注意のモデル
横澤一彦 東京大学 人文社会系研究科 河原純一郎 北海道大学 文学研究院
英:Model of Attention
注意に関する様々な現象を説明するために、様々な説明モデルが提案されてきた。選択的注意のフィルタモデルは注意の初期選択モデルと呼ばれ、注意のモデルの端緒となったが、非注意情報がフィルタリングされる前に、意味的記述レベルまで処理されているとする後期選択モデルも提案され、長く論争となった。バイアス競合理論は、選択的注意が標的刺激の処理を容易にし、同時に近接する妨害刺激をフィルタリングする競合的相互作用によって、神経活動の競合を解消すると仮定する。注意のネットワーク理論は、注意が知覚や意思決定、反応遂行とは異なる別システムであり、眼球運動や知覚・運動を制御する脳内ネットワークとして働くと位置づける。特徴統合理論は、主に物体の探索行動における、注意の機能を説明するモデルとして提案され、特徴マップ形成段階と注意による特徴統合段階という、二段階の処理に分けた、代表的な初期選択モデルである。時間軸上での注意処理の限界を示す現象である注意の瞬きに対して、時間的注意のモデルとして、並列的検出段階と、ボトルネットとなる作業記憶で固定化段階の2段階モデルなどが提案されている。一貫性理論は、我々は目に映った情景におけるすべてのオブジェクトが同時に認識できると誤解しがちであるが、注意処理の限界があり、実は情景の大まかな情報をもとに、情景の詳細を見ているような錯覚をしているのに過ぎないという現象を説明する。
初期選択モデル vs. 後期選択モデル
注意に関する様々な現象を説明するために、様々な説明モデルが提案されてきたが[1] [2](横澤, 2010; 河原、横澤, 2015)、最初のモデル化は、Broadbent (1958) [3]のフィルタモデルから始まる。このモデルでは、入力された刺激の単純な物理的特徴(音の高さや位置)が処理された段階で非関連な情報を除外する注意フィルタがはたらくと提案された。これは注意による選択は情報処理の早い段階で起こるという立場であり、初期選択モデルと呼ばれた(図1上)。左右の耳から別々の音声を聞き、そのうち一方の内容を追唱し他方を無視する両耳分離聴取課題では、参加者は声の高さや音の左右などの低次の特徴に基づいて選択的に追唱できる[4](Treisman, 1960)。また、無視側の耳からの内容をほぼ再生できないという知見はこのモデルを支持する。しかし、非注意側の耳に参加者の名前が呼ばれると、その後に続く内容に気づきやすくなった。この結果は無視したはずの情報も弱められるが一部は意味的に処理されていることを示唆する。Deutsch & Deutsch (1963) [5]は、注意は処理のかなり後の段階で作用すると考えた。この考えでは非注意情報はフィルタリングされる前に、完全に意味的記述レベルまで処理されているとされる。これを後期選択モデルという(Norman, 1968, [6] 図1下)。ただし、これらの意味的記述が意識に上っていたとは述べておらず、意識は注意選択という容量制限のあるプロセスの後にのみ生じ、参加者はある瞬間には利用可能な意味的記述の一部しか意識していないと捉えていた。
非注意刺激が行動成績に影響を与えなければ初期選択の裏付けだと解釈された。一方で、フランカ効果やストループ効果のように、非注意刺激が行動成績に影響を与える場合は後期選択を支持と解釈された。機能的核磁気共鳴画像(fMRI)を用いた研究では、一次視覚野[7](Somers, Dale, Seiffert, & Tootell 1999)や外側膝状体[8](O'Connor, Fukui, Pinsk, & Kastner 2002)でも初期選択を裏付ける注意選択の効果が観察されている。さらに、事象関連電位(event related potential: ERP)の最初期成分であるC1に刺激呈示後の非常に早い段階(50ms)で注意の変調が起こることが示されている[9](Zhang, Zhaoping, Zhou, and Fang 2012)。ただし、注意選択はこうした初期段階での信号増幅だけでなく、複数の段階で作用しうる。半側無視に関する神経心理研究によれば、無視された刺激であっても、顔か否かといったカテゴリ分類程度の比較的高度な処理まで進んでいることを示す知見がある[10](Vuilleumier et al., 2001)。
課題の性質によって選択の水準は変動しうる。負荷が高く、特定の位置や特徴に強い焦点的注意を必要とする課題では初期選択、広めの注意の焦点化で遂行できる課題では後期選択となる。Lavie & Dalton (2014) [11] は負荷理論を提案した。知覚能力の限界に達したときに知覚処理は選択的になると考え、課題要求が容量限界を超えるほど高いとき、課題非関連な項目は処理されず、結果としてうまく無視でき、初期選択が可能となる。一方、知覚負荷が低い課題の場合、残りの容量は自動的に課題非関連の妨害刺激の処理に割り当てられ、結果として干渉が生じ、後期選択となる。このように、負荷理論は課題の知覚負荷に応じて選択の水準が変動することを示唆し、初期・後期選択論争の解決策を提案している。
図1 上 典型的な初期選択モデルであるBroadbent (1958) [3]のフィルタモデル。感覚器から得られた情報は物理特性などの特徴に基づいて選択フィルタで選択され、容量に限界のある知覚システムで分析される。この内容に基づいて反応が出力される。
下 典型的な後期選択モデルであるNorman (1968) [6]の選択と注意のモデル。物理的入力と適切さの両方に基づいて、どの項目をさらなる処理の対象とするかが決まる。感覚入力は分析され、記憶にある表象を活性化させる。この分析結果は期待や過去の経験とともにその事態で最も適切だと考えられる表象を決定する。最大の賦活度をもつものがその後の分析の対象として選択される。
バイアス競合理論
バイアス競合理論は、視覚的注意の神経基盤を体系化するための有用なフレームワークを提供してきた(Desimone & Duncan, 1995; Beck & Kastner, 2009)[12][13]。図2に示すように、外因的要因に基づくボトムアップ・感覚依存メカニズムと内因的要因に基づくトップダウン・フィードバックメカニズムに基づき、視覚野での脳内表象が形成されるが、バイアス競合理論の最も基本的な仮定は、複数のオブジェクトの刺激呈示において、同側の視覚野の神経表象が競合するという仮定である。単一ニューロン計測と脳機能計測による多くの研究報告は、同時に存在する複数の刺激が独立して処理されるのではなく、相互に抑制的に相互作用することを示唆している。例えば、IT皮質の細胞の反応におけるオブジェクト選択の影響を調べると、事前手がかりで選択的に反応する刺激に対して発火するとともに、後続する複数の刺激が同側に呈示されたとき、まず標的であるかどうかに関係なく発火し、その後選択的に発火するが、これが競合過程を反映した現象であると考えられている(Desimone & Duncan, 1995) [12]。単一細胞に関する生理学研究では、受容野内で単独で提示された単一の視覚刺激に対する神経反応を、同じ受容野内で別の刺激が同時に提示されたときに、その刺激によって誘発された反応と比較した結果、対になった刺激に対する反応は、各刺激による個別の反応の合計よりも小さくなる(Everling, Tinsley, Gaffan, & Duncan, 2002) [14]。バイアス競合理論は、選択的注意が標的刺激の処理を容易にし、同時に近接する妨害刺激をフィルタリングすることによって、競合的相互作用し、神経活動の競合を解消すると仮定するので、視野に同時に存在する複数の刺激間のこれらの抑制的相互作用は、これらの刺激が視覚野の単一ニューロンによる表象をめぐって競合しているというバイアス競合理論の仮定と一致する。複数の刺激間の抑制的相互作用は、サルの単一ニューロン計測などによって、V2、V4、MT、MSTなど、脳のいくつかの視覚領域で発見されている(Reynolds, Chelazzi, & Desimone, 1999; Recanzone & Wurtz, 2000) [15][16]。このような抑制的相互作用は、fMRI研究に基づいて、人間の視覚野内の複数のオブジェクト間の競争のための神経相関として解釈されている(Beck & Kastner, 2007)[17]。
このように、電気生理学的研究とfMRI研究に基づいて、バイアス競合理論に基づく感覚競合と注意変調効果の関係が支持され、ニューロン集団の局所的および大規模な相互作用の両方を考慮したメカニズムの、ネットワークレベルでの実装について研究されている(Buschman & Kastner,2015; Halassa & Kastner, 2017) [18][19]。
図2 バイアス競合理論では、ボトムアップ・感覚依存メカニズムとトップダウン・フィードバックメカニズムに基づき、呈示された複数刺激の競合によって視覚野での脳内表象が形成されると仮定される。
注意のネットワーク理論
注意のネットワーク理論はPosner (1980; Petersen & Posner, 2012; Posner & Petersen, 1990; Posner et al., 2014) [20][21][22][23]が提案した注意の理論であり、注意は知覚や意思決定、反応遂行とは解剖学的には異なる別のシステムであり、いくつかの機能に分解でき、眼球運動や知覚・運動を制御する次の3つの脳内ネットワークとして働くと位置づけられる(図3)。
- 覚醒・警戒ネットワーク: 適切な覚醒状態をつくり、維持する機能をもつ。脳幹(青班核)に由来するノルアドレナリンシステムと、右半球がこの働きに関わっているとみられる。
- 定位ネットワーク: 感覚入力をモダリティや位置を選ぶことで優先順位づけをする機能を持ち、注意をシフトさせる働きを担う。視床枕、上丘、頭頂皮質、前頭眼野が関与するネットワークを構成する。注意の空間的定位は古くから空間的手がかり課題を用いて特性が詳細に測定・分析されてきた。外発的手がかりは主として刺激の出現や輝度変化によって注意を自動的に捕捉させるもので、比較的素早い(~100ms)過渡的・非意図的な効果を生む。これはボトムアップの注意定位ともいう。一方、内発的手がかりは記号等の解釈で注意の意図的シフトを促すもので、定常的(一般には300ms~)な効果がある。これはトップダウンの注意定位ともいう。この2タイプの注意定位には、それぞれに対応する2つの注意定位の下位ネットワークが見出されている(Corbetta et al., 2008) [24]。その下位ネットワークのひとつがボトムアップの注意定位に関わる腹側ネットワークであり、側頭頭頂接合部、腹側前頭皮質を中心とする領域が関わる。もうひとつがトップダウンの注意定位に関わる背側ネットワークであり、上頭頂葉と前頭眼野が含まれる。
- 実行制御ネットワーク: 反応行動生成時の葛藤制御や、課題の構えを維持するはたらきを担う。中前頭皮質、前帯状回が関わる。実行制御にも2つの下位ネットワークがあるともいわれる(Dosenbach et al., 2007) [25]。
これら3つの注意ネットワークの効率を測定する手法が注意ネットワーク検査である(Fan et al., 2009)。空間的手がかり課題とフランカ課題を組み合わせたもので、参加者は複数呈示される矢印のうち中央のものの方向(左または右)を答える。この矢印群の前に空間的手がかりとしての枠が呈示され、標的の位置やタイミングを知らせる。このとき、手がかりの有無条件間の差を覚醒・警戒ネットワークの効率の指標とする。空間的手がかりの一致・不一致の差、中央矢印と周辺矢印の一致・不一致の差をそれぞれ定位ネットワーク、実行制御ネットワークの効率の指標とする。これらの注意ネットワークは異なる皮質領域が関与し、独立に機能するといわれるが、この検査で測定した3つのネットワーク効率指標には一部相関がみられることから、これらの間での連関があると考えられる。この検査は子ども用も開発され、注意ネットワークの発達研究に利用されている(Arora et al., 2020)。
図3 Posnerが提案する3つの注意ネットワーク。覚醒・警戒ネットワークは脳幹の青班核から前頭・頭頂背側経路に投射するノルアドレナリンシステムによって覚醒状態の形成と維持を主たる機能とする。定位ネットワークは空間的注意を特定の位置に向けるはたらきを持つ。背側システムは上頭頂小葉、頭頂間溝から前頭眼野が関与し、意図的な注意の定位を行う。腹側システムは側頭頭頂接合部から中・下前頭回が関与し、注意捕捉のようなボトムアップの注意定位を行う。実行制御ネットワークは内側前頭前野、帯状-弁蓋システムが関与し、適切に行動計画を立てるといった実行機能を担う。
特徴統合理論
特徴統合理論は、主に物体の探索行動における、注意の機能を説明するモデルとして提案された。特徴統合理論は、図4のように、特徴マップ形成段階と注意による統合段階という、視覚情報処理を継続する二段階の処理に分けた(Treisman & Gelade, 1980; Treisman & Gormican, 1988) [26][27]。第1段階の処理では、空間的に広がりを持つ特徴マップの集合がつくられ、第2段階の処理では、視覚的注意がある特定の領域に向けられ、それぞれのマップの情報を結合し、オブジェクトの照合が可能となる。視覚的注意は逐次的に次から次の項目へ向けられる。したがって、特徴統合理論は、代表的な初期選択モデルである。
特徴統合理論によれば、特徴探索では、特徴マップの空間的な並列処理が可能であるので、標的は妨害刺激数によらず検出可能である一方、結合探索は、視覚的注意を向けることによって標的を判断しなければならないので、妨害刺激数に大きな影響を受ける。結合探索の場合には、視覚的注意が順に移動するので、探索時間は妨害刺激の数に比例する。注意は、スポットライトに例えられるような窓であり、複数の特徴を結び付ける特徴統合の役割があると考えられている。したがって、視野内の別々の位置に存在する複数の特徴が結びついたように知覚される結合錯誤という現象は、注意が十分に向けられず、複数の特徴を結合されるのに十分な処理時間が得られなかったときに生起すると説明することができる(Treisman, 1986) [28] 。この特徴統合理論は、認知心理学的注意研究に大きな影響を与えるとともに、神経生理学的研究に与えたインパクトも大きい(Miller & Cohen, 2001) [29]。 Treisman (1993) [30]では、特徴統合理論への様々な批判に応え、固定的な注意の窓としてではなく、様々な位置に分布する色などの特徴、形状が固定されていないオブジェクトにも注意が向けられ、さらに統合された表象の選択においても注意機能が働くことなどを加えた、新たな特徴統合理論に発展させている。
特徴統合理論では触れられていなかった、視覚探索における逐次処理の優先順位について、刺激駆動型のボトムアップ要因による活性値と、課題駆動型のトップダウン要因による活性値を加重和した活性化マップに基づき、最も標的らしい位置から順番に注意移動するという仮定を加えたのが、誘導探索モデルである(Wolfe, Cave, & Franzel, 1989) [31]。誘導探索モデルは、特徴統合理論をベースにしながら、妨害刺激の異質性が増加するにつれて、特徴探索が効率的な出なくなるなど、様々な視覚探索特性に対応できるモデルとして提案されている。さらに、誘導探索モデルはバージョンアップを繰り返し、誘導探索モデル6.0では、ボトムアップ要因とトップダウン要因に加え、探索履歴、報酬、情景の構造や意味を考慮して、様々な情景に対応できるようなモデルとして改良が加えられている(Wolfe, 2021) [32]。
図4 特徴統合理論 (Treisman & Gormican, 1988) [27]によれば、第1段階の処理では、空間的に広がりを持つ特徴マップの集合がつくられ、第2段階の処理では、視覚的注意がある特定の領域に向けられ、それぞれのマップの情報を結合し、オブジェクトの照合が可能となる。視覚的注意は逐次的に次から次の項目へ向けられる。
時間的注意のモデル
注意の瞬きは1秒間に10個程度のペースで高速に非標的(たとえば文字)を同じ位置に逐次呈示したとき、その中に2つ混ぜた標的(例えば数字)のうち2つめを見落としやすいという現象である。1項目あたり100-120msの逐次呈示事態でも、標的が1つであれば検出・同定ができるが、標的が2つ含まれると200-500ms程度は報告できない期間が続く(Broadbent & Broadbent, 1987; Raymond, Shapiro, & Arnell, 1992) [33][34]。あたかも注意という点で瞬きが起こったかのように標的の報告ができなくなるのでこのように呼ばれ,時間軸上での注意配置に限界があることを反映するといわれている。
この現象は文字や数字に限らず、顔や物体画像、別モダリティの刺激に対しても頑健に生じること、手続が注意の制御手法として使えること、意識的気づきと神経対件にも言及できる可能性があることなどから幅広い分野の注目を集めた。理論的説明としてはRaymond et al. (1992) [34]の第1標的の定義特徴を検出した後に非標的を抑制するモデルから始まり、第1・第2標的を記憶固定化する際の中枢性容量制限に原因を求めるボトルネックモデル(2段階モデル; Chun & Potter, 1995) [35]が主流となった。図5に示すような2段階モデルでは、第1段階は容量制限を持たず、標的候補の知覚的表象を活性化させる。この表象の減衰や逆向マスキングを防ぐために、第2段階で符号化し、作業記憶への固定化する必要がある。第2段階は容量制限があり、第1標的の固定化が済むまで次の標的候補の分析を待たせてしまうため、結果として後続刺激による逆向マスキングを受けて注意の瞬きが起こると説明した。
注意の瞬き現象を増幅・低減させる条件の特定がさらに進み、複数の計算モデルが登場し、代表的なものとしてはグローバルワークスペースモデル(Dehaene et al., 2003) [36]、促進・反発モデル(Olivers & Meeter, 2008) [37]、スレッド化認識モデル(Taatgen, Juvina, Schipper, Borst, & Martens, 2009) [38]、一時的同時タイプ/逐次トークンモデル(Wyble, Potter, Bowman, Nieuwenstein, 2011) [39]が挙げられる(表1)。次の諸特徴はモデルが説明すべき要件となっている。具体的にその要件とは、第1・第2標的の処理時間を左右する諸要因の効果、および複数の標的が間に非標的を含まずに連続する際に注意の瞬きが起こらないこと(第1標的直後の見落とし回避現象(Lag-1 sparing)を含む)、標的報告順の逆転効果、見落とされた第2標的は報告はできないが意味処理までは進むこと、妨害を加えることで却って注意の瞬きが減少することなどである。
表1 注意の瞬きを説明する代表的な計算モデル グローバルワークスペースモデル 低次領野・高次領野間で大規模神経連絡(グローバルワークスペース)が成立することで意識的気づきを生じる。標的候補の刺激が神経細胞を活性化させると、近傍の神経細胞を抑制する。第2標的はグローバルワークスペース入りがブロックされるせいで起こる。 促進・反発モデル 標的特徴に一致する候補を促進(ブースト)して作業記憶へ入れる。第1標的の直後非標的にも促進がかかるが、反発して非標的を抑制・排除する信号を受ける。この反発抑制にも遅延があるため、その後の第2標的にも抑制が及んで見落とされる。 スレッド化認識モデル 第1標的候補が出ると記憶固定化が始まる。その後の非標的の記憶固定化がプロテクトされる。このときに第2標的候補が出ても固定化プロテクトという不要な保護ルールを維持しすぎるため、第2標的を同定に廻せず、結果として見落とされる。 一時的同時タイプ・逐次トークンモデル どれ(トークン)となに(タイプ表象)の結びつけには標的検出時の過渡的注意(ブラスター)による促進が必要。この結びつけに容量制限があり、第1標的の結びつけの際にブラスターが抑制され、その後の結びつけが失敗することが注意の瞬き。
図5 注意の瞬きの2段階モデル (Chun & Potter, 1995) [35]を図式化したもの。第1段階は容量制限を持たず、標的定義特徴をもつものを標的候補として並列的に検出する。ここで選ばれたものは後に報告できるかたちにするため第2段階で作業記憶に固定化される。この固定化には時間を要するため、200-500ms以内に呈示される第2標的は第1段階で標的候補となったとしても、第1標的の固定化が完了するまでは第2段階へ送ることができず、後続の刺激に逆向マスキングを受けて失われ、見落とされる。
一貫性理論
常に変化し、しかも豊富な情報を含む情景に対して、我々は注意を向けることが可能な部分情報にしか、詳細な知覚情報処理ができないが、大まかな印象情報であるジストや、オブジェクトの配置情報であるレイアウトなどの概略情報は、注意を向けなくても、抽出可能である(Li, VanRullen, Koch, & Perona, 2002) [40]。すなわち、外界を一貫性のある世界として情景理解することを可能にしているのは、ジストやレイアウトという外界の概略情報と、長期記憶された情景スキーマとの連携からなるネクサスと呼ぶ表象が瞬時に生成され、ネクサスに対して集中的注意を向けることで、特定のオブジェクトの詳細な高次認知処理が可能であることに基づくと仮定するのが、一貫性理論である(Rensink, 2000) [41]。
一貫性理論は三つのシステムからなる3極構造のモデルを仮定する。図6下部の灰色で塗られた矩形領域において、感覚器官を通じて得られた小円形がそれぞれ外界に存在する事物であり、システム1において、それらすべてを含む、プロトオブジェクトと呼ぶ脆弱な表象が形成され、左経路によって、システム3において、ジストやレイアウトといった概略情報を得ることで、過去の経験の積み重ねによって形成された外界に関する知識などと照合することができる。さらに、右経路に示すように、システム2において、ネクサスと呼ぶ、次の行動に必要な一部の情報だけが集中的注意によって選ばれ、長期記憶と照合され、さらに高次の情報処理を続けることが可能になる。このようなシステム1とシステム2の処理を仮定することは、特徴統合理論(Treisman & Gelade, 1980) [26]とも整合的であると共に、神経科学的現象とも整合性の高いモデルの提案にもつながっている(Walther & Koch, 2006) [42]。
一方、集中的注意を向けたオブジェクト以外は、詳細な高次認知処理が行われていなくても、システム3における、ジストやレイアウトといった概略情報によって、目の前の情景のほとんどが脳内表象として存在していると錯覚していることになる。このような状況を顕在させるような実験環境を作れば、にわかには信じがたい現象を体験できる。その代表が、情景の中に変化部分があっても見落としてしまう、変化の見落とし現象である(Rensink, O’Regan, & Clark, 1997) [43]。例えば、2つの動画内容に連続性があるとき、1つの情景スキーマに基づいて表象が作られているために、変化の見落とし現象が生じると考えられる。一方、情景全体に対しては、瞬時に表象が作成され、情景すべての脳内表象が存在すると錯覚してしまうので、簡単に変化を検出できるのではないかと予想してしまうのである。
我々には外界の情報を、ネクサスという限られた容量で逐次的にしか脳に伝えることができない視覚情報処理の限界、注意容量の限界があるので、変化の見落としは起こりうるものである。我々は目に映った情景におけるすべてのオブジェクトが同時に認識されていると誤解しがちであるが、実は情景の大まかな情報をもとに、情景の詳細を見ているような錯覚しているのに過ぎないと一貫性理論では説明する。
図6 一貫性理論(Rensink, 2000) [41] における3極構造を図式化したものであり、下部の灰色で塗られた矩形領域において、感覚器官を通じて得られた小円形がそれぞれ外界に存在する事物であり、システム1において、それらすべてを含む、プロトオブジェクトと呼ぶ脆弱な表象が形成され、左経路によって、システム3においてジストやレイアウトといった概略情報を得ることで、過去の経験の積み重ねによって形成された外界に関する知識などと照合することができる。さらに、右経路に示すように、システム2において、ネクサスと呼ぶ、次の行動に必要な一部の情報だけが集中的注意によって選ばれ、長期記憶と照合され、さらに高次の情報処理を続けることが可能になる。
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