「基底核原基」の版間の差分

提供:脳科学辞典
ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
編集の要約なし
15行目: 15行目:
<br>  
<br>  


現在の知見では、それぞれの基底核原基の領域では遺伝子発現が異なり、そのため性質や移動目的地の異なる抑制性神経細胞が誕生することが知られている<ref><pubmed> 17804629 </pubmed></ref>。<br>  
現在の知見では、それぞれの基底核原基の領域では遺伝子発現が異なり、そのため性質や移動目的地の異なる抑制性神経細胞が誕生することが知られている<ref name=ref2 />。<br>  


== 遺伝子発現  ==
== 遺伝子発現  ==
25行目: 25行目:
== 内側基底核原基(medial ganglionic eminence:MGE)  ==
== 内側基底核原基(medial ganglionic eminence:MGE)  ==


基底核原基の中では、構造的に大きく隆起しているために解剖学上最も同定しやすい領域である。マウスを用いた研究では、大脳新皮質抑制性神経細胞の約半分程度がMGEに由来する<ref><pubmed> 10393115 </pubmed></ref>。この領域の神経幹細胞では転写因子Nkx2.1の発現が見られる。最終分裂を終えたMGE由来の大脳皮質抑制性神経細胞のほとんどでは、Nkx2.1の下流分子Lhx6が発現してNkx2.1自体の発現は消失する。大脳皮質に向かうMGE由来細胞は接線方向移動(tangential migration)と呼ばれる移動様式を取って脳表面に平行に移動して皮質内に進入し5、主にparvalubumin陽性またはsomatostatin陽性の抑制性神経細胞となる6。腹側MGEでは線条体および淡蒼球に移動する抑制性神経細胞も確認されている7。線条体へ向かう細胞群ではNkx2.1の発現が継続し、Nkx2.1により受容体分子Neuropilin 2(Nrp2)の発現が抑制されている。線条体ではNrp2の反発性リガンドであるSema3Fが発現しており、Neuropilin2/Sema3Fが抑制性神経細胞の配置を制御していることが知られている8。なお、MGEは、抑制性神経細胞が誕生して目的地に向かって移動していくに従い縮小していき、最終的に消失する。  
基底核原基の中では、構造的に大きく隆起しているために解剖学上最も同定しやすい領域である。マウスを用いた研究では、大脳新皮質抑制性神経細胞の約半分程度がMGEに由来する<ref><pubmed> 10393115 </pubmed></ref>。この領域の神経幹細胞では転写因子Nkx2.1の発現が見られる。最終分裂を終えたMGE由来の大脳皮質抑制性神経細胞のほとんどでは、Nkx2.1の下流分子Lhx6が発現してNkx2.1自体の発現は消失する。大脳皮質に向かうMGE由来細胞は接線方向移動(tangential migration)と呼ばれる移動様式を取って脳表面に平行に移動して皮質内に進入し<ref>'''藤田尚男、藤田恒夫'''<br>標準組織学 総論 第4版<br>''医学書院(東京)'':2002</ref>、主にparvalubumin陽性またはsomatostatin陽性の抑制性神経細胞となる6。腹側MGEでは線条体および淡蒼球に移動する抑制性神経細胞も確認されている7。線条体へ向かう細胞群ではNkx2.1の発現が継続し、Nkx2.1により受容体分子Neuropilin 2(Nrp2)の発現が抑制されている。線条体ではNrp2の反発性リガンドであるSema3Fが発現しており、Neuropilin2/Sema3Fが抑制性神経細胞の配置を制御していることが知られている8。なお、MGEは、抑制性神経細胞が誕生して目的地に向かって移動していくに従い縮小していき、最終的に消失する。  


<br>  
<br>  

2012年5月20日 (日) 17:13時点における版

 英語名:ganglionic eminence 英語略名:GE

大脳基底核原基は、胎生期に観察され、構造的に脳室内に隆起しているため基底核隆起とも言われる。終脳(telencephalon)のうち外套 (pallium, 広義の大脳皮質に相当)の腹側に位置する。多くの大脳基底核神経細胞、及び大脳皮質のGABA作動性抑制性神経細胞、希突起膠細胞(オリゴデンドロサイト)を産生する領域である。誕生した抑制性神経細胞は大脳皮質、線条体、淡蒼球、扁桃体、嗅球などの様々な領域に移動することが知られている[1]


構造

大脳基底核原基は解剖学、および遺伝子発現様式に基づき、内側、外側、尾側基底核原基の三領域に主に区分される(図1)。ただし、一部研究では、外側基底核原基と尾側基底核原基の遺伝子発現の共通性等から、両者は連続した一つの構造と考える立場もある[2]


内側基底核原基(medial ganglionic eminence:MGE)
外側基底核原基(lateral ganglionic eminence:LGE)
尾側基底核原基(caudal ganglionic eminence:CGE)


現在の知見では、それぞれの基底核原基の領域では遺伝子発現が異なり、そのため性質や移動目的地の異なる抑制性神経細胞が誕生することが知られている[3]

遺伝子発現

大脳皮質ではEmx遺伝子が発現しているのに対して、基底核原基全体ではDlx遺伝子が発現している。Dlx遺伝子の欠損したマウスでは、大脳皮質抑制性神経細胞が大きく減少することなどから、大脳皮質抑制性神経細胞が基底核原基に由来していることが示された[4]


内側基底核原基(medial ganglionic eminence:MGE)

基底核原基の中では、構造的に大きく隆起しているために解剖学上最も同定しやすい領域である。マウスを用いた研究では、大脳新皮質抑制性神経細胞の約半分程度がMGEに由来する[5]。この領域の神経幹細胞では転写因子Nkx2.1の発現が見られる。最終分裂を終えたMGE由来の大脳皮質抑制性神経細胞のほとんどでは、Nkx2.1の下流分子Lhx6が発現してNkx2.1自体の発現は消失する。大脳皮質に向かうMGE由来細胞は接線方向移動(tangential migration)と呼ばれる移動様式を取って脳表面に平行に移動して皮質内に進入し[6]、主にparvalubumin陽性またはsomatostatin陽性の抑制性神経細胞となる6。腹側MGEでは線条体および淡蒼球に移動する抑制性神経細胞も確認されている7。線条体へ向かう細胞群ではNkx2.1の発現が継続し、Nkx2.1により受容体分子Neuropilin 2(Nrp2)の発現が抑制されている。線条体ではNrp2の反発性リガンドであるSema3Fが発現しており、Neuropilin2/Sema3Fが抑制性神経細胞の配置を制御していることが知られている8。なお、MGEは、抑制性神経細胞が誕生して目的地に向かって移動していくに従い縮小していき、最終的に消失する。


外側基底核原基(lateral ganglionic eminence:LGE)

主に線条体や嗅球に移動する抑制性神経細胞が誕生する部位として知られている。近年のマウスを用いた研究により、背側LGEではEr81が、腹側LGEではIsl1遺伝子が発現しており、それぞれ嗅球、線条体の抑制性神経細胞を産生する。Er81を発現する部位は生後においては脳室下帯の一部となり、Rostral migratory stream (RMS)へ抑制性神経細胞を供給する9。線条体の発生では、最初に線条体のストリオソーム(striosome, パッチ patch)を構成する抑制性神経細胞が誕生し、その後マトリックス(matrix)を構成する抑制性神経細胞が誕生することが知られている10。


尾側基底核原基(caudal ganglionic eminence:CGE)

主に大脳皮質および扁桃体に移動する抑制性神経細胞を産生することが知られている。マーカーとして、CGE領域ではCOUP-TFIIが優位に発現している14。発生の初期においては主に扁桃体に移動する抑制性神経細胞が、後期では主に大脳皮質に移動する抑制性神経細胞がCGEにて誕生する。CGEから誕生する扁桃体核は誕生時期により異なる。初期に中心核(central)が誕生し、その後、外側核(lateral)、基底内側核(basomedial)、基底外側核(basolateral)、外側嗅索核(Nucleus of lateral olfactory tract)が誕生する11。その後は、CGEからは主に大脳皮質抑制性神経細胞が産生される。大脳皮質抑制性神経細胞の30%程度がCGEに由来することが示されており、大脳皮質に向かう抑制性神経細胞の中でも、Reelin単独陽性細胞、Calretinin陽性細胞、VIP陽性細胞を産生する12。大脳皮質に移動する過程においては、全体に散らばるように移動するMGE由来細胞とは異なり、CGE細胞は尾側に方向性を持つ移動様式である尾側細胞移動経路(caudal migratory stream, CMS)を取ることが報告されている13。この移動経路はCGEに発現するCOUP-TFIIによって制御されている14。また、CGE由来の抑制性神経細胞はセロトニン5HT3A受容体(serotonin 5-hydroxytryptamine 3A (5-HT3A ) receptor)を発現していることが示されている15。


オリゴデンドロサイト

オリゴデンドロサイトの誕生は、抑制性神経細胞が誕生する頃から、徐々に基底核原基の腹側部、すなわちMGEと視索前野(preoptic area)で始まり、背側部(LGE、CGEおよび大脳皮質の脳室帯)へと誕生部位が移る。基底核原基で誕生したオリゴデンドロサイトは、終脳全体に分布する16。


  1. Marín, O., & Rubenstein, J.L. (2001).
    A long, remarkable journey: tangential migration in the telencephalon. Nature reviews. Neuroscience, 2(11), 780-90. [PubMed:11715055] [WorldCat] [DOI]
  2. Flames, N., Pla, R., Gelman, D.M., Rubenstein, J.L., Puelles, L., & Marín, O. (2007).
    Delineation of multiple subpallial progenitor domains by the combinatorial expression of transcriptional codes. The Journal of neuroscience : the official journal of the Society for Neuroscience, 27(36), 9682-95. [PubMed:17804629] [PMC] [WorldCat] [DOI]
  3. 引用エラー: 無効な <ref> タグです。「ref2」という名前の注釈に対するテキストが指定されていません
  4. Anderson, S.A., Eisenstat, D.D., Shi, L., & Rubenstein, J.L. (1997).
    Interneuron migration from basal forebrain to neocortex: dependence on Dlx genes. Science (New York, N.Y.), 278(5337), 474-6. [PubMed:9334308] [WorldCat] [DOI]
  5. Sussel, L., Marin, O., Kimura, S., & Rubenstein, J.L. (1999).
    Loss of Nkx2.1 homeobox gene function results in a ventral to dorsal molecular respecification within the basal telencephalon: evidence for a transformation of the pallidum into the striatum. Development (Cambridge, England), 126(15), 3359-70. [PubMed:10393115] [WorldCat]
  6. 藤田尚男、藤田恒夫
    標準組織学 総論 第4版
    医学書院(東京):2002


同義語:基底核隆起

重要な関連語:終脳、大脳皮質、GABA作動性抑制性神経細胞、大脳基底核


(執筆者:金谷繁明、仲嶋一範、担当編集委員:村上冨士夫)