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=== 神経終末部でのシナプス小胞サイクル ===
=== 神経終末部でのシナプス小胞サイクル ===
 シナプス小胞サイクルは、シナプス小胞のシナプス前膜へのドッキングと融合、エンドサイトーシスによる膜成分の回収、再利用などの種々のステップからなり、神経伝達物質の持続的な放出を可能にするための神経細胞特有の小胞輸送経路である。
 シナプス小胞サイクルは、シナプス小胞のシナプス前膜へのドッキングと融合、エンドサイトーシスによる膜成分の回収、再利用などの種々のステップからなり、[[神経伝達物質]]の持続的な放出を可能にするための神経細胞特有の小胞輸送経路である。


 Asheryら<ref name=Ashery1999><pubmed>9927699</pubmed></ref>は、アフリカツメガエルの神経筋接合部において、脊髄運動ニューロンへのサイトへジン-1 / msec7-1の過剰発現により、骨格筋の自発性シナプス電流頻度の増加と運動ニューロン刺激により誘発される興奮性シナプス後電位(EPSC)の振幅が増加することから、Arfの活性化がシナプス前部での神経伝達物質の放出に関与する可能性を初めて報告した。Krauss ら<ref name=Krauss2003><pubmed>12847086</pubmed></ref>は、精製したシナプトソーム膜を用いたクラスリン被覆小胞の再構築実験系で、GTP結合型Arf6がPIP5Kγの活性化を介してPI(4,5)P2の産生を増加させることにより、クラスリン被覆小胞の形成を促進することを示した。さらに、Tagliattiら<ref name=Tagliatti2016><pubmed>26731518</pubmed></ref>は、初代海馬培養細胞においてArf6のノックダウンにより、神経終末においてシナプス小胞の減少、エンドソーム様膜小器官の出現、アクティブゾーンにドッキングするシナプス小胞の増加が生じることが報告した。一連の研究から、Arf6はシナプス小胞のドッキングの調節やシナプス前膜からクラスリン依存的に回収されたシナプス小胞の膜成分の再利用のためのリサイクリング経路の決定などの種々のシナプス小胞サイクルの段階に関与するものと考えられている。サイトへジン阻害剤SecinH3によりArf6ノックダウンと同じ表現型を示すことから、Arf6の上流活性化因子としてサイトへジンファミリーが考えられる<ref name=Tagliatti2016><pubmed>26731518</pubmed></ref>。また、Arf-GAPであるGITファミリー分子は、アクティブゾーンの構成分子としてPiccoloと複合体を形成し<ref name=Kim2003><pubmed>12473661</pubmed></ref>、ヘルドのカリックスシナプス前終末においてシナプス小胞の放出確率の調節に関与する<ref name=Montesinos2015><pubmed>26637799</pubmed></ref>。
 Asheryら<ref name=Ashery1999><pubmed>9927699</pubmed></ref>は、[[アフリカツメガエル]]の[[神経筋接合部]]において、脊髄[[運動ニューロン]]へのサイトへジン-1 / [[msec7-1]]の過剰発現により、[[骨格筋]]の[[自発性シナプス電流]]頻度の増加と運動ニューロン刺激により誘発される[[興奮性シナプス後電位]]([[EPSC]])の振幅が増加することから、Arfの活性化がシナプス前部での神経伝達物質の放出に関与する可能性を初めて報告した。Kraussら<ref name=Krauss2003><pubmed>12847086</pubmed></ref>は、精製した[[シナプトソーム]]膜を用いた[[クラスリン]]被覆小胞の再構築実験系で、GTP結合型Arf6が[[PIP5Kγ]]の活性化を介して[[PI(4,5)P2]]の産生を増加させることにより、クラスリン被覆小胞の形成を促進することを示した。さらに、Tagliattiら<ref name=Tagliatti2016><pubmed>26731518</pubmed></ref>は、海馬初代培養細胞においてArf6のノックダウンにより、神経終末においてシナプス小胞の減少、エンドソーム様膜小器官の出現、アクティブゾーンにドッキングするシナプス小胞の増加が生じることが報告した。一連の研究から、Arf6はシナプス小胞のドッキングの調節やシナプス前膜からクラスリン依存的に回収されたシナプス小胞の膜成分の再利用のためのリサイクリング経路の決定などの種々のシナプス小胞サイクルの段階に関与するものと考えられている。サイトへジン阻害剤[[SecinH3]]によりArf6ノックダウンと同じ表現型を示すことから、Arf6の上流活性化因子として[[サイトへジンファミリー]]が考えられる<ref name=Tagliatti2016><pubmed>26731518</pubmed></ref>。また、Arf-GAPであるGITファミリー分子は、アクティブゾーンの構成分子としてPiccoloと複合体を形成し<ref name=Kim2003><pubmed>12473661</pubmed></ref>、[[Held萼状シナプス|ヘルドのカリックスシナプス]]前終末においてシナプス小胞の放出確率の調節に関与する<ref name=Montesinos2015><pubmed>26637799</pubmed></ref>。


 一方、Arf1のラット副腎髄質褐色細胞腫由来PC12細胞における有芯小胞の形成への機能関与の報告はある<ref name=Faundez1997><pubmed>9245782</pubmed></ref>が、クラスI/II Arfの神経細胞のシナプス小胞サイクルへの関与に関する実験証拠はない。
 一方、Arf1のラット[[副腎髄質]][[褐色細胞腫]]由来PC12細胞における[[有芯小胞]]の形成への機能関与の報告はある<ref name=Faundez1997><pubmed>9245782</pubmed></ref>が、クラスI/II Arfの神経細胞のシナプス小胞サイクルへの関与に関する実験証拠はない。


== シナプス可塑性 ==
== シナプス可塑性 ==
 シナプス可塑性のうち、長期増強(LTP)と長期抑圧(LTD)は、シナプス刺激に伴うシナプス後膜でのAMPARの長期的な発現量の増加と減少によりそれぞれ引き起こされるが、小胞輸送経路はAMPARのシナプス後膜での発現量を調節する主要な制御機構である。さらに、樹状突起スパイン内部のアクチン細胞骨格の再構築は、シナプス可塑性に伴う形態の変化とともに、細胞膜の湾曲、取り込み小胞の切断や輸送を介してシナプス後膜でのAMPARの動態と密接に関連する。
 [[シナプス可塑性]]のうち、[[長期増強]] ([[LTP]])と[[長期抑圧]] ([[LTD]])は、シナプス刺激に伴うシナプス後膜でのAMPARの長期的な発現量の増加と減少によりそれぞれ引き起こされるが、小胞輸送経路はAMPARのシナプス後膜での発現量を調節する主要な制御機構である。さらに、樹状突起スパイン内部のアクチン細胞骨格の再構築は、シナプス可塑性に伴う形態の変化とともに、細胞膜の湾曲、[[取り込み小胞]]の切断や輸送を介してシナプス後膜でのAMPARの動態と密接に関連する。


 Arf1とArf6は、異なる機構を介して海馬の長期抑圧(LTD)に関与することが報告されている<ref name=Rocca2013><pubmed>23889934</pubmed></ref><ref name=Scholz2010><pubmed>20547133</pubmed></ref>。GTP結合型Arf1は、PICK1と結合しAMPARと複合体を形成しているが、NMDA刺激によりGIT1などによりGDP結合型に変換される結果、PICK1との結合が解除される。開放されたPICK1はArp2/3と結合しArp2/3依存的アクチン重合を阻害する。これによりスパインの退縮とともにAMPARのGluA2/3サブユニットのエンドサイトーシスが促進され、 NMDAR依存的な海馬LTDが生じる<ref name=Rocca2013><pubmed>23889934</pubmed></ref>。一方、Arf6-GEFであるBRAG2は代謝型グルタミン酸受容体 (mGluR)刺激によりAMPARと複合体を形成し、Arf6をGTP型に変換する。その結果、活性化したArf6はAMPARのクラスリン依存的なエンドサイトーシスを促進することにより、海馬シャーファー側枝-CA1シナプスでのmGluR依存的なLTDに関与する<ref name=Scholz2010><pubmed>20547133</pubmed></ref>。また、BRAG2-Arf6経路は、mGluR依存的LTDのみならず、NMDA依存的LTDにおけるAMPARのエンドサイトーシスにも関与する<ref name=Scholz2010><pubmed>20547133</pubmed></ref>。
 Arf1とArf6は、異なる機構を介して海馬の長期抑圧(LTD)に関与することが報告されている<ref name=Rocca2013><pubmed>23889934</pubmed></ref><ref name=Scholz2010><pubmed>20547133</pubmed></ref>。GTP結合型Arf1は、PICK1と結合しAMPARと複合体を形成しているが、NMDA刺激によりGIT1などによりGDP結合型に変換される結果、PICK1との結合が解除される。開放されたPICK1はArp2/3と結合しArp2/3依存的アクチン重合を阻害する。これによりスパインの退縮とともにAMPARの[[GluA2]]/[[GluA3|3]]サブユニットのエンドサイトーシスが促進され、 NMDAR依存的な海馬LTDが生じる<ref name=Rocca2013><pubmed>23889934</pubmed></ref>。一方、Arf6-GEFであるBRAG2は代謝型グルタミン酸受容体 (mGluR)刺激によりAMPARと複合体を形成し、Arf6をGTP型に変換する。その結果、活性化したArf6はAMPARのクラスリン依存的なエンドサイトーシスを促進することにより、海馬[[シャーファー側枝]]-CA1シナプスでのmGluR依存的なLTDに関与する<ref name=Scholz2010><pubmed>20547133</pubmed></ref>。また、BRAG2-Arf6経路は、mGluR依存的LTDのみならず、NMDA依存的LTDにおけるAMPARのエンドサイトーシスにも関与する<ref name=Scholz2010><pubmed>20547133</pubmed></ref>。


 一方、海馬LTPへのArf小胞輸送の機能関与は、ブレフェルジンAによるクラスI/II Arfの活性化の阻害<ref name=Broutman2001><pubmed>11150316</pubmed></ref>やArf6-GAPであるADAP1ノックアウトマウス<ref name=Szatmari2021><pubmed>33139322</pubmed></ref>やAGAP3のノックダウン実験<ref name=Oku2013><pubmed>23904596</pubmed></ref>から示唆されているが、直接的な実験証拠はない。
 一方、海馬LTPへのArf小胞輸送の機能関与は、ブレフェルジンAによるクラスI/II Arfの活性化の阻害<ref name=Broutman2001><pubmed>11150316</pubmed></ref>やArf6-GAPであるADAP1ノックアウトマウス<ref name=Szatmari2021><pubmed>33139322</pubmed></ref>やAGAP3の[[ノックダウン]]実験<ref name=Oku2013><pubmed>23904596</pubmed></ref>から示唆されているが、直接的な実験証拠はない。


=== 髄鞘形成 ===
=== 髄鞘形成 ===
 髄鞘は支持細胞(末梢神経ではシュワン細胞、中枢神経系ではオリゴデンドロサイト)の細胞膜からなる軸索を包む層状構造で、跳躍伝導や軸索の機械的な損傷から保護する役割を持つ。シュワン細胞の髄鞘形成には、Neuregulin-1とErb2/3を介する軸索―グリア間相互作用が不可欠である。山内らの一連の研究<ref name=Torii2024><pubmed>38894552</pubmed></ref>から、シュワン細胞において、Arf6は、Fynによるリン酸化により活性化したサイトへジン-1とサイトへジン-2の作用でGTP結合型に変換され、アクチン細胞骨格の制御や髄鞘膜への膜成分の小胞輸送を介して髄鞘形成に促進的に作用する<ref name=Miyamoto2022><pubmed>35077201</pubmed></ref><ref name=Yamauchi2012><pubmed>23012656</pubmed></ref>。坐骨神経において、サイトへジン-1の発現は生後直後にピークを示し発達とともに徐々に低下するのに対して、サイトへジン-2の発現は生後の発達に伴い増加することから<ref name=Torii2015><pubmed>25824033</pubmed></ref><ref name=Yamauchi2012><pubmed>23012656</pubmed></ref>、サイトへジン-1が髄鞘形成の早期に、サイトへジン-2が髄鞘形成の中後期にArf6の活性化因子として機能する。さらに、胎生12日齢のサイトへジン-1のノックアウトマウスにおいて、未熟なシュワン細胞の末梢神経に沿った腹側への移動の遅延が観察され、Fyn→サイトヘジン-1→Arf6経路が発生期の未熟なシュワン細胞の細胞移動にも関与することが示唆されている<ref name=Yamauchi2012><pubmed>23012656</pubmed></ref>。
 [[髄鞘]]は[[支持細胞]]([[末梢神経]]では[[シュワン細胞]]、中枢神経系では[[オリゴデンドロサイト]])の細胞膜からなる軸索を包む層状構造で、[[跳躍伝導]]や軸索の機械的な損傷から保護する役割を持つ。シュワン細胞の髄鞘形成には、[[Neuregulin-1]]と[[Erb2]]/[[Erb3|3]]を介する軸索―グリア間相互作用が不可欠である。山内らの一連の研究<ref name=Torii2024><pubmed>38894552</pubmed></ref>から、シュワン細胞において、Arf6は、[[Fyn]]によるリン酸化により活性化したサイトへジン-1とサイトへジン-2の作用でGTP結合型に変換され、アクチン細胞骨格の制御や髄鞘膜への膜成分の小胞輸送を介して髄鞘形成に促進的に作用する<ref name=Miyamoto2022><pubmed>35077201</pubmed></ref><ref name=Yamauchi2012><pubmed>23012656</pubmed></ref>。[[坐骨神経]]において、サイトへジン-1の発現は生後直後にピークを示し発達とともに徐々に低下するのに対して、サイトへジン-2の発現は生後の発達に伴い増加することから<ref name=Torii2015><pubmed>25824033</pubmed></ref><ref name=Yamauchi2012><pubmed>23012656</pubmed></ref>、サイトへジン-1が髄鞘形成の早期に、サイトへジン-2が髄鞘形成の中後期にArf6の活性化因子として機能する。さらに、胎生12日齢のサイトへジン-1のノックアウトマウスにおいて、未熟なシュワン細胞の末梢神経に沿った腹側への移動の遅延が観察され、Fyn→サイトヘジン-1→Arf6経路が発生期の未熟なシュワン細胞の細胞移動にも関与することが示唆されている<ref name=Yamauchi2012><pubmed>23012656</pubmed></ref>。


 一方、BIG1により活性化されたArf1は、ミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)などの髄鞘タンパク質のアダプタータンパク質複合体AP-1依存的な小胞輸送を介して、髄鞘の初期形成段階に関わる<ref name=Miyamoto2018><pubmed>29740613</pubmed></ref>。
 一方、BIG1により活性化されたArf1は、[[ミエリンタンパク質ゼロ]]([[MPZ]])などの髄鞘タンパク質のアダプタータンパク質複合体AP-1依存的な小胞輸送を介して、髄鞘の初期形成段階に関わる<ref name=Miyamoto2018><pubmed>29740613</pubmed></ref>。


 中枢神経系におけるオリゴデンドロサイトによる髄鞘形成にも、Arf6はシュワン細胞のそれとは異なる制御機構を介して機能関与する。未熟なオリゴデンドロサイトにおいてArf6は、ACAP2による不活性化状態からサイトへジン-2により活性化され、オリゴデンドロサイトの分化と髄鞘形成を促進的に作用する<ref name=Miyamoto2014><pubmed>24600047</pubmed></ref>。さらに、ネスチン-Creマウスとの交配による中枢神経系特異的Arf6ノックアウトマウスは、脳梁や海馬采での有髄神経の割合と髄鞘の厚さの低下を示す。この髄鞘形成障害はタウ-Creマウスとの交配による神経細胞特異的Arf6ノックアウトでも観察されるが、CNP(2',3'-環状ヌクレオチド3'-ホスホジエステラーゼ )-Creマウスとの交配によるオリゴデンドロサイト特異的ノックアウトでは観察されないことから、神経細胞のArf6によるオリゴデンドロサイトの髄鞘形成の調節機構の存在が考えられた。この分子機序として、神経細胞に発現するArf6が神経細胞からの線維芽細胞成長因子2 (FGF2)などの液性因子の分泌を調節することにより、オリゴデンドロサイト前駆細胞の細胞移動と髄鞘形成を間接的に制御する可能性が示されている<ref name=Akiyama2014><pubmed>25144208</pubmed></ref>。
 中枢神経系におけるオリゴデンドロサイトによる髄鞘形成にも、Arf6はシュワン細胞のそれとは異なる制御機構を介して機能関与する。未熟なオリゴデンドロサイトにおいてArf6は、ACAP2による不活性化状態からサイトへジン-2により活性化され、オリゴデンドロサイトの分化と髄鞘形成を促進的に作用する<ref name=Miyamoto2014><pubmed>24600047</pubmed></ref>。さらに、ネスチン-Creマウスとの交配による中枢神経系特異的Arf6ノックアウトマウスは、[[脳梁]]や[[海馬采]]での有髄神経の割合と髄鞘の厚さの低下を示す。この髄鞘形成障害は[[タウ]]-Creマウスとの交配による神経細胞特異的Arf6ノックアウトでも観察されるが、[[2',3'-環状ヌクレオチド3'-ホスホジエステラーゼ]] ([[CNP]])-[[Cre]]マウスとの交配によるオリゴデンドロサイト特異的ノックアウトでは観察されないことから、神経細胞のArf6によるオリゴデンドロサイトの髄鞘形成の調節機構の存在が考えられた。この分子機序として、神経細胞に発現するArf6が神経細胞からの[[線維芽細胞成長因子2]] ([[FGF2]])などの液性因子の分泌を調節することにより、[[オリゴデンドロサイト前駆細胞]]の細胞移動と髄鞘形成を間接的に制御する可能性が示されている<ref name=Akiyama2014><pubmed>25144208</pubmed></ref>。


== 神経疾患との関わり ==
== 神経疾患との関わり ==
=== 脳形成障害 ===
=== 脳形成障害 ===
 Sheenら(2004)は、小脳症と脳室周囲異所性灰白質を持つトルコ家系からクラスI Arfに対するGEFであるBIG2/ARFGEF2のホモ接合型ミスセンス変異を同定した<ref name=Sheen2004><pubmed>14647276</pubmed></ref>。さらにゲノムの翻訳部領域においてミスセンス変異が生じることが通常ないゲノム領域(missense-depleted region)に着目した、先天性脳構造異常の患者に対するエクソーム解析により、MRIで脳室周囲結節性異所性灰白質を示す発達障害とともに注意欠損多動性障害を示す男児からARF1のGDP結合部位のミスセンス変異(p.Tyr35His)が同定された<ref name=Ge2016><pubmed>28868155</pubmed></ref>。その後、ARF1遺伝子のde novoミスセンス変異がさらに13ヶ所見出されている<ref name=deSainteAgathe2023><pubmed>37185208</pubmed></ref><ref name=Ishida2023><pubmed>36345169</pubmed></ref>。ARF1遺伝子変異を持つ患者は、知的障害とともに小脳症、異所性灰白質、脳梁の菲薄化などの種々の程度の脳構造異常を伴う。小脳症と脳室周囲異所性灰白質の機序として、BIG2→ARF1経路の障害による脳室上皮細胞間の細胞接着を介した脳室帯構造維持の破綻や神経幹細胞の細胞増殖の障害とともに脳室帯離脱後の細胞移動障害などが考えられている。
 Sheenら(2004)は、小脳症と脳室周囲異所性灰白質を持つトルコ家系からクラスI Arfに対するGEFであるBIG2/ARFGEF2のホモ接合型[[ミスセンス変異]]を同定した<ref name=Sheen2004><pubmed>14647276</pubmed></ref>。さらにゲノムの翻訳部領域においてミスセンス変異が生じることが通常ないゲノム領域(missense-depleted region)に着目した、先天性脳構造異常の患者に対する[[エクソーム解析]]により、[[MRI]]で脳室周囲結節性異所性灰白質を示す発達障害とともに[[注意欠損多動性障害]]を示す男児からARF1のGDP結合部位のミスセンス変異(p.Tyr35His)が同定された<ref name=Ge2016><pubmed>28868155</pubmed></ref>。その後、ARF1遺伝子のde novoミスセンス変異がさらに13ヶ所見出されている<ref name=deSainteAgathe2023><pubmed>37185208</pubmed></ref><ref name=Ishida2023><pubmed>36345169</pubmed></ref>。ARF1遺伝子変異を持つ患者は、[[知的障害]]とともに小脳症、異所性灰白質、脳梁の菲薄化などの種々の程度の脳構造異常を伴う。小脳症と脳室周囲異所性灰白質の機序として、BIG2→ARF1経路の障害による脳室上皮細胞間の細胞接着を介した脳室帯構造維持の破綻や神経幹細胞の細胞増殖の障害とともに脳室帯離脱後の細胞移動障害などが考えられている。


 また、常染色体顕性遺伝性の先天性脳形成異常の患者からARF3遺伝子の2種類のde novoのミスセンス変異が同定されている<ref name=Sakamoto2021><pubmed>34346499</pubmed></ref>。ARF3遺伝子変異患者が呈した脳形成障害は、進行性の大脳や脳幹の萎縮あるいは非進行性の小脳低形成で2症例間で異なるが、いずれの患者も著明な発育遅延、てんかん、知的障害を伴う。
 また、[[常染色体顕性遺伝]]性の先天性脳形成異常の患者からARF3遺伝子の2種類のde novoのミスセンス変異が同定されている<ref name=Sakamoto2021><pubmed>34346499</pubmed></ref>。ARF3遺伝子変異患者が呈した脳形成障害は、進行性の[[大脳]]や[[脳幹]]の萎縮あるいは非進行性の小脳低形成で2症例間で異なるが、いずれの患者も著明な発育遅延、てんかん、知的障害を伴う。


=== 先天性知的障害 ===
=== 先天性知的障害 ===
 2008年に重度の知的障害と発育障害を伴うヒプスアリスミアの脳波所見を示す点頭てんかん(ウエスト症候群)様の女児において、X染色体と20番染色体間との遺伝子転座(t(X;20)(p11.2;q11.2))が見出され、そのX染色体側の切断点にArf-GEFであるBRAG1/IQSEC2遺伝子が位置することが明らかになった<ref name=Morleo2008><pubmed>21479374</pubmed></ref>。さらに2009年にShoubridgeらは、X連鎖性非症候群性知的障害を持つ4家系の全X染色体エクソーム解析によりBRAG1/IQSEC2の4種のミスセンス変異を報告した<ref name=Shoubridge2010><pubmed>20473311</pubmed></ref>。4種のミスセンス変異のうち3カ所はグアニンヌクレオチド交換能に必須であるSec7ドメインに、残りの1カ所はカルモジュリン結合部位であるIQモチーフに存在し、いずれもArf6に対するGEF活性の低下を招く。現在、BRAG1/IQSEC2変異は70種類以上報告され、主要な先天性知的障害原因遺伝子のひとつとなっている。BRAG1/IQSEC2変異患者は、知的障害とともに、てんかんや自閉症スペクトラムを含む精神障害を伴うことが多い。またIQSEC2/BRAG1領域はX染色体不活化を逃れる領域で、BRAG1/IQSEC2のヘテロ接合性変異を持つ女性患者は様々な度合いの症状を示す<ref name=Shoubridge2019><pubmed>30328660</pubmed></ref>。さらにBRAG/IQSECファミリーに属するBRAG2/IQSEC1とBRAG3/IQSEC3も常染色体潜性遺伝形式を示す知的障害の原因遺伝子として同定されている<ref name=Ansar2019><pubmed>31607425</pubmed></ref><ref name=Monies2019><pubmed>31130284</pubmed></ref>。
 2008年に重度の知的障害と発育障害を伴う[[ヒプスアリスミア]]の脳波所見を示す[[点頭てんかん]]([[ウエスト症候群]])様の女児において、[[X染色体]]と[[20番染色体]]間との[[転座]](t(X;20)(p11.2;q11.2))が見出され、そのX染色体側の切断点にArf-GEFであるBRAG1/IQSEC2遺伝子が位置することが明らかになった<ref name=Morleo2008><pubmed>21479374</pubmed></ref>。さらに2009年にShoubridgeらは、X連鎖性非症候群性知的障害を持つ4家系の全X染色体エクソーム解析によりBRAG1/IQSEC2の4種のミスセンス変異を報告した<ref name=Shoubridge2010><pubmed>20473311</pubmed></ref>。4種のミスセンス変異のうち3カ所はグアニンヌクレオチド交換能に必須であるSec7ドメインに、残りの1カ所は[[カルモジュリン]]結合部位である[[IQモチーフ]]に存在し、いずれもArf6に対するGEF活性の低下を招く。現在、BRAG1/IQSEC2変異は70種類以上報告され、主要な先天性知的障害原因遺伝子のひとつとなっている。BRAG1/IQSEC2変異患者は、知的障害とともに、てんかんや[[自閉症スペクトラム]]を含む精神障害を伴うことが多い。またIQSEC2/BRAG1領域はX染色体不活化を逃れる領域で、BRAG1/IQSEC2のヘテロ接合性変異を持つ女性患者は様々な度合いの症状を示す<ref name=Shoubridge2019><pubmed>30328660</pubmed></ref>。さらにBRAG/IQSECファミリーに属するBRAG2/IQSEC1とBRAG3/IQSEC3も常染色体潜性遺伝形式を示す知的障害の原因遺伝子として同定されている<ref name=Ansar2019><pubmed>31607425</pubmed></ref><ref name=Monies2019><pubmed>31130284</pubmed></ref>。


=== アルツハイマー病 ===
=== アルツハイマー病 ===
 アルツハイマー病の主要な病理学的特徴である老人斑の主成分であるアミロイドβタンパク質(A)は、アミロイド前駆タンパク質(APP)がβセクレターゼ(BACE1)とγセクレターゼの2種類のタンパク質分解酵素により段階的に切断され産生される。APPとBACE1は、いずれも一回膜貫通型タンパク質で細胞膜とエンドソーム間を小胞輸送される過程で、同じ細胞内コンパートメントで出会いAPPの分解反応が起こる。
 [[アルツハイマー病]]の主要な病理学的特徴である[[老人斑]]の主成分である[[アミロイドβタンパク質]]()は、[[アミロイド前駆タンパク質]]([[APP]])が[[βセクレターゼ]]([[BACE1]])と[[γセクレターゼ]]の2種類のタンパク質分解酵素により段階的に切断され産生される。APPとBACE1は、いずれも一回膜貫通型タンパク質で細胞膜とエンドソーム間を小胞輸送される過程で、同じ細胞内コンパートメントで出会いAPPの分解反応が起こる。
 
 Arf6のA&beta;産生への関与に関して、Arf6がBACE1のクラスリン非依存的経路を介した細胞膜から細胞内への取り込みと初期エンドソームへの輸送を制御することにより、初期エンドソームでのAPPの切断を制御することがHeLa細胞を用いた発現系で初めて報告された <ref name=Sannerud2011><pubmed>21825135</pubmed></ref>。しかしながら、その後、BACE1の細胞膜からの取り込みの主要な経路はクラスリン依存的経路であるとの報告がある<ref name=Chia2013><pubmed>23773724</pubmed></ref>。また、BACE1はC末細胞内領域の酸性クラスター・ジロイシンモチーフ(DISLL)を介してArfの主要な下流エフェクターであるコートタンパク質GGAと相互作用することにより、ArfによるBACE1の小胞輸送の制御を介したA&beta;産生への関与の可能性も報告されている<ref name=Wahle2005><pubmed>15886016</pubmed></ref>。
 Arf6のA&beta;産生への関与に関して、Arf6がBACE1のクラスリン非依存的経路を介した細胞膜から細胞内への取り込みと初期エンドソームへの輸送を制御することにより、初期エンドソームでのAPPの切断を制御することがHeLa細胞を用いた発現系で初めて報告された <ref name=Sannerud2011><pubmed>21825135</pubmed></ref>。しかしながら、その後、BACE1の細胞膜からの取り込みの主要な経路はクラスリン依存的経路であるとの報告がある<ref name=Chia2013><pubmed>23773724</pubmed></ref>。また、BACE1はC末細胞内領域の酸性クラスター・ジロイシンモチーフ(DISLL)を介してArfの主要な下流エフェクターであるコートタンパク質GGAと相互作用することにより、ArfによるBACE1の小胞輸送の制御を介したA&beta;産生への関与の可能性も報告されている<ref name=Wahle2005><pubmed>15886016</pubmed></ref>。


 一方、APPのArf6によるマクロピノサイトーシス経路を介した細胞内への取り込みが報告されている<ref name=Tang2015><pubmed>26170135</pubmed></ref>。APPはアダプタータンパク質であるMintタンパク質(Mint1-3)やFe65との結合モチーフ(XYNPXY)をC末細胞内領域に持ち、これらのアダプタータンパク質との相互作用を介した細胞膜への小胞輸送の制御を受けることが報告されている<ref name=Sabo1999><pubmed>10075692</pubmed></ref><ref name=Shrivastava-Ranjan2008><pubmed>17959829</pubmed></ref>。興味深いことにMintとFe65はいずれもArfの結合タンパク質(MintはすべてクラスのGTP結合型Arfとの結合能を、Fe65はGDP結合型Arf6との結合能を持つ)であり、APPの細胞内輸送におけるArfの関与の可能性が示唆されている<ref name=Cheung2014><pubmed>24056087</pubmed></ref><ref name=Hill2003><pubmed>12842896</pubmed></ref>。
 一方、APPのArf6による[[マクロピノサイトーシス経路]]を介した細胞内への取り込みが報告されている<ref name=Tang2015><pubmed>26170135</pubmed></ref>。APPはアダプタータンパク質である[[Mint]]タンパク質([[Mint1]]-[[Mint3|3]])や[[Fe65]]との結合モチーフ(XYNPXY)をC末細胞内領域に持ち、これらのアダプタータンパク質との相互作用を介した細胞膜への小胞輸送の制御を受けることが報告されている<ref name=Sabo1999><pubmed>10075692</pubmed></ref><ref name=Shrivastava-Ranjan2008><pubmed>17959829</pubmed></ref>。興味深いことにMintとFe65はいずれもArfの結合タンパク質(MintはすべてクラスのGTP結合型Arfとの結合能を、Fe65はGDP結合型Arf6との結合能を持つ)であり、APPの細胞内輸送におけるArfの関与の可能性が示唆されている<ref name=Cheung2014><pubmed>24056087</pubmed></ref><ref name=Hill2003><pubmed>12842896</pubmed></ref>。
 
 また、Arf1とArf4が、新たに合成されたBACE1のゴルジ装置から細胞膜への輸送を介して、APPのプロセッシングに関与することがHeLa細胞で報告されている<ref name=Tan2019><pubmed>30639513</pubmed></ref>。また、クラスIとII ArfのGEFであるGBF1がAPPのゴルジ装置から細胞膜への輸送に関与することが、大脳皮質初代培養系と[[SH-SY5Y]]細胞を用いた実験系で報告されている<ref name=Liu2019><pubmed>31111546</pubmed></ref>。いずれも生体での機能的重要性は不明である。


 また、Arf1とArf4が、新たに合成されたBACE1のゴルジ装置から細胞膜への輸送を介して、APPのプロセッシングに関与することがHeLa細胞で報告されている<ref name=Tan2019><pubmed>30639513</pubmed></ref>。また、クラスIとII ArfのGEFであるGBF1がAPPのゴルジ装置から細胞膜への輸送に関与することが、大脳皮質初代培養系とSH-SY5Y細胞を用いた実験系で報告されている<ref name=Liu2019><pubmed>31111546</pubmed></ref>。いずれも生体での機能的重要性は不明である。
 さらに、アルツハイマー病患者の海馬[[CA3]]-[[CA4]]領域の錐体ニューロンにおけるArf6の免疫染色性の増加が報告されているが、症例数は少数(n=8)で信頼性に乏しい<ref name=Tang2015><pubmed>26170135</pubmed></ref>。
さらに、アルツハイマー病患者の海馬CA3-CA4領域の錐体ニューロンにおけるArf6の免疫染色性の増加が報告されているが、症例数は少数(n=8)で信頼性に乏しい<ref name=Tang2015><pubmed>26170135</pubmed></ref>。


=== 筋萎縮性側索硬化症および前頭側頭型認知症 ===
=== 筋萎縮性側索硬化症および前頭側頭型認知症 ===
 C9orf72遺伝子のイントロン1のGGGGCCの繰り返し配列の異常な伸長は、筋萎縮性側索硬化症と前頭側頭葉型認知症の最も多い遺伝的要因の一つである。C9orf72の生理機能に関しては不明な点が多いが、C9orf72との結合タンパク質の探索により、Arf1とArf6が同定されている<ref name=Sivadasan2016><pubmed>27723745</pubmed></ref>。また、脊髄運動ニューロンの初代培養系において、C9orf72はArf6の活性化を抑制することにより、Arf6の下流エフェクターであるRac1-LIMキナーゼによるコフィリンのリン酸化を抑制する。その結果として成長円錐でのアクチンのリモデリングと軸索の伸長が促進する<ref name=Sivadasan2016><pubmed>27723745</pubmed></ref>。さらにC9orf72はArfGAPドメインを持たないが、SMCR8およびWDR41と複合体を形成し、Arf1、Arf5、Arf6に対するArf-GAP活性を示す<ref name=Su2021><pubmed>34145292</pubmed></ref><ref name=Su2020><pubmed>32848248</pubmed></ref>。これらの結果に一致して、運動ニューロン細胞株NSC-34細胞においてC9orf72の発現抑制によりGTP結合型Arf6が増加すること、C9orf72遺伝子変異を持つALS患者由来iPS細胞における軸索伸長の抑制が恒常活性型Arf6の発現により回復することが示されている<ref name=Sivadasan2016><pubmed>27723745</pubmed></ref>。しかしながら、C9orf72遺伝子を原因とする筋萎縮性側索硬化症および前頭側頭葉型認知症の発症や病態におけるArfの役割は不明である。
 C9orf72遺伝子のイントロン1のGGGGCCの繰り返し配列の異常な伸長は、[[筋萎縮性側索硬化症]]と[[前頭側頭葉型認知症]]の最も多い遺伝的要因の一つである。C9orf72の生理機能に関しては不明な点が多いが、C9orf72との結合タンパク質の探索により、Arf1とArf6が同定されている<ref name=Sivadasan2016><pubmed>27723745</pubmed></ref>。また、脊髄運動ニューロンの初代培養系において、C9orf72はArf6の活性化を抑制することにより、Arf6の下流エフェクターであるRac1-[[LIMキナーゼ]]による[[コフィリン]]の[[リン酸化]]を抑制する。その結果として成長円錐でのアクチンのリモデリングと軸索の伸長が促進する<ref name=Sivadasan2016><pubmed>27723745</pubmed></ref>。さらにC9orf72はArfGAPドメインを持たないが、[[SMCR8]]および[[WDR41]]と複合体を形成し、Arf1、Arf5、Arf6に対するArf-GAP活性を示す<ref name=Su2021><pubmed>34145292</pubmed></ref><ref name=Su2020><pubmed>32848248</pubmed></ref>。これらの結果に一致して、運動ニューロン細胞株[[NSC-34]]細胞においてC9orf72の発現抑制によりGTP結合型Arf6が増加すること、C9orf72遺伝子変異を持つALS患者由来[[iPS細胞]]における軸索伸長の抑制が[[恒常活性型]]Arf6の発現により回復することが示されている<ref name=Sivadasan2016><pubmed>27723745</pubmed></ref>。しかしながら、C9orf72遺伝子を原因とする筋萎縮性側索硬化症および前頭側頭葉型認知症の発症や病態におけるArfの役割は不明である。


=== α-シヌクレイン関連疾患(シヌクレイノパチー) ===
=== α-シヌクレイン関連疾患 ===
 α-シヌクレインが細胞内に凝集し蓄積することにより引き起こされる細胞死は、パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症などのシヌクレイノパチーとして総称される神経変性疾患の原因となる。
 [[α-シヌクレイン]]が細胞内に凝集し蓄積することにより引き起こされる細胞死は、[[パーキンソン病]]、[[レビー小体型認知症]]、[[多系統萎縮症]]などの[[シヌクレイノパチー]]として総称される神経変性疾患の原因となる。


 α-シヌクレインの凝集と細胞死を引き起こす機序として、Arf6によるPIP5Kγの活性化の関与が報告されている<ref name=Horvath2023><pubmed>37838947</pubmed></ref>。初代神経細胞において、家族性パーキンソン病の原因となる変異を持つα-シヌクレイン(A53T)の発現やα-シヌクレインフィブリルを暴露することにより、PIP5KγがArf6依存的に細胞膜にリクルートされPI(4,5)P2の産生が促進され、その結果、α-シヌクレインのさらなる凝集とPI(4,5)P2代謝産物であるイノシトール3リン酸(IP3)の増加によるIP3受容体を介した細胞内Ca2+の増加が引き起こされる。さらに変異α-シヌクレイン(A53T)やα-シヌクレインフィブリルは、小胞体のIP3受容体とミトコンドリアの電位依存性アニオンチャンネルとのカップリングを促し、ミトコンドリア内でのCa2+の上昇と活性酸素種の生成が促進され、細胞死が引き起こされるモデルが提唱されている<ref name=Horvath2023><pubmed>37838947</pubmed></ref>。
 α-シヌクレインの凝集と細胞死を引き起こす機序として、Arf6によるPIP5Kγの活性化の関与が報告されている<ref name=Horvath2023><pubmed>37838947</pubmed></ref>。初代神経細胞において、[[家族性パーキンソン病]]の原因となる変異を持つα-シヌクレイン(A53T)の発現や[[α-シヌクレインフィブリル]]を暴露することにより、PIP5KγがArf6依存的に細胞膜にリクルートされPI(4,5)P2の産生が促進され、その結果、α-シヌクレインのさらなる凝集とPI(4,5)P2代謝産物である[[イノシトール3リン酸]]([[IP3]])の増加による[[IP3受容体]]を介した細胞内[[Ca2+|Ca<sup>2+</sup>]]の増加が引き起こされる。さらに変異α-シヌクレイン(A53T)やα-シヌクレインフィブリルは、小胞体のIP3受容体と[[ミトコンドリア]]の[[電位依存性アニオンチャンネル]]とのカップリングを促し、ミトコンドリア内でのCa<sup>2+</sup>の上昇と[[活性酸素種]]の生成が促進され、[[細胞死]]が引き起こされるモデルが提唱されている<ref name=Horvath2023><pubmed>37838947</pubmed></ref>。


=== 末梢神経障害(軸索型ニューロパチー) ===
=== 末梢神経障害(軸索型ニューロパチー) ===
 クラスIとクラスII Arfに対するGEFであるGBF1の遺伝子変異が顕性遺伝性ニューロパチーを示す4家系の患者から見出されている<ref name=Mendoza-Ferreira2020><pubmed>32937143</pubmed></ref>。その臨床像は多彩で、20~50歳代で発症し、運動神経のみの障害(遺伝性運動ニューロパチー)あるいは運動神経と感覚神経の両方の障害(Charcot-Marie-Tooth病2型)を呈し、主に遠位筋の筋力低下と萎縮を伴う。4家系から見出された4種類の遺伝子変異の部位は主にGBF1のゴルジ装置への局在に関わるHDB (homology downstream of the Sec7) 1領域とHDB2領域に存在し、患者から樹立した線維芽細胞株はゴルジ装置の細胞質全体への分散などの構造異常を示す<ref name=Mendoza-Ferreira2020><pubmed>32937143</pubmed></ref>。
 クラスIとクラスII Arfに対するGEFであるGBF1の遺伝子変異が[[顕性遺伝性ニューロパチー]]を示す4家系の患者から見出されている<ref name=Mendoza-Ferreira2020><pubmed>32937143</pubmed></ref>。その臨床像は多彩で、20~50歳代で発症し、運動神経のみの障害(遺伝性運動ニューロパチー)あるいは運動神経と感覚神経の両方の障害(Charcot-Marie-Tooth病2型)を呈し、主に[[遠位筋]]の筋力低下と萎縮を伴う。4家系から見出された4種類の遺伝子変異の部位は主にGBF1のゴルジ装置への局在に関わるHDB (homology downstream of the Sec7) 1領域とHDB2領域に存在し、患者から樹立した[[線維芽細胞]]株はゴルジ装置の細胞質全体への分散などの構造異常を示す<ref name=Mendoza-Ferreira2020><pubmed>32937143</pubmed></ref>。
== 参考文献 ==
== 参考文献 ==