「セクエストソーム-1」の版間の差分

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=== 分子機能 ===
=== 分子機能 ===
==== 選択的オートファジー受容体 ====
==== 選択的オートファジー受容体 ====
 オートファジーはユビキチン化されたタンパク質の集合体や障害を受けたオルガネラ、細胞内に侵入した細菌など特定の基質を選択的に認識し分解することができる。この過程は「選択的オートファジー」と呼ばれる('''図1''')。選択性を生み出しているのが、分解される基質を認識し、隔離膜へと繋ぐアダプタータンパク質(オートファジー受容体)である。オートファジー受容体には基質上のユビキチン鎖を認識する受容体と基質上に局在する受容体がある。前者にはp62、Neighbor of BRCA1 gene 1 (NBR1)、Nuclear domain 10 protein 52 (NDP52)、Calcium binding and coiled-coil domain containing protein 2 (CALCOCO2)、Tax1-binding protein 1 (TAX1BP1)、Optineurin (OPTN)などがあり、LIRとユビキチン結合ドメインを有する <ref name=Vargas2023><pubmed>36302887</pubmed></ref><ref name=Yamamoto2023><pubmed>36635405</pubmed></ref>。後者にはマイトファジー(ミトコンドリアのオートファジー)に関与するBCL2 interacting protein 3 (BNIP3)、BCL2 interacting protein 3 like (BNIP3L/NIX)、FUN14 domain containing 1 (FUNDC1)、ERファジー(小胞体のオートファジー)に関与するCell cycle progression 1 (CCPG1)、Testis expressed 264 (TEX264)、Family with sequence similarity 134 (FAM134)、Translocation protein SEC62 homolog b (SEC62b)、Cyclin-dependent kinase 5 regulatory subunit–associated protein 3 (CDK5RAP3/C53)、ゴルジファジー(ゴルジ体のオートファジー)に関与するCalcium binding and coiled-coil domain containing 1 (CALCOCO1)、Yip1 domain family member 3 (YIPF3)、Yip1 domain family member 4 (YIPF4)などが一例として挙げられ、それぞれLIRを持つ。
 オートファジーはユビキチン化されたタンパク質の集合体や障害を受けたオルガネラ、細胞内に侵入した細菌など特定の基質を選択的に認識し分解することができる。この過程は「選択的オートファジー」と呼ばれる('''図1''')。選択性を生み出しているのが、分解される基質を認識し、隔離膜へと繋ぐアダプタータンパク質(オートファジー受容体)である。オートファジー受容体には基質上のユビキチン鎖を認識する受容体と基質上に局在する受容体がある。前者にはp62、Neighbor of BRCA1 gene 1 (NBR1)、Nuclear domain 10 protein 52 (NDP52)、Tax1-binding protein 1 (TAX1BP1)、Optineurin (OPTN)などがあり、LIRとユビキチン結合ドメインを有する <ref name=Vargas2023><pubmed>36302887</pubmed></ref><ref name=Yamamoto2023><pubmed>36635405</pubmed></ref>。後者にはマイトファジー(ミトコンドリアのオートファジー)に関与するBCL2 interacting protein 3 (BNIP3)、BCL2 interacting protein 3 like (BNIP3L/NIX)、FUN14 domain containing 1 (FUNDC1)、ERファジー(小胞体のオートファジー)に関与するCell cycle progression 1 (CCPG1)、Testis expressed 264 (TEX264)、Family with sequence similarity 134 (FAM134)、Translocation protein SEC62 homolog b (SEC62b)、ゴルジファジー(ゴルジ体のオートファジー)に関与するYip1 domain family member 3 (YIPF3)、Yip1 domain family member 4 (YIPF4)などが一例として挙げられ、それぞれLIRを持つ。


 p62は後述のように、p62 bodyを形成することで、液滴に取り込まれたタンパク質やオルガネラ、ユビキチン化タンパク質を効率的にオートファジーで分解する <ref name=Kurusu2024><pubmed>37948628</pubmed></ref>。p62はユビキチン鎖を介して脱分極したミトコンドリア、損傷リソソーム、細菌などにも結合するものの、オートファジー受容体欠損細胞を用いた解析などにより、これらの分解に必須ではないと言われている <ref name=Eapen2021><pubmed>34585663</pubmed></ref><ref name=Lazarou2015><pubmed>26266977</pubmed></ref><ref name=Ravenhill2019><pubmed>30853402</pubmed></ref><ref name=Shima2023><pubmed>37801070</pubmed></ref>。
 p62は後述のように、p62 bodyを形成することで、液滴に取り込まれたタンパク質やオルガネラ、ユビキチン化タンパク質を効率的にオートファジーで分解する <ref name=Kurusu2024><pubmed>37948628</pubmed></ref>。p62はユビキチン鎖を介して脱分極したミトコンドリア、損傷リソソーム、細菌などにも結合するものの、オートファジー受容体欠損細胞を用いた解析などにより、これらの分解に必須ではないと言われている <ref name=Eapen2021><pubmed>34585663</pubmed></ref><ref name=Lazarou2015><pubmed>26266977</pubmed></ref><ref name=Ravenhill2019><pubmed>30853402</pubmed></ref><ref name=Shima2023><pubmed>37801070</pubmed></ref>。
[[ファイル:Sakamaki Sequestosome Fig4.png|サムネイル|'''図4. オートファジー分解の場としてのp62 body'''<br>
[[ファイル:Sakamaki Sequestosome Fig4.png|サムネイル|'''図4. オートファジー分解の場としてのp62 body'''<br>
p62 bodyにはオートファジー受容体NBR1やTAX1BP1、ユビキチンリガーゼ複合体の構成因子KEAP1や機能未知のヴォルト粒子が取りこまれ、液滴と共にオートファジーにより分解される。]]
p62 bodyにはオートファジー受容体NBR1やTAX1BP1、ユビキチンリガーゼ複合体の構成因子KEAP1や機能未知のヴォルト粒子が取りこまれ、液滴と共にオートファジーにより分解される。]]
==== p62 body形成と選択的オートファジーによる分解 ====
==== p62 body形成と選択的オートファジーによる分解 ====
 p62は通常、自己相互作用ドメインであるPB1ドメインを介してオリゴマーとなり、フィラメント構造を形成する。p62フィラメントはユビキチン鎖と結合することで液‒液相分離を引き起こし、p62 bodyを形成する <ref name=Sun2018><pubmed>29507397</pubmed></ref><ref name=Zaffagnini2018><pubmed>29343546</pubmed></ref>。p62のUBAドメインは通常ホモ二量体を形成しユビキチンと結合できないが、p62のUBAドメイン内のセリン残基のリン酸化によりこの結合が阻害され、ユビキチンとの結合が増強される。そのリン酸化を制御するのがULK1(ヒト場合の407番目のセリン残基)やTBK1、CK2(ヒト場合の403番目のセリン残基)である <ref name=Lim2015><pubmed>25723488</pubmed></ref><ref name=Matsumoto2011><pubmed>22017874</pubmed></ref><ref name=Pilli2012><pubmed>22921120</pubmed></ref>。p62 bodyにはKEAP1や機能未知のVault粒子、オートファジー受容体であるNBR1やTAX1BP1が取りこまれ、p62 bodyと共に選択的オートファジーにより分解される <ref name=Kurusu2023><pubmed>37192622</pubmed></ref>('''図4''')。オートファジー受容体はKEAP1(p62と結合)やVault粒子(NBR1と結合)のp62 bodyへの取り込みと、オートファジー機構の呼び込みに関与する <ref name=Komatsu2010><pubmed>20173742</pubmed></ref><ref name=Turco2019><pubmed>30853400</pubmed></ref><ref name=Vargas2019><pubmed>30853401</pubmed></ref>。p62やTAX1BP1はオートファジー機構の最上流因子FIP200(FAK family kinase-interacting protein of 200 kDa)を呼び込み、p62 body上で隔離膜が形成される。隔離膜はウエッティング効果によりp62 bodyに沿い伸長し、最終的に液滴の一部をちぎり取り、分解する <ref name=Agudo-Canalejo2021><pubmed>33473217</pubmed></ref><ref name=Kageyama2021><pubmed>33397898</pubmed></ref>。p62 bodyの選択的オートファジーはユビキチン化タンパク質を効率的に分解することができ、それによりタンパク質の恒常性の維持に働いていると考えられる。
 p62は通常、自己相互作用ドメインであるPB1ドメインを介してオリゴマーとなり、フィラメント構造を形成する。p62フィラメントはユビキチン鎖と結合することで液‒液相分離を引き起こし、p62 bodyを形成する <ref name=Sun2018><pubmed>29507397</pubmed></ref><ref name=Zaffagnini2018><pubmed>29343546</pubmed></ref>。p62のUBAドメインは通常ホモ二量体を形成しユビキチンと結合できないが、p62のUBAドメイン内のセリン残基のリン酸化によりこの結合が阻害され、ユビキチンとの結合が増強される。そのリン酸化を制御するのがULK1(ヒト場合の407番目のセリン残基)やTBK1、CK2(ヒト場合の403番目のセリン残基)である <ref name=Lim2015><pubmed>25723488</pubmed></ref><ref name=Matsumoto2011><pubmed>22017874</pubmed></ref><ref name=Pilli2012><pubmed>22921120</pubmed></ref>。p62 bodyにはKEAP1や機能未知のVault粒子、オートファジー受容体であるNBR1やTAX1BP1が取りこまれ、p62 bodyと共に選択的オートファジーにより分解される <ref name=Kurusu2023><pubmed>37192622</pubmed></ref>('''図4''')。オートファジー受容体はKEAP1(p62と結合)やVault粒子(NBR1と結合)のp62 bodyへの取り込みと、オートファジー機構の呼び込みに関与する <ref name=Komatsu2010><pubmed>20173742</pubmed></ref><ref name=Turco2019><pubmed>30853400</pubmed></ref><ref name=Vargas2019><pubmed>30853401</pubmed></ref>。p62やTAX1BP1はオートファジー機構の最上流因子FIP200(FAK family kinase-interacting protein of 200 kDa)を呼び込み、p62 body上で隔離膜が形成される。隔離膜はウエッティング効果によりp62 bodyに沿い伸長し、最終的に液滴の一部をちぎり取り、分解する <ref name=Agudo-Canalejo2021><pubmed>33473217</pubmed></ref><ref name=Kageyama2021><pubmed>33397898</pubmed></ref>。p62 bodyの選択的オートファジーはユビキチン化タンパク質を効率的に分解することができ、それによりタンパク質の恒常性の維持に働いていると考えられる。

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