「受容野」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
37行目: 37行目:
 外界の光を電気信号に変換する視細胞には桿体(rod)、錐体(cone)と2種類があり、前者は暗所視に、後者は明所視、色覚に関与している。いずれの受容野も概ね円状で、サイズは非常に小さく、中心窩(fovea)では視野角にして0.5分程度(1/120度)である。  
 外界の光を電気信号に変換する視細胞には桿体(rod)、錐体(cone)と2種類があり、前者は暗所視に、後者は明所視、色覚に関与している。いずれの受容野も概ね円状で、サイズは非常に小さく、中心窩(fovea)では視野角にして0.5分程度(1/120度)である。  


 視細胞からの入力を受け取る双極細胞(bipolar cell)や次の段階に位置する網膜神経節細胞(retinal ganglion cell)は、それぞれ次の2つのタイプのものがある。第1のものは、受容野の中心領域(center)に明るい光を照射したときに興奮応答し、暗い光を照射したとき(あるいは明るい光をオフしたとき)に抑制応答するもので、ON中心型(ON-center type)と呼ばれる。第2のものは、暗い光に興奮し明るい光に抑制を受けるものでOFF中心型(OFF-center type)とよばれる。いずれのタイプも、中心領域の周囲に光を照射したときには、中心領域と逆の応答をする。すなわち、ON中心型細胞は周辺部(surround)に明るい光を受けたときに抑制を受け、暗い光を受けたときには興奮応答する。またOFF中心型細胞は、周辺部では明るい光に興奮、暗い光に抑制応答がみられる。そこで、前者の受容野構造をON中心OFF周辺型(ON-center OFF-surround)とよび(図2A)、逆のタイプをOFF中心ON周辺型(OFF-center ON-surround)とも呼んでいる(図2B)。中心領域と周辺領域は同心円状に配置しており、2つの領域が逆の反応を示すことからこのような受容野構造を中心周辺拮抗型(antagonistic center-surround)とぶ。このような構造をもつ細胞は、図2Cのように2次元のサイン波刺激でテストしたとき、明るい光がON領域に、暗い光がOFF領域に入るときには反応するが(図2C上)、光が一様に入るときには(図2C下)ほとんど反応しないことから、明暗コントラストのエッジ幅や位置の情報を伝達していると捉えることができる。
 視細胞からの入力を受け取る双極細胞(bipolar cell)や次の段階に位置する網膜神経節細胞(retinal ganglion cell)は、それぞれ次の2つのタイプのものがある。第1のものは、受容野の中心領域(center)に明るい光を照射したときに興奮応答し、暗い光を照射したとき(あるいは明るい光をオフしたとき)に抑制応答するもので、ON中心型(ON-center type)と呼ばれる。第2のものは、暗い光に興奮し明るい光に抑制を受けるものでOFF中心型(OFF-center type)とよばれる。いずれのタイプも、中心領域の周囲に光を照射したときには、中心領域と逆の応答をする。すなわち、ON中心型細胞は周辺部(surround)に明るい光を受けたときに抑制を受け、暗い光を受けたときには興奮応答する。またOFF中心型細胞は、周辺部では明るい光に興奮、暗い光に抑制応答がみられる。そこで、前者の受容野構造をON中心OFF周辺型(ON-center OFF-surround)とよび(図2A)、逆のタイプをOFF中心ON周辺型(OFF-center ON-surround)とも呼んでいる(図2B)。中心領域と周辺領域は同心円状に配置しており、2つの領域が逆の反応を示すことからこのような受容野構造を中心周辺拮抗型(antagonistic center-surround)とぶ。このような構造をもつ細胞は、図2Cのように2次元のサイン波刺激でテストしたとき、明るい光がON領域に、暗い光がOFF領域に入るときには反応するが(図2C上)、光が一様に入るときには(図2C下)ほとんど反応しないことから、明暗コントラストのエッジ幅や位置の情報を伝達していると捉えることができる。  


[[Image:RetinalGanglisonCell.png|432px]]<br>  中心周辺拮抗型の受容野構造は2つのガウス関数の差分であるDOG(Difference of Gaussian)関数で表すことができる(図2A, Bの下段)。また線形性をもつために、細胞の応答は入力刺激とDOG関数の線形畳み込みで近似できる。ただし、このような近似が十分に成り立つ細胞とそうでない細胞が存在し、前者をX細胞、後者をY細胞という。  
[[Image:RetinalGanglisonCell.png|432px]]
中心周辺拮抗型の受容野構造は2つのガウス関数の差分であるDOG(Difference of Gaussian)関数で表すことができる(図2A, Bの下段)。また線形性をもつために、細胞の応答は入力刺激とDOG関数の線形畳み込みで近似できる。ただし、このような近似が十分に成り立つ細胞とそうでない細胞が存在し、前者をX細胞、後者をY細胞という。  


 LGNの受容野構造は網膜神経節細胞とほぼ同一であり、中心周辺の同心円構造をもつ。これは個々のLGNニューロンが1つの網膜神経節細胞からのみ投射を受けることで、その反応特性が形成されているためである。  
 LGNの受容野構造は網膜神経節細胞とほぼ同一であり、中心周辺の同心円構造をもつ。これは個々のLGNニューロンが1つの網膜神経節細胞からのみ投射を受けることで、その反応特性が形成されているためである。  
55行目: 56行目:
 単純型細胞の古典的受容野は、図4に示すガウス関数(緑)とサイン波(青)の積であるガボール関数(Gabor function)(赤、図4の式参照)でよく近似できることが知られている。ガボール関数のパラメーターを変えることで、サイズ(σx, σy)、方位(θ)、空間周波数(fx, fy)、そして位相(φ)の異なる様々な構造を表すことができる。  
 単純型細胞の古典的受容野は、図4に示すガウス関数(緑)とサイン波(青)の積であるガボール関数(Gabor function)(赤、図4の式参照)でよく近似できることが知られている。ガボール関数のパラメーターを変えることで、サイズ(σx, σy)、方位(θ)、空間周波数(fx, fy)、そして位相(φ)の異なる様々な構造を表すことができる。  


[[Image:GaborFilter.png|500px]]
[[Image:GaborFilter.png|500px]]  


 様々な形のガボール型受容野構造が視野の各位置に一セット揃っており、その結果、画像情報は、網膜視細胞での画素表現から、V1野の単純型細胞のレベルでは、ガボール関数のセットを基底成分とする表現へと変換されて伝達されることになる。この表現には画像情報を効率的に伝達する上でいくつかの望ましい特性がある。第一に、分解された画像成分は高次視覚野へと伝達されて利用されるので、初期の段階では画像情報は失われないようにする必要があるが、ガボール関数を用いた分解表現ではそれが十分実現されていることが示されている。さらに、ガボール関数により、自然画像はスパースコーディング(sparse coding)という非常に効率のよい方式で伝達できることも知られており、視覚系が自然界の膨大な画像情報を少ないエネルギーで伝送できる鍵になっていると考えられている。  
 様々な形のガボール型受容野構造が視野の各位置に一セット揃っており、その結果、画像情報は、網膜視細胞での画素表現から、V1野の単純型細胞のレベルでは、ガボール関数のセットを基底成分とする表現へと変換されて伝達されることになる。この表現には画像情報を効率的に伝達する上でいくつかの望ましい特性がある。第一に、分解された画像成分は高次視覚野へと伝達されて利用されるので、初期の段階では画像情報は失われないようにする必要があるが、ガボール関数を用いた分解表現ではそれが十分実現されていることが示されている。さらに、ガボール関数により、自然画像はスパースコーディング(sparse coding)という非常に効率のよい方式で伝達できることも知られており、視覚系が自然界の膨大な画像情報を少ないエネルギーで伝送できる鍵になっていると考えられている。  
197

回編集