「グレリン」の版間の差分

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== 遺伝子と発現調節 ==
== 遺伝子と発現調節 ==
=== 遺伝子構造 ===
=== 遺伝子構造 ===
 ヒトのグレリン遺伝子は第3染色体(3p25–26)に位置し、5つのエキソンから構成される<ref name=Smith1997><pubmed>9331545</pubmed></ref><ref name=Tanaka2001><pubmed>11459820</pubmed></ref><ref name=Kanamoto2004><pubmed>15142980</pubmed></ref>(26–28)。グレリン遺伝子には2種類の転写開始部位があり、それぞれ開始コドン(ATG)の上流-80および-555の位置に存在する。これにより、異なる転写産物が生成される。-80の転写開始部位から産生されるmRNAは、第2エキソン以下の4つのエキソンから構成され、28アミノ酸残基からなるグレリンをコードする主要なmRNAである。これに対して、-555の転写開始部位から産生されるmRNAは、第1エキソンを含む5つのエキソンから構成される。ラットおよびマウスのグレリン遺伝子では、第14アミノ酸であるグルタミン(Gln)のコドンCAGが選択的スプライシングのシグナルとして機能し、2種類の成熟mRNAが生成される<ref name=Hosoda2000b><pubmed>10801861</pubmed></ref>(29)。すなわち28アミノ酸からなるグレリンであり、他方は14番目のGlnが欠失した27アミノ酸型のdes-Gln14-グレリンである。
 ヒトのグレリン遺伝子は第3染色体(3p25–26)に位置し、5つの[[エキソン]]から構成される<ref name=Smith1997><pubmed>9331545</pubmed></ref><ref name=Tanaka2001><pubmed>11459820</pubmed></ref><ref name=Kanamoto2004><pubmed>15142980</pubmed></ref>。グレリン遺伝子には2種類の[[転写開始部位]]があり、それぞれ[[開始コドン]](ATG)の上流-80および-555の位置に存在する。これにより、異なる[[転写産物]]が生成される。-80の転写開始部位から産生される[[mRNA]]は、第2エキソン以下の4つのエキソンから構成され、28アミノ酸残基からなるグレリンをコードする主要なmRNAである。これに対して、-555の転写開始部位から産生されるmRNAは、第1エキソンを含む5つのエキソンから構成される。ラットおよび[[マウス]]のグレリン遺伝子では、第14アミノ酸である[[グルタミン]](Gln)のコドンCAGが選択的スプライシングのシグナルとして機能し、2種類の成熟mRNAが生成される<ref name=Hosoda2000b><pubmed>10801861</pubmed></ref>。一方は28アミノ酸からなるグレリンであり、他方は14番目のGlnが欠失した27アミノ酸型の[[des-Gln14-グレリン]]である。


=== 発現調節 ===
=== 発現調節 ===
 グレリンの発現は栄養状態やホルモン環境に応じて調節される。特に、空腹時には転写が促進され、食後には抑制される<ref name=Asakawa2001><pubmed>11159873</pubmed></ref>(30)。一方、レプチン投与が血漿中の胃グレリン濃度を迅速に低下させることから<ref name=Ueno2004><pubmed>15155574</pubmed></ref>(31)、グレリンとレプチンの拮抗作用によってエネルギーバランスは維持されている。
 グレリンの発現は[[栄養]]状態や[[ホルモン]]環境に応じて調節される。特に、空腹時には転写が促進され、食後には抑制される<ref name=Asakawa2001><pubmed>11159873</pubmed></ref>。一方、[[レプチン]]投与が[[血漿]]中の胃グレリン濃度を迅速に低下させることから<ref name=Ueno2004><pubmed>15155574</pubmed></ref>(31)、グレリンとレプチンの拮抗作用によってエネルギーバランスは維持されている。さらに、グレリンの発現は[[消化管ホルモン]]や[[神経伝達物質]]によっても調節される。例えば、[[グルカゴン様ペプチド-1]]([[GLP-1]])や[[コレシストキニン]]([[CCK]])はグレリンの分泌を抑制する作用を持つ<ref name=Steinert2017><pubmed>28003328</pubmed></ref>。また、交感神経系の活性化に伴い、ノルアドレナリンがグレリン分泌を増加させることも報告されている<ref name=Mundinger2006><pubmed>16527847</pubmed></ref>。
さらに、グレリンの発現は消化管ホルモンや神経伝達物質によっても調節される。
例えば、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)やコレシストキニン(CCK)はグレリンの分泌を抑制する作用を持つ
<ref name=Steinert2017><pubmed>28003328</pubmed></ref>(32)。
また、交感神経系の活性化に伴い、ノルアドレナリンがグレリン分泌を増加させることも報告されている
<ref name=Mundinger2006><pubmed>16527847</pubmed></ref>(33)


[[ファイル:Kojima Ghrelin Fig4.png|サムネイル|'''図4. (A) グレリン受容体 (B) リガンド結合ポケット'''<br>グレリン受容体とCompound 21との複合体の切断面を見ると、リガンド結合ポケットが分岐していることがわかる<ref name=Shiimura2020><pubmed>32814772</pubmed></ref>(34)。]]
[[ファイル:Kojima Ghrelin Fig4.png|サムネイル|'''図4. (A) グレリン受容体 (B) リガンド結合ポケット'''<br>グレリン受容体とCompound 21との複合体の切断面を見ると、リガンド結合ポケットが分岐していることがわかる<ref name=Shiimura2020><pubmed>32814772</pubmed></ref>(34)。]]