脳梗塞
細見 直永、松本 昌泰
広島大学大学院 脳神経内科学
DOI:10.14931/bsd.6927 原稿受付日:2016年2月24日 原稿完成日:2016年月日
担当編集委員:漆谷 真(京都大学 大学院医学研究科)
脳梗塞は虚血性脳卒中ともいわれ、脳血管の閉塞に伴い脳機能不全を引き起こす疾患である。①心原性脳塞栓症、②アテローム血栓性脳梗塞、③ラクナ梗塞、④その他の4病型に分けられる。rt-PA静注血栓溶解療法や脳血管内治療による血栓除去術により閉塞血管を超急性期に再開通することが、最も有効に転機改善例を増加させ、死亡例を減少させる。
イントロダクション
本邦では2050年に高齢者人口が35.7%の超高齢化社会を迎えるとされ、心筋梗塞、脳梗塞などのアテローム血栓性疾患が今後さらに激増することが予測されている。我が国の脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)による死亡者は年間約13万人で、死亡原因の第4位を占めており、脳卒中罹患者数は272万人と推定されている。また、脳卒中は寝たきりの最大の原因でもあり、高齢化の進行に伴い患者数はますます増加していくと考えられる。厚生労働省班研究によると、脳卒中の患者数は2020年頃には287万5千人に達すると予想されている。脳卒中はいずれの病型であっても一旦発症すると永続的な後遺症が残存する可能性が高く、また生命予後を短縮することから、その発症予防法を確立していくことが極めて重要である。
症状
脳梗塞の神経学的症状は、突発完成するものから、緩徐に進行するものまで多彩である。したがって、どのような神経学的症状がいつから出現し、現在までの症状の増強・減弱に関して聴取する必要がある。さらに脳梗塞発症前には[一過性脳虚血発作]](TIA:transient ischemic attack)が先行していることがあり、TIAの把握も必要である。
脳梗塞の診断には神経学的診察に基づく身体所見の検出が必要である。脳梗塞は片麻痺・感覚障害・運動失調・顔面麻痺・眼球運動障害・視野障害・嚥下障害・失語・構音障害など多彩な症状を示す。脳卒中の早期検出にむけて、“Act FAST”というキャンペーンが推進されている。これは脳卒中の主要症状が前述の顔面麻痺、片麻痺、言語障害(構音障害や失語をふくむ)であり、これらのうちの一つでもその症状が確認できた場合には脳卒中である可能性が72%あり、シンシナティ病院前脳卒中スケール(CPSS)として脳卒中病院前救護に活用されている。
脳梗塞の重症度はNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコア(表1)やJapan Stroke Scale(JSS)スコアによって評価される。NIHSSスコアは神経学的診察の簡易版とも考えられ、コメディカルによるスコアも専門医によるものと強い相関が得られることが示されている。したがって、非専門医には是非とも習得されることを推奨したい。NIHSSは各地で開催されているImmediate Stroke Life Support(ISLS)コースでも実地練習を行っており、さらに詳しくはAmerican Stroke Associationのサイトにてe-learningで学ぶことができる。
NIHSS 患者名: 評価日時: 評価者: | |
1a.意識水準 | ⬜︎0:完全覚醒 ⬜︎1:簡単な刺激で覚醒 ⬜︎2:繰り返し刺激、強い刺激で覚醒 ⬜︎3:完全に無反応 |
1b.意識障害ー質問 (今月の月名及び年齢) |
⬜︎0:両方正解 ⬜︎1:片方正解 ⬜︎2:両方不正解 |
1c.意識障害ー従命 (開閉眼、「手を握る・開く」) |
⬜︎0:両方正解 ⬜︎1:片方正解 ⬜︎2:両方不可能 |
2.最良の注視 | ⬜︎0:正常 ⬜︎1:部分的注視視野 ⬜︎2:完全注視麻痺 |
3.視野 | ⬜︎0:視野欠損なし ⬜︎1:部分的半盲 ⬜︎2:完全半盲 ⬜︎3:両側性半盲 |
4.顔面麻痺 | ⬜︎0:正常 ⬜︎1:軽度の麻痺 ⬜︎2:部分的麻痺 ⬜︎3:完全麻痺 |
5.上肢の運動(右) *仰臥位のときは45度右上肢 ⬜︎9:切断、関節癒合 |
⬜︎0:90度*を10秒保持可能(下垂なし) ⬜︎1:90度*を保持できるが、10秒以内に下垂 ⬜︎2:90度*の拳上または保持ができない ⬜︎3:重力に抗して動かない ⬜︎4:全く動きがみられない |
上肢の運動(左) *仰臥位のときは45度左上肢 ⬜︎9:切断、関節癒合 |
⬜︎0:90度*を10秒保持可能(下垂なし) ⬜︎1:90度*を保持できるが、10秒以内に下垂 ⬜︎2:90度*の拳上または保持ができない ⬜︎3:重力に抗して動かない ⬜︎4:全く動きがみられない |
6.下肢の運動(右) ⬜︎9:切断、関節癒合 |
⬜︎0:30度を5秒間保持できる(下垂なし) ⬜︎1:30度を保持できるが、5秒以内に下垂 ⬜︎2:重力に抗して動きがみられる ⬜︎3:重力に抗して動かない ⬜︎4:全く動きがみられない |
下肢の運動(左) ⬜︎9:切断、関節癒合 |
⬜︎0:30度を5秒間保持できる(下垂なし) ⬜︎1:30度を保持できるが、5秒以内に下垂 ⬜︎2:重力に抗して動きがみられる ⬜︎3:重力に抗して動かない ⬜︎4:全く動きがみられない |
7.運動失調 ⬜︎9:切断、関節癒合 |
⬜︎0:なし ⬜︎1:1肢 ⬜︎2:2肢 |
8.感覚 | ⬜︎0:障害なし ⬜︎1:軽度から中等度 ⬜︎2:重度から完全 |
9.最良の言語 | ⬜︎0:失語なし ⬜︎1:軽度から中等度 ⬜︎2:重度の失語 ⬜︎3:無言、全失語 |
10.構音障害 ⬜︎9:挿管または身体的障壁 |
⬜︎0:正常 ⬜︎1:軽度から中等度 ⬜︎2:重度 |
11.消去現象と注意障害 | ⬜︎0:異常なし ⬜︎1:視覚、触覚、聴覚、視空間、または自己身体に対する不注意、 あるいは1つの感覚様式で2点同時刺激に対する消去現象 ⬜︎2:重度の半側不注意あるいは2つ以上の感覚様式に対する半側不注意 |
診断(診断基準、鑑別診断を含む)
病歴聴取
発症時間
脳梗塞の超急性期治療には、発症後の経過時間によりその適応が規定されるものがある。その典型例は急性期rt-PA静注血栓溶解療法であり、その適応は発症後4.5時間以内と規定され、これを遵守することが治療成績に大きく影響する。したがって、発症時間を確認することが重要であるが、睡眠中発症や独居老人などでは発症時間を確認することが困難であり、このため最終健常確認時間を発症時間とみなす。つまり発見時間が発症時間ではないことに十分注意した上で現病歴を聴取することが重要である。
基礎疾患
脳梗塞発症に対する危険因子である高血圧・糖尿病・脂質異常症・不整脈(心房細動)・心疾患(心筋梗塞・リウマチ性弁膜症・心筋症・弁置換術後など)などは、超急性期からの全身管理にも影響を及ぼすため、正確な把握が要求される。
必要な検査
- CT:脳梗塞急性期の来院時には脳出血との鑑別目的にて撮像される。脳梗塞超急性期に明らかな低吸収域として病巣が検出されることは少なく、明らかな低吸収域が検出されるまでには12時間以上かかることも多い。また、脳梗塞の超急性期に認められる微細なCT上の変化(早期虚血性変化(early CT sign))として、皮髄境界の消失、レンズ核の不明瞭化、脳溝の消失などが知られている。早期虚血性変化の診断には熟達が必要であるが、"Early CT signs判読トレーニング"サイトにてe-learningで画像診断訓練を行うことができる。CT画像の所見に基づき早期虚血性変化が認められる領域を評価し、減点法により虚血領域を評価するAlbert Stroke Program Early CT Score(ASPECTS)も脳梗塞サイズを半定量評価するのに有効である。
- MRI:脳梗塞超急性期にはT1・T2強調画像などのMRIシーケンスでは病巣の検出が困難である。しかしながら、拡散強調画像により、早期から病巣を高信号域として確認することが可能である。MRAにより頭蓋内の狭窄・閉塞血管を把握することは治療方針決定のためにも必要である。
頸動脈エコー]]:頭蓋外血管とくに頸動脈分岐部の動脈硬化病変や内頸動脈や椎骨動脈などの動脈解離が脳梗塞の原因となりえる。頸動脈エコーは頸部血管の状態の把握が簡便であり非侵襲検査であることから必須の検査である。
- [[wikipedia:ja:心電図|心電図:心原性脳塞栓症の原因となる心筋梗塞・心筋症などの検出のために必要な検査である。また動脈硬化性脳梗塞であるアテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞には冠動脈疾患が合併する可能性があり、この評価としても必要である。
- 心エコー(経胸壁及び経食道):心原性脳塞栓症の原因となる心疾患を検出する。心腔内に血栓が検出されることもあるが、心原性脳塞栓症の原因心疾患の同定には血栓自体の検出は必須ではない。また心腔内のモヤモヤエコーが高度であれば、塞栓症リスクが高度となることが知られている。
これらの検査の結果をふまえて、脳梗塞の病型分類を行い、各病型に応じた急性期治療と再発予防治療を行う必要がある。
鑑別診断
- 慢性硬膜下血腫:頭痛や片麻痺にて発症する。「発症の日がはっきりしない」、「片麻痺の進行が七日以上に及ぶ」、「上下肢の運動麻痺の程度に比べて意識障害が強い」、「精神症状が麻痺に先行している」、「頭痛が強い」ときには要注意である。
- 脳腫瘍:片麻痺で発症することがあり、腫瘍内出血から脳出血をきたしていることもある。
- 片頭痛:発作に伴い、眼筋麻痺・片麻痺などを引き起こすことがある。
- 低血糖発作:眼球偏位・片麻痺を起こすことがあり、症状による脳卒中との鑑別は困難である。したがって、脳卒中様症状にて来院した患者では血糖値のチェックは必須である。
- ヒステリー性片麻痺:腱反射に左右差は見られず、Babinski反射も麻痺側に見られることはない。顔面の片麻痺が見られる患者で、両側の共同運動(話をしたり、口笛を吹いたり)をする際に片麻痺側の筋が正常に働いたりする。
- てんかん:発作に伴い片麻痺が出現することがある。脳波検査によりてんかん性異常脳波の確認が必要である。
病態生理
脳梗塞は、①心原性脳塞栓症、②アテローム血栓性脳梗塞、③ラクナ梗塞、④その他の4病型に分けられる。
心原性脳塞栓症
心腔内の血栓あるいは心内を経由した血栓(塞栓子)が脳血管を閉塞して生じる脳梗塞である。心原性脳塞栓症は心房細動、急性期・慢性期心筋梗塞後心室瘤、僧帽弁狭窄症、拡張型・肥大型心筋症などによる心内血栓による脳塞栓症や、下肢深部静脈血栓から卵円孔開存経由の奇異性脳塞栓症により、末梢の脳血管を閉塞して発症するものである。
重度の意識障害や失語などの大脳皮質症状を伴うことが多く、日中活動時に突発完成することが多い。
非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の脳梗塞発症率は平均5%/年であり、心房細動のないヒトに比べて2-7倍高い。脳梗塞・TIAの既往を有する非弁膜症性心房細動に対する抗凝固療法は、脳梗塞再発率を年間12%から4%まで下げることができ有効性は確立している。そして、非弁膜症性心房細動に対する心原性脳塞栓症発症予防としてはCHADS2スコアに沿ったリスク層別化による非ビタミンK阻害経口抗凝固薬(NOAC)やワルファリンを用いた抗凝固療法が推奨される[1]。非弁膜症性心房細動に対する抗凝固療法の適応基準を示した日本循環器学会心房細動治療(薬物)ガイドライン[3]、脳卒中治療ガイドライン2015[4]でもCHADS2スコアの概念が取り入れられている。CHADS2スコアでは、心不全、高血圧、高齢、糖尿病(各1点)、脳梗塞既往(2点)が非弁膜症性心房細動における心原性脳塞栓症発症のリスクとして抽出され、合計2点以上は非ビタミンK阻害経口抗凝固薬、ワルファリン治療が推奨され、1点では非ビタミンK阻害経口抗凝固薬治療が推奨されている(図1)。
アテローム血栓性脳梗塞
頭蓋内外の比較的大きな動脈のアテローム硬化病変を原因とし、近年の日本人の急性期脳梗塞例の約30%を占める。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、多量飲酒などが危険因子となる。
アテローム血栓性脳梗塞の発症機序は血栓性、塞栓性、血行力学性の3つに分けられる。主幹動脈の粥状硬化を基盤として血栓が形成され、閉塞した血管の灌流領域の梗塞を来したものが血栓性である。
また、血管壁に形成された血栓が遊離し、末梢の血管に飛来し血管閉塞をきたしたものは塞栓性で、動脈原性塞栓症(artery-to-artery embolism)と呼ばれる。
主幹動脈のアテローム硬化性の高度狭窄や閉塞により、支配領域の灌流が低下した脳組織に、脱水や血圧低下などの血行力学的な負荷が加わり梗塞に至ったものは血行力学性と呼ばれ、分水嶺領域に脳梗塞(watershed infarction)を認めることが多い。本病型は低灌流かつ脳血管予備能が低下している症例が多く、しばしば血栓形成が進むため、症状の動揺や進行が見られやすい病型である。
ラクナ梗塞
脳深部や脳幹を灌流する小動脈(穿通枝動脈)のマイクロアテローム病変を基盤とした血栓性閉塞による15mm以下の梗塞であり、日本人の急性期脳梗塞の約30-40%を占める。病巣は基底核、放線冠、視床、脳幹など穿通枝が栄養する領域に限局し、細小動脈病変の進展に最も関連する高血圧が最大の危険因子である。臨床症候としてはラクナ症候群と呼ばれる症候(pure motor hemiparesis, pure sensory stroke, sensorimotor stroke, ataxic hemiparesis, dysarthria-clumsy hand syndrome)のいずれかを呈する。
その他
branch atheromatous disease
近年、穿通枝領域の比較的大きい梗塞(長径15mm以上)をきたす病態として、branch atheromatous disease(BAD)が提唱され、注目されている。BADは穿通枝を分岐する主幹動脈の壁在プラークが穿通枝を閉塞するもので、ラクナ梗塞とアテローム血栓性脳梗塞の境界に位置づけられる病態であると考えられる。その他の脳梗塞の原因としては、血液凝固異常、脳動脈解離、血管炎、もやもや病、片頭痛など比較的頻度の少ないものもある。
一過性脳虚血発作
一過性脳虚血発作(transient ischemic attack: TIA)は、片麻痺や失語などの明らかな脳の局所神経症状(巣症状)が出現し、24時間以内に完全に消失するものと定義されているが、通常は数分から数十分以内に症状が完全消失し、長くても1時間以内に改善する場合が大半である。原因としては頸動脈分岐部のアテローム動脈硬化病変に形成された壁在血栓が剥離して、微小塞栓として脳動脈を一過性に閉塞し発症する病態が多い(微小塞栓機序)。ただし、高度の狭窄や閉塞による潜在的な脳血流不全状態があるときに、脱水や血圧低下などにより、一過性に血流不全状態が強くなり症状を発現する病態(血行力学的機序)や心房細動などの心原性による病態もある。いずれの病態においても、TIAは来るべき脳梗塞の前触れ、危険信号であり、速やかに対処すべき非常に重要な病態である。
TIA患者における脳梗塞発症の危険度を層別化する方法として、ABCD2スコアが提唱されている(図2)[2]。ABCD2スコアが4点以上の場合には原則的に緊急入院にて対応し、TIA発症直後からその後の脳梗塞発症予防につなげた治療を行うべきとしている。
治療
rt-PA静注血栓溶解療法
発症4.5時間以内に治療開始できる場合に考慮する(グレードA)。本邦では海外での使用量よりも少ないアルテプラーゼ(0.6mg/kg)で適応が通っており、その1/10量を1〜2分かけて投与した後、残りを1時間かけて投与する。ただし、頭蓋内出血既往・血糖値異常(50mg/dl未満または400mg/dl以上)・血小板数低値(10万/mm3以下)・PT-INR>1.7・CTで広汎な早期虚血性変化を認めた場合などが主な禁忌項目であり、年齢75歳以上・NIHSSスコア23以上・JCS100以上など慎重投与項目も2つ以上が認められた場合には転帰が不良であることが報告されており注意を要する。
脳血管内治療による血栓除去術(機械的血栓除去術)
発症早期の内頸動脈または中大脳動脈閉塞による急性期脳梗塞に対して、rt-PA静注血栓溶解療法を含む内科的治療に加えて血栓回収療法を施行することが、患者の転機を改善し、死亡率を低下することが示された。これを検討した試験であるMR-CLEAN、ESCAPE、EXTEND-IA、SWIFT-PRIME、REVASCATの結果を踏まえると、内頸動脈、中大脳動脈(M1-M2)閉塞、ASPECTS:7-9、穿刺開始時に4時間半以内の症例を対象に、ステントリトリーバーを中心とする機械的血栓除去術を、rt-PA静注血栓溶解療法を含む従来の内科治療に加えて行い、しかも穿刺後1時間半(発症後6時間)以内にTICI2以上の再開通を60%以上の高率で確保する必要がある。rt-PA静注血栓溶解療法の開始時期1分でも早いほど効果が高いことが示されているが、機械的血栓除去術も発症後から再開通までの時間は早ければ早いほど転機改善例が増加し死亡例が減少する。
抗血栓療法
脳梗塞急性期における抗血栓療法の目的は急性期再発の予防のみでなく、微小循環改善による脳梗塞巣拡大の軽減効果が期待される。脳梗塞急性期における抗血栓療法は、脳梗塞の発症原因つまり病型により変える必要がある。
心原性脳塞栓症の発症48時間以内ではヘパリンを使用することを考慮してもよいが、エビデンスは低い。推奨用量は10000単位/日である。その後は内服薬の投与が可能となった時点でワルファリンを開始し、PT-INRが1.6を超えた時点で、ヘパリンを中止しワルファリンのみでのコントロールとする。ダビガトランほか新たな抗凝固薬が心房細動による心原性脳塞栓症の予防に対してその効果が確立されてきている。しかしながら心原性脳塞栓症は出血性脳梗塞への移行が多く、ダビガトランはこの出血性脳梗塞発症後6ヶ月間は禁忌となっている点に注意が必要である。
アテローム血栓性脳梗塞の発症48時間以内では、選択的トロンビン阻害薬であるアルガトロバンやアスピリン(160〜300mg/日)が推奨される。オザグレルナトリウム(160mg/日)の投与は、発症後5日以内の患者で推奨される。
ラクナ梗塞では、オザグレルナトリウム(160mg/日)の投与は、発症後5日以内の患者で推奨される。オザグレルナトリウムは特にラクナ梗塞において効果的であるとの報告がある。発症48時間以内ではアスピリン(160〜300mg/日)投与が推奨される。ただし、オザグレルナトリウム投与中のアスピリンの併用は理論的には推奨できない。
脳保護療法
日本で承認されている唯一の脳保護薬であるエダラボン(60mg/日)はフリーラジカル捕捉薬で、臨床第Ⅲ相試験では対象を穿通枝領域梗塞に絞った検討で効果を認めた。エダラボンとrt-PAの併用で出血性梗塞への移行を軽減する可能性が示されている。ただし感染症の合併、高度な意識障害(JCS100以上)の存在、脱水状態では腎機能障害を引き起こす可能性があり注意が必要である。さらにクレアチニン1.5mg/dl以上を示す腎機能障害を有している患者には禁忌となっている。ただし血液透析中の患者においては、半量投与による安全性も報告されている。
降圧療法
脳梗塞の場合には、超急性期には脳血流自動調節能が障害されており、血圧低下により虚血部およびその周辺部の脳血流低下を引き起こし、梗塞巣を拡大させる危険性がある。したがって、著しい高血圧を認める場合にのみ緩徐に降圧することが各種ガイドラインで推奨されている。「脳卒中治療ガイドライン2015」では220/120 mmHg以上が持続する場合、あるいは大動脈解離、急性心筋梗塞、心不全、腎不全を合併している場合に限り慎重な降圧を行うことを考慮しても良いとしている[5]。また、神経症状が安定している高血圧合併症例では、禁忌などがない限り、発症前から用いている降圧薬を脳卒中発症後24時間以降に再開することを考慮しても良いとされている。
脳卒中リハビリテーション
急性期のリハビリテーションはより早期からの開始が効果的であるとされている。したがって全身状態が安定し、症状の進行がない場合、可能な限り早期(当日からでも)からリハビリテーションを開始する。早期離床により、深部静脈血栓症・褥瘡・関節拘縮・嚥下性肺炎など長期臥床による合併症を予防することが可能である。
参考文献
- ↑ 1.0 1.1
Gage, B.F., Waterman, A.D., Shannon, W., Boechler, M., Rich, M.W., & Radford, M.J. (2001).
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Johnston, S.C., Rothwell, P.M., Nguyen-Huynh, M.N., Giles, M.F., Elkins, J.S., Bernstein, A.L., & Sidney, S. (2007).
Validation and refinement of scores to predict very early stroke risk after transient ischaemic attack. Lancet (London, England), 369(9558), 283-92. [PubMed:17258668] [WorldCat] [DOI] - ↑
JCS Joint Working Group (2014).
Guidelines for Pharmacotherapy of Atrial Fibrillation (JCS 2013). Circulation journal : official journal of the Japanese Circulation Society, 78(8), 1997-2021. [PubMed:24965079] [WorldCat] [DOI] - ↑ 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会、編
心房細動. 脳卒中治療ガイドライン2015
株式会社協和企画; 2015: pp. 32-5. - ↑ 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会、編
血圧. 脳卒中治療ガイドライン2015
株式会社協和企画; 2015: pp. 6-7.