カリウムチャネル

2012年4月11日 (水) 15:55時点におけるKazuharufurutani (トーク | 投稿記録)による版

英:Potassium Channel、英略語:K channel

カリウムチャネルはカリウムイオンを選択的に透過させるイオンチャネルである。静止膜電位の形成や細胞の電気的興奮性の制御、シナプス伝達やカリウム濃度恒常性維持に関わっている。ほとんどのカリウムチャネルはαサブユニットが四量体を形成し、中央のカリウムを通す細孔(ポア)を取り囲んでいる。αサブユニットの膜貫通領域の構造から3つのグループに大別される。電位依存性カリウムチャネルとカルシウム活性化カリウムチャネルのαサブユニットは六回膜貫通型のカリウムチャネル、Two-pore domainカリウムチャネルは四回膜貫通型のチャネル、内向き整流性カリウムチャネルは二回膜貫通型のチャネルである。3つのグループは分散した、しかしカリウムチャネルファミリーを形成する。豊富なサブユニット分子種、αサブユニットのヘテロ四量体形成、補助βサブユニットとの複合体形成の要因により、カリウムチャネルはイオンチャネルの中で機能的にもっとも多様性が高い。


カリウムチャネルの基本的分子機能と構造

電気化学ポテンシャルを駆動力として、カリウムイオンの選択的な膜透過をつかさどる膜蛋白質がカリウムチャネルである。生体膜のエネルギー障壁を克服しイオンを透過させる機能、カリウムイオン選択能(フィルター機能)、そして多くは生理的なゲート機能を備えている。
Kチャネルのαサブユニットのアミノ酸配列から推定される一次構造を図1に示す。代表的な構造として、電位依存性カリウムチャネルの六回膜貫通(6TM)型の構造と、内向き整流性カリウムチャネルの二回膜貫通(2TM)型の構造がある。膜間通領域(セグメント)のS5とS6の間の細胞外リンカー部分にはカリウムチャネルで広く保持されたsignature sequence(GYGまたはGFG)をもつP領域と呼ばれるイオン選択性フィルター機能に関わる領域が存在する。また、S1-S4は電位センサードメインと呼ばれ、S2とS3の膜貫通部分には負電荷を持ったアミノ酸が存在し、S4には正に帯電したアミノ酸が周期的に並んでいる。6TM型だが、膜電位ではなく細胞内Ca2+によって活性化されるKチャネルも存在する。2TMの内向き整流性Kチャネルには6TMの電位依存性Kチャネルの電位センサードメイン(S1-S4)に対応する構造をもっておらず、大きな細胞内領域をもつ。2TMがサブユニット分子内で2回タンデムにつながった構造の4TM型のKチャネルも存在する。P領域を2つ有するためtwo-pore domainカリウム(K2P)チャネル、あるいはタンデム(直列)ポアドメインtandem pore domainチャネルとも呼ばれる。
従来の電気生理学的解析により各組織、各細胞で異なる性質を持つイオンチャネルの存在を明らかにしてきた。とくにカリウムチャネルは多様性に富んでいる。カリウムイオンチャネルのαサブユニットをコードする遺伝子が多数同定されており、遺伝子産物のイオンチャネル機能や組織分布、ホモだけでなくヘテロ四量体を形成できる能力が明らかになる中で、カリウムチャネルの多様性が実体化した。
電位依存性Naチャネルや電位依存性Caチャネルは電位依存性Kチャネルの6TM構造に相同性の高い領域が分子内で4つタンデムに連結された構造をしており、各単位はリピートとよばれる。
各カリウムチャネルのαサブユニットは四量体(ただし、4TM型は二量体)となり、一つのイオンチャネルとして機能している。近年、イオンチャネルの結晶化とその構造解析が進んでいる。1998年の原核生物由来の2TM型KチャネルKcsAのX線構造解析に始まり、Ca結合型Kチャネル(MthK)、電位依存性Kチャネル(KvAP)、Kirチャネル(KirBac、Kir2、Kir3)、K2Pチャネル(TRAAK、TWIK-1)と原核生物に留まらず真核生物のKチャネルの構造が相次いで報告されている。共通の性質として、①TM1とTM2(あるいはS5とS6)とよばれる2つの膜貫通領域から水性のポアが形成される、②P領域がポアヘリックスとイオン選択フィルターを形成し、signature sequenceがイオン選択性フィルターの一部を形成し、それは細胞膜の中心から外側にかけて存在する、③イオン選択フィルターの細胞内側に中心腔central cavityとよばれる水性の空間が存在する、④ポアヘリックスが4対称軸の中心に向いており、C末側がcavityに到達していること、などがあげられる。これらの水性ポアドメインの構造に関わる共通点から、カリウムチャネルのイオン透過機構、イオン選択機能に関わる立体構造はほぼ等価であるといえる。


K+イオンの選択的透過機構

K+イオン(R=1.33 Å)はNa+イオン(r=0.95 Å)よりも大きい。しかしながら電気生理学的な解析から、カリウムチャネルではK+イオンがNa+イオンよりも1000倍ほど透過性が高いことが知られている。しかも、開いたポアを電気化学的な差に従って、イオンの水溶液中の拡散速度に匹敵する程の1秒間に数百万個のイオンが通過することが分かっている(単一イオンチャネルコンダクタンスが数百pSに達すものもある)。つまりKチャネルは大きなK+イオンだけを選択的に非常に早く透過させる。このカリウムイオン選択的透過機構はこのチャネルのイオン選択フィルターの構造に関係がある。水和されたイオン(K+イオンに限らない)が細いフィルター内に入る際には水分子との相互作用がフィルターを形成するアミノ酸の主鎖及び側鎖の酸素原子との相互作用に置き換わる。K+イオンはカリウムチャネルのフィルターのアミノ酸との距離が適切であり、4つサブユニットの酸素原子から均等に作用を受け、安定な8水和様conformationをとり安定する。一方、ナトリウムイオンはイオン半径が小さくカリウムイオンのようには相互作用が出来ず、カリウムに比べ不安定に存在する。このような違いがカリウムイオンの選択的な透過に寄与していると考えられている(最適合close-fit説とよばれる)。
カリウムチャネルの選択フィルターは12 Åほどの長さがあり結晶構造では4つのK+イオン結合部位が認められる。しかし近接した結合部位にK+イオンが結合するとイオン間で電気的な反発がおこり不安定であると考えられる。そのため4つの部位にこの部位でのK+イオンとチャネルの結合には1,3サイトに結合した状態と2,4サイトに結合した状態があると考えられる。また、フィルター内でのカリウムイオン間の電気的な反発が早いイオン透過に寄与していると考えられている。
カリウムチャネルの結晶構造解析に成功し、イオン選択的透過の研究で先導的な役割を果たしたロデリックマッキノンはピーターアグレとともに2003年ノーベル化学賞を受賞している。
各イオンチャネルのゲート機構に関して、精力的な研究がなされている。電気生理学や薬理学的な解析から膜電位変化やリガンドや蛋白質との相互作用による開口、および不活性化機構の研究がなされている。今後は構造解析の研究からもゲート機構が明らかにされてくるだろう。イオン選択的な透過機構とは異なり、ゲート機構は多様性があり、この場で概説することは困難である。どのようなゲート機構があるかに関して以降概説する。


分子機能と構造による分類

電位依存性カリウムチャネル

電位依存性カリウムチャネルは静止膜電位付近ではポアが閉じているが、脱分極によって活性化し開口するカリウムチャネルである。先に述べたように、6TM型の1次構造をとり、N末端から5番目、6番目の膜貫通領域(S5, S6)がポアの形成に関与し、1番目から4番目の膜貫通領域(S1-S4)が電位センサーとして機能する構造を形成する。活性化の電位依存性や不活性化の有無、薬物感受性からさらに様々なタイプが分離されている。Kvチャネルサブユニットとして〜種類以上同定されている。(脳の神経細胞には多様なイオンチャネルが発現しているが、Kvチャネルは少なくとも25種類が様々な神経細胞に発現している)
活性化と不活性化のカイネティクスはイオンチャネルの種類によって大きく異なる。活性化後直ぐに不活性化するために一過性にしかカリウム電流を流さないtransient-typeと、不活性化が殆どおこらないsustained-typeに大別される。電位依存性カリウムチャネルの不活性化の機構として活性化された後急速におこる不活性化機構N-type inactivationと、N-typeと比べて遅い不活性化機構のC-type inactivationという異なる機構が報告されている。N-typeの不活性化機構にはKvチャネルのN末端が関与していると見られる。また、補助βサブユニットによって大きく影響を受けることも分かっているPMID:8799886。N-typeの不活性化に関わる領域は、以前はボール状の構造でS4-S5のリンカー部分に結合し細胞のポア領域を塞ぐような機構(ball-and-chain)が提唱されていたが、最近の構造解析からはもう少し細い線状の構造がポア内に侵入しポアを塞ぐと考えられるようになってきた。一方、C-typeの不活性化機構にはP領域とM2(あるいはS6)の一部が関与していると見られる。つまりこの領域はポアの細胞外の入り口付近にあたるため、この部分の構造変化が基盤であると考えられている。
↑A電流と遅延整流性Kチャネルの説明を足す?
Post-transcription modulation、パルミトイル化、グリコシル化、リン酸化がおこる。PKA, PKC, MAPKがKv4.2などdendritic transient K channelをリン酸化、電位依存性を変える 。でもsustained typeはあまり制御が知られていない。

Ca活性化カリウムチャネル

Ca活性化カリウムチャネルは細胞質のカルシウム濃度上昇によって活性が増加するカリウムチャネルである。シングルチャネルコンダクタンスの違いから大(Big)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(BK)チャネル、及び中間(Intermediate)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(IK)チャネル、低(Small)コンダクタンスカルシウム活性化カリウム(SK)チャネルと分類されている。BKチャネルは電位依存的な活性化もおこり、Caの結合が活性化の電位依存性に影響する。IK、SKチャネルは電位非依存的であるが、細胞内Ca濃度上昇(100-600 nM)によって開口する。この機構には細胞内カルモデュリン(CaM)が必要である。
サブユニットの構造としてはIK、SKチャネルは電位依存性カリウムチャネルと同様に六回膜貫通領域と一つのP領域を持つ6TM型である。S4に陽電荷を帯びたアミノ酸が揃っておらず、機能的に電位非依存的なことに関連する。またS6のC末端側にCaMに結合する領域をもつ。一方、BKチャネルはS1-S6に加えN末端側にさらにS0膜貫通領域をもち、S4が電位センサーの中心として機能し、C末端にはCaに結合する領域が存在する。これらはすべて四量体を形成しチャネルを構成する。

内向き整流性カリウムチャネル

内向き整流性カリウム(Kir)チャネルは、遅延整流性カリウムチャネルの外向き整流性と明らかに異なる電位依存性を示し、カリウムの平衡電位EKよりも過分極した膜電位でコンダクタンスが増加し内向きカリウム電流を流すカリウムチャネルである (PMID:20086079)。Kirチャネルサブユニットの遺伝子がKir1-7、さらにサブファミリーも存在し15種類ほど単離されている。古典的な内向き整流性カリウム電流を担うKir2.0などの他に、心臓の迷走神経依存的な徐脈や抑制性のシナプス伝達などに関わるG蛋白質制御Kチャネル(Kir3.0)やグルコース依存的なすい臓β細胞からのインスリン分泌に関わるATP感受性カリウムチャネル(Kir6.0)のポア領域もKirチャネルサブファミリーである。
二回膜貫通領域と一つのP領域を有し、電位依存性カリウムチャネルの電位センサードメイン(S1-S4)に相当する部位はもっていない。代わりにN末端、C末端で形成される大きな細胞内領域が特徴である。
内向き整流性カリウムチャネルの内向き整流性は細胞内のポリアミンやマグネシウムイオンによる外向き電流のブロックによっておこる。Kirチャネルのサブユニットはホモあるいはヘテロテトラマーを形成する。内向き整流特性はイオンチャネルの構成によって異なり、ポリアミンやマグネシウムへの結合能の違いから説明がされている。

K2Pチャネル

二回膜貫通型が二個直列につながったようなサブユニット構造をしているのがtwo-pore domainカリウム(K2P)である。タンデム(直列)ポアドメインtandem pore domainチャネルとも呼ばれる。すなわち、ポアの形成に関わるドメインが一つのサブユニット上に二つ存在し、二量体を形成することで一つのイオン透過経路をもったイオンチャネルとなる。これまでに15個(要確認)のK2Pチャネルサブユニットが同定されており、電気生理学的特性や薬理学的な特性から5つのサブグループ(TWIK、TREK、TRAAK、TASK、TALK)に分類されている。
比較的最近遺伝子が単離されたカリウムチャネルであり、他のカリウムチャネルに比べると生理的な機能や構造活性相関の解析は進んでいない。電気生理学的特性から背景(漏洩)カリウム電流を担っていると考えられ静止膜電位の形成に関与していると考えられている。TREK1で形成されるイオンチャネルは最もよく研究されているK2Pチャネルであり、膜電位や細胞膜のPIP2との相互作用、リン酸化、pH、膜の伸展、熱などによる制御が示され、多様式polymodalな制御を受けるイオンチャネルであると知られてきている。
また、ハロタンやイソフルランなど揮発性麻酔薬がK2Pチャネルを活性化することが報告されており、これらチャネルがそれら局所麻酔薬の標的ではないかと考えられている(PMID:10321245, PMID:17375039)。


脳内分布とその機能(中枢における生理機能)

神経細胞や心筋細胞の静止膜電位や興奮性の多様性は、多くの場合それぞれの細胞に発現するKチャネルの種類と量によって説明することが出来る。


電位依存性カリウムチャネル

神経細胞にはKv1, Kv2, Kv3, Kv4, Kv7, Kv11といったカリウムチャネルサブユニットの発現が認められている。カリウムチャネルはヘテロマルチマーとして構成されるので、その可能な組み合わせはサブユニットの数以上に膨大な数となる。小脳Purkinje cellにおいて、Kv1.2サブユニットは明らかに細胞体と樹状突起に分布しているなど、位置が制御されていることはよく理解されているが、一般化して説明することは難しい。
神経系でも測定される電位依存性カリウムチャネル電流は電気生理学的に二種類に大別することが出来る。脱分極で急速に活性化されたあと急速に不活性化されるA型のカリウム電流と脱分極によってゆっくりと活性化されるが不活性化を全く受けないかほとんど受けない遅延整流性カリウム電流である。

A電流

様々な周波数で発火することが出来る神経細胞の膜特性は、情報伝達に重要な役割を果たしている。神経細胞が高周波数(〜100-200 Hz)で発火するには活動電位持続時間が十分短く、且つ素早い回復が必要である。A電流やItoとよばれるカリウムチャネル電流は活動電位中に早く活性化されその後早く不活性化され、一過性の外向き電流を流し、活動電位を短く保つ役割をもつ。活動電位後 A電流は一過的に不活性化されているが、他のカリウムチャネルの活性による過分極によって不活性化から回復し、次の活動電位中に再び活性化する。
最初にショウジョウバエから単離されたshaker遺伝子がコードするKv1(shaker)、そしてKv4(shal)あるいはKv3(shaw)サブユニットで形成される電位依存性カリウムチャネルなどは速く活性化されるカリウムチャネルをコードしている。なかでもKv4ファミリーは神経系におけるA電流(低濃度4-AP感受性?)のポアサブユニットの主要な構成要素であると考えられる。しかしKv4のみでは電気生理学的な特性(活性化と不活性化の電位依存性)を十分再現できず、NCS(Neuronal Calcium sensor protein) カルシウムセンサー蛋白質のファミリーに属するK channel-interacting proteins (KChiPs)や dipeptidyl peptidase-like proteins(DPPX、とくにDPP6やDPP10)というβサブユニットとの複合体形成が示唆されている。

遅延整流性カリウム電流 (M電流)

fastとslowがある。
活性化が早い遅延整流性カリウム電流。Kv1.3チャネル?
活性化が遅いカリウム電流。Kv7(KCNQ)、Kv11(KCNH、eag/ergとも)ファミリーは脱分極による活性化のカイネティクスが遅いタイプの電位依存性カリウムチャネルである。活動電位持続時間の長い心筋細胞においては、Kv7.1(KCNQ1)はMinK(KCNE1)とKv11.1(KCNH、hERGとも)はMinK related protein1(MiRP)(KCNE2)と複合体を形成し、それぞれIKs、IKrという遅延整流性カリウム電流を担い活動電位第三相で細胞を再分極させるために働いている。しかし心筋細胞に比べて活動電位持続時間が短い神経細胞においては、個々の活動電位中に活性化されるわけではない。Kv7(KCNQ)は深い膜電位でも活性化され、一方不活性化があまり起こらず活動電位発生の閾値となる膜電位(閾膜電位)以下の膜電位でもtonicな外向き電流を流しており、細胞の興奮性の制御に関わっている。
アセチルコリンAChなどの神経活動制御因子は遅延整流性カリウム電流を抑制することで、閾膜電位付近の興奮性を高め、発火頻度やシナプス入力に対する応答性を制御する。ムスカリン性ACh受容体の活性化に共役したカリウム電流がよく研究されており、この電流はムスカリン muscarinから M電流と呼ばれている。神経系においては、主にKv7.2(KCNQ2)/Kv7.3(KCNQ3)から構成されているイオンチャネルがこの電流を担っていると考えられている。
このイオンチャネルの活性には細胞膜の内側に存在しているリン脂質PIP2との結合が必要であり、Gq共役型のGPCR、例えばM3 ACh受容体の活性化は次いでPLCを活性化を活性化することでPIP2を減少させ、チャネルの活性を抑制すると考えられている。

カルシウム活性化カリウムチャネル

神経細胞の活動電位後にafter hyperpolarization (AHP)が観察される。Ca活性化カリウムチャネルは活動電位中に細胞内に流入したCaイオンによって活性化しAHPの形成に一部関与する。また、ある種類の神経細胞は電流を注入した時、始めは高頻度で発火するが次第に頻度が下がる順応反応spike frequency adaptationを呈する。カルシウム活性化カリウムチャネルはspike frequency adaptationにも関与する。機構としてはバースト発火中に電位依存性Caチャネルとリアノジン受容体の働きにより発生した細胞内カルシウムシグナルによってカルシウム活性化カリウムチャネルが活性化することによるが、Ca2+イオンを介したイオンチャネル機能のカップリングには結合膜構造が必要であるとの結果も出ている。また、cultured hippocampal neuronではSKチャネルがspineに局在していることが報告され、シナプスにおけるCaシグナルによって活性化されてシナプス後電位の形成にも関与する。

内向き整流性カリウムチャネル

Kir2が形成するKirチャネルは内向き整流性がとても強い。常時活性型であり古典的内向き整流カリウム(IRK)電流を担う。細胞の静止膜電位、興奮性の制御に関わる。ROMK(Kir1)、Kir4.1、Kir5.1チャネルは整流性が弱くもしくは殆ど無く、常時活性化型であり、イオンの輸送に関わっている。Kir4.1はアストログリア細胞に発現が多く、なかでも血管周囲やシナプス周囲に局在している(PMID:11502569)
G蛋白質活性化カリウムチャネルはGbgとの結合によって活性化されるカリウムチャネルである。中枢神経系においてはGABABRなどと機能的に共役し、抑制性シナプスにおいて観察される遅延性の抑制性シナプス後電流(sIPSC)を担う。G蛋白質活性化KチャネルはKir3.xで構成されるKirチャネルであり、神経細胞においてはKir3.1とKir3.2とで構成されるGIRKチャネルが主要な構成要素であると考えられている。しかし生化学的にはKir3.3や心臓型のKir3.4サブユニットの発現も認められる。
ATP感受性K(KATP)はチャネルのポアを形成するイオンチャネルもKirチャネルファミリーに属する(Kir6.xサブファミリー)。Kir6.2にATPが結合することでチャネルが閉口する。ABC蛋白ファミリーに属し、スルホニルウレア剤の標的として知られるスルホニルウレア受容体(SUR)はKATPチャネルに必須の補助サブユニットであり、4:4のヘテロオクタマー結合して機能的なイオンチャネルとして発現する。
KATPチャネルの細胞内ATPによる閉口は、グルコース依存的なインスリン分泌の分子機構としてすい臓β細胞での役割が最もよく知られている。加えて、視床下部などで認められるいくつかの神経細胞で観察されるグルコース感受性の機構の一つとして知られている。グルコース濃度上昇、細胞へのグルコース取り込み増、細胞内ATP産生、KATPチャネル阻害、膜の脱分極、細胞興奮性の亢進がおこる。


病気との関連 カリウムチャネルのチャネル病

心臓病、筋肉病、脳疾患、腎疾患、代謝性疾患など様々な疾患で原因がイオンチャネル遺伝子の異常であることが明らかとなってきた。いわゆる、チャネル病Channelopathyという概念が定着してきている。カリウムチャネル遺伝子変異のなかで代表的なものとして、遅延整流性カリウム電流の遅い成分(IKs)と早い成分(IKr)の機能をそれぞれ担うKv7.1(KCNQ1)とminK(KCNE1)、Kv11.1(HERG)と(KCNE2)のloss of function変異が遺伝性QT延長症候群(LQTS)の原因となる。また不整脈(QT 延長)に両側性感音性難聴を伴うJervell & Lange- Nielson症候群 (J-LN) のloss of function変異もKCNQ1、KCNE1で見つかっている。不整脈、突発性の筋脱力、形態異常などSystematc な症状を呈するAndersen-Tawil症候群(LQT7)の患者からはKir2.1のloss-of-function変異が見つかっている。また逆にKCNQ1, hERG、Kir2.1の遺伝子のgain-of-function変異はSQT症候群SQTで見つかっている。
また腎尿細管上皮細胞頂上膜に局在するKir1.1(ROMK1)の異常は代謝性アルカローシスや低K+血症を伴うBartter症候群(II型)を引き起こすことが分かっている。さらにKir6.2、SUR1の変異によるすい臓β細胞KATPチャネルのgain of functionによって新生児糖尿病permenent neonatal diabetesで、逆にloss-of-functionで新生児持続性高インスリン性低血糖症Persistent hyperinsulinemic hypoglycemia of infancy(PHHI)などで見つかっている。
神経性のM電流を担うKCNQ2/KCNQ3におけるloss of function変異が家族性良性新生児痙攣Benign familial neonatal epilepsy (BFNE)の原因となることが報告された PMID9430594, PMID9872318, PMID9425900, PMID9425895。発作性運動失調症 Episodic ataxiaでKv1.1のloss of function変異が知られているPMID7842011。またKCNQ4やKir4.1の変異が難聴に繋がることも分かっている。(KCNQ4遺伝子は常染色体優性遺伝形式を取るDFNA2の原因遺伝子として報告された)
イオンチャネルのリモデリングが病気の原因になる。電気生理学的性質の変化。
Channel病の遺伝性を解析してみると、表現型が常染色体優性遺伝autosomal dominantで遺伝されることが多い。カリウムチャネルはα、βサブユニットの複合体であるため、dominant negative効果でイオンチャネル機能を阻害してしまう変異も多いが、ハプロ不全haplo-insufficiency であるケースも多い。また、カリウムチャネルは静止膜電位の形成や活動電位の形成に中心的な役割を果たしており、loss of functionのみならずgain of functionによるチャネル病も報告されている。このことはイオンチャネルの機能が欠損していても過剰になっていても生体にとっては不適で、適切な発現レベルや活性の範囲が存在することを示している。


薬理学(薬物治療の観点ではなく、基礎的な情報として)

カリウムチャネルは神経活動に重要な役割を果たしており、毒物や薬物によるイオンチャネルに対する作用は深刻な作用を与えうる。また実験科学的にみると毒素や薬物はチャネル研究を行なう上で重要なツールである。
抗不整脈薬の一部は心臓の遅延整流性カリウムチャネルを阻害することが知られている。第三群抗不整脈薬のアミオダロンやニフェカラントは遅延整流性カリウム電流、とくにIkr電流を阻害し活動電位持続時間を延長し、相対的不応期を延長することで不整脈を治療する。
実験室レベルで用いられるのKvチャネルの阻害薬としてtetraethylammonium(TEA)、4-aminopyridine(4-AP)サソリ毒のagitoxin、蜘蛛毒のhanatoxinなどがある。TEAを細胞の内側もしくは外側に投与した時の感受性が異なることや、4-APは Shaker型のKv1ファミリーに少し選択性があるなどイオンチャネルごとに異なる薬物選択性が知られており、イオン電流成分の分離や分子種の推定に薬理学的解析が行われている。TEA、4-AP、agitoxinなどはポアに結合しポア機能を阻害する。一方、hanatoxinなどは電位センサー部位に結合し、その電位依存性を変える。Kvチャネルを活性化させる薬物としてXXXが報告されている。不活性化機構や脱感作機構に影響を及ぼしていると考えられる。
Ca活性化KチャネルのBKチャネルはサソリ毒のCharybdotoxin、IberiotoxinやTEAによって阻害される。またSKチャネルはハチ毒Apaminによって強力に阻害される。この薬物感受性の違いもCa活性化Kチャネルの分子種の特定に利用される。一方、1-EBIOなどKCaチャネルの開口薬が存在し、これらはCa感受性を高めることが報告されているが詳細なメカニズムは不明である。
KATPチャネルの阻害剤と活性化剤が薬物治療に用いられている。スルホニルウレア剤のグリベンクラミドなどはKATPチャネルを阻害するが、これはαサブユニットであるKir6.2に対する直接作用ではなく、補助サブユニットであるスルホニルウレア受容体(SUR)に対する間接作用である。スルホニルウレア剤によるすい臓β細胞KATPチャネル阻害はインスリン分泌を促し糖尿病の治療に用いられる。またdiazoxideやpinacidilなどカリウムチャネル開口薬K channel openerとはKATPチャネルの開口薬である。これらは血管の緊張を緩和し、血管拡張剤として用いられている。この作用もSURを介した間接作用である。
吸引性麻酔薬ハロタンがK2Pチャネルを活性化することが知られている。そのため局所麻酔薬の分子作用機序にK2Pチャネルがあると考えられている。PMID: 10321245。
近年の薬理学的な解析で中枢神経系作動薬(ハロペリドールなどの抗精神病薬やフロキセチンなどの抗うつ薬など)には副作用としてカリウムチャネルに作用するものもある。例えばIK電流の阻害が知られており、hERGチャネルの阻害が報告されている。またKirチャネルに対する作用なども報告されているが、治療効果への関与は未解明である。


参考文献