「Chromosome 9 open reading frame 72」の版間の差分

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=== 転写産物 ===
=== 転写産物 ===
 転写開始点および転写終結点を有し、転写産物については3種類のバリアントが報告されている。Variant 1(V1)はエクソン1a、2~5から構成される短鎖転写産物である。Variant 2(V2)はエクソン1b、2~11、Variant 3(V3)はエクソン1a、2~11から構成される長鎖転写産物である<ref name=Smeyers2021><pubmed>34025358</pubmed></ref>[5]<ref name=Balendra2018><pubmed>30120348</pubmed></ref>[6]。GGGGCCリピート配列は、V1およびV3ではイントロン領域に存在する一方で、V2では転写開始点直上流に存在し、転写産物自体には含まれない('''図1''')<ref name=Smeyers2021><pubmed>34025358</pubmed></ref>[5]<ref name=Balendra2018><pubmed>30120348</pubmed></ref>[6]。
 複数の転写開始点および転写終結点を有し、転写産物については3種類のバリアントが報告されている。Variant 1(V1)はエクソン1a、2~5から構成される短鎖転写産物である。Variant 2(V2)はエクソン1b、2~11、Variant 3(V3)はエクソン1a、2~11から構成される長鎖転写産物である<ref name=Smeyers2021><pubmed>34025358</pubmed></ref>[5]<ref name=Balendra2018><pubmed>30120348</pubmed></ref>[6]。GGGGCCリピート配列は、V1およびV3ではイントロン領域に存在する一方で、V2では転写開始点直上流に存在し、転写産物自体には含まれない('''図1''')<ref name=Smeyers2021><pubmed>34025358</pubmed></ref>[5]<ref name=Balendra2018><pubmed>30120348</pubmed></ref>[6]。


=== タンパク質 ===
=== タンパク質 ===
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== 機能 ==
== 機能 ==
 DENNファミリータンパク質の1つであるC9orf72タンパク質は、同じくDENNドメインを有するSMCR8、およびWDR41と複合体を形成する<ref name=Yang2016><pubmed>27617292</pubmed></ref>[14]<ref name=Sellier2016><pubmed>27103069</pubmed></ref>[15]<ref name=Su2020><pubmed>32848248</pubmed></ref>[16]<ref name=Tang2020><pubmed>32303654</pubmed></ref>[17]。この複合体はGTPase活性化タンパク質(GAP: GTPase activating protein)として<ref name=Su2020><pubmed>32848248</pubmed></ref>[16]<ref name=Tang2020><pubmed>32303654</pubmed></ref>[17]。C9orf72タンパク質が相互作用する代表的な低分子量G タンパク質は、小胞輸送に関与するRabファミリータンパク質であり、これによってオートファジーやシナプス機能などの様々な生体反応を制御することが明らかになっている。また近年では、自然免疫応答の制御においても重要な役割を担うことが示唆されている。
 DENNファミリータンパク質の1つであるC9orf72タンパク質は、同じくDENNドメインを有するSMCR8(Smith-Magenis chromosome region 8)、および足場タンパク質として機能するWDR41(WD40-repeat containing protein 41)と三者複合体を形成する[14][15][16][17]。この複合体は協調的に種々の低分子量G タンパク質の活性制御に関与し、他のDENNファミリータンパク質同様、DENNドメインを介して基質からGDPの解離を促進し、GTP結合型への変換を誘導するGEFとして機能する<ref name=Yang2016><pubmed>27617292</pubmed></ref>[14]<ref name=Sellier2016><pubmed>27103069</pubmed></ref>[15][14][15]。逆に、クライオ電子顕微鏡による複合体の構造解析や生化学的解析では、GTPase活性化タンパク質(GAP: GTPase activating protein)としての機能も報告されている<ref name=Su2020><pubmed>32848248</pubmed></ref>[16]<ref name=Tang2020><pubmed>32303654</pubmed></ref>[17][16][17]。C9orf72タンパク質が相互作用する代表的な低分子量G タンパク質は、小胞輸送に関与するRabファミリータンパク質であり、これによってオートファジーやシナプス機能などの様々な生体反応を制御することが明らかになっている。また近年では、自然免疫応答の制御においても重要な役割を担うことが示唆されている。


=== オートファジーの制御 ===
=== オートファジーの制御 ===
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=== 細胞骨格の制御 ===
=== 細胞骨格の制御 ===
 C9orf72タンパク質は、Rabファミリータンパク質とは異なる低分子量G タンパク質であるArfファミリータンパク質とも相互作用し、特にArf6との相互作用を介して、運動ニューロンにおけるアクチン細胞骨格の動態を制御することが報告されている<ref name=Sivadasan2016><pubmed>27723745</pubmed></ref>[22]。培養神経細胞ではC9orf72遺伝子の過剰発現によって軸索が伸長し、ノックダウンによって短縮することが確認されている<ref name=Sivadasan2016><pubmed>27723745</pubmed></ref>[22]。
 C9orf72タンパク質は、Rabファミリータンパク質とは異なる低分子量G タンパク質であるArfファミリータンパク質とも相互作用し、特にArf6との相互作用を介して、運動ニューロンにおけるアクチン細胞骨格の動態を制御することが報告されている<ref name=Su2020><pubmed>32848248</pubmed></ref>[16]<ref name=Sivadasan2016><pubmed>27723745</pubmed></ref>[22]。培養神経細胞ではC9orf72遺伝子の過剰発現によって軸索が伸長し、ノックダウンによって短縮することが確認されている<ref name=Sivadasan2016><pubmed>27723745</pubmed></ref>[22]。


=== 自然免疫応答の制御 ===
=== 自然免疫応答の制御 ===
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=== リピートRNA毒性 ===
=== リピートRNA毒性 ===
 異常伸長したリピート配列は両方向性に転写され、GGGGCCリピートおよびその逆鎖であるCCCCGGリピートを含むリピートRNAが産生される。これらのリピートRNAはRNA結合タンパク質(RBP: RNA-binding protein)と異常な相互作用を獲得して、RBPの生理的な分布や機能を撹乱し得る。特に、リピートRNAは異常な高次構造を形成してRNA fociと呼ばれるRNA凝集体を形成し、種々のRBPと共凝集することが示されている<ref name=DeJesusHernandez2011><pubmed>21944778</pubmed></ref>[3]<ref name=Haeusler2014><pubmed>24598541</pubmed></ref>[36]。例えば、GGGGCCリピートRNAが形成するRNA fociは、hnRNPH, hnRNPF, hnRNPA1, ALYREF, SRSF2, nucleolinといった多数のRBPと共局在し<ref name=Haeusler2014><pubmed>24598541</pubmed></ref>[36]<ref name=Conlon2016><pubmed>27623008</pubmed></ref>[37]<ref name=Lee2013><pubmed>24290757</pubmed></ref>[38]<ref name=CooperKnock2014><pubmed>24866055</pubmed></ref>[39]hnRNPHのRNA fociへの共凝集は標的mRNAのスプライシング異常を来すことが報告されている<ref name=Conlon2016 />[37]。
 異常伸長したリピート配列は両方向性に転写され、GGGGCCリピートおよびその逆鎖であるCCCCGGリピートを含むリピートRNAが産生される。これらのリピートRNAはRNA結合タンパク質(RBP: RNA-binding protein)と異常な相互作用を獲得して、RBPの生理的な分布や機能を撹乱し得る。特に、リピートRNAは異常な高次構造を形成してRNA fociと呼ばれるRNA凝集体を形成し、種々のRBPと共凝集することが示されている<ref name=DeJesusHernandez2011><pubmed>21944778</pubmed></ref>[3]<ref name=Haeusler2014><pubmed>24598541</pubmed></ref>[36]。例えば、GGGGCCリピートRNAが形成するRNA fociは、hnRNPH, hnRNPF, hnRNPA1, ALYREF, SRSF2, nucleolinといった多数のRBPと共局在し<ref name=Haeusler2014><pubmed>24598541</pubmed></ref>[36]<ref name=Conlon2016><pubmed>27623008</pubmed></ref>[37]<ref name=Lee2013><pubmed>24290757</pubmed></ref>[38]<ref name=CooperKnock2014><pubmed>24866055</pubmed></ref>[39]、これらのタンパク質が本来制御するスプライシング、転写、RNA輸送といったRNA代謝機構を乱す可能性がある。実際に、hnRNPHのRNA fociへの共凝集は標的mRNAのスプライシング異常を来すことが報告されている<ref name=Conlon2016 />[37]。


[[ファイル:Nagai C9orf72 Fig3.jpg|サムネイル|'''図3. RAN翻訳'''<br>'''(A)''' RAN翻訳は、C9orf72連鎖性ALS/FTDなど、遺伝子の非翻訳領域内のリピート伸長変異を原因とするノンコーディングリピート病の病態に関与する非古典的な翻訳機構である。リピートRNAを鋳型として、AUGコドン非依存的に翻訳が開始し、異常なリピートペプチドを産生する。翻訳は全ての読み枠で進行する。<br>'''(B)''' C9orf72連鎖性ALS/FTD においては、GGGGCCおよびCCCCGGリピートRNAを鋳型として、RAN翻訳によって合計5種類のDPRが産生される。]]
[[ファイル:Nagai C9orf72 Fig3.jpg|サムネイル|'''図3. RAN翻訳'''<br>'''(A)''' RAN翻訳は、C9orf72連鎖性ALS/FTDなど、遺伝子の非翻訳領域内のリピート伸長変異を原因とするノンコーディングリピート病の病態に関与する非古典的な翻訳機構である。リピートRNAを鋳型として、AUGコドン非依存的に翻訳が開始し、異常なリピートペプチドを産生する。翻訳は全ての読み枠で進行する。<br>'''(B)''' C9orf72連鎖性ALS/FTD においては、GGGGCCおよびCCCCGGリピートRNAを鋳型として、RAN翻訳によって合計5種類のDPRが産生される。]]