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== メチル化CpG結合タンパク質2とは == | == メチル化CpG結合タンパク質2とは == | ||
メチル化CpG結合タンパク質2 (Methyl-CpG binding protein 2, MeCP2) | メチル化CpG結合タンパク質2 (Methyl-CpG binding protein 2, MeCP2)は、1992年にBirdらによって[[哺乳類]]の[[メチル化]]された[[DNA]]に強い親和性を持って結合するタンパク質として初めて同定され<ref name=Lewis1992><pubmed>1606614</pubmed></ref>、その後の研究により、メチル化された標的遺伝子に結合し、その発現を抑制することが報告された<ref name=Nan1997><pubmed>9038338</pubmed></ref> (Nan X et al., Cell, 88, 471-481, 1997)。一方で1999年、[[wj :フーダ・ゾービ|Huda Zhoghbi]]らのグループにより進行性の神経症状と[[発達遅延]]を特徴とする重度の神経発達症である[[レット症候群]]の女児患者が[[X染色体]]に存在するMECP2遺伝子に変異を有することが示され、原因遺伝子であることが明らかとなった<ref name=Amir1999><pubmed>10508514</pubmed></ref> (Amir RE et al., Nat Genet, 23, 185-188, 1999)。2005年には重度の精神遅滞と進行性の神経症状を呈する複数の男児患者らにおいてMECP2遺伝子の重複が見出され、MECP2遺伝子の重複がレット症候群とは異なる神経発達症、[[MECP2重複症候群]]を引き起こすことが判った<ref name=VanEsch2005><pubmed>16080119</pubmed></ref><ref name=Meins2005><pubmed>15689435</pubmed></ref> (Van Esch H et al., Am J Hum Genet, 77(3), 442-53, 2005; Meins M et al., J Med Genet, 42(2), e12, 2005)。これらの報告により、MeCP2は[[エピジェネティクス]]と脳機能・神経疾患を結びつける分子として注目を集めている。MECP2遺伝子の異常はレット症候群やMECP2重複症候群だけでなく、広範な神経疾患患者にも認められることが続々と明らかになっており、MeCP2の機能を明らかにすることは脳機能や幅広い神経疾患病態の解明に寄与すると考えられている<ref name=Chahrour2007><pubmed>17988628</pubmed></ref> (Chahrour M & Zoghbi HY Neuron, 56, 422-437, 2007)。 | ||
== 構造 == | == 構造 == | ||
[[ファイル:Tsujimura MeCP2 Fig1.png|サムネイル|'''図1. MECP2遺伝子から発現する二つのアイソフォーム'''<br>MECP2-e1アイソフォームは選択的スプライシングによりエクソン2が除去される。MECP2-e2アイソフォームはエクソン2のATGより翻訳される。]] | [[ファイル:Tsujimura MeCP2 Fig1.png|サムネイル|'''図1. MECP2遺伝子から発現する二つのアイソフォーム'''<br>MECP2-e1アイソフォームは選択的スプライシングによりエクソン2が除去される。MECP2-e2アイソフォームはエクソン2のATGより翻訳される。]] | ||
=== 遺伝子構造 === | === 遺伝子構造 === | ||
MECP2遺伝子は4つのエクソンから成り、エクソン2の[[選択的スプライシング]]により2つの異なるアイソフォームをコードしている('''図1''')。[[MECP2a]]によってコードされる[[MeCP2-e1]]アイソフォームは、エクソン1によってコードされる24アミノ酸を含み、エクソン2によってコードされる9アミノ酸を欠いている。一方、[[MECP2b]]によってコードされる[[MeCP2-e2]]アイソフォームの転写開始部位はエクソン2にある。さらに、MECP2遺伝子には複数の[[ポリアデニル化部位]]を含む保存性の高い[[3'末端非翻訳領域]]があり、これにより代替的に4つの異なる転写産物を産生する<ref name=Chahrour2007><pubmed>17988628</pubmed></ref> (Chahrour M & Zoghbi HY Neuron, 56, 422-437, 2007)。 | |||
[[ファイル:Tsujimura MeCP2 Fig2.png|サムネイル|'''図2: MECP2の遺伝子構造およびレット症候群患者にみられる主なMECP2遺伝子の変異'''<br>オレンジがメチル化DNA結合ドメイン(MBD)、緑が転写抑制ドメイン(TRD)、紫がNCOR-SMRT interaction domain (NID)ドメイン、青がAT-hookドメインを示している。レット症候群患者にみられる代表的なナンセンス変異(赤文字)とミスセンス変異(青文字)。]] | [[ファイル:Tsujimura MeCP2 Fig2.png|サムネイル|'''図2: MECP2の遺伝子構造およびレット症候群患者にみられる主なMECP2遺伝子の変異'''<br>オレンジがメチル化DNA結合ドメイン(MBD)、緑が転写抑制ドメイン(TRD)、紫がNCOR-SMRT interaction domain (NID)ドメイン、青がAT-hookドメインを示している。レット症候群患者にみられる代表的なナンセンス変異(赤文字)とミスセンス変異(青文字)。]] | ||
=== タンパク質構造 === | === タンパク質構造 === | ||
メチル化DNA結合ドメイン(MBD)、転写抑制ドメイン(TRD)、NCOR- | メチル化DNA結合ドメイン(MBD)、転写抑制ドメイン(TRD)、NCOR-SMRT相互作用ドメイン (NID)、3つのAT-hookドメインなどの機能ドメインを有している<ref name=Lyst2015><pubmed>25732612</pubmed></ref> (Lyst MJ & Bird A, Nat Rev Genet, 16(5), 261-75, 2015)('''図2''')。MeCP2はメチル化DNA結合ドメインを介してメチル化された[[ヘテロクロマチン]]領域と相互作用する。転写抑制ドメインはMeCP2の転写抑制活性に重要なドメインであり、その中に位置するNCOR-SMRT相互作用ドメインを介してNCOR-SMRT転写抑制複合体と相互作用し標的遺伝子の転写を抑制する。AT-hookドメインはAT配列が豊富なDNA領域への相互作用を媒介する機能ドメインであり遺伝学的にMECP2の機能に重要な役割を果たしていることが示されている<ref name=Baker2013><pubmed>23452848</pubmed></ref> (Baker SA et al., Cell 152(5), 984-996, 2013)。 | ||
MBDドメインによるメチル化DNAへの結合様式については結晶構造解析により原子レベルでの研究が報告されている。関連タンパク質MBD1のメチル化DNA結合ドメインとメチル化DNAとの複合体の溶液構造は、MBD内の疎水性残基のパッチによって特異的結合が媒介されることが示唆された<ref name=Ohki2001><pubmed>11371345</pubmed></ref> (Ohki I et al., Cell 105, 487-497, 2001)。しかしながら、その後の研究によりDNAと結合したMeCP2メチル化DNA結合ドメインの共結晶構造から、結合特異性はDNAの主溝(Major Groove)のメチル化依存的な水和の認識によってもたらされることが示唆されている<ref name=Ho2008><pubmed>18313390</pubmed></ref> (Ho KL et al., Mol Cell 29, 525-531, 2008)。 | |||
[[ファイル:Tsujimura MeCP2 Fig3.png|サムネイル|'''図3. メチル化されたDNAに結合するMBDタンパク質ファミリー'''<br>哺乳類においては、MeCP2、MBD1、MBD2、MBD4の4つのメチル化されたDNAに結合するMBDタンパク質が存在する。]] | [[ファイル:Tsujimura MeCP2 Fig3.png|サムネイル|'''図3. メチル化されたDNAに結合するMBDタンパク質ファミリー'''<br>哺乳類においては、MeCP2、MBD1、MBD2、MBD4の4つのメチル化されたDNAに結合するMBDタンパク質が存在する。]] | ||