「ミトコンドリア」の版間の差分

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==== オリゴデンドロサイト====
==== オリゴデンドロサイト====
 軸索をwrappingする[[ミエリン鞘]]の形成、維持には脂質([[コレステロール]]、[[リン脂質]]、[[糖スフィンゴ脂質]])供給が必要となり、膨大なATPを要する。およそ1 gのミエリンを形成するのに約3.3×10²³個のATP分子が必要であると見積もられている<ref name=Meyer2021><pubmed>34198810</pubmed></ref>。このミエリン産生時期に必要な膨大なATPは主にミトコンドリアの酸化的リン酸化により担われると考えられている。実際に、ミエリン発達期の[[オリゴデンドロサイト]]において、呼吸鎖複合体複合体IVの構成因子である[[ヘム]]Aの生合成に重要な[[Cox10]]遺伝子 ([[heme A:farnesyltransferase gene]]) のノックアウトにより顕著なミエリン形成異常が起きる。一方、ミエリン形成後におけるCox10のノックアウトではミエリンや軸索機能異常は見られなかった<ref name=Funfschilling2012><pubmed>22622581</pubmed></ref>58。このことから、[[オリゴデンドロサイト前駆細胞]] ([[oligodendrocyte precursor cell]]; [[OPC]]) やミエリン形成を担うオリゴデンドロサイトはミトコンドリア呼吸鎖複合体によるATP産生に依存する一方で、成熟したオリゴデンドロサイトは解糖系に依存し、エネルギー代謝経路のスイッチングが起きると考えられている。このオリゴデンドロサイトの成熟におけるエネルギー代謝経路のスイッチングと一致して、オリゴデンドロサイトの成熟に伴いミトコンドリア形態や密度も変化することが知られている<ref name=Meyer2021><pubmed>34198810</pubmed></ref>。未成熟なオリゴデンドロサイトでは長いミトコンドリアが多い一方、成熟したオリゴデンドロサイトではミトコンドリアは短い断片化した形態を示し突起部に存在する。また、長年、中枢神経系のミエリンにはミトコンドリアが存在しないと考えられてきたが、近年、ミエリンにもミトコンドリアが存在することが確認され<ref name=Rinholm2016><pubmed>26775288</pubmed></ref><ref name=Nakamura2021><pubmed>32910475</pubmed></ref><ref name=Battefeld2019><pubmed>30605675</pubmed></ref>、一次突起の3分の1程度の密度ではあるが細胞質チャネルやパラノード領域に存在する。このミエリンにおけるミトコンドリアの役割についてはあまり分かっていないが、Ca<sup>2+</sup>シグナルや脂質合成の制御に関わる可能性が示唆されている。
 軸索をwrappingする[[ミエリン鞘]]の形成、維持には脂質([[コレステロール]]、[[リン脂質]]、[[糖スフィンゴ脂質]])供給が必要となり、膨大なATPを要する。およそ1 gのミエリンを形成するのに約3.3×10²³個のATP分子が必要であると見積もられている<ref name=Meyer2021><pubmed>34198810</pubmed></ref>。このミエリン産生時期に必要な膨大なATPは主にミトコンドリアの酸化的リン酸化により担われると考えられている。実際に、ミエリン発達期の[[オリゴデンドロサイト]]において、呼吸鎖複合体複合体IVの構成因子である[[ヘム]]Aの生合成に重要な[[Cox10]]遺伝子 ([[heme A:farnesyltransferase gene]]) のノックアウトにより顕著なミエリン形成異常が起きる。一方、ミエリン形成後におけるCox10のノックアウトではミエリンや軸索機能異常は見られなかった<ref name=Funfschilling2012><pubmed>22622581</pubmed></ref>58。このことから、[[オリゴデンドロサイト前駆細胞]] ([[oligodendrocyte precursor cell]]; [[OPC]]) やミエリン形成を担うオリゴデンドロサイトはミトコンドリア呼吸鎖複合体によるATP産生に依存する一方で、成熟したオリゴデンドロサイトは解糖系に依存し、エネルギー代謝経路のスイッチングが起きると考えられている。このオリゴデンドロサイトの成熟におけるエネルギー代謝経路のスイッチングと一致して、オリゴデンドロサイトの成熟に伴いミトコンドリア形態や密度も変化することが知られている<ref name=Meyer2021><pubmed>34198810</pubmed></ref>。未成熟なオリゴデンドロサイトでは長いミトコンドリアが多い一方、成熟したオリゴデンドロサイトではミトコンドリアは短い断片化した形態を示し突起部に存在する。また、長年、中枢神経系のミエリンにはミトコンドリアが存在しないと考えられてきたが、近年、ミエリンにもミトコンドリアが存在することが確認され<ref name=Rinholm2016><pubmed>26775288</pubmed></ref><ref name=Nakamura2021><pubmed>32910475</pubmed></ref><ref name=Battefeld2019><pubmed>30605675</pubmed></ref>、一次突起の3分の1程度の密度ではあるが細胞質チャネルやパラノード領域に存在する。このミエリンにおけるミトコンドリアの役割についてはあまり分かっていないが、Ca<sup>2+</sup>シグナルや脂質合成の制御に関わる可能性が示唆されている。
   
   
==== 他オルガネラとの相互作用 ====
==== 他オルガネラとの相互作用 ====
 電子顕微鏡を用いた観察により1980年代頃から、ニューロンにおいてミトコンドリアが小胞体と接触していることが報告されてきた<ref name=McGraw1980><pubmed>7372706</pubmed></ref><ref name=Tsukita1976><pubmed>1025229</pubmed></ref><ref name=Tsukita1980><pubmed>6153657</pubmed></ref><ref name=Lindsey1985><pubmed>3878394</pubmed></ref><ref name=Hirokawa1980><pubmed>7003067</pubmed></ref>62-66。3次元電子顕微鏡画像の解析から、ニューロンのすべてのコンパートメントに広範なミトコンドリア–小胞体接触 (mitochondria-ER contacts; MERCS) が存在することも明らかになっている ('''図4'''、'''5''')。ミトコンドリア–小胞体接触のニューロンにおける主要な役割の一つは小胞体からミトコンドリアへのCa<sup>2+</sup>輸送である。上述のようにミトコンドリア内膜に存在するCa<sup>2+</sup>チャネルmitochondrial calcium uniporterの開口には通常、ミトコンドリア表面における10 µM以上のCa<sup>2+</sup>濃度を必要とする。細胞質のCa<sup>2+</sup>濃度がmitochondrial calcium uniporterの開口に必要なレベルに達するのは、小胞体内に蓄積された高濃度(数百µM)のCa<sup>2+</sup>が、IP₃受容体(IP₃R)やリアノジン受容体(RyR)を介して放出された際の小胞体近傍のみである。したがって、ミトコンドリアが小胞体と10-30 nmの距離にある接触部位に限局して、ミトコンドリア表面の局所的なCa<sup>2+</sup>濃度がmitochondrial calcium uniporterの活性化閾値を上回るレベルにまで上昇し、ミトコンドリアにCa<sup>2+</sup>が取り込まれる ('''図5''')。
 電子顕微鏡を用いた観察により1980年代頃から、ニューロンにおいてミトコンドリアが小胞体と接触していることが報告されてきた<ref name=McGraw1980><pubmed>7372706</pubmed></ref><ref name=Tsukita1976><pubmed>1025229</pubmed></ref><ref name=Tsukita1980><pubmed>6153657</pubmed></ref><ref name=Lindsey1985><pubmed>3878394</pubmed></ref><ref name=Hirokawa1980><pubmed>7003067</pubmed></ref>62-66。[[3次元電子顕微鏡]]画像の解析から、ニューロンのすべてのコンパートメントに広範なミトコンドリア–小胞体接触部位が存在することも明らかになっている ('''図4'''、'''5''')。ミトコンドリア–小胞体接触のニューロンにおける主要な役割の一つは小胞体からミトコンドリアへのCa<sup>2+</sup>輸送である。上述のようにミトコンドリア内膜に存在するCa<sup>2+</sup>チャネルmitochondrial calcium uniporterの開口には通常、ミトコンドリア表面における10 µM以上のCa<sup>2+</sup>濃度を必要とする。細胞質のCa<sup>2+</sup>濃度がmitochondrial calcium uniporterの開口に必要なレベルに達するのは、小胞体内に蓄積された高濃度(数百µM)のCa<sup>2+</sup>が、IP₃受容体やリアノジン受容体を介して放出された際の小胞体近傍のみである。したがって、ミトコンドリアが小胞体と10-30 nmの距離にある接触部位に限局して、ミトコンドリア表面の局所的なCa<sup>2+</sup>濃度がmitochondrial calcium uniporterの活性化閾値を上回るレベルにまで上昇し、ミトコンドリアにCa<sup>2+</sup>が取り込まれる ('''図5''')。


== 疾患との関わり==
== 疾患との関わり==