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== 輸送機構 == | == 輸送機構 == | ||
ミトコンドリアは分裂、融合を繰り返しながら移動を繰り返し、エネルギー需要等に応じて目的の細胞区画に輸送される。特に、数十cmから1mにも及ぶ軸索では、ミトコンドリアは神経突起の発達に伴って長距離を活発に輸送される (図3)。一方で、成熟したニューロンにおいては、軸索、樹状突起双方でミトコンドリアのダイナミクスは大きく低下する<ref name=Lewis2016><pubmed>27641765</pubmed></ref><ref name=Smit-Rigter2016><pubmed>27641766</pubmed></ref>32,33。未成熟なマウス皮質由来のニューロンでは、およそ70%ものミトコンドリアが動的な挙動を示す (Motile mitochondria) のに対し、成熟したニューロンにおいてはその割合はおよそ10%程度まで低下する。成熟した海馬由来のニューロンにおいて、その移動速度はおよそ0.2-2 µm/secと計測されている<ref name=Devine2018><pubmed>29348666</pubmed></ref>34。細胞体 (Soma) からプレシナプス (順行性輸送; Anterograde transport)、またプレシナプスから細胞体への輸送 (逆行性輸送; Retrograde transport) の長距離の移動においては、他のカーゴ(オルガネラ、膜小胞)と同様にモータータンパク質であるキネシン、ダイニンタンパク質に乗り微小管上を輸送される (図3)。モータータンパク質は、ミトコンドリア以外の様々なカーゴの運搬にも用いられる共通の装置であり、ミトコンドリアを選択的に輸送するための分子装置が存在する。TRAK (Trafficking kinesin-binding proteins) タンパク質 (ショウジョウバエにおいてはMiltonとして知られる) はKIF5 (kinesin heavy chain isoform 5) 及びDyneinと相互作用し、ミトコンドリア輸送に働く<ref name=Stowers2002><pubmed>12495622</pubmed></ref><ref name= | ミトコンドリアは分裂、融合を繰り返しながら移動を繰り返し、エネルギー需要等に応じて目的の細胞区画に輸送される。特に、数十cmから1mにも及ぶ軸索では、ミトコンドリアは神経突起の発達に伴って長距離を活発に輸送される (図3)。一方で、成熟したニューロンにおいては、軸索、樹状突起双方でミトコンドリアのダイナミクスは大きく低下する<ref name=Lewis2016><pubmed>27641765</pubmed></ref><ref name=Smit-Rigter2016><pubmed>27641766</pubmed></ref>32,33。未成熟なマウス皮質由来のニューロンでは、およそ70%ものミトコンドリアが動的な挙動を示す (Motile mitochondria) のに対し、成熟したニューロンにおいてはその割合はおよそ10%程度まで低下する。成熟した海馬由来のニューロンにおいて、その移動速度はおよそ0.2-2 µm/secと計測されている<ref name=Devine2018><pubmed>29348666</pubmed></ref>34。細胞体 (Soma) からプレシナプス (順行性輸送; Anterograde transport)、またプレシナプスから細胞体への輸送 (逆行性輸送; Retrograde transport) の長距離の移動においては、他のカーゴ(オルガネラ、膜小胞)と同様にモータータンパク質であるキネシン、ダイニンタンパク質に乗り微小管上を輸送される (図3)。モータータンパク質は、ミトコンドリア以外の様々なカーゴの運搬にも用いられる共通の装置であり、ミトコンドリアを選択的に輸送するための分子装置が存在する。TRAK (Trafficking kinesin-binding proteins) タンパク質 (ショウジョウバエにおいてはMiltonとして知られる) はKIF5 (kinesin heavy chain isoform 5) 及びDyneinと相互作用し、ミトコンドリア輸送に働く<ref name=Stowers2002><pubmed>12495622</pubmed></ref><ref name=vanSpronsen2013><pubmed>23395375</pubmed></ref>35,36。ミトコンドリア外膜上ミトコンドリアとモータータンパク質の繋留はmitochondrial Rho GTPases (MIROs) によって制御される<ref name=Guo2005><pubmed>16055062</pubmed></ref>37。 | ||
上述の通り、成熟したニューロンにおいてミトコンドリアは主にプレシナプス近傍において移動速度が低下し安定的に局在する。MIROタンパク質は2つのGTPaseドメインと、それらに挟まれたCa2+結合能を有する2つのEF-hand motif、C末端にミトコンドリア外膜と結合するドメインを有す。プレシナプスにおいて神経活動に依存したCa2+流入によりMIROのEF-hand motifが構造変化し、ミトコンドリアがモータータンパク質から外れることでプレシナプスに局在するというモデルが提唱されている<ref name=Wang2009><pubmed>19135897</pubmed></ref>38。一方で、in vivoにおける二光子顕微鏡を用いた研究では自発的なCa2+ transientと樹状突起ミトコンドリアの移動性には正の相関がないという報告もあり議論が分かれている<ref name=Silva2021><pubmed>34491202</pubmed></ref>39。また、プレシナプスへミトコンドリアを繋留する因子としてSyntaphilinタンパク質が同定されており<ref name=Kang2008><pubmed>18191227</pubmed></ref>40、シグナル伝達経路として、LKB1-NUAKを介したキナーゼカスケードの必要性も示されている<ref name=Courchet2013><pubmed>23791179</pubmed></ref>41。さらに、細胞外の栄養状態に応じてミトコンドリアの動態が変化することも知られており、グルコースがミトコンドリアの移動制御に関わる可能性が示唆されている<ref name=Pekkurnaz2014><pubmed>24995978</pubmed></ref>42。TRAK1タンパク質はO‑linked N‑acetylglucosamine (O‑GlcNAc) transferase 110 kDa subunit (OGT)と複合体を組み、O‑GlcNAc修飾を受ける。細胞外のグルコース濃度の上昇によりTRAK1のO‑GlcNAc修飾量が増加しミトコンドリアの繋留が起きる。 | 上述の通り、成熟したニューロンにおいてミトコンドリアは主にプレシナプス近傍において移動速度が低下し安定的に局在する。MIROタンパク質は2つのGTPaseドメインと、それらに挟まれたCa2+結合能を有する2つのEF-hand motif、C末端にミトコンドリア外膜と結合するドメインを有す。プレシナプスにおいて神経活動に依存したCa2+流入によりMIROのEF-hand motifが構造変化し、ミトコンドリアがモータータンパク質から外れることでプレシナプスに局在するというモデルが提唱されている<ref name=Wang2009><pubmed>19135897</pubmed></ref>38。一方で、in vivoにおける二光子顕微鏡を用いた研究では自発的なCa2+ transientと樹状突起ミトコンドリアの移動性には正の相関がないという報告もあり議論が分かれている<ref name=Silva2021><pubmed>34491202</pubmed></ref>39。また、プレシナプスへミトコンドリアを繋留する因子としてSyntaphilinタンパク質が同定されており<ref name=Kang2008><pubmed>18191227</pubmed></ref>40、シグナル伝達経路として、LKB1-NUAKを介したキナーゼカスケードの必要性も示されている<ref name=Courchet2013><pubmed>23791179</pubmed></ref>41。さらに、細胞外の栄養状態に応じてミトコンドリアの動態が変化することも知られており、グルコースがミトコンドリアの移動制御に関わる可能性が示唆されている<ref name=Pekkurnaz2014><pubmed>24995978</pubmed></ref>42。TRAK1タンパク質はO‑linked N‑acetylglucosamine (O‑GlcNAc) transferase 110 kDa subunit (OGT)と複合体を組み、O‑GlcNAc修飾を受ける。細胞外のグルコース濃度の上昇によりTRAK1のO‑GlcNAc修飾量が増加しミトコンドリアの繋留が起きる。 | ||