細胞内在時計
英語名:cell clock
動物の概日リズムを生み出す概日時計システムは,脳に存在する中枢時計と,末梢組織に存在する末梢時計とが階層構造をなして構成されている。本項では,まず哺乳類の末梢時計を代表的に解説し,続けてその他の脊椎動物や昆虫の末梢時計について解説する。
哺乳類の概日時計システムにおける階層構造
一日サイクルで変化する生命現象は多いが,このような日内変動が一定の環境条件においても継続する時,その生命現象は生体内の計時機構によって支配されていることが分かる。このような計時機構は「概ね一日」という意味で概日時計(circadian clock)と呼ばれ,この時計が制御している変動を概日リズム (circadian rhythm)と呼ぶ。
哺乳類においては,個体の概日リズム形成には間脳視床下部の視交叉上核(suprachiasmatic nucleus; SCN)が重要な役割を果たしている。例えば,SCNを破壊したり,SCNと他の脳部位との神経連絡を切断したりすると,行動の概日リズムが消失することが知られている。SCNのように,個体の概日リズム形成に決定的な役割を果たす振動体を主時計(master clock)もしくは中枢時計(central clock)と呼ぶ。
哺乳類の中枢時計が存在するSCNは,視交叉の直上に存在する左右一対の神経核である。SCNに存在する左右合わせて約20,000個のニューロンは,個々の細胞内に強力な振動体を有しており,実際,個体から単離して分散培養したSCNニューロンは,神経発火の頻度リズムや時計遺伝子の発現リズムが何日間にもわたって観察される。
一方,哺乳類の多くの組織の細胞は,生体から取り出して培養しても時計遺伝子の発現リズムが自由継続する。したがって,SCN以外の全身の多くの細胞にも自律発振する時計が存在している事になる。このような末梢組織の概日時計は,SCNの中枢時計と対比させて末梢時計(peripheral clock)と呼ばれ,各組織において固有の位相の概日リズムを生み出す。
関連項目
同義語: 末梢時計(peripheral clock)
(執筆者:鳥居雅樹,深田吉孝 担当編集委員:河西春郎)