くも膜
鎌田 恭輔
旭川医科大学脳神経外科
DOI:10.14931/bsd.5975 原稿受付日:2015年6月10日 原稿完成日:2015年月日
担当編集委員:上口 裕之(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)
英語名:arachnoid mater 独:Arachnoidea encephali, Spinnwebenhaut 仏:arachnoïde
クモ膜は、脳脊髄を覆う3層の髄膜のうち、外から2層目にあたるものである。硬膜には密着しているが、内の軟膜との間には[脳脊髄液]]で満たされているクモ膜下腔があり、小柱という線維の束がクモ膜と軟膜をつなぐ。クモ膜下腔内に存在する動脈瘤が破れるとクモ膜下出血をおこし、空間が限られる頭蓋内では重症化しやすい。脳内脈絡巣から産生された髄液が、脳表のクモ膜顆粒、軟膜を介して吸収される。クモ膜下出血などでクモ膜下腔の髄液吸収路が障害されると、髄液貯留がおこり水頭症となる。
クモ膜(蜘蛛膜、くもまく)は、脳と脊髄を覆う3層の髄膜のうち、外から2層目にあたるものである。名は小柱の入り組んだ様子がクモ(ラテン語でarachnoid)の巣を思わせることからが由来である(図1)。
クモ膜は一番外の硬膜には密着しているが、内の軟膜との間には広い空間があり、小柱という線維の束が無数に伸びてクモ膜と軟膜をつないでいる。この空間は肉眼で見ても明らかで、クモ膜下腔と呼ばれる。クモ膜下腔は脳脊髄液で満たされている。硬膜とクモ膜の間にもわずかながら硬膜下隙と呼ばれる隙間があり、硬膜下出血で血液がたまると肉眼で認められる程度まで広がる。
脳のクモ膜と脊髄のクモ膜を特に区別する必要があるときは、脳クモ膜(のうくもまく、英語:cranial arachnoid、ラテン語:arachnoidea encephali)、脊髄クモ膜(せきずいくもまく、英語:spinal arachnoid、ラテン語:arachnoidea spinalis)と呼び分ける。脳クモ膜は脳硬膜を貫いて、頭蓋内の静脈洞にクモ膜顆粒(パッキオーニ小体)と呼ばれる突出を作っている。クモ膜顆粒はクモ膜下腔の脳脊髄液がクモ膜を通過して静脈血に吸収される場所と考えられている。
硬膜・軟膜と同様、脊髄クモ膜は脊髄神経の根を包んで脊柱管の外に出る。脊髄神経が脊髄神経節を作り前枝と後枝に分かれた先にもクモ膜は続いているが、その部分は神経周膜と呼ばれる。 通常動脈瘤はクモ膜下腔内に動脈のコブ(動脈瘤)として存在している(図2)。このため、一旦動脈瘤が破裂すると、クモ膜下出血をおこし、圧迫効果が乏しい頭蓋内では容易にこの出血が重症化しやすい。このため、クモ膜下出血は早期の診断・治療が望まれる。
脳脊髄液循環に関しては、古典的には脳内脈絡巣から産生された髄液が、脳表のクモ膜顆粒、軟膜を介して吸収されているとされている。クモ膜下出血などでくも膜下腔の髄液吸収路が癒着により狭窄、閉塞したときには、髄液貯留がおこり水頭症を合併することがある。クモ膜は臨床的に重要な構造である。