 ===
=== 機能 ===
AP-1はエンドソームとトランスゴルジネットワークとの間で膜タンパク質の輸送を行うアダプタータンパク質複合体である<ref name=ref15066634><[[pubmed]]>15066634</pubmed></ref> 。神経細胞や上皮細胞といった極性をもつ細胞においては、ある種の膜タンパク質を樹状突起や側基底膜へと輸送することも知られている<ref name=ref11502258><pubmed>11502258</pubmed></ref><ref><pubmed>name=ref10535737><pubmed>10535737</pubmed></ref><ref><pubmed>name=ref11157985><pubmed>11157985</pubmed></ref><ref><pubmed>name=ref25378584><pubmed>25378584</pubmed></ref> 。AP-1はクラスリンを細胞内膜上に集積させると共に積荷タンパク質を認識することで積荷タンパク質を含んだクラスリン被覆小胞を形成し、積荷タンパク質を輸送する。AP-1の細胞内膜への集積は低分子量Gタンパク質であるARFに依存している。ARFによってホスファチジルイノシトール4リン酸が細胞内膜上に合成されることによりAP-1がリクルートされると考えられている<ref name=ref1555237><pubmed>1555237</pubmed></ref><ref><pubmed>name=ref12914695><pubmed>12914695</pubmed></ref> 。また、AP-1がホスファチジルイノシトール4リン酸と結合することも報告されている<ref name=ref12914695><pubmed>12914695</pubmed></ref> 。こうして細胞内膜上にリクルートされたAP-1は積荷タンパク質のYXX配列や[DE]XXXL[LI]配列、あるいはこれら以外の非典型的な配列を認識して結合する<ref name=ref12651740><pubmed>12651740</pubmed></ref><ref><pubmed>name=ref7569928><pubmed>7569928</pubmed></ref> 。同時にAP-1はクラスリンに対する結合能も有することから細胞内膜系に存在する積荷タンパク質をクラスリン被覆小胞へと運びこむことができる<ref name=ref2890644><pubmed>2890644</pubmed></ref> 。
AP-1はエンドソームとトランスゴルジネットワークとの間で膜タンパク質の輸送を行うアダプタータンパク質複合体である<ref name=Robinson2004><pubmed>15066634</pubmed></ref> 。神経細胞や上皮細胞といった極性をもつ細胞においては、ある種の膜タンパク質を樹状突起や側基底膜へと輸送することも知られている<ref name=Dwyer2001><pubmed>11502258</pubmed></ref><ref><pubmed>name=Folsch1999><pubmed>10535737</pubmed></ref><ref><pubmed>name=Folsch2001><pubmed>11157985</pubmed></ref><ref><pubmed>name=Jain2015><pubmed>25378584</pubmed></ref> 。AP-1はクラスリンを細胞内膜上に集積させると共に積荷タンパク質を認識することで積荷タンパク質を含んだクラスリン被覆小胞を形成し、積荷タンパク質を輸送する。AP-1の細胞内膜への集積は低分子量Gタンパク質であるARFに依存している。ARFによってホスファチジルイノシトール4リン酸が細胞内膜上に合成されることによりAP-1がリクルートされると考えられている<ref name=Robinson1992><pubmed>1555237</pubmed></ref><ref><pubmed>name=Wang2003><pubmed>12914695</pubmed></ref> 。また、AP-1がホスファチジルイノシトール4リン酸と結合することも報告されている<ref name=Wang2003><pubmed>12914695</pubmed></ref> 。こうして細胞内膜上にリクルートされたAP-1は積荷タンパク質のYXX配列や[DE]XXXL[LI]配列、あるいはこれら以外の非典型的な配列を認識して結合する<ref name=Bonifacino2003><pubmed>12651740</pubmed></ref><ref><pubmed>name=Ohno1995><pubmed>7569928</pubmed></ref> 。同時にAP-1はクラスリンに対する結合能も有することから細胞内膜系に存在する積荷タンパク質をクラスリン被覆小胞へと運びこむことができる<ref name=Keen1987><pubmed>2890644</pubmed></ref> 。
 
=== サブユニット構造 ===
=== サブユニット構造 ===
AP-1は2つのlarge subunit (1と)、1つのmedium subunit (1)、1つのsmall subunit (1)からなる<ref name=ref11454451><pubmed>11454451</pubmed></ref> 。主なクラスリン結合部位は1サブユニットに存在する<ref name=ref8262066><pubmed>8262066</pubmed></ref> が、サブユニットもクラスリン結合に関与していることが報告されている<ref name=ref11451993><pubmed>11451993</pubmed></ref> 。積荷タンパク質との結合は主にサブユニットによって行われている。サブユニットには1と2の2つのisoformが、1サブユニットには1Aと1Bの2つ、1サブユニットには1A~1Cの3つのisoformが存在する<ref name=ref10535737><pubmed>10535737</pubmed></ref><ref><pubmed>name=ref24791904><pubmed>24791904</pubmed></ref><ref><pubmed>name=ref9733768><pubmed>9733768</pubmed></ref> 。
AP-1は2つのlarge subunit (&beta;1と&gamma;)、1つのmedium subunit (&mu;1)、1つのsmall subunit (&sigma;1)からなる<ref name=Robinson2001><pubmed>11454451</pubmed></ref> 。主なクラスリン結合部位は&beta;1サブユニットに存在する<ref name=Gallusser1993><pubmed>8262066</pubmed></ref> が、&gamma;サブユニットもクラスリン結合に関与していることが報告されている<ref name=Doray2001><pubmed>11451993</pubmed></ref> 。積荷タンパク質との結合は主にサブユニットによって行われている。&gamma;サブユニットには&gamma;1と&gamma;2の2つのisoformが、&mu;1サブユニットには&mu;1Aと&mu;1Bの2つ、&sigma;1サブユニットには&sigma;1A~&sigma;1Cの3つのisoformが存在する<ref name=Folsch1999><pubmed>10535737</pubmed></ref><ref><pubmed>name=Setta-Kaffetzi2014><pubmed>24791904</pubmed></ref><ref><pubmed>name=Takatsu1998><pubmed>9733768</pubmed></ref> 。
 
=== 疾患との関連 ===
=== 疾患との関連 ===
 1Aの欠損によりMEDNIK (mental retardation, enteropathy, deafness, neuropathy, ichthyosis, and keratodermia) 症候群が引き起こされることが報告されている<ref name=ref19057675><pubmed>19057675</pubmed></ref> 。この疾患は銅ポンプである[[ATP]]7AとATP7Bの細胞内輸送の異常のために引き起こされると考えられている。また1Bの欠損によりX連鎖精神遅滞であるPettigrew syndrome<ref name=ref17186471><pubmed>17186471</pubmed></ref> が、1Cの欠損は汎発性膿疱性乾癬<ref name=ref24791904><pubmed>24791904</pubmed></ref> に関連しているといわれている。
 1Aの欠損によりMEDNIK (mental retardation, enteropathy, deafness, neuropathy, ichthyosis, and keratodermia) 症候群が引き起こされることが報告されている<ref name=ref19057675><pubmed>19057675</pubmed></ref> 。この疾患は銅ポンプである[[ATP]]7AとATP7Bの細胞内輸送の異常のために引き起こされると考えられている。また1Bの欠損によりX連鎖精神遅滞であるPettigrew syndrome<ref name=ref17186471><pubmed>17186471</pubmed></ref> が、1Cの欠損は汎発性膿疱性乾癬<ref name=ref24791904><pubmed>24791904</pubmed></ref> に関連しているといわれている。