ステロイド
英語名:Steroid 独:
ステロイドは、
ステロイドの構造
ステロイドは、図1のような共通のステロイド核(シクロペンタノ-ペルヒドロフェナントレン核)と呼ばれる骨格構造をもつ化合物の総称である。ステロイド核は、3つのイス型六員環と1つの五員環がつながった構造をしており、一部あるいはすべての炭素が水素化され、通常はC-10とC-13にメチル基を、また多くの場合C-17にアルキル基を有する。生体内におけるステロイドの代表例には、コレステロール ステロイドホルモン 胆汁酸 ビタミンD等があげられる。
ステロイドホルモンの生合成
副腎皮質、精巣、卵巣等の器官では、コレステロールから、シトクロムP450と呼ばれる水酸化酵素の働きによってステロイドホルモンが合成される。P450は活性中心にヘムを持つ疎水性の膜タンパク質であり、小胞体膜かミトコンドリア内膜に局在するため、どの反応も両者いずれかの場所で起こる。ステロイド合成には次にあげる6種のP450が知られる。
1.scc:コレステロール側鎖切断酵素(cholesterole side chain cleavage) 2.3β: 3β-ヒドキシステロイド脱水素酵素・異性化酵素 (3β-hydroxysteroid dehydrogenase) 3.17α: 17α-水酸化・開裂酵素(17 α-hydoroxylase/ lyase) 4.C21:C21‐水酸化酵素(C21-hydroxylase) 5.11β: 11β-水酸化酵素(11β-hydroxylase) 6.arom: アロマターゼ(aromatase)
これらの酵素のうち、sccと11βはミトコンドリアに、他は小胞体膜に局在している。 生合成経路を図に示す。まず、炭素数27のコレステロールは、P450 (scc)の作用により、側鎖(炭素数6)が切断されてプレグネノロン(炭素数21)となる。この過程はホルモン分泌器官の間で共通したプロセスである。副腎では、最終的には炭素数の数は変化しないが、化学構造が変化を受けた糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドが、また精巣では炭素数が2個減少したアンドロゲン(炭素数19)が、さらに卵巣では炭素数が1個減少したエストロゲン(炭素数18)が生成される。
副腎皮質ホルモン
副腎皮質においてプレグネノロンの生成後、本代謝経路は2つに分かれる。1つは、プレグネノロンからP450 (17α-水酸化・開裂酵素)の作用により17α-ヒドロキシプレグネノロンを経由するΔ5経路(ステロイド核のB環に2重結合を有する経路)、もう一つは3β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素・異性化酵素の作用によりプロゲステロンになってから17α-ヒドロキシプロゲステロンを経由するΔ4経路(A環に2重結合を有する経路)である。前者の経路はデヒドロエピアンドロステロンを、後者はアンドロステンジオンを生成するが、副腎においてこれらの中間体から男性ホルモンであるテストステロンへの変換は起こらない。両経路のどちらが優先されるかは動物種によって異なっており、ヒトではΔ4経路、モルモットではΔ5経路で反応が進行する。 Δ4経路もしくはΔ5経路によって生成されたプロゲステロンと17α-ヒドロキシプロゲステロンはそれぞれ小胞体にて、P450 (c21)の作用によりデオキシコルチコステロンとデオキシコルチゾールに変換され、再びミトコンドリアに戻りP450(11β)の作用を受けそれぞれコルチコステロンとコルチゾールに変換される。糖質コルチコイとして、ヒトではコルチゾールが、ラット、マウス、ウサギなどでは17α水酸化活性が低いためにコルチコステロンが分泌される。デオキシコルチコステロンが11β位と18位で水酸化を受けると鉱質コルチコイドのアルドステロンが生成される。
アンドロゲン
精巣ライディッヒ細胞は、男性ホルモンのアンドロゲンを分泌する。下垂体ホルモンのLHの刺激を受けて、ミトコンドリア内膜に輸送されたコレステロールは副腎皮質と同様にP450 (scc)によってプレグネノロンに変換される。アンドロゲンの合成はプレグネノロンが小胞体に移行してから副腎と全く同じ代謝経路で進行し、アンドロステンジオンが生成された後、17β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素により17位のカルボニル基が還元されてテストステロンとなる。
エストロゲン
卵巣から分泌さえている女性ホルモンは、エストラジオール、エストロン、プロゲステロンである。ヒトの場合、下垂体ホルモンのLHとFSHが周期的に分泌されて女性ホルモンの生合成が促進される。コレステロールから副腎や精巣と同じ代謝経路を経てプロゲステロンとアンドロステンジオンが合成される。アンドロステンジオンは小胞体に局在するP450(arom)の作用でエストロンに変換され、さらに17β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素の作用によりエストラジオールに変換される。
ステロイドホルモンの働き
ニューロステロイド
脳自身が合成するステロイドはニューロステロイドと呼ばれている。長年、脳は副腎皮質や生殖器等が合成・分泌するステロイドホルモンの標的として捉えられてきたが、現在では、脳も独自にコレステロールからステロイドホルモンの合成を行っていることが明らかとされている。生体におけるすべてのステロイド合成は、コレステロールからP450sccの触媒作用によりプレグネノロンに変換されることから始まるが、Baulieuらのグループは、血液-脳関門を通過できない親水性の高いプレグネノロン硫酸エステルがラットの脳に存在することに着目し、脳におけるプレグネノロン合成を証明した。また、筒井らのグループは、鳥類、両生類、魚類の脳におけるプレグネノロン合成を証明し、脳によるステロイド合成は脊椎動物に広く見られることが明らかとなった。その後も脳には、シトクロムP450sccに加え、ステロイド硫酸基転移酵素、3β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素、5α(β)-還元酵素、17α-水酸化・開裂酵素、17β-水酸基脱水素酵素など、多くのステロイド合成酵素が存在することが証明され、脳は様々なニューロステロイドを合成していることが明らかとなった。ニューロステロイドは末梢内分泌器官を除去してもあまり変動しないことから、末梢内分泌器官とは独立したステロイド合成系を有していると考えられている。